私たちがクラウドフレアを訴えた理由 竹書房竹村氏と訴訟代理人の中島弁護士に聞く

知的財産権・エンタメ

目次

  1. クラウドフレアへの訴訟は著作権侵害をやりづらい環境を作るため
  2. リーガルテックを用いた証拠保全で著作権侵害との戦い方が変わった
  3. 利益につながる「攻めの法務」
  4. 著作者にお金を還元する仕組みが維持されるために

2020年1月、株式会社竹書房は米国の電気通信事業会社クラウドフレアに対して民事訴訟を提起し、2019年12月20日付で東京地方裁判所に受理された旨を公表した。

違法アップロードサイト「漫画村」の運営者が逮捕されてもなお、著作権侵害が後を断たないなか、なぜ出版社がCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を運営するクラウドフレアを訴えるという手段を選んだのだろうか。

株式会社竹書房の取締役である竹村 響氏と訴訟代理人を務める弁護士法人東京フレックス法律事務所の中島 博之弁護士に聞いた。

参考:

クラウドフレアへの訴訟は著作権侵害をやりづらい環境を作るため

クラウドフレアに対して訴訟を提起されました。海賊版に対する被害の大きさは、やはり見過ごせなかったのでしょうか。

竹村氏:
まず申し上げておきたいのは、今起こっているのは国内向けにマネタイズされているコンテンツの利益を不法に搾取する著作権侵害であり、規制されているコンテンツを視聴するという、本来の意味の海賊版とはまったく違うものです。海賊版サイトという名前は「万引」と一緒で行為のイメージを不当に軽くする表現じゃないかと。僕は海賊版と呼ばずに「著作権侵害サイト」「違法サイト」という言い方をしています。

株式会社竹書房 取締役 竹村 響氏

株式会社竹書房 取締役 竹村 響氏

なるほど。それでは海賊版という呼び方は控えます。今回の訴訟提起に至った背景やねらいを教えてください。

竹村氏:
今まで権利侵害に対して一生懸命対策してきた出版社に比べて、こうした問題に対しての対処が会社としてできていなかったので、イチからやるべきだと。負荷は大きいですけど、できる範囲でやるべきことがあると思っています。

権利侵害への対応には予防・処置・訴訟・賠償の4フェーズあると整理していて、検索結果の削除、被害届の提出、賠償まで踏み込んだケースもある。でも、本当に重要なのは「予防」だと思うんです。

今回のCDNに対する訴訟は予防策であり、著作権侵害をやりづらくすることが目的です。

中島弁護士:
クラウドフレアは適法なサイトにもサービスを提供していますが、著作権侵害サイトの大半が好んで使っています。権利侵害の通知がきてもサーバー上のデータを消さないと言われているからなのですが、今回の訴訟を通じてクラウドフレアが権利侵害に対して責任を負い、著作権侵害サイトへのサービス提供がされなくなれば、実質的には侵害サイトの閉鎖に繋がると考えています。

中島先生がサポートとして入られたのは訴訟対策がきっかけだったのでしょうか。

中島弁護士:
私は去年の7月頃から関わるようになりました。もともと竹書房さんでは「弁護士ドットコムRights」の実証実験によって、権利侵害されている著作物を検知し、検索結果からの削除申請を行っていました 1

弁護士ドットコムRightsを用いた削除申請までのステップ

弁護士ドットコムRightsを用いた削除申請までのステップ

ただ、それだと著作権侵害サイト自体は残っていますし、アップロードした人へのアクションもない。そんな中、竹村さんが抜本的解決のために一緒に動ける人を探していると伺い、ジョインしました。

著作権者・漫画家さんから預かった作品を不当に侵害されないようにしよう、大事にしようという気持ちが竹村さんにあるからこそ、踏み込んだアクションを起こしたいんだな、と感じました。私も漫画好きなので一緒に取り組むうえでとても心強いですし、竹村さんからエネルギーをいただいています。

竹村さんは中島先生と一緒に取り組んでみていかがですか。

竹村氏:
すごく幸せな出会いでした。依頼したというよりは、意を同じくした人が弁護士さんの側にもいた。勝ち負けだけじゃなく、長い目で見て問題に向き合える関係です。価値観も世代も近いですしね。僕、弁護士の方にお願いする絶対条件が「LINEで連絡できること」だったんですよ。そういうスピード感じゃないと。答えを求めるだけじゃなくて、ちゃんとコミュニケーションを取りたくて。

リーガルテックを用いた証拠保全で著作権侵害との戦い方が変わった

竹書房の中では、どのような規模感で漫画村の被害額を捉えていたのでしょうか。

竹村氏:
被害額といっても機会損失や逸失利益の話をしているので、法廷で証拠提出などの場面にならなければ算出する必要はないと思っていました。ただ、サイトのPV・アクセス数が一気に減ってくのを眺めるハメになりました。最終的には作品名で検索すると漫画村が検索結果の一番上に来ていることがあったりした。

そのタイミングで竹書房としては何もできなかったと「note」で書かれていました。

竹村氏:
本当に何もできなかったですね、何があったか気づけただけで。下手したら気づけない可能性もありました。

漫画村が閉鎖となった後はどのような意思決定やアクションをされたのでしょうか。

竹村氏:
まず、「弁護士ドットコムRights」で侵害サイトにおける竹書房作品の実態調査を行い、そのデータに基づく削除請求をはじめました。

中島先生は調査結果についてどう受け止めましたか。

中島弁護士:
調査の手間が省略され、わかりやすい結果を得られたと思います。これまで一部ツールの補助を受けていたものの主要な部分は手作業で調査していたものが、テクノロジーを駆使した質の高い情報を提供いただけたと感じました。

弁護士法人東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士

弁護士法人東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士

竹村氏:
「弁護士ドットコムRights」があることで証拠保全が効率的になりましたね。僕らがやると「とりあえず、かき集める」ことになったと思います。

中島弁護士:
私が法的見知から「こういう形で証拠保全ができると望ましい」と助言した内容も反映されていて、すごく精度の高い情報が保全されています。侵害サイトの分析や侵害通知に関しては、ある程度システム化できていたのですが、保全に関してはアナログにやっていた大部分のことを一括で保全できる状態になっていて、時間もすごく短縮されています。こういうアプローチのリーガルテックもあるんだなと。

証拠保全にかけていた時間が短縮されることでどのような効果がありましたか。

中島弁護士:
時間が短縮されることによって、1つしか取れなかったアクションが複数取れるようになりましたね。リーガルテックの普及によって著作権侵害サイトともっと戦いやすくなると思います。戦う方が増えることによって、違法なサイトが運営しにくくなり、コンテンツが守られる世界になると良いですね。

竹村氏:
そういう意味で言えば、自分たちの利益のためだけに取り組んでいるわけではありません。違法なサイトに対して1社しか訴えない世の中より、100社、200社と訴える世の中のほうがいい。そういう気持ちで、「弁護士ドットコムRights」と協働しているところはあります。利用する方が増えれば価格も安くなっていくはずですし、僕たちも安く使えるはずですよね(笑)

ぜひ利用する方が増えてほしいです(笑)。事実が明らかになることで戦略や打ち手は変わってきましたか。

中島弁護士:
変わりますね。たとえば、手作業では3つしか違法サイトを発見できなかったものが10個発見できれば、攻めやすそうなところを攻めようと考えられる。戦略の幅が広がります。

竹村氏:
調査や削除の結果をもとに、売上と侵害の件数を比較して分析できるようになりました。売上が低いのに侵害が多いものは、おそらく侵害による売上低減とマーケ不足による売上の不足が同時に起こっている。侵害を減らしつつマーケティングをしていけば、侵害対策費がマーケティング費に位置付けられていくんです。

中島弁護士:
侵害サイトの検索結果を削除したり、運営者を特定したりすることは売上に直結しません。法務の視点だけで考えると費用をかけられないかもしれないですが、マーケティング費や、アクションを起こして作家さんを守る立場を表明することによる宣伝広告費として捉え、侵害対策に取り組んでいただけることは、弁護士としてもすごく助かります。

利益につながる「攻めの法務」

法務に関する考え方はどのように変化してきましたか。

竹村氏:
以前はリーガルリスクを考えるタイプの会社ではありませんでした。専門的な人材はおらず、契約を結ぶときは他の会社で経験したことのあるくらいの人が「じゃあ、俺見るよ」といった具合です。電子書籍の事業を始め、大手IT企業とも付き合うことで、法務の必要性を認識していきました。

「儲かるか、儲からないか」という判断で事業ができてしまっていて、「良いことか、悪いことか」の判断軸が以前はなかった。悪いことをしても「いくら払えばよいのか、トータルで儲かればOK」というマインドがあったと思います。でももう、そんな時代じゃないですよね。

社内で法務機能を設けるにあたり、どのような役割を期待したのでしょうか。

竹村氏:
法務を販管として捉えると、ただのコストアップになってはいけないので「法務を設置するとこんな利益が出る」という具体的な目標が肝要だと思います。

たとえば、違法サイトを検索結果から削除した場合、違法サイトにたどりつきにくくなるのはもちろんですが、同時に正規のマネタイズができているサイトの検索順位が上がり、結果それは売上増につながります。つまり法務の活動がSEOの機能も一部果たしており、法務によって売上が上がっていると言える。こういったことが僕の考える「攻めの法務」の方向性です。

株式会社竹書房 取締役 竹村 響氏

法務部門の方でも「攻めの法務」というフレーズにピンとこない方は多いです。

竹村氏:
わかりますよ。耳障りは良いけど、それっぽいだけですもん。僕は事業責任者だから基本的にはなんだって攻めだと考えています。ちょうど会社に法務がなかったのが良かったかもしれませんね。「俺が法務を作るなら、こうするぞ」と言えたし。

法務機能を活用しきれていない企業の方に向けて、社内を動かすコツがあれば教えてください。

竹村氏:
法務が必要だ、と普通に言っても社内は動かないですよ。僕たちは「編集がなるべく動かない仕組みを作っている」と言っています。僕も元々編集だったからよくわかるんですが、コンテンツ作りでボトルネックになりやすい部分をケアする役割です。

著作権侵害サイトが出てきたら作家さんからも色々なご連絡をいただきます。その対応も全部法務で責任を持つことにすれば、「編集のリソースが空く=生産部門のリソースが増えることだからこれは利益です」と説明できたりもしますよね。

これから会社の中で法務機能をどう位置づけるのか、強くしていくビジョンはありますか。

竹村氏:
先ほど言ったように侵害サイトを削除することと、正規サイトが上にくることは一体で、ある意味SEO対策をやっているわけです。法務でこの部分の対策予算を年間で1,000万円つけたんですが、SEO対策費で1,000万円、月80万円だったら格安だ。という考えもあります。

利益部門にすれば使える予算が増えていくと思っています。思っているというか…。中小企業だと利益部門じゃないと予算って考えにくいんですよね。

著作者にお金を還元する仕組みが維持されるために

著作権侵害サイトに対して、民間や国に求めることを教えてください。

中島弁護士:
著作権法改正によってダウンロードの違法化が検討されていますが、見る側を取り締まるのではなく、もっと運営者を特定しやすくしたり、サイトを閉鎖しやすくしたりする、抜本的解決に繋がる仕組み作り・制度化を国にはお願いしたいです。

アメリカの法律だと著作権侵害者の情報に対する開示の範囲はすごく広いのですが、日本の法律だと、開示の範囲がプロバイダー責任制限法で限定されています。開示の対象に携帯電話の番号など、運営者をもっと特定しやすくする情報が含まれるような法制度化を望みます。

弁護士法人東京フレックス法律事務所 中島 博之弁護士

竹村氏:
権利侵害者がマネタイズできる環境を絶っていくことが本筋だと思っています。アプローチは2つあって、検索結果からの削除とアドネットワークによるマネタイズを絶っていくことです。

中島弁護士:
マネタイズをしにくくするという点では、ロンドン市警が業界団体と違法サイトのリストを作って、広告が出稿されないように整備をしています。日本でも政府と民間団体が一体となり、ある程度強制力を持って広告を違法サイトに出稿しない仕組みが作れると良いと思います。

竹村氏:
出版社の仕事のある側面として「著作者へのお金の還元を担保すること」と定義できると思うんです。それに真っ向からたちはだかるのが、著作権侵害サイト。我々が儲けることよりも…いや我々も儲けないといけないけれど、著作者にお金を還元するためにやっているという一面はすごくあります。

そういう意味で、政府と民間、日本のカルチャーも含めて対応しないと日本の漫画は滅びてしまうでしょう。僕たちが訴訟を起こしたことによって、「こういうやり方もあるんだ」とか「大手以外でもできるんだ」と世の中に伝播していって、色々な視点で権利侵害対策に取り組む人たちが増えてほしいですね。

プロフィール
竹村 響(たけむら・ひびき)
2000年竹書房入社。編集職を経た後2007年電子書籍黎明期よりデジタル事業に携わり最終的には紙媒体も統合した総合マーケティング組織を再編して統轄。自社コミックのSEOを進めて行く中で違法サイト対策の重要性に気づきマーケティングマターとして法務の充実を図る。2018年より同社取締役。

中島 博之(なかじま・ひろゆき)
衆議院議員秘書を経て2011年弁護士登録。国会議員政策担当秘書の資格所持。サイバー犯罪に関しては警察に捜査協力も行う。ITと知的財産分野を中心に活動する他、海外法務や電力会社・医療法人の顧問を務めるなど多岐にわたって活躍する。漫画村問題の追及や漫画村出張所の摘発を行うなど、海賊版対策に積極的に取り組んでいる。2020年は代理人弁護士としてではなく、権利者本人として海賊版と戦えるよう、漫画原作を執筆中。

(写真:弘田充、取材・文:BUSINESS LAWYERS 編集部)

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する