ベトナム環境関連法令の最新動向と日本企業の投資上の注意点
国際取引・海外進出
目次
現在、ベトナムにおいて、資源・環境分野は、国民および政府から大きな注目を集めています。
この分野に関しては、ベトナムが締結済みの国際環境保護条約等を履行するため、2014年にベトナム環境保護法が公布されています。この法律には、グリーン経済成長、気候変動の影響、環境安全などを含む各分野に関する規制や配慮が含まれています。2014年環境保護法の詳細を定める政令等のなかでも、とりわけ注目すべきものを、以下のとおりご紹介します。
投資に際して環境保護計画の策定および環境評価書の作成を義務化
環境保護計画、戦略的環境評価、環境影響評価および環境保護計画について規定する政府の2015年02月14日付政令18/2015/NĐ−CP号(Decree No. 18/2015/ND−CP)
本政令は、ベトナムに投資する予定の外国投資家に対して、環境保護計画や環境評価書の作成などを要求しています。多くの投資プロジェクトにとって環境保護計画や環境評価書の作成が実施要件の1つとなりますので、投資計画やプロジェクトを立案する際には、これらの要求を十分に満たせるどうかの検証が不可欠となります。
環境保護に関する投資条件の設定と違反の場合のペナルティの設定
環境保護法の若干条項の施行の詳細を規定する政府の2015年02月14日付政令19/2015/NĐ−CP号(Decree No. 19/2015/ND−CP)
2014年環境法に関連し、環境保護について、投資家・事業者等に対する要求の詳細を定めるとともに、違反の場合の処分を定めています。投資計画の立案において、資源・環境面についてのリスクをコントロールするためには、事前のチェックが不可欠です。
排水および廃棄物についての企業の責任の明示
排水および下水管理に関する政府の2014年08月06日付政令80/2014/NĐ−CP号(Decree No. 80/2014/ND−CP)、および廃棄物および使用済み原料について規定する政府の2015年04月24日付政令38/2015/NĐ−CP号(上記の2014年08月06日付政令80/2014/NĐ−CP号の改正あり)(Decree No. 38/2015/ND−CP)
これらの政令は、工業団地、経済区域などにおける排水および廃棄物処理における企業の責任について定めているので、ベトナムで生産・製造業を行い、または行おうとする企業にとって、きわめて重要なものです。特に、ベトナムでは近年、複数の重大な環境汚染事件が起こっており、政府としても、排水や廃棄物の処理が適正に行われているかについて、厳しく監視する方向にシフトしています。
排水に関する環境保護料金の変更等
排水の環境保護料に関する政府の2016年11月16日付政令154/2016/NĐ−CP号(Decree No. 154/2016/ND−CP)
この政令は、排水の環境保護料金の管理と使用に関する内容を規定しています。旧規制からの主要な変更点として、生活と産業の排水に関する環境保護料を変更して環境保護対策費を確保するとともに、政府が領収した年間の環境保護料の金額を国民に公表する、といったことが規定されています。工場排水などが関連する事業者にとっては注意が必要です。
自然資源環境分野に関する投資条件の設定
自然資源環境の分野における投資の条件に関する政府の2016年07月01日付政令60/2016/NĐ−CP号(Decree No. 60/2016/ND−CP)
この政令は、天然資源および環境分野に直接投資しようとする外国投資家にとって非常に重要なものであり、自然資源環境の分野における投資の条件の規制が定められています。具体的には、以下のような点について、水資源、鉱物、環境保護の分野での事業投資の条件を規定しています。
- 地下水掘削の訓練免許を付与される条件
- 水資源の基礎調査、水資源の計画に関するコンサルタントを行う組織の能力に関する条件
- 水資源許可の申請書類に提案と報告を行うコンサルタント組織・個人の能力に関する条件
- 鉱物探査を実施する組織の条件
- 廃棄物処理におけるバイオ製品の取引の条件
- 有毒で感染性の物質である危険物の輸送の条件
- 有害廃棄物処理許可を付与される条件
外資に関する投資制限の原則廃止
天然資源環境の分野における事業投資の条件に関する法令の規定を修正する政府の2018年10月05日付政令136/2018/NĐ−CP号(Decree No. 136/2018/ND−CP)
この政令では、政府は、2016年7月1日付の政府政令第60号を改正し、事業投資の102/163条件を修正し、外資に対する投資制限を原則として廃止しました。その結果、天然資源環境分野での事業投資の62%についての規制が緩和されることになりました。この改正により、天然資源環境の分野への事業投資が容易になりましたので、日本企業にとっても、この分野における投資を検討するチャンスと言えるでしょう。
環境保護法に関連する行政手続の迅速化および簡易化
資源環境法を案内する諸政令を改正する政府の2019年05月13日付政令40/2019/NĐ−CP号(Decree No. 40/2019/ND−CP)
この政令により、環境保護法に関する行政手続の迅速化や簡易化が図られました。具体的には、営業に付される条件を削減し、各種検査を事前検査から事後検査へと変更しました。たとえば、以下のような変更がなされています。
- 25項目にわたる行政手続および営業条件の削減
- 環境・水資源・鉱産物・海洋および島の保護における行政手続を統合して明確化
- それらの行政手続の実施期間を15日ないし25日に短縮
- 輸入使用済み原料の検査方法を変更
これにより、環境保護法に関する手続が迅速に行えることになり、投資促進につながると考えられます。
環境保護規制違反についての罰則の厳格化
環境保護規制違反についての罰則に関する政府の2016年11月18日付政令155/2016/ND−CP号(Decree No. 155/2016/ND−CP)
環境保護規制に違反した行為について、民事責任のほか、ペナルティとしての行政罰および刑事罰が定められました。たとえば、排水規定に違反した1つの行為について、行政罰として500万円相当の罰金、活動の一時停止を科されることがあり得るなどの規定が設けられたほか、刑事責任を問われることがありうることが定められました(2017年刑法)。
その他の動向
ベトナム政府は、以上のような規制関連法令の整備と並行して、環境保護技術導入についても、積極的に取り組んでいます。
具体例として、まずあげられるのが、自然資源環境省により交付された、2019年8月30日付の自然資源環境省決定第2211号(Decision No. 2211/2019/QD−BTNMT)です。ここでは、国際基準に従って、2019年から2020年には、環境に関する国家技術基準システムの構築に関する計画を策定することが決定されました。
この計画の目的は、韓国の環境対策を参考に、国際基準に適合した国家環境技術基準システムを構築することにあります。ベトナム側は、韓国環境技術基準システムに関する資料等の収集、翻訳を行い、さらに韓国の専門家をベトナムに招へいしてシステム構築について相談したり、韓国に派遣する代表団を組織し、韓国環境技術基準システムの開発かつ実施の方法を研究したりすることが予定されています。
また、ベトナムと日本は環境分野についての研究協力を促進する予定です。2019年10月28日、天然資源環境戦略研究所は、日本環境評価協会(JEAS)と、ベトナムの環境影響評価の分野で協力覚書に署名しました。
この覚書では、双方は環境管理に関する法令、社会と環境分野における影響の分析、環境影響評価、環境評価に関する検定システムなどの環境分野で協力するといったことが合意されています。
このように、ベトナムにおいても、環境は、国民の日常生活や国家の発展と密接な関係があることが認知されてきています。現在、ベトナムの法律は、環境改善・保護を図る方向で急速な整備が進んでいます。ベトナムでも、高度経済成長期に様々な公害問題を経験した日本から、環境改善・保護技術を学ぶ重要性が指摘されています。
今後、ベトナムに投資を検討する日系企業は、こうした環境面での取り組みを要求されると考えられます。また一方で、そのような環境技術やノウハウを有する日本企業にとっては、ベトナム投資の良い機会であると言えるでしょう。

明倫国際法律事務所
- コーポレート・M&A
- 人事労務
- 知的財産権・エンタメ
- 危機管理・内部統制
- 国際取引・海外進出
- 訴訟・争訟
- 不動産
- ベンチャー