2020年3月期定時株主総会の傾向と新型コロナウイルス感染症に関する想定問答例

コーポレート・M&A

目次

  1. 2020年3月期上場会社の定時株主総会の傾向
    1. 定時株主総会集中割合
    2. 基準日変更および継続会開催の検討状況
    3. 招集通知の早期発送および早期ウェブ開示の動向
  2. 新型コロナウイルス感染症に関する想定問答例
    1. 業績に関する質問
    2. 感染症対策に関する質問
    3. 株主総会の運営に関する質問
    4. 延期、継続会に関する質問

2020年3月期上場会社の定時株主総会の傾向

 東京証券取引所(以下、東証といいます)は、2020年5月1日に「2020年3月期の定時株主総会の動向」(以下、本調査といいます)を公表しました 1。本調査によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大が決算作業等に与える影響等を踏まえ、株主総会の開催日を後倒しとする傾向が表れているほか、株主総会を7月以降に延期するための基準日の変更や、7月以降における継続会の開催を検討する会社があります 2。また、招集通知の早期発送および早期ウェブ開示を行う会社は例年より低い水準となっています。

定時株主総会集中割合

(1) 第1集中日の集中割合

(2020年5月24日時点)

第1集中日の集中割合

 本年の3月期上場会社の定時株主総会の第1集中日は6月26日(金)で、その集中割合は、32.3%(前年比+1.4ポイント)となっています。

(2) 週ごとの集中割合

(2020年5月24日時点)

2019年 2020年
6月第1週以前 0.1% 0.1%
6月第2週 2.1% 0.6%
6月第3週 27.8% 14.1%
6月第4週 70.0% 80.8%
6月第5週
4.1%
7月以降 0.3%

 第1集中日の属する6月第4週の集中割合は80.8%(前年比+10.8ポイント)となっています。

基準日変更および継続会開催の検討状況

 基準日の変更および継続会の開催に係る検討状況を把握するため、東証が調査した結果は以下の通りです。
(調査期間:4月22日~4月30日。回答社数:556社(3月期決算会社全体の23.8%))

(2020年4月30日時点)

(注)

1. 3社以外の配当基準日を変更していない6社は、剰余金の配当の決議機関を取締役会と定めている会社、または今期は剰余金の配当を行わない予定としている会社です。

2. 基準日の変更と継続会の双方を検討している会社34社を含みます。また、85社のうち65社は、株主総会を剰余金の配当の決議機関とし、かつ、今期に配当を予定している会社です。


 継続会の開催予定時期については、調査時点(4月30日時点)では「無回答」としている場合が最も多く、具体的な時期を回答した会社では、当初の定時株主総会の開催時期の翌月の7月を想定している会社が多くなっています。

6月 7月 8月 9月 無回答
継続会の開催予定時期
(計85社)
1社
(1.2%)
18社
(21.2%)
3社
(3.5%)
2社
(2.4%)
61社
(71.8%)

招集通知の早期発送および早期ウェブ開示の動向

(2020年5月24日時点)

招集通知の早期発送および早期ウェブ開示の動向

 コーポレートガバナンス・コードの制定等を背景に招集通知の早期発送および早期ウェブ開示の取組みが進展してきましたが、本年、招集通知を早期発送する予定の会社の割合は、18.2%(前年比▲5.1ポイント)、早期ウェブ開示する予定の会社の割合は、66.8%(前年比▲2.3ポイント)となっています。

(注)

招集通知の早期発送:招集通知を定時株主総会の3週間(中15営業日)以上前に発送すること

早期ウェブ開示:招集通知を定時株主総会の3週間(中15営業日)以上前に自社ウェブサイトなどにて電子的に公表すること

新型コロナウイルス感染症に関する想定問答例

 現在の環境下では株主総会において新型コロナウイルスに関する質問が多く寄せられることが見込まれ、例年とは異なる対応が必要となります。
 なお、以下の回答例は、あくまで一例です。各社の状況や株主総会時点の状況を踏まえて検討する必要があります。

業績に関する質問

Q1:新型コロナウイルス感染拡大に伴う、業績への影響について説明してほしい。

A:新型コロナウイルスの感染拡大により、すでに開示しておりますとおり、当社の事業については●●などの影響があり、業績についても一定の影響は避けられないと考えております。しかしながら、現時点において、新型コロナウイルスの感染拡大による当社業績への影響を正確に予測することは難しい状況です。当社業績への影響について合理的な見積りが可能になった時点において速やかに開示いたします。新型コロナウイルス感染症の拡大による当社の事業への影響を最小限とすべく、経営陣が一丸となって取り組む所存でございますので、引き続きご支援賜りますようお願い申し上げます。

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症に関する適時開示については、東証による2020年2月10日付の「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」において、新型コロナウイルス感染症が事業活動および経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などにあっては、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で、適切にアップデートを行うことなどが考えられる、とされています。

  • また、新型コロナウイルスの感染拡大に関するリスク情報については、東証から2020年3月18日付の「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」によって早期開示の要請がなされています。

  • したがいまして、事業活動および業績への影響に関する質問についても、基本的には、かかる要請の下、株主総会までに開示した内容に沿って回答することになると思われます。

  • もっとも、新型コロナウイルス感染拡大の収束の見通しが立たない状況において業績への影響を正確に見通すことは難しいので、業績への影響について合理的な見積りが可能になった場合は適示に開示するという姿勢を示すにとどまらざるを得ないと思われます。

感染症対策に関する質問

Q2:新型コロナウイルス感染症対策として、たとえば在宅勤務等、会社としてどのような新型コロナウイルス感染症対策を行っているか。

A:当社では、新型コロナウイルス感染症対策として、全社員につきまして在宅勤務および混雑を避けた時差出勤を奨励しております。また、接触による感染リスクを低減させるために、WEB会議システム等の導入や、不急の出張の制限を実施しております。発熱など体調に異変を感じた場合や感染者との接触が疑われる場合に、社員が速やかに報告することができる体制も整えております。

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症対策に関する質問については、その他にも、従業員の具体的な出社割合、テレワークのためにIT投資等の必要な投資を行っていたのか、在宅勤務による情報漏えいなどのセキュリティー面での安全性、事業継続計画(BCP)の実効性についての質問等が考えられます。

株主総会の運営に関する質問

Q3:新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に株主総会への出席を控えることを要請されていたが、株主の権利行使の不当な制限ではないか。

A:感染拡大防止のために合理的な対応であり許容されるものと考えておりますし、株主様に任意にご協力を求めるものであり、来場されることを禁止あるいは拒否しているものではございません。また、議決権行使書やインターネットによる事前の議決権行使が可能であり、こうした方法もあわせて推奨しておりますことから、株主様の権利行使を不当に制限しているものではないと考えております。

ポイント

  • 経済産業省および法務省が2020年4月2日付(同月28日最終更新)で公表した「株主総会運営に係るQ&A」のQ1では、株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることは可能であり、会場を設定しつつ、感染拡大防止策の一環として、株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます、との見解が述べられています。
Q4:インターネットによる参加や出席を認める方法の株主総会(いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会)であれば、より多くの株主に出席の機会を与えられ、感染拡大防止にもつながると思われるが、なぜそうした対応をとらなかったのか。

A:ご指摘の方法の株主総会(いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会)の実施につきましては当社においても検討いたしましたが、十分な準備期間・周知期間を設けたうえでないとスムーズに開催できないおそれがあることなどを考慮し、見送る判断をしたものであります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

ポイント

Q5:新型コロナウイルス感染症対策として質疑応答の時間の上限や質問数の上限を設けているが、説明義務との関係で問題ではないのか。

A:本総会は、昨今の状況下、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、いわゆる「三密」のリスクを低減すべく、可能な限り、議事を短縮して進めてまいりたいと考えております。そのため、短縮した議事のもとでも、可能な限り沢山の株主様に平等にご質問いただくために質問数の上限を設けさせていただいております。できるだけ多くの株主の皆様からご質問・ご意見をいただいて審議を尽くし、説明義務を果たして参りたいと考えておりますのでご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

ポイント

  • 経済産業省および法務省が2020年4月2日付(同月28日最終更新)で公表した「株主総会運営に係るQ&A」のQ5では、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることなど、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも可能とされています。このような場合であれば、全体的な議事短縮に伴い合理的な範囲で質疑応答の時間を短縮することも許容されるものと考えられます。

  • 議長が合理的な制限内の質問数の制限を課すことは議事整理の範囲内として認められていますので(名古屋地裁平成5年9月30日判決)、上記のような議事短縮の合理性が認められる場合においては、そのための質問数の制限も議長の合理的な裁量の範囲内として認められるものと考えられます。

延期、継続会に関する質問

Q6:継続会を開催するということだが、報告事項の報告を受けたうえでないと、決議事項について適切な判断ができない。報告事項を含めすべての準備が整うまで定時株主総会の開催を延期するべきだったのではないか。

A:定時株主総会の開催については、延期する、あるいは継続会を利用するなどの対応が容認されており、今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けましては、これらの制度の利用による柔軟な対応が求められているものと考えております。
もちろん、可能であれば、報告事項をご報告したうえで決議事項についてご審議いただくことが望ましいところでございますが、本年は例年とは異なり新型コロナウイルスの感染拡大の影響により決算関係の手続に遅れが生じている状況であり、他方で、必要な決議事項についてご審議、採決をいただき、可能な限り会社運営に対する影響を小さくすることが株主様をはじめとするステークホルダーにとって望ましいと考え、本日定時株主総会を開催させていただきました。株主の皆様におかれましては、ご理解賜りますようお願い申し上げます。

ポイント

  • 議決権行使助言会社のISSが2020年5月11日付けで公表した「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS 日本向け議決権行使基準の対応」では、「定時株主総会は、事業報告、連結計算書類、計算書類や監査報告書を株主に提供した上で開催するのが、本来のあり方といえます。株主にとって議案の判断に必要不可欠な情報が提供されないまま投票を求められる継続会は最善の選択とはいえません。」としており、継続会を選択した会社の提案する議案についての議決権行使として、剰余金処分議案には「棄権」、社外取締役・社外監査役の再任議案(取締役会等への出席状況が開示されていない場合)には「反対」、会計検査人選任議案には「棄権」、インセンティブ報酬の付与についての議案には「棄権」、社内取締役の報酬枠増加を求める議案には「棄権」を、それぞれ原則的に推奨しています。

  • このような状況下、継続会を選択し、報告事項の報告を経ずに決議を行うことについての質問がなされることも予想されますので、決議事項の円滑な可決のために丁寧な回答を準備しておくことが望ましいと考えられます。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会が2020年4月15日付で公表した「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」では、企業および監査法人においては、従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算および監査の業務を遂行していくことが求められるとして、株主総会の延期や継続会などの手法に言及されています。

  • また、金融庁、法務省、経済産業省が2020年4月28日付で公表した「継続会(会社法317条)について」では、継続会は、剰余金の配当の基準日が3月末日とされている場合におけるその基準日株主に対する配慮、経営体制を刷新していく必要性等多様な利害関係者の利益や質の高い監査を確保するために、採用されるものである、と述べられています。そのため、継続会を選択する場合には、このような観点からそれが合理的な手法であるという説明が可能であると思われます。


 本稿作成時点では、全国において緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルス感染拡大の収束に期待が高まっています。ただし、一般社団法人 日本経済団体連合会が2020年5月14日付で公表した「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」にもあるとおり、緊急事態宣言下はもとより、緊急事態宣言が終了した段階においても、新型コロナウイルス感染症の感染リスクが低減し、早期診断から重症化予防までの治療法の確立、ワクチンの開発などにより企業の関係者の健康と安全・安心を十分に確保できる段階に至るまでの間、各企業には積極的な感染予防策の実施が求められており、株主総会の運営に携わる関係者も、例年以上にその準備に難しさを感じているものと思います。本稿の内容がその準備の一助となれば幸いです。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部
会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

  1. 本調査は、2020年4月30日時点の3月期決算の上場会社の回答内容をまとめたものですが、5月1日以降も随時情報が更新されています。本稿は5月25日時点の東証ホームページに掲載された情報をもとに作成しています。最新の情報はこちらから確認できます。 ↩︎

  2. 継続会については、金融庁・法務省・経済産業省により2020年4月28日付で「継続会(会社法317条)について」が公表されています。 ↩︎

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