新型コロナウイルス影響下での株主総会の開催事例に学ぶ対応ノウハウと実施効果 役員・執行役員の3分の2のリモート参加と、質問回答数の増加を実現したサイボウズ

コーポレート・M&A

目次

  1. 株主とのコミュニケーションや共感を重視するサイボウズの株主総会
  2. 新型コロナウイルスの影響により、イベントの中止や役員・執行役員の参加方法変更を開催3日前に決定
  3. オンラインでのライブ配信により、例年以上の視聴数と質問回答数を実現
  4. 開けた株主総会とするためリモート接続やライブ配信を活用するきっかけに

新型コロナウイルスの感染拡大により、株主総会の開催・運営について例年と異なる対応の検討が迫られています。

経済産業省および法務省は2020年4月2日付けで「株主総会運営に係るQ&A」をまとめ、会場規模の縮小や入場可能な株主の人数の制限等に関する見解を提示。新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会は、定時株主総会の後ろ倒しや、継続会の開催による定時株主総会の二段階実施が可能であると示すなど 1、株主総会の柔軟かつ適切な開催方法に関する情報が相次いで公表されています。

こうした例年と異なる状況のなか、株主総会を3月29日に開催し、役員・執行役員のリモート参加や株主総会のライブ配信、オンラインでの質問受付を実践したのがサイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)です。本稿では同社の株主総会担当者、山羽 智貴氏(法務統制本部)に、新型コロナウイルスの影響による開催形態・内容の変更を判断した際の流れや、具体的に実施した対応、またその結果などについて伺いました。

株主とのコミュニケーションや共感を重視するサイボウズの株主総会

貴社では例年、株式総会の録画配信や、総会前のシンポジウム開催といったユニークな取り組みを行われています。貴社において株主総会はどのような位置づけで実施していますか。

株主とのコミュニケーションや共感を重視しています。以前から、「予定通りに進むシャンシャンの株主総会は、会社のイベントで一番つまらない」「株主との関係性を変えたい」といった、役員含め我々の想いがありました。そこで株主総会は会社法上定められたことをおこなう会議体であることを前提にしながらも、その1日をとおして当社の企業理念(「チームワークあふれる社会を創る」)や経営に対する考え方を株主の皆さまにより深く理解いただけるよう、ゲストを招いたパネルディスカッションや株主の皆さまの声を直接伺う企画などを同日開催してきました 2

株主の皆さまにもチームの一員となっていただくためには、株主の皆さまも共感する共通の理想が必要だと考え、今年は社長らと株主の皆さまが株主総会で対話し、企業理念を決めることを計画していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で実施に至りませんでした。今後、何らかの形でチャレンジしたいと考えています。

また、このような取り組みは株主の皆さまだけではなく、当社に興味があるすべての方にとって有意義なものだという考えから、株主以外の方々でも、株主総会以外のイベントへの参加および株主総会の見学を行っていただけるようにしています。実際に株主以外の皆さまにも多数ご参加・ご見学いただけています。

新型コロナウイルスの影響により、イベントの中止や役員・執行役員の参加方法変更を開催3日前に決定

株主総会の開催に向けた準備を行なわれた体制と、準備の開始時期について教えてください。

本年の株主総会の開催準備については、主に以下の2チーム体制で進めました。

  • 広報兼IRチーム:株主総会前後のイベント企画・運営、会場設営など
  • 法務チーム:株主総会の運営

例年、株主総会は期末(当社では12月31日)を迎える前から徐々に準備を進めています。なお、株主総会前後で開催するトークセッションなどのイベントについては、例年7月ごろから検討を始め、以下の流れで準備を進めています。

株主総会前後に実施するイベント準備の流れ
  • 7月 検討開始(イベントテーマ、開催内容など)
  • 9月 イベント内容の確定、ゲストの調整
  • 12月 サイトオープン、イベント内容の詳細詰め
  • 1月 集客開始(株主・一般ともに)
  • 3月 本番

先ほど伺ったとおり、新型コロナウイルスの感染拡大により、今年の株主総会では、第1部(ゲストトークセッション)・第2部(株主トークセッション)のセッション中止を含めた、開催形態の変更を行われています。こうした新型コロナウイルスの流行を受けた対応について、検討を開始されたタイミング、および判断に至られたまでのフローを教えてください。

今回の新型コロナウイルス感染拡大を受けた対応変更や施策については以下の流れで進めました。ライブ配信の実施自体は2月末に決めましたが、本番である3月29日の直前にさらに変更が生じました。

新型コロナウイルスの影響に基づく、株主総会の対応検討の流れ
  • 2月末
    ・ライブ配信を検討、数日後にライブ配信の実施を決定
    ・第1部、第2部として開催するイベントは全面ライブ配信のみに変更(株主・一般ともに会場参加不可)
    ・株主総会の会場への来場は株主のみに変更(一般不可)

  • 3月25日夜
    ・(東京都の週末外出自粛要請を受け、)当日についての議論を開始(株主総会のみ実施とするのか、また役員・執行役員をリモート参加にできるかどうか等)
    ・ 第1部、第2部の中止を決定、関係者へ連絡

  • 3月26日
    ・申込者(株主・一般)へ第1部、第2部中止を連絡、WEBサイトを更新
    ・株主総会時の、役員・執行役員のリモート参加を確定(Zoomを使用)
    ・当日のZoom接続、YouTubeライブ配信における技術面での必要機材・専門スタッフの手配

  • 3月29日
    ・株主総会を開催

2月末から当社では原則在宅勤務の方針を出していたこともあり、変更に関する検討は、まずはオンライン(kintone)上において、関係者間でコメントをやり取りしていました。3月25日夜に決定した第1部、第2部の中止については、東京都の会見を受けてすぐに、オンライン上で社長をはじめとした全役員、関係者間で議論し、判断しました。翌日3月26日の対応についても、オンライン上のコメントとウェブ会議で、変更に伴う追加対応などを確認して準備を進めました。オンラインのオープンなスペースでコメントを書き込むことで、関係者間で情報共有がなされ、迅速な判断に至ることができたと思っています

株主の方々へは、議決権行使の方法や、当日の来場に関して特別なご案内などはされましたか。

3月中旬発送の招集通知 3 や3月下旬発送の郵送物にて、書面による議決権行使の推奨やライブ配信・インターネット上の質問受付フォームのURL、来場する際の注意事項などをご案内いたしました。

株主総会の開催を延期するという選択肢も候補にありましたか。

現実的な選択肢として、延期はありませんでした。これは、延期することで配当開始が先延ばしとなり株主のためにならないことや、新型コロナウイルス問題の先行きが不透明なため延期後の日程設定が難しいこと、延期した場合の追加コストがかかることが判断の理由です。

新型コロナウイルスの流行を背景として、株主総会の開催・運営方法については具体的にどのような対応・変更を行われましたか。

開催の形態、会場の運営、関係者への周知などについては、以下のとおり対応・変更しました。工夫した点としては、インターネット上で質問を受け付けられる専用フォームを用意したことなどがあげられます。

開催形態の対応・変更
  • ライブ配信を実施するとともに、株主・一般ともにインターネットを通して質問を受けられるよう準備
  • 役員・執行役員の参加方法を、極力リモート参加へ切り替え
  • 運営スタッフや関係者を最低人数に絞る(社内外含む)

会場運営上の対応・変更
  • 会場席の間引き(前後左右の席間隔を2m以上離す)
  • ステージと前方席の間隔を2m以上離す
  • 会場の換気
  • 運営スタッフのマスク着用
  • 受付スタッフ、マイクスタッフの手袋着用
  • 体調のすぐれない株主、特に発熱されている株主へご来場をお控えいただくよう呼びかけ
  • 来場時の検温実施
  • 来場者用のマスクの用意(マスクを着用されていない株主の方がいた場合に備えて)
  • アルコール消毒液の設置
  • 質疑応答時のマイクを発言の都度、アルコールティッシュで拭く

株主・貴社役員等の関係者・ゲスト・運営等の業者・一般の方への周知
  • 社内外関係者・ゲスト等
    ・決定した事項について即時に連絡
  • 株主
    ・2月末のライブ配信決定を受け、3月中旬発送の招集通知にて案内
      (事前の書面による議決権行使・ライブ配信の案内など)
    ・3月下旬発送の郵送物にて案内
      (ライブ配信のURL・インターネット上の質問受付フォームURLなど)
    ・第1部、第2部のイベント参加を申込まれた株主の方向けに、配信形態の変更および中止についてWebサイトやメールで案内
  • 一般
    ・開催内容や形態の変更の都度、Webサイトやメールで案内

株主総会会場では座席の間隔が2m以上確保された(画像提供:サイボウズ)

株主総会会場では座席の間隔が2m以上確保された(画像提供:サイボウズ)

新型コロナウイルスの影響としては、急遽、役員・執行役員の参加方法をリモートにすると決めたことで、その実現方法の検討や、ライブ配信との接続などにおいて苦労しました。また追加機材や専門スタッフの手配、当日のリハーサルでの入念なチェックなどの対応にも追われました。

役員・執行役員による株主総会へのリモートでの参加の様子(画像提供:サイボウズ)

役員・執行役員による株主総会へのリモートでの参加の様子(画像提供:サイボウズ)

本年の株主総会における新型コロナウイルスへのご対応をはじめ、柔軟な業務対応・実施を可能とするチームの構築・運営方法について、ノウハウがございましたらお教えください。

オンライン上でコミュニケーションを取り合ったり、タスク管理をするなど、情報共有ができているかどうかがポイントだと思います。当社ではオンラインツール(kintone)を活用し、関係者間で常にタスク共有や議論ができる状況だったので、各々が在宅勤務でもスムーズに対応でき、また状況に応じて迅速に変更内容を議論し、判断に至ることができました。

オンラインでのライブ配信により、例年以上の視聴数と質問回答数を実現

本年の株主総会の運営および変更対応を行ってよかった点、および今後改善を予定される点についてお教えください。

今回の株主総会対応の結果としてよかった点については、まずライブ配信を実施できたことがあげられます。当社では2010年より株主総会のライブ配信や質問受付を何度か実施していましたが、ライブ配信を行っても、今回のようにネットからのリアルタイムでの質問は多くなく、事後の動画配信で十分だと考えたことから、ここ数年は実施していませんでした。

今回、ライブ配信を実施したことにより、東京の株主総会会場への来場が難しい遠方の株主の方、また株主以外の方も含め、前年より多くの方に株主総会を視聴いただくことができました(前年来場者:約300名、今回のライブ配信最大同時接続数:510名)。

さらに今回の株主総会では、インターネット上の質問を含め、これまででもっとも多くの質問に回答することができました(質問回答数:来場株主3問、インターネット経由26問)。

回答数が増加した要因としては、新型コロナウイルス感染拡大に伴う事業への影響に関する質問を複数いただいたこともありますが、インターネット上で質問を受付けたことにより、質問することへの心理的ハードルが下がったことなどから質問数自体が増えたこと、また質問がテキストで登録されていることで効率的に回答時間を確保できたことなどがあります。

こうした取り組みは、株主の皆さまに限らず一般の方々にも当社の株主総会を知っていただくことにも繋がったと思っています。

株主・一般の方からインターネット上で寄せられた質問へも回答が行われた(画像提供:サイボウズ)

株主・一般の方からインターネット上で寄せられた質問へも回答が行われた(画像提供:サイボウズ)

加えて、役員・執行役員のリモート参加にチャレンジできたことも成果として考えています。当初会場にて出席予定だった役員・執行役員について、外出自粛要請を受けて安全面を考慮し、取締役2名、監査役3名、執行役員4名の計9名のうち6名がリモート参加に変更しましたが、問題なく質疑応答等を行うことができました。役員・執行役員のリモート参加が可能だとわかったことで、来年以降の株主総会の開催方法の選択肢が広がりました。

一方、改善点としては、インターネットからの質問受付(株主・一般ともに)の効率化があげられます。質問内容を要約し、また答弁を担当する役員・執行役員を仮アサインしたうえ、システム上で見える化することなどにより、来年以降の株主総会では、より効率的にお答えができるようにしたいと考えています。

本年の株主総会の運営および変更対応について、株主・貴社役員等の関係者・一般の方などからはどのような感想や意見が寄せられましたか。

当日参加された株主・一般の方々からアンケートでいただいたコメントを一部ご紹介いたします。例年と比較し、オンライン配信に対する好評価のコメントが多く見受けられました。

  • 地理的制約によらず参加できるのが、非常に良い。
  • このような時勢の中、会場に出向くことなく参加することができるのは、とてもありがたい。
  • オンラインのほうが皆さん質問しやすいようで、たくさんの率直な質問と回答をきけたのがよかった。
  • オンラインならではの、サイボウズの者同士のコミュニケーションのご様子なども垣間見ることができたことも、サイボウズという会社の良き雰囲気がとても伝わってきた。
  • 議決に対しても、議場では拍手ができますが、ネットでもいいねボタンでもあればと思った。

開けた株主総会とするためリモート接続やライブ配信を活用するきっかけに

次回以降の株主総会開催を見据え、新たなお取り組みをふくめた展望などはございますか。

来年は、新型コロナウイルスの影響により今回実施できなかった、株主総会で株主の皆さまと対話して企業理念を決めるイベントを開催できればと計画しています。また、ライブ配信や役員・執行役員のリモート参加といった今回の経験を踏まえ、来年以降も引き続き、柔軟に開催方法・形態を検討していきたいと考えています。ライブ配信・リモート参加という選択肢が増えたことにより、ゆくゆくは開催場所についても東京に限らず、たとえば会場を開催年ごとに変え、全国の株主の皆さまに直接お会いする機会とするなど、株主コミュニケーションの一環としても新たな取り組みを行っていきたいです。

4月7日に7都府県、また4月17日には全国に対し、総理大臣より「緊急事態宣言」がなされるなど、新型コロナウイルスの流行の影響は今後も続くことが予想されます。こうした世相も念頭に、今後株主総会の開催を予定する企業の担当者の方々へ向けたアドバイスやメッセージをいただけますか。

(こうした状況をチャンスと捉えるべきではないかもしれないですが、)ライブ配信や役員・執行役員のリモート参加で、スタッフ人数や運営コストを最小限に抑えることに取り組むなど、これまで当たり前と考えていた株主総会の運営方法の前提を見直すことができる機会だと思います。当社でも、従来から株主総会のライブでの配信をもっと盛り上げたいと考えていながら、なかなかニーズも高くなく対応を諦めていましたが、今年の株主総会では実現することができ、かつ一定の成果を得ることができたと思います。

リモート接続やライブ配信を実施するには、テクニカル面での調整が必要にはなりますが、これからの時代で求められるであろう、より開けた株主総会にするためには、会場での開催のみならずこうした手段を活用していくべきだと考えます。

当社としても運営上の課題はまだたくさんありますが、昨今の状況下で3月に株主総会を実施した企業として何かお力になれることがあれば、お声がけなどもいただければと思います。


  1. 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」(2020年4月15日) ↩︎

  2. 2018年に開催された同社の株主総会、およびシンポジウムの様子は「会社と株主の理想的な関係を探るサイボウズの新しい株主総会」もご覧ください。
    2019年開催時の様子は、サイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」をご覧ください。 ↩︎

  3. サイボウズ株式会社「第23回定時株主総会招集ご通知」(2020年3月12日) ↩︎

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