株主総会シナリオ、総会受付対応の実務

コーポレート・M&A

目次

  1. 株主総会シナリオ
  2. 総会受付対応の実務

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.170」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 本年の株主総会においては、新型コロナウイルス感染症への対応が最重要課題といえ、株主・関係者の安全確保に努め、株主総会会場での感染リスクを極小化するための取組みが求められます。本特集では株主総会シナリオと総会の受付対応の実務について、本年特有の注意点をご紹介します。

株主総会シナリオ

 株主が会場に滞在する時間を短縮するため、シナリオの各項目を簡略化することが考えられます 1。各項目におけるポイントを下表にまとめました。なお、本シナリオは、継続会を開催しない会社を前提としています。

項目 ポイント 根拠法令
1 開会前
アナウンス
感染防止策の説明(例:役員・スタッフがマスクを着用していることなど)や感染防止のためのお願い(例:マスクを着用いただきたいこと、係員の誘導に従って、間隔をあけて着席いただきたいことなど)をすることが考えられます。
2 開会宣言 議長就任、開会の宣言に続けて感染者へのお見舞いを述べることも考えられます。
3 時間短縮の了承取得 時間短縮のため、株主総会の終了時刻、質疑応答における質問数・時間の目安について説明することが考えられます。その内容について議場に諮り、株主の了承を得たうえで、以降の議事を進めることが考えられます。 会社法315条
(議長の権限)
4 定足数充足宣言 出席株主数、その議決権個数を報告したうえで、定足数充足宣言を行う会社が多いと思われますが、これらをあらかじめ株主に説明することは法的には不要であり、説明するとしても、定足数を充たしている旨のみを述べることでよいと考えられます。
5 監査役(監査等委員)の監査報告 監査報告は、一般には、法令・定款違反または著しく不当な事項がない旨が報告されますが、法的には、取締役が株主総会に提出する議案、書類等に法令・定款違反または著しく不当な事項がある場合に限って行えば足りるものです。そのため、そのような事項がない場合には、省略することも考えられます。また、議長から招集通知●ページから●ページ記載の通りと説明することも考えられます。 会社法384条
(同399条の5)
(株主総会に対する報告義務)、
同444条7項
6 報告事項の報告
  1. 招集通知やWEB開示に記載のとおりであるとして適宜割愛した形で行うことが考えられます。ナレーションを用いる場合も同様です。
  2. 株主の関心の高いと思われる新型コロナウイルス感染症の業績に対する影響や、従業員の安全確保のための実施策などは割愛せずにあらかじめ説明することにより、株主からなされる可能性が高い質問を抑制することができると考えられます。
会社法438条3項
(計算書類等の定時株主総会への提出等)
7 議案の説明 多くの時間を要さないと考えられるため、従前どおりの説明でもよいと考えられます。
8 質疑応答
  1. 審議の回数を減らすため、一括審議方式を採用することが有効です。この場合、開会宣言後の議事冒頭で議長からその旨を説明しておくことが考えられます。
  2. 可能な限り時間を短縮して行いたい旨の説明を行うことが考えられます。また、質問数や質疑応答に充てるおおよその時間を決めることを説明し、議場に諮り、株主の了承を得たうえで、質疑応答に入ることが考えられます。(開会宣言後の議事冒頭でこれらについて議場に諮り、株主の了承を得ている場合は再度了承を得ることは不要です。ただし、時間短縮の方針について改めて簡潔に説明することが考えられます。)
会社法315条
(議長の権限)
9 採決 本年は飛沫感染防止の観点から、発声ではなく、拍手によることが望ましいと考えられます。前日までに全議案の可決が確定している場合は、全議案を一括上程することが考えられます。 会社法309条
(株主総会の決議)
10 閉会宣言 閉会の宣言に続けて、スムーズに退場いただきたい旨を述べることが考えられます。
11 新任役員の紹介・挨拶 法的には不要であり、簡素化または省略が考えられます。
12 閉会後
アナウンス
株主がスムーズに会場から退出できるように誘導することが考えられます。

総会受付対応の実務

 受付は、通常、株主と係員が議決権行使書、入場票等の受け渡しを行うため、株主の密集も生じやすく、感染拡大防止の観点から対策が不可欠といえます。本年、考え得る対策をご紹介します。

項目 ポイント
1 受付係員の装備、レイアウト等
  1. 受付係員はマスク、手袋を着用することが考えられます。
  2. 株主が受付に至る前に使えるよう、消毒液を備え置くことが考えられます。マスクについては、未着用の株主に対して配布できるよう、受付に備えておくことが考えられます。
  3. 複数の受付を作るなど、可能な限り株主が密集しにくいレイアウトにすることが考えられます。飛沫感染のリスクを低減するため、受付にビニールカーテン・パネル等を設置することも考えられます。
  4. 受付を待つ株主がソーシャルディスタンス(2m程度)を保つよう、係員が案内することなどが考えられます。
2 入場謝絶
  1. 受付において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、株主にマスク着用、消毒および体温測定を要請する措置をとることが考えられます。これは、株主が平穏に議事に参加できる環境作りのための合理的な措置であり、これらの措置を強制されることで株主に実質的な不利益が生じることは考えにくく、会社は、これらのいずれかに同意しない来場株主の入場を拒否することができると解して差し支えないと考えられます 2
  2. また、検温の結果、体温が所定の基準を超える場合等、感染が疑われる来場株主に対し、入場を謝絶することが考えられます 3
  3. 入場謝絶を実施する場合、帰宅する株主が受付で議決権行使することができる手段を用意しておくことが考えられます。株主総会当日は書面投票・電子投票の期限がすでに経過しているため、委任状方式による対応が考えられます。議案ごとの賛否の記入が可能な委任状をあらかじめ用意し、その場で提出してもらい、従業員等が代理人としその議決権を行使する運用が想定されます 4。なお、株主総会の採決時までの間であれば、議決権行使書面を提出してもらって議決権行使を認める取扱いも許容されると考えられるとの見解もあります 5
3 応対担当者の設置 要請にもかかわらずマスクを着用しない株主や入場謝絶に応じない株主等への応対担当者を事前に決めるとともに、応対方法を整理しておくことが考えられます。
4 お土産等の廃止
  1. 受け渡しによる感染リスクを避けるため、お土産の廃止が考えられます。お土産の廃止は、来場株主数の抑制にも効果的です。なお、お土産を廃止する一方で、事前に議決権行使を行った株主に対して謝礼を進呈する取組みを行う会社が見受けられます。
  2. 各種展示、ドリンクサービスは株主が密集する可能性があるため廃止するとともに、パンフレット等を介した感染リスクも考えられるため、これらの配布も取り止めることが考えられます。
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部
会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

  1. 経産省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」(2020年4月2日公表(同月28日最終更新))(以下「株主総会運営に係るQ&A」という)のQ5の回答で、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。」とされています。 ↩︎

  2. 大阪株懇法規研究分科会「株主総会に関する法的諸問題(コロナウイルス感染症対応関連)」(2020年4月24日公表) ↩︎

  3. 株主総会運営に係るQ&A」のQ4の回答で、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。」とされています。 ↩︎

  4. 倉橋雄作「新型コロナウイルス感染症と総会開催・運営方針の考え方─リスク管理のあり方が問われる二〇二〇年定時株主総会─」旬刊商事法務2227号(2020年)19頁 ↩︎

  5. 渡辺邦広「「株主総会運営に係るQ&A」のポイントと実務に与える示唆」旬刊商事法務2230号(2020年)63頁~64頁 ↩︎

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