「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会 報告書」の概要
コーポレート・M&A
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.173」の「特集」の内容を元に編集したものです。
2020年7月22日、経済産業省「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」より、同研究会の計7回にわたる議論の結果を取りまとめた報告書が公表されました。本報告書には、株主総会を巡る昨今の状況等を踏まえ、株主総会プロセス全体が実態に即して機能するよう検討された内容が記載されています。本特集では、企業の皆様のご関心が高いと思われる部分を中心にご紹介します。
原文は、経済産業省のウェブページよりご確認ください。
新時代の株主総会プロセスに向けた検討
株主総会の二つの側面
①意思決定機関としての株主総会と、②会議体としての株主総会に分けて検討した(図1)。
- 意思決定機関としての株主総会
株主総会は、会社法上、株式会社の最高意思決定機関であり、意思決定機関としての株主総会は、年間を通じた情報開示や個別に実施する株主との対話において、株主総会当日だけでなく株主総会プロセス全体が実質的な審議の場としての役割を果たしていることが多い。また、事前の議決権行使により、株主総会当日を迎える前に決議の趨勢が明らかになっている場合、実質的な意思決定の場としての役割は株主総会プロセス全体を通じて果たされているといえる。 - 会議体としての株主総会
会社法上、株式会社は、特定の日時と場所を定め、当該日時と場所において株主総会を開催することとなっている。それが会議体としての株主総会であり、審議を経て決議をする場ということができる。
意思決定機関としての株主総会の実質化に向けた株主総会プロセスの在り方
- 目的に応じた効果的な対話・情報開示
近年、企業と投資家・株主の対話は急速に進展し、株主総会プロセスにおける議決権行使に向けた対話についても重要性が認識され、幅広い取り組みが広がっている。一方で、双方の認識のギャップもみられる。双方の取組に対する指摘内容と、認識のギャップの解消に当たり実施することが望ましいと考えられるポイントは以下の通りである。 - スケジュール:招集通知が開示されてから議案説明の面談要望があったとしても過密で応じきれない
- 情報開示の不足:議決権行使判断に必要な情報が招集通知に記載されていない
- 対話の内容と主体:足元の業績、ガバナンス系の話を中長期の企業戦略の中で、マネジメント層により説明されることが望ましい
- 上程議案を策定する段階、またはそれ以前からの対話、個別面談の実施
- 法定記載事項以外にも対話を踏まえて必要と考えられる情報の開示
- 中長期の戦略における議案の位置づけ・必要性のマネジメント層による説明
- 対話相手の不明瞭さ:議案についての対話にあたり、 投資家側の誰と対話するのが適切なのか分からない
- 議決権行使判断の形式化:数値基準等に従った形式的判断がなされてしまう
- 議決権行使助言会社の判断:形式的判断で助言会社の推奨内容が決められている
- 中長期の企業の方向性を踏まえた議決権行使判断
- 議決権行使に係る企業との対話を行う部署の明示等
- 議決権行使の方針等について、形式基準のみならず、その考え方の全体像の明示等
- 対話環境の整備としての実質株主の判明
株主総会プロセスにおける対話の重要性の高まりとともに実質株主の把握の必要性が高まっている。企業が実質株主とその持ち株数を知る方法は、(a)実質株主判明調査、(b)金商法に基づく大量保有報告、(c)管理信託銀行等が提出する免税登載申請書の3つである。一方で、欧米には、実質株主情報の公衆縦覧の制度等がある。企業と機関投資家の相互の信頼関係の醸成の要請は、日本も欧米と何ら変わるところはない。議決権基準日時点における実質株主とその持ち株数を企業が効率的に把握できるよう、実務的な検討がなされるべきである。
投資家・株主から企業への指摘
企業から投資家・株主への指摘
会議体としての株主総会の在り方(株主総会当日)
- 会議体としての株主総会の規律の在り方について
会議体としての株主総会の意義については、下記 i〜iiiが考えられる。ⅰ. 決議に向けた審議の場としての意義図1 のとおり、「i. 決議に向けた審議の場としての意義」は、実質的には年間を通じた株主総会プロセスの中で果たされていることが多く、その場合、会議体としての株主総会は、「ⅱ. 信認の場・確認の場」、「ⅲ. 対話の場・情報提供の場」としての意義があることが多い。会議体としての株主総会は、年間を通じた株主総会プロセスを、将来の中長期的な企業価値創造に向けた事業活動につなげるための結節点として機能している。- 審議を行い、決議を行う場。会社法の立て付け上の意義。
- 対話は、株主と取締役等が対面し、決議と一体として行われる。
- 株主総会プロセス全体の中で対話が十分に行われ、前日までに決議の趨勢が判明することを肯定的にとらえつつ、当日は出席者(主に個人株主)からの信認を得る場。
- 信認を得るための緊張感自体に、ガバナンス上の意義がある場合もある。
- 決議に向けた審議としてではなく、株主(主に個人株主)とのコミュニケーションの場。
- 中長期的な企業価値創造プロセスの理解を得るなど、株主との中長期的な関係構築のための場として活用されることもある。
また、株主総会プロセスが適正に機能するために、図2 のとおり、会社法、金商法、上場規則等の規律が設けられている。「新時代の株主総会プロセスの在り方報告会 報告書」図表13、14より三菱UFJ信託銀行が作成
そこで、総会当日を有事と平時に類型化し、その規律の意義を明確化した(図2右下部分)。当日の議決権行使により結論が左右されるような有事においては、当日の規律が決議の適正性を担保するために特に重要な役割を果たしている。一方、平時の株主総会は、「ⅱ. 信認・確認の場」、「ⅲ. 対話の場・情報提供の場」としての意義を有しており、会社は、出席株主から評価されることや、株主の意見を直接聞く機会の重要性を意識して対応していると考えられる。有事・平時の違いも意識しつつ、現在株主総会が果たしている役割を踏まえた規律の在り方を検討する余地があると考えられる。 - ハイブリッド型バーチャル株主総会の活用状況
2020年3月以降の株主総会において、ハイブリッド型バーチャル株主総会は新型コロナウイルス感染症の拡大防止策としても検討され様々なかたちで実施された。「出席型」に求められる「場所」と株主との間の双方向性と即時性の両方を満たすことは困難であったと考えられるが、「参加型」や株主総会プロセスを通じてインターネットを活用した双方向の株主とのコミュニケーションは、株主総会当日の在り方を考える上でも示唆に富むプラクティスといえる。 - 新時代の株主総会プロセスに向けて
本研究会では、意思決定機関としての株主総会の規律を重視し、当日の会議体の開催方法については、企業による選択の幅を広げる方向性を目指すべきという見解が複数の委員より示された。また、バーチャル株主総会の活用に向けてのルールの在り方の検討を急ぐべきとの指摘もあった。2020年3月以降の株主総会においては、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、各社において様々な検討がなされ、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する企業も現れた。株主に対する一層の能動的な情報提供や事前質問の受付・回答など、双方向に近い形での株主総会運営がなされる工夫も多くみられた。今後、これらの検討や経験を、新たな株主総会プロセスの在り方に関する検討に活かしていくことも有益であろう。
問い合わせ先
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)
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