2020年1〜3月期のM&A件数は11年ぶりの高水準、コロナショックで4月以降は急ブレーキ
コーポレート・M&A
活況だったM&A市場
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、経済の停滞が懸念されるが、2020年第1四半期(1~3月期)のM&A市場は活況だった。
上場企業に義務づけられた適時開示情報をもとに、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)をM&A仲介大手のストライク(M&A Online)が調査したところによると、2020年第1四半期のM&A件数は前年同期比10件増の232件と2年連続で増加し、2009年(252件)以来11年ぶりの高い水準となった。日銀の金融緩和などがM&A市場の活況を後押ししたと見られる。新型コロナウイルス感染拡大の影響が危惧された直近3月も86件と、前年同月を4件上回り、2009年(88件)以来の水準となった。
第1四半期の全232件のうち、海外案件は38件で、前年同期の41件とほぼ同じ件数だった。
国内案件が優勢となった第1四半期
M&Aの取引金額は1兆1156億円(公表分のみを集計)で、前年同期の7279億円を5割強上回った。5000億円規模に達する三菱商事・中部電力の大型案件があったのが主因とストライクは分析している。1000億円を超える案件は期間中、この1件だけだった。
三菱商事・中部電力は3月、欧州で電力、ガスなど総合エネルギー事業を展開するオランダのエネコを買収した。欧州で普及する風力発電など小型分散電源の技術・ノウハウを取り込むのがねらいで、三菱商事80%、中部電力20%出資の新会社が全株式を41億ユーロ(約5000億円)で取得。両社は昨年11月に買収の優先交渉権を獲得していた。
2020年1Q M&A金額上位 |
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1 | 三菱商事、中部電力と共同で、オランダの総合エネルギー企業エネコを買収(5000億円) |
2 | 前田建設工業、前田道路をTOBで子会社化(861億円) |
3 | 総合メディカルホールディングス、投資会社ポラリスと組みMBOで非公開化(763億円) |
4 | 米投資ファンドのベインキャピタル、昭和飛行機工業をTOBで子会社化(694億円) |
5 | 大王製紙と丸紅、ブラジルの衛生用品メーカー大手Santher(サンパウロ)を買収 |
6 | ノーリツ鋼機、DJ・クラブ機器大手のAlphaTheta(旧パイオニアDJ、横浜市)を子会社化(350億円) |
7 | 豆蔵ホールディングス、国内投資ファンドのインテグラルと組みMBOで非公開化(344億円) |
8 | オーデリック、MBOを受け入れて非公開化(306億円) |
9 | グローリー、セルフ注文・決済機器大手の仏アクレレック・グループを子会社化(242億円) |
10 | 国内投資ファンドのMETA Capital、澤田ホールディングスをTOBで子会社化(208億円) |
金額上位10件をみると、海外案件はほかに、ブラジルの衛生用品大手Santherを584億円で買収する大王製紙・丸紅(5位)、フランスのセルフ注文・決済機器大手アクレレック・グループを242億円で買収するグローリー(9位)の2件。昨年同期は上位10件中、8件が海外案件だったが、今年は様変わりし、国内案件が優勢となった。
国内案件は上位10件中、7件ライクインしたが、6件をTOB(株式公開買い付け)関連が占めた。このうち総合メディカルホールディングス、豆蔵ホールディングス、オーデリックの3件はMBOと呼ばれる経営陣が参加する買収だった。
また、前田建設工業が前田道路の子会社化(保有割合51%)を目的に実施したTOB(3月に成立)はグループ企業の関係にありながら、今年第1号の敵対的買収に発展した。
4月のM&Aは急ブレーキ
4月のM&A件数(適時開示ベース)は50件と前年を17件下回り、単月で比較すると2016年(同数の50件)以来の低い水準となった。3月に比べると36件の大幅減少。1~3月期は232件と09年以来11年ぶりの高水準を記録したが、一転、下降局面を迎えた。
4月は1件あたりの買収額も小さく、取引金額100億円以上は1件のみ。10億円以上の案件も4件にとどまった。金額が開示された件数が少なかったこともあり、4月の買収額全体は423億円と前年同月比で9割減少した。
M&A取引を巡っては3月以降、国内でも新型コロナウイルスの感染拡大とともに、仕掛かり案件の資産査定などに遅れなどが生じているうえ、緊急事態宣言の延長を受けて、新規案件着手も様子見の状態が継続することが予想される。
ストライク集計によると、金額首位は東海カーボンがフランスの炭素黒鉛製品メーカーCarbone Savoieを約197億円で買収する案件で、同社の持ち株会社の全株式を7月上旬に取得する。これに続くのはミトコンドリア関連疾病などの創薬ベンチャー、英ナンナ・セラピューティクスを4月19日付で買収したアステラス製薬。買収金額は開発の進捗に応じた追加支払い分を含めて最大90億円規模。
国内企業同士では、三井E&Sホールディング(旧三井造船)傘下で木質バイオマス発電事業を手がける市原グリーン電力(千葉県市原市)の子会社化するタケエイの案件が最も大きかった。関連企業の株式取得と合わせて総額は約53億円。経営再建中の三井E&Sは子会社などグループ資産の売却を進めている。
2020年4月の主な案件 |
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1 | 東海カーボン、炭素黒鉛製品メーカーの仏Carbone Savoie を子会社化(197億円) |
2 | アステラス製薬、創薬ベンチャーの英ナンナ・セラピューティクスを子会社化(90億円) |
3 | 野村総合研究所、証券取引管理などバックオフィス業務の豪AUSIEXを子会社化(60.2億円) |
4 | タケエイ、バイオマス発電事業の市原グリーン電力(千葉県市原市)を子会社化(53億円) |
5 | SHIFT、パソコンのリユース事業などを手がけるエヌエスシー(大阪市)を子会社化(9億円) |
業種別で動きが目立ったのがリユース(中古品)関連で、4件のM&Aがあった。TRUCK-ONEは東南アジアに中古トラックを販売するSUN AUTO(北九州市)の子会社化、マーケットエンタープライズは旺方トレーディング(鳥取市)から中古農機具の買取・輸出事業の取得を決めた。
和装品リサイクルショップを運営する東京山喜(東京都江戸川区、民事再生法を適用申請)の再生スポンサーとして名乗りをあげたのはヤマノホールディングス。東京山喜の事業取得について検討に入ると発表した。BuySell Technologiesはバンク(東京都渋谷区)から財布、バッグなど中古品の即時買取アプリ「CASH」事業を取得した。
ドラッグストア業界では首位を争うウエルシアホールディングがクスリのマルエ(前橋市、58店舗)、ツルハホールディングスがJR九州ドラッグイレブン(福岡市、228店舗)の子会社化を発表した。