ブロックチェーンがアニメとファンを繋ぐ 作品への愛を形にするアーカイブ活用の未来

知的財産権・エンタメ

目次

  1. 中間成果物を活用するための現状と課題(山川氏)
  2. 作品への愛を形にするブロックチェーン(中村氏)
  3. 権利者に響くポイントを複数用意し、ビジネスを形に

日本のアニメ業界が抱える問題点を法律の視点から捉えるイベント「Animation & Law!!」の第3回が、東京都渋谷区のLoftwork COOOP10で昨夏開催された。

クリエイターやベンチャー企業、アーティストを支援するボランティア法律家集団「Arts and Law」のアニメを愛するメンバーが企画したものだ。

アニメ業界再興に向けた4つの論点を示した「Animation & Law!! vol.1」、ファイナンスに着目した「Animation & Law!! vol.2」に続き、今回はアニメスタジオの収益性を取り上げた。

アニメが完成するまでのレイアウト、原画などの中間成果物を新たな収益源として活用する可能性と課題について、株式会社プロダクション・アイジーの山川 道子氏とAnique株式会社の中村 太一CEOによる議論の様子をレポートする。

中間成果物を活用するための現状と課題(山川氏)

「クエンティン・タランティーノ監督の自宅まで原画を送ってほしい」

映画『キル・ビル』のアニメパートをプロダクション・アイジーが制作した際のエピソードだ。

実際にはその後の作業で必要となり、原画の送付は行われなかったが、アニメの完成までに発生する中間成果物の権利をもとにしたビジネスがアメリカでは成立している印象を山川氏は受けたという。

国内でも中間成果物を元にした商品化を出版社などが進めることもある。権利は製作委員会をはじめとする出資者にあるものの、保管はアニメスタジオが行い、中間成果物活用の要望に応じて提供する。

ここでいう中間成果物とは企画書も含め、レイアウト、原画・デジタル作画といったモノもデータも含めた資料を指す。プロダクション・アイジーでは制作工程で発生するあらゆる資料をアーカイブの対象としているが、管理、活用においては現場に負担をかけない配慮が求められる。

中間成果物は制作会社内の複数部署から社外にまで点在していることから、回収は困難だ。

回収後も課題は多い。「あるビジネスを行うために画がほしい」と言われた時に、求めている内容をイメージし、完成画、原画、修正原画、セル画、背景画から選別できるキュレーターのような人材を育てる必要があると山川氏は指摘した。

株式会社プロダクション・アイジー 山川 道子氏

株式会社プロダクション・アイジー 山川 道子氏

また、アニメ資料の長期保管には、素材に応じた保管方法や温度・湿度の維持、取り出しまでも考慮した保管場所の確保が必要となる。

さらに処分のルールも重要だ。30分のテレビアニメに関する資料を残すだけで、山川氏の身長(151cm)と同じだけの紙の資料が発生するという。そのなかから運用すべき資料、破棄しても構わない資料を選別しなければならない。

まとめとして、下記の点が課題としてあげられた。

  • 制作会社以外にも資料が点在していること
  • 全体像を把握できる経験者の育成
  • リクエストに対して的確に対応できる人材の育成
  • 現場の負担を減らして資料回収の協力を得る方法
  • 資料有無の把握の仕方
  • 全体の5%程度の「映える」画の選定とそれ以外の廃棄

山川氏は制作進行、映像編集、広報を経て、アーカイブグループのリーダーを務めている。
「使う側、残す側両方の経験をしたことで用途に応じて残すべき資料の判断ができるようになった」と述べたうえで、このような経験を積める人は少ないので、知識を持っている人たちのネットワークが重要と語った。

プロダクション・アイジーのアーカイブグループは平成28年度メディア芸術アーカイブ支援事業の一環として、I.Gアーカイブのより詳しい方法論をまとめている。

参考:「アニメーション・アーカイブの機能と実践

作品への愛を形にするブロックチェーン(中村氏)

Anique株式会社の代表取締役 中村 太一氏からは実際にブロックチェーンを用いてビジネスとして成立させた「進撃の巨人」の事例が紹介された。

中村氏は2006年に博報堂DYメディアパートナーズに入社、10万冊以上を読むほどの漫画好きが高じて編集者、プロデューサーと話が合ったという。数年前から個人で会社経営をしているなかで、ブロックチェーン技術の可能性を感じAniqueを創業した。

Aniqueは「世界中にファンを持つ作品の特別な所有体験を、世界に1人だけに提供するサービス」だ。

ブロックチェーンを用いれば世界に1枚、世界に1人だけの主人公を手に入れるというコンセプトを形にでき、作品を永遠に楽しむ事ができるのではないかと直感したことから版元からも許諾を得て昨年5月にサービスをスタートした。

ブルーレイ、DVDのパッケージやアニメ雑誌の表紙に使われたアートワーク26枚をブロックチェーン技術を用いたデジタル所有権として抽選販売したところ、多くの反響と申し込みがあった。

出典:Anique × 進撃の巨人

出典:Anique × 進撃の巨人

中村氏はブロックチェーン技術を用いた理由として『デジタルなのに世界に1つ』を担保するための技術であり、ファンにとってブロックチェーンという言葉は大切ではない。ファンのインサイトである「作品とつながりたい」「そしてつながった証として、普通では手に入らない特典を得る」ことを実現したかった。「世界で1人しか所有できないものと感じてもらえる魔法をかける必要があった」と説明した。

用意された特典は①自分の名前が刻まれた「オーナー証明書」の発行、②世界に1枚の額装セル画の「召喚」、③デジタル所有権の継承(販売)の3つだ。ファンはフィジカルなモノを求める傾向にあるので額装セル画は特典に組み込まれた。

デジタル所有権を販売した金額の一部はクリエイターに還元される仕組みとなっており、作品は改ざんされずに寿命を延ばすことができる。

中村氏は「愛する作品にずっと生きていてほしいと考える、ファンの最も大切なインサイトをプロダクトに落とし込んだ結果このような形になった」とファン心理に寄り添う重要性を強調した。

Anique株式会社 中村 太一CEO

Anique株式会社 中村 太一CEO

権利者に響くポイントを複数用意し、ビジネスを形に

続くパネルディスカッションではArts and Lawの永井 幸輔弁護士、饗庭 東子弁護士がファシリテーターとなって進行。

Aniqueのプロジェクトを実現するにあたって製作サイドから寄せられた懸念について問われると「所有権を渡すことによって製作側の利用制限がかかる可能性や、二次使用、コピーの懸念も寄せられたが、Aniqueはあくまでデジタル所有権を販売しているのみであり、著作権の譲渡や二次使用はできない。LINEスタンプやデジタルコンテンツ配信と変わらない契約形態だとユーザーにも版元にも理解いただいている」と中村氏は説明した。

山川氏は「新しい技術に拒否反応を示す方も一定数いそうだが、ブロックチェーンという言葉を使わないところが受け入れられた要因だろう。クライアントや著作権者に安心感を持ってもらえれば、アーカイブに大量にある作画の1枚、1枚も使ってもらえることになる。大丈夫な事例を増やしていけば新しい道ができる」と期待を寄せた。

饗庭 東子弁護士

饗庭 東子弁護士

山川氏によれば海外にも日本のアニメファンは多く、アニメスタジオやクリエイターにお金が還元される仕組みは注目されている。一方で、製作会社をはじめ日本側で英語の問い合わせに対応できる人材が少なく、また海外窓口、国内窓口で権利者が異なり説得が難しいケースもあるなど、中間成果物の活用へ向けては課題も多い。

「Aniqueのように責任を持って受ける窓口が1つになると大きなチャンスがあると思う」と山川氏は持論を述べた。

このような事業を可能にするには、権利処理のわかる人材が必須だ。中村氏は「出版社の海外担当部門、宣伝部、編集部など様々な関係者と仕事をした経験が活きている。それぞれの気になる点を押さえることが権利を扱うビジネスを行ううえで重要」と語った。

中村氏は権利者に響くポイントを複数用意したうえで、安全性・安心感などを訴求し総合力で説得しているという。

永井 幸輔弁護士は「デジタル所有権という概念は民法にも著作権法にもなく、契約で定められた権利であり、創造的」と感想を述べた。

永井 幸輔弁護士

永井 幸輔弁護士

「所有権という概念は難しいが、世界に1つだけのデータだけでは意味がなく、特典がないとファンには受け入れられない。特典の価値を所有していることに意味がある」と、中村氏がファン心理に寄り添う重要性を再度強調すると、山川氏からは「ブロックチェーンの未来を拓き、ファンの愛を形にする方法を作った中村さんは尊い」とエールが送られた。

(取材・文・写真:BUSINESS LAWYERS編集部)

現在、Aniqueでは『五等分の花嫁』完結にあわせた「共同パートナー企画」を2月19日より開始している。是非チェックしてみてほしい。

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