経営の中核を担いグローバルに活躍する法務へ CLO人材充実への期待と課題 レポート:第1回CLOフォーラム・ジャパン2019

法務部

目次

  1. 質と量の両面から将来のCLOを育成
  2. 事業と一体化した法務へ
  3. 法務機能実装への2つの選択肢
  4. グローバル全体最適時代のCLOの役割
  5. グローバル統合企業におけるCLOの位置づけ
  6. パネルディスカッション:日本企業のCLOの現状と今後の課題

 世界では、グローバリゼーションやAIをはじめとするテクノロジー革新が加速度的に進行する一方、国内に目を転じれば、会計不正や品質・データ偽装など、ガバナンス不全に起因する企業不祥事が相次いでいる。

 国内市場の縮小が叫ばれるなか、国際競争力の強化は日本企業の喫緊の課題だ。国により異なるリーガルリスクに対応しながら積極的に事業を推し進めていくために今、最高経営責任者(CEO)へ積極的な意見・提言を行い、リーガル面から経営判断をサポートする最高法務責任者(CLO)およびゼネラル・カウンセル(GC)の役割に注目が集まっている。

質と量の両面から将来のCLOを育成

 海外の先進企業ではすでに一般的なCLOやGC。しかし、これらのポジションを設置する日本企業は一部にとどまるのが現状だ。質と量の両面から将来のCLOを育成していく場を提供したいという理念のもと、「一般社団法人日本CLO協会」の設立に向けて日本CLO設立準備委員会が発足。10月2日に「第1回CLOフォーラム・ジャパン2019国際競争力強化に向けたリスクテイクとCLO機能の拡充」と題されたイベントが東京・大手町で開催され、企業の担当者や法曹関係者らが参加した。

 イベント冒頭で挨拶に立った早稲田大学名誉教授、TMI総合法律事務所顧問の堀龍兒氏は、相次ぐ企業不祥事を引き合いに、「ガバナンスの意識が不十分な経営陣がまだまだ多い」と日本企業の現状と問題点を指摘。そのうえで、「経営のわかる法務を育てなければならない」と、一般社団法人日本CLO協会設立に向けた背景を紹介した。

事業と一体化した法務へ

 北島敬之氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 代表取締役 ジェネラルカウンセル)は、契約書等のチェックとトラブル対応や予防措置構築を中心とする従来型の法務から脱却し、よりビジネスを守り成長のための解決の一部となる存在へ、新しいテクノロジーも活用していくことの必要性を訴えた。
 法務には、ビジネスのパートナーとしての機能や法的リスクから企業価値を守るガーディアンとしての機能にとどまらず、事業と一体化した存在となることが求められていると北島氏は言う。その実現のための鍵になるのが、法律の専門家としてだけでなく、会社の変化をリードし、企業の信用を社内外へ拡大する機能を備えるCLO、GCの存在だ。
 日本CLO協会設立への動きについて北島氏は、「法務担当者が慣れ親しんだ環境から少しずつ飛び出し、能力とネットワークを広げていくためのきっかけになる。インハウス・ロイヤーが、世の中を変えていく絶好の機会だ」と力強く語った。

写真左から淵邊善彦氏(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)、北島敬之氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 代表取締役)

写真左から淵邊善彦氏(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)、北島敬之氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 代表取締役 ジェネラルカウンセル)

法務機能実装への2つの選択肢

 「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(2018年4月公表)を取りまとめた経済産業省からは、桝口豊氏(経済産業省 経済産業政策局 競争環境整備室長)が登壇した。法務機能強化に向けた課題として桝口氏は、①経営層・事業部門が法務部門を単なるコスト部門の1つと認識している傾向があること、②組織上、経営と法務がリンクしていないこと、③新たな法務機能を担うスキルを持ったプロフェッショナル人材が不足していることの3点をあげた。

 法務機能の実装方法には「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2つの選択肢がある。トップダウン型は、外部から招へいしたプロフェッショナル人材をCLO またはGCに就かせるため大規模な改革が可能だが、経営トップの強いコミットメントが必要だ。一方のボトムアップ型は、法務部門の発意によって行うことが可能だが、関係者にその必要性を認識してもらえるか、関係者の信頼を得られるかがポイントとなる。「2つのタイプはどちらか一方が優れているというわけではなく、企業の置かれた状況によって企業自らが判断・選択するものだ」と桝口氏は述べた。

 なお、今年11月には、経済産業省から新しい報告書が公表される予定であるという。

グローバル全体最適時代のCLOの役割

 アップルジャパンやIBMなどの外資系企業において法務責任者やGCを歴任し、経済産業省の「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」の座長を務めた名取勝也氏(名取法律事務所 代表弁護士)からは、グローバル全体最適を追求するグローバル統合企業におけるCLO/GCの役割が紹介された。

 欧米型のグローバル統合企業では、法務は社外の専門家との網羅的かつ密なネットワークを構築し、専門的情報を提供してもらうというスタンスを取るという。しかし、判断はあくまでもCLO/GCなどの社内の人材が担い、CEOへのアドバイスが行われる。一方、日本企業では、意思決定そのものを社外の専門家に委ねてしまうケースが散見され、「そこが日本と欧米の大きな違いの1つ」と名取氏は強調した。

グローバル統合企業におけるCLOの位置づけ

 児玉康平氏(株式会社日立製作所 執行役常務 ゼネラルカウンセル、リスクマネジメント担当)は、これまでの日本におけるCLO/GCに関する多くの議論について、「GCのジョブディスクリプション(職務記述書)にコンプライアンス機能を含有している感がある」と見ている。

 児玉氏によると、グローバル統合企業では、GCのほかに最高コンプライアンス責任者(CCO)を設置する例が多く見られるという。それは権能の違いに基づくものであり、CLOについては「統一的定義がない」としながら、「GC、CCOの上位にCLOを位置づけるという区別を行うことが、特にグローバル統合企業が海外と対等に議論していくために必要」と語った。

パネルディスカッション:日本企業のCLOの現状と今後の課題

 「日本企業のCLOの現状と今後の課題」と題されたパネルディスカッションには、北島氏、草原敦夫氏(READYFOR株式会社 執行役員CLO)、榊原美紀氏(ユニバーサル・ミュージック合同会社 リーガル・アンド・ビジネス/アフェアーズ本部副本部長)、中村豊氏(アシュリオンジャパン・ホールディングス合同会社 CLO ジャパンリージョン バイス・プレジデント)が参加。淵邊善彦弁護士(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)がモデレーターを務めた。

写真左から草原敦夫氏(READYFOR株式会社 執行役員CLO)、榊原美紀氏(ユニバーサル・ミュージック合同会社 リーガル・アンド・ビジネス/アフェアーズ本部副本部長)、中村豊氏(アシュリオンジャパン・ホールディングス合同会社 CLO ジャパンリージョン バイス・プレジデント)

写真左から草原敦夫氏(READYFOR株式会社 執行役員CLO)、榊原美紀氏(ユニバーサル・ミュージック合同会社 リーガル・アンド・ビジネス/アフェアーズ本部副本部長)、中村豊氏(アシュリオンジャパン・ホールディングス合同会社 CLO ジャパンリージョン バイス・プレジデント)

 パネルディスカッションの冒頭、淵邊氏が「CLO/GCの役割と、社長やCEOとのコミュニケーションについて問いかけると、「GCは、法務とコンプライアンスの責任者であり、グローバルの方針を日本に着実に実行するためのコンタクトポイントとして機能している」と、北島氏は自社の例を紹介。経営トップとのコミュニケーションについては、「ユニリーバには権利や義務に関わる問題はすべてリーガルに相談するというポリシーがあり、CEOや他のリーダーシップメンバーからのGCへの相談は、ほぼ毎日、多い日は10回ほどある」という。GC自体も、リーダーシップメンバーの一員であり、まさに経営の一部として存在している。

 アシュリオンジャパン・ホールディングスの中村氏は、「CLOの役割は会社によって異なる」と前置きしながら、3人のCxO(部門責任者)のなかでキーとなる意思決定が行われる際、「法的なアドバイスを超えてCEOとともに意思決定をしていくことがCLOに求められている」と語った。

 パナソニックでの勤務経験を有する榊原氏は、同社が2018年にGCのポジションを設置し、そこに米国人弁護士が迎えられた際のエピソードを紹介。米国型のガバナンスを実践する米国人GCの就任により、以前は決して人気が高いとは言えなかったコンプライアンス部門が一躍、「花形のポジションになった」ことが印象的だったと振り返った。

 また、国内初・最大級のクラウドファンディング事業を運営するREADYFORでCLOを務める草原氏は、スタートアップ企業のコンプライアンス意識の高さを強調。特に規制領域で事業を展開しているスタートアップ企業の多くは、インシデントの発生によって自分たちの事業、市場の将来が失われてしまうという共通の怖さを抱えており、リーガルやコンプライアンスに対する関心は強いという。

 パネルディスカッションではそのほか、法務機能の強化に向けた課題、CLO育成の道筋、リーガルテックの活用等について活発な議論が交わされた。

 最後に淵邊氏は、「これまでのリーガルは後ろ向きの仕事が多いと考えられてきたが、今、ようやく前向きの攻めの法務が強調される流れが来ている。法務組織が経営の近くでサポートや情報提供を行っていくことが重要だ。そのような法務組織のトップとして、CLOが役員のなかに入り込み、ダイレクトにアドバイスしていく。そのような法務の在り方を日本CLO協会の活動を通じて実現していきたい」と結んだ。

 法務部門の地位向上の必要性が叫ばれて久しく、目まぐるしく変化するビジネス環境のなかにあって従来型の法務組織からの脱却が不可欠であることは論を俟たない。新しい法務部門のあり方を模索する企業にとって、CLOやGCのポストは「最適解」となり得るのか。日本CLO協会の設立に向けた動きを今後も注視していきたい。

(取材・文:BUSINESS LAWYERS 編集部、写真提供:日本CLO協会設立準備委員会)

BUSINESS LAWYERS COMPLIANCEのご案内

BUSINESS LAWYERS COMPLIANCEは、わかりやすく面白いドラマ形式のオンライン研修動画でコンプライアンス研修の実効性向上をサポートするサービスです。パワハラやセクハラ、下請法違反など、企業が陥りがちな違反ケースをそろえた動画コンテンツは、すべて弁護士が監修。従業員の受講状況や確認テスト結果などの一元管理も可能です。

詳しくはこちら

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する