インド進出にあたって知っておきたいインド会社法の基本

国際取引・海外進出

目次

  1. インド会社法上の会社機関
    1. 非公開会社
    2. 基本的な会社機関
  2. 株主総会
    1. 定足数、出席方法
    2. 開催頻度・招集通知
    3. 決議要件・決議方法
  3. 取締役会
    1. 取締役会の構成
    2. 取締役の選任方法
    3. 定足数、出席方法
    4. 取締役会の開催頻度
    5. 決議要件・決議方法
    6. 招集通知
  4. その他の会社機関
    1. 監査役
    2. 内部監査役
    3. 会社秘書役
    4. 各種委員会
  5. まとめ

 インドの会社法と聞くと、日本の会社法に比べて規制が少ないのではないか、というイメージを持つ人がいるかもしれません。しかし、実はインド会社法 1 は、日本の会社法にない規制が多く、インドに進出した日系企業が、インド会社法に従って会社運営をすることに苦慮することも珍しくないと言えます。

 そこで本稿では、インド進出後に必須となるインド会社法の基本的な内容と主な留意点を解説します。なお、日系企業のインド子会社の多くが非公開会社であることに鑑みて、本稿では主にインドの非公開会社にかかるインド会社法の規制に絞って解説します。

インド会社法上の会社機関

非公開会社

 本稿では、主に非公開会社に絞って解説しますが、まずは非公開会社の定義とその前提となるインドの定款を説明します。

 インドの会社の定款は、日本とは異なり、基本定款(Memorandum of Association)と付属定款(Articles of Association)の2部構成になっています。それぞれの定款に記載される主な内容は以下のとおりです。

  • 基本定款:会社の商号、会社の目的、株主の責任、授権資本の額等の法定記載事項
  • 付属定款 2:株主総会および取締役会の運営等の会社運営に関する法定記載事項、ならびに各株主が保有する株式の処分に関する内容等の任意記載事項

 インド会社法において、非公開会社とは、附属定款に以下のすべての定めがある会社と定義されています。

  1. 株式の譲渡制限の定め
  2. 株主数を200人以下に限定する旨の定め
  3. 有価証券の公募禁止の定め

 非公開会社の場合、株主数は200人以下の規制に加えて、2名以上必要とされています。また、非公開会社は、その商号の末尾に「Private Limited」を記載する必要があります。

基本的な会社機関

 非公開会社は、株主総会(下記2参照)、取締役会(下記3参照)、および監査役(下記4-1参照)の設置が必須です。また、非公開会社は、その資本金・売上高・借入残高次第で、内部監査役(下記4-2参照)と常勤会社秘書役(下記4-3参照)の設置が必要になる場合もあります。
 なお、インド会社法では、各種委員会(下記4-4参照)も定められていますが、いずれも日系企業の子会社の場合には設置する必要がないことが多いです。

 上記のそれぞれの会社機関について、以下にて説明します。

株主総会

定足数、出席方法

 株主総会のインド会社法上の定足数をみたすためには、2人以上の株主の出席が必要です。法人の株主は、代表者が出席することになります。また、株主は、代理人に出席させることも可能ですが、日本とは異なり、代理人は発言権がなく、定足数にも含まれない点に留意が必要です。

開催頻度・招集通知

 定時株主総会の開催頻度については、以下の点に留意する必要があります。

  • 毎年1回開催する必要あり
  • 会計年度の終了から6か月以内に開催する必要あり。ただし、会社設立後の最初の定時株主総会については、会計年度の終了から9か月以内に開催すればよい
  • 定時株主総会と次の定時株主総会の間は、15か月を超えてはならない

 インド会社法においては、会社は、株主に対して、定時株主総会の21日前までに書面の招集通知を送る義務を負っています 3。ただし、95%以上の株主の同意があれば、招集通知の期間を短縮することも認められています。

決議要件・決議方法

 株主総会の決議要件の概要は、以下のとおりです 4

  • 普通決議:過半数の賛成。なお、可否同数の場合の議長の決定投票権(casting vote)を定款で定めることも可能
  • 特別決議:75%以上の賛成。なお、定款で決議要件を加重可能

 決議方法としては、挙手による投票が原則とされています。そのため、各株主の保有する株式数に関係なく、それぞれの株主が1議決権有することになります。もっとも、議決権の10%以上を保有するもしくは50万ルピー以上に相当する払込資本を有する株主の請求、または、議長の判断により、1株当たり1議決権による投票に変更されます。また、定款において、1株当たり1議決権による投票を採用する旨を定めることも可能です。日系企業としては、マジョリティの場合には、定款において、1株当たり1議決権による投票を定めることが望ましいです。

取締役会

取締役会の構成

 非公開会社の場合、取締役は2人以上必要です。また、取締役の人数の上限は15人と定められています。ただし、取締役の上限については、株主総会の特別決議により16人以上とすることも認められています。

 インド会社法上、取締役のうち、1名は居住取締役である必要があります居住取締役とは、会計年度において、182日以上インドに滞在している取締役とされています 5。また、新たに設立された会社に関しては、会社設立日から会社が設立された会計年度末までの間で182/365の割合でインドに滞在していれば、居住取締役と認められます。

 なお、非公開会社に関しては、公開会社と異なり、女性取締役および独立取締役の選任は不要です。

取締役の選任方法

 取締役の選任方法としては、株主総会決議によって選任する方法と取締役会決議によって選任する方法が存在します。それぞれの方法の概要は以下のとおりです。

株主総会決議によって選任する方法 取締役会決議によって選任する方法
地位
  • 通常の取締役の地位
  • 通常の取締役ではなく、additional directorに選任される
  • additional directorの権限は通常の取締役と変わらない
  • 次の定時株主総会において選任されることにより、通常の取締役になる
任期
  • 定款の定めによる
  • 次の定時株主総会まで

 なお、12か月間に開催されたすべての取締役会を欠席した取締役は、取締役の資格を失うとされています。

定足数、出席方法

 取締役会の定足数および出席方法の留意点は以下のとおりです。

  • 定足数:2人または1/3のいずれか多い方の取締役の出席
  • 代理人による出席は認められない
  • ビデオ会議による出席者も定足数に含まれる

取締役会の開催頻度

 取締役会の開催頻度については、以下の点に留意する必要があります。

  • 1年に最低4回開催する必要あり
  • 各取締役会の開催日の間隔は120日以下の必要あり 6

決議要件・決議方法

 取締役会の決議要件の概要は以下のとおりです。

  • 過半数の賛成が必要(ただし、定款の定めによる)
  • 可否同数の場合の議長の決定投票権(casting vote)を定款で定めることも可能
  • 決議要件の加重は定款で可能

 取締役会の決議方法としては、以下の方法があります。

  1. 実際に開催する方法
  2. ビデオ会議:後述の一定の事項については、ビデオ会議による取締役会は認められていない
  3. 書面決議:議決権を行使できる取締役の過半数の賛成が得られた場合に、取締役会決議があったとみなされる。ただし、1/3以上の取締役から請求があった場合には、取締役会を開催する必要あり。また、後述の一定の事項については、書面決議は認められない

 なお、一定の議案と利益相反にある取締役は、当該議案の取締役会への参加は禁止されています。

 書面決議が認められていない主な事項は以下のとおりです。

  • 株式の買戻しの承認
  • 株式・社債の発行
  • 借金
  • 融資の許可および保証・担保の承認
  • 決算書類・取締役会報告の承認
  • 会社の事業の多様化
  • 合併の承認
  • 企業買収・他社の支配権獲得
  • 内部監査役・会社秘書役・監査役の指名

 ビデオ会議が認められていない主な事項は、以下のとおりです。

  • 決算書類の承認
  • 取締役会報告の承認
  • 合併・買収の承認

招集通知

 取締役会の招集通知は、開催日の7日前までに各取締役に送る必要があります。ただし、議題が緊急の議題(urgent business)に関するものである場合には、7日未満の通知により開催することも可能とされています 7

その他の会社機関

監査役

 監査役(auditor)は、日本の会計監査人に近い役割を担います。監査役の就任資格及び役割は以下のとおりです。

  • 資格:勅許会計士(chartered accountant)または会計士がパートナーの過半数を務める会計事務所の必要あり
  • 役割:会社の財務書類等を調査し、年次株主総会で監査報告書を提出し、会社の財務書類が適正であるかについての意見を述べる必要がある。加えて、その職務の過程において役職員による不正行為を発見した場合には、インド中央政府に報告する義務も負っている

 非公開会社においては、資本金が2億ルピー以上、または借入金・社債・預託金の総額が5億ルピーを超えていない限り、監査役のローテーション 8 の必要はなく、再任が認められています。

内部監査役

 内部監査役(internal auditor)は、会社の内部監査を担当する機関で、勅許会計士、コスト会計士(cost accountant)または取締役会が定める専門家が就任できます。非公開会社のうち、以下のいずれかの場合に限り、内部監査役を設置する必要があります。

  • 前会計年度中の売上高20億ルピー以上
  • 前会計年度中いずれかの時点で金融機関からの借入金残高が10億ルピー超

会社秘書役

 会社秘書役(company secretary)は、日本の会社法にはない機関ですが、シンガポール等の英米法系の国では一般的な会社の機関です。会社秘書役の就任資格ならびに会社法上および具体的な役割は以下のとおりです。

  • 資格:会社秘書役協会の実施する試験に合格し、同協会に登録した者だけが就任することが可能
  • 会社法上の役割:会社法等の遵守状況の取締役会への報告、および会社秘書役協会が制定・公表する事務準則(secretarial standards)を会社が遵守することの確保
  • 具体的な役割:株主総会および取締役会への出席、各種議事録を含む書類の準備、かかる書類の会社登記局への提出等

 非公開会社の場合、資本金5,000万ルピー以上でない限り、常勤の会社秘書役を設ける必要はありません。もっとも、常勤の会社秘書役を設けないとしても、会社の運営にあたっては、会社秘書役の協力が通常は必要になります。

各種委員会

 インド会社法には、指名報酬委員会、監査委員会、CSR委員会、および利害関係者委員会が定められています。各委員会の概要は以下のとおりです。

委員会の名称 主な役割 設置義務
指名報酬委員会
  • 取締役および経営幹部の任命解任の推薦
  • 取締役、主要役職者その他従業員の報酬にかかる方針の推薦
  • 非公開会社は設置義務なし
監査委員会
  • 監査人の任命報酬、任命条件等の助言
  • 監査人の独立性およびパフォーマンス、監査過程の有効性の監視
  • 財務諸表および監査報告書の検証
  • 関連当事者間取引の承認
  • 非公開会社は設置義務なし
CSR委員会
  • CSR方針の策定
  • CSR活動および支出額の取締役会への提言
  • CSR方針の遵守状況の監視
  • 純資産50億ルピー以上
  • 売上高100億ルピー以上
    または
  • 純利益5,000万ルピー以上の会社
利害関係者委員会
  • 株主、社債権者、出資者その他の有価証券保有者を含む利害関係者からの苦情等の聴取および処理
  • 会計年度のいずれかの時点で、1,000人超の株主、債務証書保有者、預託者、その他の証券保有者を有する会社

 上記のうち、非公開会社で問題となるのはCSR委員会利害関係者委員会です。もっとも、設置要件に鑑みて、日系企業のインド子会社等が利害関係者委員会の設置義務を負うことは少ないと思われます。一方、CSR委員会については、規模の大きい非公開会社の場合、設置義務を負う場合があります。

 CSR委員会の設置義務を負う会社は、CSR活動への支出義務も負うことになります。かかる会社は、直近3会計年度の平均純利益の2%以上をCSR活動に支出する必要があります 9。また、いったん、上記基準を満たした場合には、3会計年度連続して上記の基準を満たさなくなるまで、CSR活動への支出義務を負うことになる点にも留意が必要です。

まとめ

 インドに非公開会社として進出する場合、株主総会(上記2参照)、取締役会(上記3参照)、および(日本の会計監査人に役割が近い)監査役(上記4-1参照)の設置が必須です。また、資本金次第では内部監査役(上記4-2参照)、売上高・借入残高次第では常勤会社秘書役(上記4-3参照)の設置が必要になる場合があります。
 加えて、日系企業の子会社の場合には不要なことが多いですが、非公開会社であっても、CSR委員会および利害関係者委員会(上記4-4参照)が必要になる場合があります。


  1. インド会社法は、2013年に改正されています。本稿では、2013年に改正された新会社法(Companies. Act, 2013)の規制に絞って解説します。なお、新会社法はその後に複数回改正されているため、会社運営にあたっては、新会社法の条文だけでなく、その後の改正も確認する必要があります。 ↩︎

  2. インドの定款の内容は、比較的柔軟に規定することが認められています。たとえば、合弁会社の場合、株主間契約の内容がそのまま規定されることも多いです。 ↩︎

  3. また、会社は決議事項に関する説明を招集通知に添付する義務も負っています。 ↩︎

  4. なお、公開会社の場合には、関連当事者取引に関する議案について、利害関係を有する株主は株主総会の決議に参加することができないとされていますが、非公開会社の場合にはこのような制限は存在しません。 ↩︎

  5. ただし、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえた対応として、居住日数要件は2020年3月末日に終わる会計年度においては免除されるとされています。 ↩︎

  6. ただし、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえた対応として、2020年9月30日までの間、各取締役会の開催日の間隔は180日まで開いても良いとされています。もっとも、取締役会を1年に最低4回開催する必要があるという点には変更ありません。 ↩︎

  7. なお、独立取締役がいる場合は、最低1名の独立取締役の出席があれば、招集通知の期間の短縮が可能です。 ↩︎

  8. 監査役のローテーションが必要な場合、監査役が、自然人の場合には5年間(1期)、会計事務所の場合には10年間(2期)監査人を務めた場合、5年間のクーリングオフ期間を置く必要があります。 ↩︎

  9. 新型コロナウイルスへの対策への一定の支出は、CSR活動への支出にカウントされます。 ↩︎

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