2020年6月法改正、金融サービス仲介業の概要とビジネスへの影響

ファイナンス

目次

  1. はじめに
  2. 「金融サービス仲介業」創設の経緯
  3. 「業態ごとの縦割り規制」と「所属制」
  4. 金融サービス仲介業の業務範囲
    1. 「金融サービス仲介業」とは
    2. 兼業制限(現行法に基づく仲介業と同じ分野での金融サービス仲介業の登録の不可)
  5. 金融サービス仲介業に関する規制
    1. 「所属制」を外したことに伴う利用者保護のための規制
    2. 業務に関する規制
  6. 想定されるビジネス

はじめに

 2019年12月20日公表の金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」といいます)1 を踏まえ、国会での議論を経て、2020年6月5日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同月12日に公布されました。施行日は公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、2021年の秋冬頃に施行されるものと思われます。

 このなかで、「金融商品の販売等に関する法律」が改正され、その名称が「金融サービスの提供に関する法律」に改められ、新しく「金融サービス仲介業」が創設されました。

「金融サービス仲介業」創設の経緯

 就労や世帯の状況が多様化するなか、利用者が、様々なサービスのなかから自身に適したものを選択しやすくすることは重要です。また、情報通信技術の発展により、オンラインでの金融サービスの提供が可能になっており、日常生活上の金融取引ニーズに応える新たなビジネスが展開されることも想定されます。しかし、銀行・証券・保険すべてのサービスをワンストップで利用者に提供する仲介業者は5者しかなく(2019年12月末現在)2、利用者の利便性の点からは十分とはいえない状況でした。

 そこで、イノベーションを促進し、利便性のより高い金融仲介サービスを実現していく観点から、複数業種かつ多数の金融機関が提供する多種多様な商品・サービスをワンストップで提供する仲介業者に適した業種として、「金融サービス仲介業」が創設されました。

「業態ごとの縦割り規制」と「所属制」

 上記のように銀行・証券・保険すべてのサービスをワンストップで利用者に提供する仲介業者が少ないのは、以下のような、①「業態ごとの縦割り規制」と②「所属制」が原因にあると考えられます。

 すなわち、現行制度下で複数業種(銀行・証券・保険)にまたがって多数の金融機関が提供する金融サービスを仲介しようとした場合、下記①の各種登録や、②の対応が求められます。

  1. 銀行法における銀行代理業者、金融商品取引法における金融商品仲介業者、保険業法における保険募集人や保険仲立人といった業種ごとの規制が存在し、仲介しようとする分野に応じて複数の登録等が求められる

  2. 特定の金融機関に所属することが求められており※、多数の金融機関が提供する商品・サービスを仲介しようとする場合、所属金融機関それぞれから行われる指導に対応する必要がある

    ※ 銀行代理業者、金融商品仲介業者、保険募集人等は、制度上、特定の金融機関に「所属」することとされており、所属制の下では、所属先の金融機関は、たとえば、仲介業者の指導等の義務や、仲介業者が顧客に加えた損害の賠償責任を負うこととされています。

 このように、現行制度は、複数業種(銀行・証券・保険)にまたがった仲介や多数の金融機関を相手方とする仲介を必ずしも念頭に置いていない面があり、事業者にとって負担が大きいとの指摘があります 3。そこで、WG報告では、下記の点等に留意しつつ、制度の具体的な検討を進めていくことが適当である、とされました 4

  1. 業種ごとの複数の登録等を受けずとも、新たな仲介業への参入により、複数業種をまたいだ商品・サービスの仲介を行うことを可能とすること(つまり、「業態ごとの縦割り規制」をとらない)

  2. 新たな仲介業者には所属制を採用せず、取扱可能な商品・サービスの限定、利用者資金の受入れの制限、財務面の規制の適用等により利用者保護を図ること(つまり、「所属制」はとらないが、「所属制」でないことで利用者保護が疎かになるおそれがあることから、別の利用者保護の規制を行う)

 これを受け、新たに創設した「金融サービス仲介業」は、概要、下記の規制となっています。

  1. 業態ごとの縦割りだった既存の仲介業と異なり、1つの登録で銀行・証券・保険すべての分野のサービスを仲介可能とするなど、ワンストップ提供に最適化し(下記図1参照)

  2. 様々なサービスを取り扱えるよう、金融サービス仲介業には、特定の金融機関への所属を求めないことにし、代わりに、取扱可能なサービスの制限や利用者財産(サービス購入代金など)の受入禁止、保証金の供託義務により利用者保護を図る(下記図2参照)

<図1>

<出典:説明資料3頁>

<図2>

<出典:説明資料4頁>

金融サービス仲介業の業務範囲

「金融サービス仲介業」とは

 「金融サービス仲介業」とは、「預金等媒介業務」5、「保険媒介業務」6、「有価証券等仲介業務」7 、「貸金業貸付媒介業務」8 のいずれかを業として行うことをいいます(金融サービスの提供に関する法律11条)。
 なお、「仲介業者を通じた多様な金融商品・サービスへのアクセスを確保する必要はあるが、必ずしも仲介業者が金融機関や顧客に代わって取引を成立させる必要はないと考えられる」ことから、「新たな仲介業者の仲介行為として「代理」は認めないこととすることが適当である」とされ 9、「金融サービス仲介業」の業務として認められるのは媒介であり、代理までは認められません(金融サービス仲介業者に契約締結権限まではありません)。

兼業制限(現行法に基づく仲介業と同じ分野での金融サービス仲介業の登録の不可)

 WG報告では、「銀行・証券・保険の各分野において、ある仲介業者が既存の仲介業と新たな仲介業の両方の許可・登録を受け、両方の立場で仲介行為を行いうることとした場合、仲介業者がいずれの立場でいかなる規制に基づいて仲介行為を行っているのか顧客に混同をもたらすおそれ」があるとの指摘がなされました 10(つまり、両方の立場で仲介行為を行えるとなると、それぞれ規制が異なるにもかかわらず、顧客から見れば、当該業者が、既存の仲介業として商品の提案等をしているのか、金融サービス仲介業として商品の提案等をしているのかがわからず、混乱するおそれがあります)。

 そこで、現行法に基づく仲介業と同じ分野で金融サービス仲介業の登録を受けることはできません(現行法に基づく仲介業者は、同じ分野で金融サービス仲介業を行うことができる主体から除かれています)。たとえば、現行法に基づく保険募集人(保険代理店)は、金融サービスの提供に関する法律に基づく「保険媒介業務」を同時に行うことはできません(他方で、現行法に基づく保険代理店が「保険媒介業務」以外の「預金等媒介業務」、「有価証券等仲介業務」、「貸金業貸付媒介業務」を行うことは可能です)。

金融サービス仲介業に関する規制

「所属制」を外したことに伴う利用者保護のための規制

(1)保証金の供託義務

 ここから具体的に、金融サービス仲介業に関する規制の内容を見ていきます。
 まず、「所属制」を外したことに伴う利用者保護のための規制が課されており、その1つが保証金の供託義務です。

 WG報告では、「所属制を採用する既存の仲介業においては、仲介行為に関して顧客に損害が生じた場合、原則として所属金融機関がその賠償責任を負うこととされているが 11、新たな仲介業には所属制を採用しないことから、新たな仲介業者自らが賠償責任を負う前提で制度を検討する必要がある」、「このため、顧客の保護を図る観点から、新たな仲介業者の賠償資力の確保に資するよう、保証金の供託等を求めることが適当である」とされ 12、金融サービス仲介業者は保証金を供託しなければなりません(金融サービスの提供に関する法律22条。図2参照)。

 保証金の額については、今後、政令で定められますが、たとえば、「一定の額をベースに、前事業年度に得た手数料その他の対価の合計額の一定割合を加えた額の供託等を求めること」が想定されます 13

(2)高度な説明を要するサービスの制限

 金融サービス仲介業には高度な説明を要するサービスも制限されています。これも「所属制」を外したことに伴って課された利用者保護のための規制です。

 WG報告書では、「新たな仲介業者には所属制を採用しないため、商品・サービスを提供する金融機関(銀行、証券会社、保険会社等)による指導・監督や賠償責任の負担がなされるとは限らない。また、顧客の資産状況やライフプランに応じて顧客に適した金融商品・サービスの比較・推奨等を行うビジネスを念頭に置けば、商品設計が複雑な金融商品・サービスを仲介するニーズは大きくないと考えられる」ことから、「新たな仲介業者には、商品設計が複雑でないものや、日常生活に定着しているものなど、仲介にあたって高度な商品説明を要しないと考えられる商品・サービスに限って取扱いを認めることが適当である」とされ 14、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とする金融サービスは、金融サービス仲介業から除外されます。

 その詳細は、今後、政令で定められますが、金融サービス仲介業では、仕組預金、非上場株式、デリバティブ取引、変額保険、外貨建保険等の取扱いが制限されることが想定されます(図2参照)。

業務に関する規制

(1)基本的な考え方

 続いて、金融サービス仲介業の具体的な業務に関する規制について見てみましょう。

 WG報告書にあるように、「行為規制のうち・・・仲介する金融サービスによらず必要と考えられる規制については、新たな仲介業者が銀行・証券・保険のいずれの分野において仲介を行うかにかかわらず共通して求めていくことが適当」です。

 他方で、「例えば、仲介業者が、「資金供与」(「預金受入れ」)に関する仲介を行う場合と、「資産運用」に関する仲介を行う場合、「リスク移転」に関する仲介を行う場合とでは、利用者保護等の観点から必要とされる行為規制は当然にして異なる」と考えられ、「仲介業者が取り扱う商品・サービスの特性を踏まえ、必要なルールが過不足なく適用されることを確保する必要」があります 15

 そこで、金融サービス仲介業に対する行為規制は、以下のような「共通の規制」と「分野に応じた規制」という体系で整理されています。

(2)共通の規制

 金融サービス仲介業者が、銀行・証券・保険のいずれの分野で仲介を行うかにかかわらず共通して求められる規制としては、下記①〜③の3点が挙げられます。

① 健全かつ適切な運営を確保するための措置(顧客に対する情報提供、顧客情報の適正な取扱い等)

 金融サービス仲介業者は、金融サービス仲介業務に関し、下記の措置などを講じなければなりません(金融サービスの提供に関する法律26条)。

  • その金融サービス仲介業務に係る重要な事項の顧客への説明
  • その金融サービス仲介業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱い
  • その他の健全かつ適切な運営を確保するための措置

 これは、いわゆる体制(態勢)整備義務と呼ばれるものであり、金融業界では、一般に、次のようなPDCAサイクルを構築することを指します。 16

  • Plan(P):方針・計画・内部規程(社内規程、社内規則、マニュアルなど)の策定
  • Do(D):組織体制の整備(部門、責任者等の設置)、役職員への教育・管理・指導
  • Check(C):態勢の評価(内部監査等)
  • Act(A):評価に基づく態勢の改善活動
② 誠実義務

 金融サービス仲介業者は、顧客に対して誠実かつ公正にその業務を遂行しなければならない、とされています(金融サービスの提供に関する法律24条)。「所属制」をとらず、金融サービス仲介業者は中立の立場であるため、誠実義務の遵守は重要です。

③ 金融機関から受け取る手数料等の開示

 WG報告では、「例えば、顧客に適した同種の金融商品・サービスが複数ある場合、仲介業者には、顧客の最善の利益ではなく、仲介業者が金融機関から受け取る仲介手数料の多寡に基づいて商品を紹介するインセンティブが働きうる」ことから、「新たな仲介業者の立場について・・・経済的なインセンティブに関する透明性を確保することで、顧客が仲介業者の中立性を評価できる環境を整えることが重要」であり、「新たな仲介業者に対し、金融機関から受け取る手数料等の開示を求めることが適当である」とされました 17

 これを受けて、金融サービス仲介業者は、顧客から求められたときは、金融サービス仲介業務に関して当該金融サービス仲介業者が受ける手数料、報酬等を明らかにしなければならない、とされています(金融サービスの提供に関する法律25条)。

(3)分野に応じた規制

 次に、金融サービス仲介業者が、銀行・証券・保険の各分野で求められる規制を一部ですが紹介します。
 たとえば、下記のように、仲介分野ごとの特性に応じた規制が適用されます。

銀行分野の仲介
  • 情実融資の媒介(通常より有利な条件での貸付け等の媒介を行うことを)の禁止 など

  • 証券分野の仲介
  • インサイダー情報を利用した勧誘の禁止
  • 損失補填の禁止
  • 顧客の注文の動向等の情報を利用した自己売買の禁止 など

  • 保険分野の仲介
  • 自己契約の禁止
  • 告知の妨害の禁止
  • 不適切な乗換募集の禁止 など

<図3>

<出典:説明資料5頁>

想定されるビジネス

 最後に、金融サービス仲介業として想定されるサービスを以下のとおり例示します。

  • スマートフォンのアプリケーションを通じ、自身の預金口座等の残高や収支を利用者が簡単に確認できるサービスを提供するとともに、そのサービスを通じて把握した利用者の資金ニーズや資産状況を基に、利用可能な融資の紹介や、個人のライフプランに適した金融サービスの比較・推奨等を行うなど、日常生活上の金融取引ニーズに応える新たなビジネス 18

  • (クラウド)会計ソフトやアプリによって事業者の会計・経理事務や納税手続きを支援するサービスを提供するとともに、同サービスを通じて把握した事業者の取引や財務に関する情報に基づき資金ニーズ等を把握してAIを活用したモデル等で与信審査を行って、複数の銀行や貸金業者の融資商品の中から当該事業者に適したものを推奨したり、または、福利厚生のための団体保険や事業リスクの低減のための損害保険(賠償責任保険等)を提案したりするなど、事業上の各種金融取引ニーズに応えるビジネス 19

  • 不動産業者が、物件とあわせて、住宅ローンや地震保険を提供するケース 20

     このような例を見ると、金融業界以外の一般事業会社が、自前の業務・サービスに関連する金融サービスを、金融サービス仲介業を用いて展開することも考えられますし、また、オンラインだけでなく対面での金融サービス仲介業も考えられます。金融サービス仲介業の利用方法は、工夫次第でかなり広がるものと思われます。多数の金融サービス仲介業者が金融業界に参入する可能性もありますが、そうした競争下においては、いかに「顧客本位のサービス」を提供できるかが重要になると思います。

【関連するBUSINESS LAWYERS LIBRARYの掲載書籍】

『金融商品取引法』
発売日:2016年10月14日
出版社:有斐閣
編著等:黒沼 悦郎
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『新・金融商品取引法ハンドブック[第4版]』
発売日:2018年09月15日
出版社:日本評論社
編著等:桜井健夫、上柳敏郎、石戸谷豊
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『金融商品取引法概説〔第2版〕』
発売日:2017年07月28日
出版社:有斐閣
編著等:山下 友信、神田 秀樹
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  1. https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20191220.html ↩︎

  2. 2020年3月「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」(以下「説明資料」といいます)2頁。 ↩︎

  3. WG報告20頁。 ↩︎

  4. WG報告21頁。 ↩︎

  5. 銀行等代理業者以外の者が、①銀行等のために預金等の受入れを内容とする契約の締結の媒介、②銀行等と顧客との間において行う資金の貸付け等を内容とする契約の締結の媒介、③銀行等のために行う為替取引を内容とする契約の締結の媒介のいずれかを行う業務。 ↩︎

  6. 保険募集人・保険仲立人以外の者が、保険会社等と顧客との間における保険契約の締結の媒介を行う業務。 ↩︎

  7. 第一種金融商品取引業者・金融商品仲介業者以外の者が、第一種金融商品取引業者・投資運用業者・登録金融機関と顧客との間において行う有価証券の売買の媒介等を行う業務。 ↩︎

  8. 貸金業者以外の者が、貸金業者と顧客との間における資金の貸付け等を内容とする契約の締結の媒介を行う業務。 ↩︎

  9. WG報告22頁。 ↩︎

  10. WG報告24頁。 ↩︎

  11. たとえば、保険業法283条1項は、「所属保険会社等は、保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しており、保険代理店が保険募集について保険契約者に損害を与えた場合、当該保険代理店の所属先の保険会社がその損害を賠償することになります。 ↩︎

  12. WG報告23頁。 ↩︎

  13. WG報告23頁。 ↩︎

  14. WG報告22頁。 ↩︎

  15. WG報告25頁。 ↩︎

  16. なお、金融業界では、一般に、“体制” は組織体制そのもの、“態勢” は内部規程および組織体制の機能が実際に発揮されている状態にあるもの、との意味で使用されます。 ↩︎

  17. WG報告27頁。 ↩︎

  18. WG報告20頁。 ↩︎

  19. 「金融法務事情」2138号17頁参照。 ↩︎

  20. 「金融法務事情」2139号45頁参照。 ↩︎

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