日本版IR(カジノを含む統合型リゾート)の制度概要と実務の留意点

第2回 IR事業実施に必要な区域認定プロセスとIR事業参入のポイント

不動産

目次

  1. 区域認定までのプロセス
    1. 実施方針の策定
    2. 民間事業者の公募による選定
    3. 区域整備計画の共同作成および区域認定の申請
    4. 国土交通大臣による区域認定
    5. 実施協定の締結等
  2. カジノ規制の概要
  3. 参入にあたっての留意点
    1. IR事業主体への関与形態を見据えたコンソーシアム作り
    2. カジノ規制対応に向けた準備

 前回は、日本のIR制度の枠組み、IR施設を構成する施設類型と企業の参加形態について解説しました。今回は、IR事業を行うために必要な区域認定のプロセスと、IR事業参入にあたっての留意点を説明していきます。

区域認定までのプロセス

 IR事業の事業主体となる合弁会社に出資する構成企業や当該合弁会社からの業務委託、請負その他の取引関係に基づき参画する協力企業がIR事業主体を通じてIR事業を行うためには、想定区域について、国土交通大臣からの区域認定(IR整備法9条)がなされる必要があります。

 そのためには、①まず、都道府県または政令指定都市(以下「都道府県等」といいます)がIR事業に向けた区域整備を実施する旨の方針(実施方針)を示し、この方針に沿った民間事業者を公募により選定し、②都道府県等と民間事業者が共同作成したIR区域に関する整備計画に基づき、都道府県等が国(国土交通大臣)に対し区域認定申請を行い、③その審査の下で区域認定を取得するというプロセスを経ることになります。

プロセスの略図 

プロセスの略図

 以下、各プロセスの要点を解説します。

実施方針の策定

 まず、都道府県等は、IR区域の整備の意義および目標、IR事業を実施するうえで必要となる要件や民間事業者の選定方法などIR区域の整備の実施に関する方針(以下「実施方針」といいます)を定めます(IR整備法6条)。特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針の案文(以下「基本方針案」といいます)では、都道府県等が実施方針を策定する際に民間事業者に対して情報提供の募集(Request for Information)やコンセプトの募集(Request for Concept)等の市場調査を実施し、その結果を踏まえて実施方針の策定を行うことが可能とされています(基本方針案15頁)。
 なお、都道府県等が実施協定(下記1-5に記載するものをいいます。以下同じ)の案をすでに作成している場合は、当該案を実施方針に添付することが望ましいとされている点にも注意が必要です(基本方針案14頁)。

民間事業者の公募による選定

 都道府県等は、実施方針に即して、区域整備計画を共同して作成する民間事業者の公募による選定を行います(IR整備法8条)。選定基準および選定手続において、公平性および透明性が重要されており、選定に先立つRFI、RFC等の市場調査に応じた特定の民間事業者を優遇するような方式は不適切とされます(基本方針案16~17頁)。また、公平かつ公正な審査を行うために、有識者等により構成される第三者委員会を設置するなど、適切な選定体制の構築が求められます(基本方針案18頁)。

 また、選定された民間事業者は区域認定後にカジノ事業免許の申請を行うことになるため、民間事業者の役員、株主または社員にIR事業者がカジノ事業の免許を取得するうえでの欠格事由が存在しないこと(暴力団員等に該当しない者であることなど)を選定基準の1つとすることや、上記欠格事由が存在しないことについて民間事業者による表明・確約書を提出させることなどが求められています(基本方針案17頁)。

 さらに、都道府県等の判断により、実施協定の内容等を調整するために、都道府県等と応募者が直接対話を行う競争的対話方式を活用することや、競争的対話に参加する応募者を絞り込むために段階的な選定プロセスを設けることも可能としています(基本方針案18頁)。

区域整備計画の共同作成および区域認定の申請

 事業者選定の後、都道府県等は、選定された民間事業者と共同して区域整備計画を作成し、国土交通大臣による認定を申請します(IR整備法9条1項)。区域認定の申請期間は、今後、基本方針の確定後の政令で定められます(IR整備法9条10項)。

 区域整備計画には、区域整備計画の意義および目標、民間事業者の案に基づいて作成された事業基本計画、IR区域の整備の推進に関する施策および措置、国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するための施策及び措置、カジノ事業に伴う有害な影響の排除に必要な施策及び措置、経済的社会的効果の見込み、認定都道府県等入場料納入金(IR整備法179条1項)および認定都道府県等納入金(IR整備法193条1項)の使途などを記載する必要があります(IR整備法9条2項各号参照)。

 区域整備計画の作成には、協議会での協議または立地市町村等および公安委員会との協議を行い、公聴会の開催など住民の意見を反映させるために必要な措置を採ることが必要です(IR整備法9条5項、同条7項)。また、区域整備計画の内容のうち、公安委員会または立地市区町村が実施する施策および措置に関する事項については、予め公安委員会または立地市区町村の同意を得る必要があります(IR整備法9条6項)。さらに、区域認定の申請には、都道府県等の議会の議決(申請者が都道府県の場合は、加えて立地市町村の同意)が必要とされる点に注意が必要です(IR整備法9条8項および9項)。

国土交通大臣による区域認定

 国土交通大臣は、基本方針への適合性やIR事業の一体性など、IR整備法9条11項各号に定める基準に適合すると認める場合には、区域整備計画を認定することができます(IR整備法9条11項)。

 国土交通大臣は、有識者により構成される審査委員会を設置し、また、認定審査の基準を明確化する観点から、①認定を受けるために適合していなければならない基準(以下「要求水準」といいます)と、②申請のあった区域整備計画が優れたものであるかを公平かつ公正に審査するための基準(以下「評価基準」といいます)を定めます(基本方針案27頁)。要求水準に適合しない区域整備計画には認定が行われません。また、要求水準に適合する区域整備計画については、評価基準に従った審査委員会による審査結果に基づき、IR区域の最大数(3つ)の範囲で(IR整備法9条11項7号)、優れた区域整備計画を認定することになります(基本方針案27頁~28頁)。

 要求水準は、基本方針への適合性、区域の適切性および事業基本計画の内容など、IR整備法9条11項1号から6号に定める基準とされています。一方、評価基準は、①国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現への寄与、②経済的社会的効果、③IR事業を安定的・継続的に運営できる能力および体制、④カジノ事業の収益の活用、⑤カジノ施設の設置および運営に伴う有害な影響の排除の5項目から構成され、審査委員会が評価を行うための各項目の配点については、国土交通大臣が別途定めることとされています(基本方針案30頁)。

 区域認定の有効期間は当初10年であり(IR整備法10条1項)、更新後は5年間とされています(IR整備法10条6項)。なお、区域認定の更新を申請する際にも都道府県等の議会の議決(申請者が都道府県の場合は、加えて立地市町村の同意)が必要とされるので注意が必要です(IR整備法10条4項、9条8項および9項)。

実施協定の締結等

 区域認定を受けた都道府県等と民間事業者は、当該認定後すみやかに、IR事業の実施体制および実施方法や事業継続が困難になった場合の措置等に関する事項などを定めた実施協定を締結し(IR整備法13条1項)、一定の協働関係のもとで区域整備計画に従って事業を進めていきます。また、実施協定の締結および変更には、国土交通大臣の認可が必要とされています(IR整備法13条2項)。
 一方、区域整備計画及び実施協定の確実な履行のため、都道府県等は、業務・経理状況に関する報告徴求、実地調査または必要措置の指示を通して民間事業者を監督する立場にも立ちます(IR整備法14条)。

カジノ規制の概要

 区域認定が得られた場合、当該IR区域においてカジノ事業を行うため、IR整備法上の各種のカジノ規制に対応する必要があります。
 カジノ事業とは、カジノ行為業務(IR整備法2条8項1号)、特定金融業務(IR整備法2条8項2号)およびこれらの付随業務を行う事業であり、これを行うにはカジノ管理委員会の免許が必要とされ(IR整備法39条前段)、この免許取得によりカジノ行為の違法性が阻却されます(IR整備法39条後段)。IR事業者自身のみならず、その主要株主等(議決権保有割合または株式保有割合が100分の5以上となる者)もカジノ管理委員会の認可を得る必要があります(IR整備法58条、136条)。

 そして、カジノ事業から反社会的勢力を徹底的に排除し、廉潔性を確保するために、カジノ事業の免許審査においては、当該免許を申請したIR事業者およびその役員、当該IR事業者の事業活動に支配的な影響力を有する株主、貸付人および取引先等、当該IR事業者の主要株主およびその役員ならびに当該申請に係るIR区域の設置土地権利者が「十分な社会的信用を有する者であること」が審査の対象となっており(IR整備法41条1項1号から5号まで)、カジノ管理委員会が経歴や財務状況等に関する徹底した背面調査(バックグラウンドチェック)を実施することが想定されます。

 また、カジノ事業者は、カジノ業務に係る契約、カジノ事業者が行う業務に係る業務委託契約、資金調達に関する契約または施設の賃貸借契約等を締結しようとする場合は、カジノ管理委員会の認可を受ける必要があります(IR整備法95条)。カジノ管理委員会は、当該認可の申請があったとき、当該申請に係る契約の相手方およびその役員等が十分な社会的信用を有する者であること等を審査します(IR整備法97条)。

 その他、カジノ事業者等に対するカジノ規制は多岐に及びますが、その詳細は、今後設置されるカジノ管理委員会が定めるカジノ管理委員会規則等で定められることになります。IR事業に参加する企業にとっては、特に、上記背面調査(バックグラウンドチェック)がどのような方式、内容および程度で行われるかが最大の関心事であり、上記規則等の公表が待たれます。

参入にあたっての留意点

 このような日本版IRの制度内容を踏まえ、IR事業参入にあたっての当面の留意点は、以下のとおりです。

IR事業主体への関与形態を見据えたコンソーシアム作り

 既存企業は、基本的に、出資を伴う「構成企業」または取引関係をベースとする「協力企業」の形で参入することが想定され、かかる構成企業および協力企業からなるコンソーシアムを組成し、実施方針を公表する都道府県等の事業者選定に応募することが当面の動きとなります。そのためには、まず、IR施設、IR事業およびIR整備法上の規制内容に照らし、自社の強みを活かせる役割分担を見出し、その役割を十分発揮できる区域(都道府県等)および相手方を選ぶ必要があります。
 そのうえで、新設するIR事業主体の会社種別、議決権割合、ガバナンス体制、IR事業上の具体的役割分担、資金負担等を協議し、その結果を入札前協定(設立後は株主間協定)で合意することも必要と考えられます。

カジノ規制対応に向けた準備

 上記のとおり、カジノ事業者のみならず、その主要株主等やカジノ事業者が行う業務に係る契約等の相手方にも、カジノ管理委員会の認可が必要であり、その企業および役員等にも背面調査(バックグラウンドチェック)が必要となるため、構成企業または協力企業として参入を予定している企業自身も、カジノ規制への準備を迫られることになります。

 この点、実際の背面調査等は区域認定取得後となるものの、その段階で廉潔性に疑義が呈されてIR事業が中途で頓挫することを避けるには、事業者選定手続の前段階から、一定の準備をしておく必要があります。具体的には、反社会的勢力排除や汚職等の腐敗行為防止に係る社内体制や社内ルールについて再点検を実施するとともに、可能な範囲で役員等の欠格事由をチェックしておくことが挙げられます。また、今後明らかになるカジノ規制の背面調査等に関するルールを適時に把握し、迅速な対応を検討することも必要となるでしょう。

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