会社法改正法案における「株式交付」制度の概要と株式交換・産競法株式対価M&Aとの比較

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに ~株式対価M&Aをめぐる法整備の経緯
    1. 従来の株式交換、現物出資の問題点
    2. 改正産業競争力強化法の施行
  2. 株式交付制度の概要
    1. 株式交付の定義
    2. 株式交付親会社における手続
    3. 株式交付子会社における手続
  3. 従来の制度との比較
    1. 株式交換との比較
    2. 産競法株式対価M&Aとの比較
  4. 今後の展望

はじめに ~株式対価M&Aをめぐる法整備の経緯

従来の株式交換、現物出資の問題点

 本年(令和元年)10月18日に会社法改正法案が国会に提出され、本年内には成立する見通しです。今回の会社法改正には株式交付制度の導入が含まれています。これは、株式を対価とするM&A(以下「株式対価M&A」とします)として欧米などで積極的に活用されている手法を、会社法上の組織再編行為として制度化するものです。

 わが国における株式対価M&Aについては、会社法において、株式交換(株式交換完全子会社がその発行済み株式の全部を他の会社に取得させること)を用いる方法および現物出資(買収会社が、対象会社の株式を現物出資財産として対象会社の株主に対して株式を発行すること)を用いる方法が認められています。

 しかし、株式交換は、対象会社が外国会社である場合や、対象会社を完全子会社とすることまでを企図していない場合には、利用できません。また、現物出資については、下記のような問題がありました。

  1. 原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要であり、その時間・費用が発生する(会社法207条)
  2. 引受人である対象会社の株主・発行会社である買収会社の取締役等が財産価額塡補責任を負う可能性がある(会社法212条、213条)
  3. 買収会社による株式の発行等にあたり、対象会社株式の価格にプレミアムを上乗せした比率を設定する場合、当該株式発行等は、有利発行となり得るため、買収会社が公開会社であっても募集事項の決定に株主総会の特別決議が必要となるおそれがある(会社法199条2項、3項、201条1項、309条2項5号)

改正産業競争力強化法の施行

 そこで、平成30年7月に改正法が施行された産業競争力強化法(以下「産競法」とします)により、下記の事項が可能となりました。

  1. 会社法の特例として、公開買付けによらない場合や、すでに関係事業者(子会社等)である会社の株式を対象とする場合に、会社法上の現物出資規制、有利発行規制等を回避できることになった
  2. 税法の特例として、特別事業再編計画に関する規律が創設され、特別事業再編計画の認定を受けた事業者による自社株式を対価とした株式取得に応じた株主について、株式の譲渡損益への課税繰延べが認められるようになった

 もっとも、産競法における会社法の特例および税法の特例を受けるには、それぞれ事業再編計画・特別事業再編計画に係る主務大臣の認定を受ける必要があり、他のM&Aの手法と比較して、余分な手間やコストが生じることは否めません。特に、特別事業再編計画については、認定要件のハードルが高いという問題がありました。

 以上については、「株式対価M&Aの利用は広がるか、産業競争力強化法の改正と法整備の動向」をご参照ください。

 本稿では、会社法改正によって導入される株式交付制度の概要を示すとともに、株式交換や産競法に基づく株式対価M&A(以下「産競法株式対価M&A」とします)といった従来の株式対価M&Aの手法における課題が克服されるのかについて検討します。

株式交付制度の概要

株式交付の定義

 会社法改正法案(以下「改正案」とします)では、株式交付は組織再編の1つと位置付けられ、会社法第5編第4章の2の一章を新設して、株式交付に関する規定が設けられています。
 会社法における株式交付の定義は、「株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第774条の3第2項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付すること」とされます(改正案2条32号の2)。
 ここでは、「株式会社が他の株式会社を」「子会社とするために」とある点が重要です。

 まず、株式交付の当事者は、いずれも「株式会社」、すなわち日本で設立された株式会社に限定されます。この点、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」においては、株式交付の対象として「他の株式会社(これと同種の外国会社を含む。)」としており、株式交付によって外国会社の買収が認められる可能性がありました。しかし、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」では、外国会社についての文言が削除され、改正案でも維持されています。そのため、株式交付は国内の株式会社同士の行為に限定されることになりました。その理由は、株式会社と「同種の外国会社」であるかどうかの判断が必ずしも容易ではないため、と説明されています(会社法制(企業統治等関係)部会資料27第3部第2の1補足説明参照)。

 次に、株式交付は他の株式会社を「子会社とするために」行う必要があります。この「子会社」とは、法務省令で定めるもの、すなわち、会社法2条3号に規定する会社が他の会社等の財務および事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等に限られます(会社法施行規則3条1項参照)。
 したがって、すでに子会社となっている他の株式会社の株式を追加で取得する場合は、株式交付を用いることは許されません

株式交付親会社における手続

(1)株式交付計画の作成・承認

 株式交付を行う場合、株式交付をする株式会社(「株式交付親会社」、改正案774条の3第1項1号)は株式交付計画を作成しなければなりません(改正案774条の2)。

 株式交付計画においては、下記をはじめとする一定の事項を定めることになります(改正案774条の3第1項各号)。

  1. 株式交付子会社」(株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式を発行する株式会社)の商号・住所
  2. 株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限
  3. 株式交付の対価として交付する株式交付親会社の株式や金銭等の内容およびその割当てに関する事項
  4. 譲渡の申込期日
  5. 株式交付の効力発生日 等

 株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限は、株式交付子会社が効力発生日において株式交付親会社の子会社となる数(原則として株式交付子会社における議決権の50%超)にする必要があります(改正案774条の3第2項)。

 株式交付計画は、原則として、効力発生日の前日までに、株式交付親会社の株主総会において特別決議による承認を得る必要があります(改正案816条の3第1項、会社法309条2項12号)。

 なお、その他の組織再編と同様に、下記の規律が設けられます。

  1. 株式交付によって株式交付親会社に差損が生じる場合には、株式交付親会社の株主総会で、取締役はその旨を説明しなければならない(改正案816条の3第2項)
  2. 株式交付親会社が交付する対価の額が、株式交付親会社の純資産額の20%以下(定款で引き下げ可能)の場合には、原則として株式交付親会社の株主総会の承認は不要となる(簡易株式交付、改正案816条の4第1項本文)

(2)譲渡の申込み

 株式交付親会社は、譲渡の申込みをしようとする株式交付子会社の株主に対し、株式交付計画の内容等を通知します(改正案774条の4第1項)。譲渡の申込みをする者は、株式交付計画に定める譲渡の申込期日までに、譲渡しようとする株式の数等を記載した書面を株式交付親会社に交付します(改正案774条の4第2項)。

(3)申込者への割当て・通知

 株式交付親会社は、申込者の中から株式を譲り受ける者およびその者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定め、効力発生日の前日までに、申込者から譲り受ける株式の数を申込者に通知します(改正案774条の5第1項、第2項)。

 もっとも、譲渡の申込期日において、譲渡の申込みがあった株式交付子会社株式の総数が、株式交付計画で定める下限の数に満たない場合は、株式交付親会社は、申込者への割当て・通知を行わず、遅滞なく、株式交付をしないことを申込者に通知する必要があります(改正案774条の10)。

(4)株式交付の効力の発生

 上述(3)の通知により、申込者は譲渡人となります(改正案774条の7第1項1号)。
 譲渡人は、効力発生日に、通知を受けた数の株式を株式交付親会社に給付し、これによって株式交付親会社の株主となります(改正案774条の7第2項、改正案774条の11第2項)。
 もっとも、効力発生日において、株式交付親会社が譲り受けた株式交付子会社株式の総数が、株式交付計画に定める下限の数に満たない場合や、後述(7)の債権者異議手続が終了していない場合、その他一定の場合は、株式交付の効力は発生しないものとされます(改正案774条の11第5項)。この場合、株式交付親会社は、給付を受けた株式交付子会社株式を譲渡人に返還しなければなりません(改正案774条の11第6項)。

 なお、株式交付親会社は、株式交付計画において定めた当初の効力発生日から3か月以内の日であれば、効力発生日を変更することができます(改正案816条の9第1項、第2項)。これは、株式交付を利用した公開買付けが行われる場合に、公開買付期間が20営業日から60営業日とされており、場合によっては公開買付期間が当初の期間とあわせて60営業日を超える可能性がある一方、譲渡人の利益を不当に害さないように、効力発生日の変更を一定程度制限する必要があるためとされています。

(5)事前・事後の備置

 他の組織再編と同様に、株式交付親会社は、①事前開示として、効力発生日前の一定の日(改正案では「株式交付計画備置開始日」とされます)から効力発生日後6か月を経過する日までの間、株式交付計画の内容その他一定の事項を記載した書面(またはこれらを記録した電磁的記録)を本店に備え置き(改正案816条の2第1項)、②事後開示として、効力発生日後遅滞なく、株式交付によって譲り受けた株式の数等を記載した書面(またはこれらを記録した電磁的記録)を、効力発生日から6か月間本店に備え置く必要があります(改正案816条の10第1項、第2項)。

(6)株主の救済

 株式交付親会社の株主の救済手段として、差止請求権と株式買取請求権が認められています。
 株式交付が法令定款に違反し、株式交付親会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、簡易株式交付でない限り、かかる株主は株式交付親会社に対して株式交付をやめるよう請求することができます(改正案816条の5)。また、株式交付親会社の反対株主は、株式交付親会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(改正案816条の6)。

(7)債権者異議手続

 株式交付の対価が、株式交付親会社の株式以外の金銭等を含む場合、株式交付親会社の債権者は、株式交付親会社に対し、株式交付について異議を述べることができます(改正案816条の8第1項)。その場合、株式交付親会社は、公告や知れている債権者への催告等、他の組織再編で求められるような債権者異議手続を行うことになります(同条2項ないし5項)。

株式交付子会社における手続

 以上のように、株式交付については株式交付親会社に関する規律が設けられていますが、譲渡人以外の株式交付子会社の株主に対する情報提供のための規律や、株式交付子会社において株主総会決議を要するといった規律は設けられていません。これは、株式交付は、実質的には株式交付子会社の株式が相対で有償譲渡されることと同じであって、その条件は譲渡人・譲受人の間で合意されるのが原則であるため、譲渡人以外の株主の保護を図る要請が大きくないことが理由とされています。

従来の制度との比較

 以上が改正案における株式交付の概要ですが、以下では株式交換や産競法株式対価M&Aといった従来の株式対価M&Aの手法における課題が克服されているのかについて検討します。

株式交換との比較

 まずは、株式交換との比較を検討します。株式交換の場合、子会社となる会社の株式全部の取得のみを前提としますが、株式交付の場合は、子会社となる会社の株式の一部のみの取得が許容されます。そのため、株式交付は、完全親子会社関係の創設以外の部分的な買収にも使用することができます。もっとも、株式交付が国内の株式会社同士の行為に限定されることとなったため、株式交換が国内の株式会社同士に限定されることによるデメリットは依然として解消されません
 なお、株式交換では、子会社側の株主総会特別決議(略式の場合は不要)が必要であり、子会社株主の株式買取請求権が認められていますが、株式交付では子会社株主に株式買取請求権が認められません。

産競法株式対価M&Aとの比較

 次に、産競法株式対価M&Aと比較してみます。
 産競法では、現物出資規制や有利発行規制の適用除外を受けるために「事業再編計画」の認定が要求されます。その要件には、生産性の向上・財務の健全性・一定の事業計画の達成見込み等が含まれますが、株式交付ではこうした認定要件を具備しなくても、現物出資規制や有利発行規制を受けずに株式対価M&Aを行うことができる点で、活用場面が著しく拡大すると考えられます。
 他方、産競法で認められるメリットのうち、株式交付では利用できないものがある点に留意が必要です。
 まず、産競法株式対価M&Aは、すでに子会社である売主株式の買増しにも利用できますが、株式交付では株式交付子会社を新たに子会社とする場合にしか利用することができません。また、産競法では、一定の場合に外国会社を買収するいわゆるアウトバウンドM&Aに利用することができますが、株式交付では、当事会社が日本の株式会社に限定されるため、クロスボーダーM&Aで利用することができません
 なお、産競法では、買収会社において債権者保護手続は求められませんが、株式交付では、対価に金銭等が含まれる場合には株式交付親会社において債権者異議手続が必要になる、といった違いもあります。

今後の展望

 今回の会社法改正で株式交付制度が導入されることにより、従来、わが国における株式対価M&Aを妨げてきたとされる現物出資規制や有利発行規制を伴わずに、株式対価によって部分的な会社買収が可能になることは、わが国の会社法制にとって画期的な改正と評価すべきでしょう。とりわけ、産競法で求められる認定要件のハードルなしに、現物出資規制等が適用されることなく株式対価M&Aを行うことができる点は、産競法からの大きな前進であると考えられます。
 産競法株式対価M&Aとは異なり、株式交付の活用範囲が国内M&Aや新たな子会社化のケースに限定されてしまう点は残念ではありますが、少なくとも国内M&Aにおいては、株式対価M&Aが広く利用される可能性があると期待されます。
 なお、株式交付に関する税法上の取扱いはいまだ不透明であり、株式交付の実務上の使い勝手は、株式の譲渡益への課税繰延べが広く認められるかにかかっているともいえますので、今後の税制改正には注視を要します。

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