サイトビジット(資格スクエア)による書籍の不正利用、問題の概要と問われる責任 企業がコンテンツを作成するときに注意すべき著作権侵害・不正利用のリスクとは
知的財産権・エンタメ
目次
サイトビジット(資格スクエア)による書籍の不正利用問題の概要
株式会社サイトビジット(以下「サイトビジット」といいます)が運営する資格試験のオンライン学習サービス「資格スクエア」の教材において、複数の出版社の書籍が不正に利用されていました。サイトビジット側も不正利用の事実を認め、2020年8月31日に「書籍の不正利用に関するお詫び」を公表しました。サイトビジットの委任を受けた高橋元弘弁護士の調査報告書(以下「高橋報告書」といいます)も同日付けで公表されています。
サイトビジットによれば、下記のテキスト教材等において、他社が出版する書籍を不正利用していたとのことです。
- 司法試験予備試験講座
4期(販売期間2017年12月~2018年12月)
5期(販売期間2018年12月~2019年12月)
において配布した「基礎テキスト」 - 司法書士講座(販売期間2018年9月~)
において配布した「民法Ⅰ」「民法Ⅱ」の各テキスト - 予備試験短答式問題集(サイトビジットが配信するスマートフォン向けアプリケーション)
高橋報告書には、サイトビジットが不正利用を認めた書籍の一覧が掲載されています(ただし、一部の書籍は「ご要望により一旦開示を控えます」とされており、おそらく開示について出版社または著者の了解を得られなかったものと思われます)。
高橋報告書によれば、書籍の不正利用が発生した原因は、サイトビジットが教材の制作スタッフに対し、短い納期を設定し、特定の書籍をベースにするよう指示していたことにあったとされています。また、サイトビジットの代表者も担当社員も、テキスト教材に著作権侵害等の問題がないかのチェックを行っていなかった旨、公表されています。
不正利用の発覚から報告書の公表までの経緯
書籍の不正利用の被害を受けた株式会社日本評論社(以下「日本評論社」といいます)は、この問題について「【重要】サイトビジット(資格スクエア)による著作権侵害について」を公表しています。
日本評論社の説明によれば、サイトビジットは、2018年12月頃、刑法のテキスト教材が日本評論社刊行の『基本刑法Ⅰ 総論』に類似しているとの指摘を第三者から受け、自社のテキスト教材に問題があることを認識していたようです。この時点でサイトビジット側に前記書籍を不正利用している可能性が高いことの認識があったことは、高橋報告書でも認められています。
日本評論社は、2019年10月に、第三者が証拠を示してサイトビジットによる著作権侵害の疑いを指摘していることを知り、これを受けてサイトビジットに連絡したようです。その後、両社の間で協議が続けられ、2020年8月に高橋報告書が公表されるに至ったという経緯と思われます。
両社の公表資料をもとにした時系列での出来事
時期 | 出来事 |
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2015年12月〜2016年2月 |
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2017年 |
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2018年12月 |
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2019年10月 |
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2019年11月 |
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2020年8月 |
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2020年9月 |
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サイトビジット(資格スクエア)の責任等
著作権侵害または書籍の不正利用の責任
(1)著作権侵害なのか、書籍の不正利用なのか
日本評論社は、公表資料のなかでサイトビジットによる著作権侵害を問題にしています。他方、サイトビジットが公表した「書籍の不正利用に関するお詫び」には、著作権侵害を明確に認める表現は見当たらず、あくまで書籍の不正利用を認めたにとどまるようにも読めます。高橋報告書も、「著作権侵害の問題はもちろんのこと」として、サイトビジットによる著作権侵害を前提とするかのような記述も見られますが、全体としては不正利用の認定にとどまるようにも読めます。
著作権侵害が成立する場合の刑事罰は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその両方と定められています。法人の場合は、3億円以下の罰金です(著作権法119条1項、124条1項1号)。しかし、書籍の不正利用にとどまる場合、これらの刑事罰の適用はないと考えられます。
次に紹介する通勤大学法律コース事件の裁判例も踏まえると、やはり両当事者の表現の違いは意識的なものと思われます。
(2)参考となる過去の裁判例
通勤大学法律コース事件は、債権回収や手形・小切手等に関する法律問題を一般向けに解説した書籍における著作権侵害の有無が争われた事件です。
① 著作権侵害を認めた一審判決(東京地裁平成17年5月17日判決・判時 1950号147頁)
ただし、一定以上のまとまりを持って、記述の順序を含め具体的表現において同一である場合、すなわち、創作性の幅が小さい場合であっても、他に異なる表現があり得るにもかかわらず、同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には、著作権侵害に当たるとして、3か所のみについて著作権侵害を認めました。
② 著作権侵害を否定し、書籍の不正利用を認めた二審判決(知財高裁平成18年3月15日判決)
もっとも、個々の表現が著作権法の保護を受けられないとしても、故意または過失によりきわめて類似した文献を執筆・発行することにつき不法行為が一切成立しないとすることは妥当ではないとしたうえで、他人の文献に依拠して別の文献を執筆・発行する行為が、営利の目的によるものであり、記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には、当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成すると判示しました。
このように、法律問題の解説には一定の表現上の制約があり、誰が作成しても同じような表現にならざるを得ない解説については、著作権侵害が認められにくいと考えられます。もっとも、記述全体の類似性や構成・項目立てが受ける全体的印象から、書籍の不正利用と評価できる場合には、不法行為を構成し、利用者は損害賠償責任を負います。
(3)侵害ないし不正利用の範囲に争いがあること
高橋報告書は、資格スクエアの「司法試験予備試験講座」4期(2017年12月~2018年12月)と5期(2018年12月~2019年12月)で使用した刑法と憲法のテキスト教材において、サイトビジットが日本評論社刊行の書籍を不正利用していたことを認めています。
しかし、刑法のテキスト教材において不正使用した書籍は、日本評論社刊行の『基本刑法Ⅰ 総論』のみとされ、同社刊行の『基本刑法Ⅱ 各論』はあげられていません。また、サイトビジット側は、6期(2019年12月~現在)のテキスト教材については、不正利用の問題は残っていないという見解のようです。
これに対し、日本評論社は、『基本刑法Ⅰ 総論』だけでなく『基本刑法Ⅱ 各論』も侵害されているうえに、6期のテキスト教材にも著作権侵害の問題が残っていると主張しています。
この点について、日本評論社は、2020年8月31日と同年9月25日の2回に分けて対比表を公表しています。
6期のテキストとも比較している/右:サイトビジットと当社の見解の相違点に関する補足 別紙1「基本刑法と基礎テキスト刑法第5期目次の対比」)
同社が同年9月25日に公表した「サイトビジットと当社の見解の相違点に関する補足」では、刑法のテキスト教材に関して細目次レベルでの一致を指摘し、編集著作権の侵害を主張しています(上図右)。確かに、書籍の目次は、場合によっては、素材の選択または配列に創作性がある編集著作物として保護される可能性があります(中山信弘『著作権法〔第3版〕』154頁(有斐閣、2020))。他の刑法の基本書などとも比較して、細目次の構成に創作性があるといえるかは慎重な検討が必要ですが、細目次レベルでの一致を問題視する日本評論社の主張自体は理解できるところです。
その他の問題
(1)チェック体制の不備
サイトビジットは、ベースとなる書籍を指定して短納期で制作させたテキスト教材について、著作権侵害等の問題がないかのチェックを行っていませんでした。過去の事例では、DeNAが運営する複数のキュレーションサイトにおいて、外注のライターがコピペした記事や不適切な内容の記事を公開していたことが問題となった際、チェック体制の不備が指摘されています(第三者委員会「調査報告書(キュレーション事業に関する件)」第9章5(2)ウ)。
本件の場合、DeNAの事例と比較して、サイトビジットは、ベースとなる書籍を指定するというコピペが行われやすい条件で教材制作を行っており、指定書籍との比較によるチェック体制が構築されていなかったことの問題は大きいように思います。最低限のチェックすら行われていなかったのだとすれば、会社として著作権侵害ないし不正利用を容認していたと受け取られるリスクさえあります。
(2)問題認識後の対応の遅さ
サイトビジットは、2018年12月に問題を把握していながら、速やかに出版社および著作権者に連絡せず、日本評論社から連絡を受けてから約10か月を経て、ようやく高橋報告書の公表がなされました。両当事者の公表資料から、サイトビジットによる本格的な調査は、日本評論社から連絡を受けてから行われたものと推測します。この点について、高橋報告書は、最後に「本件のような問題が生じた場合に、即座に同様の問題が生じていないかを調査するとともに、関係者との間で早期の解決を図るべきであったにもかかわらず、これを怠ったことも問題を拡大した原因である」と締めくくっています。
現在のインターネット社会では、不正を隠し通すことは容易ではありません。不正が発覚した場合、関係者と協議して、速やかに適切な措置を図るべきです。サイトビジットは弁護士が代表を務める会社だけに、問題認識後に速やかな調査と関係者への連絡を行わず、日本評論社から連絡を受けたうえでの対応であった点については、危機管理が不十分であった疑いもあります。
本件は、サイトビジットと日本評論社との間で、協議による解決が図られてきた事案と思われます。サイトビジットが日本評論社以外の出版社や著作権者との間でどのような協議を行っているかは明らかではありませんが、個別に協議による解決が図られるものと思われます。協議では解決しなかった場合には、訴訟に移行する可能性もあります。
企業に望まれる対応
今回の問題を踏まえ、企業にはどのような対応が求められるでしょうか。まず、コンテンツの制作を外部に任せるような場合には、著作権侵害が行われないようにチェック体制を構築することが望ましいといえます。たとえば、制作にあたってのマニュアルを整備し、マニュアルに従った成果物となっているかのチェックを行う体制を整備することなどが考えられます。
著作権侵害と断言できない事案でも、不正利用として損害賠償責任が生じることもあります。また、著作権侵害の可能性は低い場合でも、いわゆる「パクリ」がインターネット上で炎上するケースは実務上しばしば見られます。このような不正利用や炎上のリスクも踏まえて、予防策を検討する必要があります。
また、問題を認識した場合には、隠蔽するのではなく、発生原因の調査や関係者との協議などを通じて、速やかな信頼回復に努めることが望まれます。経営者としては、クリーンであるべく努力することが、結果的に少ないコストでの問題解決を可能にするという考え方に立つことが肝要です。

骨董通り法律事務所