感染症の流行によるイベントの中止、延期、開催方法の変更を行ううえでの留意点

知的財産権・エンタメ
鈴木 里佳弁護士 骨董通り法律事務所

目次

  1. 感染症の流行に伴い、自社が主催するイベントを中止する場合
    1. 参加予定者への入場料、参加料の払戻しの要否
    2. イベントの中止に際し、参加予定者に対して通知すべき情報とその方法
    3. イベント出演者やスタッフなどの業務委託先への支払いや、協賛企業への対応についての考え方
  2. 感染症の流行に伴い、イベントの開催を延期する場合
    1. 延期日程では参加が難しい参加予定者への入場料、参加料の払戻しの要否
    2. イベントの延期に際し、参加予定者に対して通知すべき情報とその方法
    3. イベント出演者やスタッフなどの業務委託先への支払いや、協賛企業への対応についての考え方
  3. イベントの開催方法を異なる形態へ切り替える場合(例、オフラインイベントをオンライン配信型に変更する場合)
    1. 開催方法の変更による、参加予定者への入場料、参加料の払戻しの要否
    2. 開催方法の変更に際し、参加予定者に対して通知すべき情報とその方法
  4. イベントを中止、延期しないという判断による法的リスク
  5. 有事の際のイベント中止・延期等の対応を見越し、主催者が日ごろから定めておくべき規約や対応

今般の新型コロナウイルスの感染拡大のなか、政府の要請を受け、スポーツや文化イベント等(以下、ビジネスイベントなども含め本稿では「イベント」とします)の中止・延期のニュースが全国を駆け巡っています。有事の際の頼みの綱であるはずの興行中止保険も、その大半が感染症によるイベント中止による損害を補償の対象としておらず、多くのイベント主催者・関係者が苦境に立たされています。

このような状況を受け、本稿では、主に興行目的のライブイベントを念頭に、今回のような感染症の流行に伴い、主催イベントを中止、延期または形態を変えて開催する場合の入場料の払戻しや、出演者等への支払いの要否、ならびにイベントを開催する場合の法的リスクについて説明します。

感染症の流行に伴い、自社が主催するイベントを中止する場合

参加予定者への入場料、参加料の払戻しの要否

まず、参加予定者との間で、中止の場合の払戻しに関する有効な合意があるかが問題となります。具体的には、チケット申込時に、参加予定者が「不可抗力、または主催者の判断によるイベント中止の場合には払戻しされない」という条件を含む規約などに同意していた場合、払戻しは不要になろうと考えられます(「不可抗力」の場合のみと規定されている場合には、具体的な感染の拡大状況に加え、行政からの要請・指導の有無および内容、イベント実施による感染拡大のリスクの大小などをふまえ、「不可抗力」にあたるかについて、ケース・バイ・ケースの判断が必要となるでしょう)。ただし、規約への同意のプロセスが不十分である場合、有効な合意は成立しません。あるいは、規約が消費者にあたる購入者に一方的に不利な内容の条項を含む場合、消費者契約法10条によりその条項は無効となる可能性もあるので注意が必要です(後述のとおり、民法の定める定型約款に関するルールも問題となりえます)。

他方、有効な合意がない場合、原則として払戻しが必要と考えられます。まず、イベントの中止により、参加者が「イベント参加契約」に基づき有する、「特定の日時・場所におけるイベントに参加・鑑賞する権利」は履行不能になったと考えられます。そして、中止(=履行不能)が債務者の「責めに帰すべき事由」によらない場合も、反対債務であるチケット代金債権の履行を拒めるのが民法の定める原則です(民法536条1項)1。そのため、原則として、すでに支払い済みのチケット料は払い戻す必要があるでしょう。もっとも、上記の有効な合意の有無も含め、ケース・バイ・ケースの判断が必要となると考えられます。

イベントの中止に際し、参加予定者に対して通知すべき情報とその方法

イベントの中止を決定した場合、できるだけ早期に参加予定者に中止を連絡することが重要です。イベントの公式サイトで発表するだけでなく、申込時に入力された参加予定者のメールアドレス宛にも個別に連絡することが望ましいでしょう。

通知すべき内容としては、以下などが考えられます。

イベント中止決定時に参加予定者へ通知すべき内容
  1. 中止決定の事実
  2. 払戻しの有無
  3. (払戻しを行う場合、)その場所や方法、期間、問い合わせ先など

できるだけ早期の連絡が必要とされる理由は、直前の連絡では参加予定者に不便であることに加え、主催者自身のリスク管理にも関わります。というのも、払戻しの有無にかかわらず、中止決定が、主催者の「責めに帰すべき事由」による場合、主催者の債務不履行責任の問題となり(民法415条)、参加予定者から交通費や宿泊料などについて、損害賠償を求められる可能性もあるためです。直前の中止の場合、イベント参加のために手配していた交通費や宿泊料のキャンセル期間が過ぎてしまい、参加予定者に発生する損害の範囲が拡大するおそれがあります。

今般の新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由とする中止の場合、政府からの要請による影響が大きく、イベント開催による具体的な感染拡大の危険性がある場合には、主催者の「責めに帰すべき事由」によると認められる可能性は高くないと考えられますが、注意したいポイントです。

イベント出演者やスタッフなどの業務委託先への支払いや、協賛企業への対応についての考え方

出演者やスタッフなどの業務委託先への支払いの要否は、チケット代の払戻しの問題(上記1−1)と同様に考えることになります。こちらも、まずは、出演者等との間の契約を確認し、中止の場合の支払いの要否や、支払う金額の範囲について規定がある場合、それに従うことになります

他方、契約書がない場合やあっても内容が不明確である場合は、民法の原則に従い、出演者等が主催者に対して負っている「所定の日時で業務を提供する」という義務は中止により履行不能となったと考えられます。結論としては、主催者の「責めに帰すべき事由」による場合を除き、履行不能となったイベント出演者やスタッフなどの業務委託先に対する業務の対価の支払いは不要となるのが基本でしょう

協賛企業との関係でも、協賛契約に中止の場合の協賛金の取扱いに関する規定があるかを、まずは確認することになります。契約書が交わされていなかったり、明確ではない場合、事前に協賛企業のためのプロモーション活動が行われた程度なども踏まえつつ、協議することになるでしょう。

イベント中止の場合の法的問題については、そのほか福井健策弁護士によるコラム「感染症とイベント中止の法的対処~払い戻し、解除、入場制限、ライブ配信~」や、「アーティスト・文化団体・知財の災害法律相談」における北澤尚登弁護士の回答(A1.およびA2.)も参考となります。

感染症の流行に伴い、イベントの開催を延期する場合

延期日程では参加が難しい参加予定者への入場料、参加料の払戻しの要否

感染症の流行によりイベントの開催を延期する場合、延期日程では参加が難しい参加予定者への返金の対応方法を考える必要があるでしょう。ここでまず問題となるのは、延期されたイベントの実施が、当初の「イベント参加契約」の履行と認められるかという点です

参加予定者の多くは、出演者やイベント内容に加え、自分が参加できる日時であるかに着目して、購入を決定していると考えられます。そのため、所定の日程以外の延期イベントの開催は、イベント参加契約の「本旨に従った履行」とはいえず、延期の決定により履行不能となった(延期の通知は新たなイベント参加契約の申込みにとどまる)と考えられるように思われます。そのため、延期イベントに参加できないチケット購入者に対しては、原則として、やはり返金の受付が必要と考えられます

なお、実例は多くない印象ですが、当初のチケット販売時に「やむをえない事由による日程変更がありうる」ことが、規約などに明記され、有効な合意となっていた場合には、返金は不要になろうと考えられます。延期のケースではありませんが、過去の裁判例では、公演の見どころと宣伝されていた指揮者 2 や、出演者 3 がやむを得ない事由により変更された場合に、「出演者や公演内容の変更がありうること」がチケット契約の合意内容に含まれていたとして、返金などが不要と判断された事案があります。

イベントの延期に際し、参加予定者に対して通知すべき情報とその方法

イベント中止の通知時(上記1−2)と同様の理由から、イベントの延期決定後は速やかに、延期日程の案内を(あわせて払戻しも受け付ける場合、その方法なども含め)、参加予定者に連絡することが重要です。とくにチケットの公式リセールを検討する場合、延期日程での参加が難しい参加予定者のチケットが無駄にならないよう、参加ができない参加予定者からの申し出に、相当な期限を設けるなどの工夫も必要と考えられます。

イベント出演者やスタッフなどの業務委託先への支払いや、協賛企業への対応についての考え方

ここでも、まずは出演者等との契約において、主催者による開催日の変更が可能とされているかを確認します。契約上可能な範囲内の延期の場合、延期された日程で、当初契約に基づく業務の提供を受け、その対価を支払うことになります

他方、契約上、主催者による日程変更が可能とされていない場合、(当初の契約上の義務の履行として)延期日程における業務の実施を求めることは難しいように考えられます。というのも、出演者等は、契約を締結するに際して、他の業務のスケジュールも踏まえ、「特定の日程において業務を実施する義務」として受託したと考えられるためです。

そのため、延期開催を決定するに際しては、主要な出演者等、そのイベントにおいて代替できない者のスケジュールを、まず考慮する必要があるでしょう。そして、延期した日程でのイベント業務に参加することができないイベント出演者やスタッフなどの業務委託先に対しては、中止の場合(上記1-3)と同様、延期が主催者の「責めに帰すべき事由」による場合でない限り、延期により実施されなかった業務の対価の支払いは不要になると考えられます。協賛企業との関係についても、イベント中止の場合と同様、まずは協賛契約に延期の場合の協賛金の取扱いに関する規定があるかを確認することになります。次に、延期の場合の取扱いが契約上明確でない場合ですが、当初の日程での開催でなくとも、協賛企業のためのプロモーション活動の効果に大きな変更はないケースが多いように考えられます。そのような場合には、協賛金の返金は不要という結論になろうと考えられます。

イベントの開催方法を異なる形態へ切り替える場合(例、オフラインイベントをオンライン配信型に変更する場合)

開催方法の変更による、参加予定者への入場料、参加料の払戻しの要否

ここでも問題となるのは、オンライン配信などの別形態でのイベント実施が、当初の「イベント参加契約」の「債務の本旨に従った履行」と認められるかです。スポーツ・文化イベント等では、出演者と同一の空間、時間を共有する感動に、イベントの価値をみる購入者が大半と考えられます(パブリックビューイングのチケット代金が、開催会場のチケット代金より低く設定されるのは、この価値を反映してのものでしょう)。

そのため、スポーツ・文化イベント等をオンライン配信等に変更して実施した場合、やはりイベント参加契約の「本旨に従った履行」とはいえず、変更決定により履行不能になったと考えられるように思われます。したがって、オンライン配信等の別形態での開催の場合、原則として、返金の受付が必要と考えられます。なお、ビジネスセミナーやカンファレンスなどの場合、オンライン配信であっても、予定通りの内容のセミナー等を視聴できるのであれば、開催会場で参加するのと同等の価値を得られると考える参加者も少なくないように思われます。業界ごとの慣例も踏まえ、返金しない、あるいは一部のみ返金するという判断もあろうと考えられます。

他方、当初のチケット販売時に「やむをえない事由によりオンライン配信等の別形態での実施となる場合がある」との条件について有効な合意が成立していた場合、返金は不要になろうと考えられます。このような条件についての合意が有効か、また、変更事由が「やむを得ない事由」によるかなど、ケース・バイ・ケースの判断が必要となるのは、中止や延期のケースと同様です。

開催方法の変更に際し、参加予定者に対して通知すべき情報とその方法

中止や延期と同様、決定後すみやかに、オンライン配信の視聴方法など、異なる形態でのイベントへの参加方法、および払戻しを受け付ける場合その方法などを、参加予定者に連絡することが重要です。

他方、その際、オンライン配信を参加予定者以外にも視聴可能とし、並行してクラウドファンディングを実施したうえで、イベント公式サイト上等でサポートの呼びかけをすることなどによる、損害分の補填方法も考えられるでしょう。昨今、出演者やアーティストを直接サポートしたいというファンの熱意が、ライブ配信サービスの勢いをますます強めています。損害の回避はもちろん、出演者と参加者との新たなコミュニケーションの機会と捉えることもできるのではないかと思います。また、参加予定者が、出演者やイベントをサポートするために、払戻しの受付がされていても、あえて請求しないこともあるのではないでしょうか。

イベントを中止、延期しないという判断による法的リスク

状況に応じて、イベントの中止や延期をせず、当初の予定どおりの開催を判断する場合も、もちろんあるでしょう。その場合の法的リスクとしては、万が一、イベントを通じて集団感染が発生した場合に、重症化などした参加者から安全配慮義務違反に基づく責任を問われる可能性が第一に考えられます。

過去の裁判例では、人気ロックバンドの公演中、熱狂した観客がステージに殺到し、観客の一人が押し倒されて死亡した事故に関し、主催者には、観客に対し「安全に公演を観覧させる義務」があることを前提に、賠償義務が認められた事案があります 4

他方、音楽イベントの会場付近での落雷により観客が死亡した事故に関する主催者の責任が問われた事案では、裁判所は、一般論として大規模イベントの主催者は、落雷事故の発生が抽象的には予見可能である以上、落雷事故に対する適切な警備体制を構築する義務を負っていたと判断しました。そのうえで、落雷の発生は主催者がコントロールできる事象ではないことや、落雷場所が会場から相当の距離があったことを前提に、落雷場所についての利用・管理の状況、先行行為を含む両者の関係、予見可能性の有無・その具体性、期待可能性、被侵害利益の重大性などの諸般の事情を総合考慮して、主催者の責任を否定しました 5

安全配慮義務自体が、明文法で定められているものではないため、どこまでの措置をとるべきか悩ましいところです。今般の新型コロナウイルスの感染拡大予防に関しては、政府公報 6 でも重視されている「参加者への手洗いの推奨やアルコール消毒薬の設置」や、「風邪のような症状のある方には参加をしないよう依頼をすること」にならったキャスト・スタッフ・観客における症状の早期把握と参加見合わせの依頼をはじめ、以下のような措置をどれだけ実行できるかという点が、ポイントになろうと考えられます。

イベントを実施する場合に検討すべき措置
  • 参加者への手洗いの推奨やアルコール消毒薬の設置
  • キャスト・スタッフ・観客における症状の早期把握と参加見合わせの依頼
  • 会場の消毒の実施
  • 会場の十分な換気
  • 不特定多数の参加者・関係者同士の接触防止
  • 来場時の体温測定の実施
  • 基礎疾患を有するなど重症化するリスクの高い参加予定者に対する参加見合わせの呼びかけ
  • など

有事の際のイベント中止・延期等の対応を見越し、主催者が日ごろから定めておくべき規約や対応

今回の新型コロナウイルスの感染拡大による事態も踏まえ、どのような状況でイベントを中止する場合に入場料の払戻しを行うのか、あるいは、延期やオンライン配信等への変更を実施するのか、はたまた、感染症が流行するなかでイベントを実施する場合に体調不良の観客の入場を断る可能性などを、事前に検討しておくことが求められるでしょう。

そのうえで、それらの条件がチケット販売契約における有効な合意条件となるよう、チケット販売時の規約に盛り込むことが重要でしょう。規約を作成する際には、主催者にとって有利な内容ばかりを規定すればいいとわけではありません。やむをえない事由がない場合にも(たとえばチケットの売れ行きが悪く赤字になりそうな場合などにまで)主催者の裁量でイベントを中止でき、返金も不要といった内容は、消費者契約法10条により無効になる可能性も考えられます。

また、2020年4月1日施行の改正民法に加わる「定型約款」に関するルールへの留意も必要となります。チケットの販売規約は「定型約款」にあたる場合が多いと考えられますが、相手方の利益が一方的に害されるような内容は、明記されても有効な契約内容からは除外されますので 7、やはり注意が必要です。

さらに、出演者や現場スタッフとの契約に関しても、イベント中止の場合の対価の支払いの要否・範囲について、事前に、具体的に取り決めることも重要です。協賛契約についても同様です。協賛企業のプロモーション活動が、イベント実施前に行われることもあるでしょうから、イベント中止の場合も、一部の協賛金の支払いがされるよう、規定できるかがポイントになると考えられます。

中止・延期の場合のリスクを、どのように分担するのがフェアなのかという観点から、規約や各種契約を準備することが重要と考えられます。

※本記事の凡例は以下のとおりです。
改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
現行民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

  1. 執筆時点(2020年3月16日)での現行民法は、債務者による履行不能の場合の反対債務への影響(いわゆる危険負担)に関し、反対債務は当然消滅するという効果を規定します(現行民法536条1項)。一方、2020年4月1日施行の改正民法では、反対債務の債務者はその履行を拒むことができます(改正民法536条1項)。そして、改正民法では、債務不履行に基づく契約解除の要件として、(履行不能となった債務の)債務者の帰責事由が不要となります(改正民法541条、542条)。そのため、反対債務の債務者は、契約を解除し、すでに支払い済みのチケット代金の払戻しを求めることができるという結論は改正前と変わらないでしょう。 ↩︎

  2. 損害賠償請求事件(東京地裁平成20年7月29日判決・判タ1291号 273頁) ↩︎

  3. 代金返還請求事件(東京地裁平成25年10月25判決) ↩︎

  4. 損害賠償請求事件(札幌地裁昭和58年4月27日判決・判タ502号145頁) ↩︎

  5. 損害賠償請求事件(大阪地裁平成28年5月16日判決) ↩︎

  6. イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ」(令和2年2月20日、令和2年3月16日最終閲覧) ↩︎

  7. 具体的には、定型約款が、①相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重するものであり、かつ、②その定型約款の態様およびその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものである場合、当該条項へは合意をしなかったものとみなすと定められています(改正民法548条2第2項)。 ↩︎

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