2018年度はインサイダー取引に関する課徴金納付命令勧告件数が増加、勧告事案の特徴とは? 事業譲渡・会社分割が取引の重要事実として初適用された事案も
ファイナンス
目次
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.165」の「特集」の内容を元に編集したものです。
証券取引等監視委員会は、8月30日に2018年度の「証券取引等監視委員会の活動状況」(以下、活動状況といいます)を公表しました。活動状況では、インサイダー取引のほか、相場操縦、風説の流布・偽計等の不公正取引の調査状況を開示しています。
本記事では、活動状況に基づきインサイダー取引の勧告状況と勧告事案の特徴をご紹介します。なお、一部の内容は活動状況をもとに、三菱UFJ信託銀行が作成しています。
- 2018年度のインサイダー取引に関する課徴金納付命令勧告件数は23件(前年度比2件増)。
- インサイダー取引を行った課徴金納付命令対象者の属性は、会社関係者である上場会社の社員が9名(47%)と最多。次いで、会社関係者等から重要事実等の伝達を受けた第一次情報受領者(友人・同僚)が3名(16%)、取引先が2名(11%)。
- 上場会社の役員自身によるインサイダー取引がみられなかった一方、役員の情報伝達によるインサイダー取引が4件みられた。
- 事業の譲渡及び会社の分割を、インサイダー取引の重要事実として初めて適用する事案がみられた。
- 2014年4月の情報伝達・取引推奨規制導入後、取引推奨規制違反のみによる課徴金勧告は、2018年度が初。
インサイダー取引事案の全体的な状況
課徴金納付命令勧告件数の推移
2018年度におけるインサイダー取引に関する課徴金納付命令勧告件数は23件でした。2017年度は2016年度と比べ、大幅に勧告件数が減少しましたが、2018年度は前年度と比べて増加に転じました。
違反行為者の属性
- 属性は会社関係者と情報受領者の2つに分けられ、さらに会社関係者は役員、社員、契約締結・交渉者に、情報受領者は取引先、親族、友人・同僚、その他に分けられています。
- 2018年度の特徴として、上場会社の役員自身によるインサイダー取引がみられなかった点が指摘されています。一方で、役員の情報伝達によるインサイダー取引が4件みられました。
重要事実等の分類
2018年度の勧告件数23件における重要事実等26件(複数の重要事実等を知った違反行為者がいるため、勧告件数と重要事実等数は一致しません)を分類すると、事業の譲渡が6件、公開買付け等事実が5件、業績修正が5件、民事再生が3件でした。2018年度においてインサイダー取引の重要事実として事業の譲渡及び会社の分割が初めて適用されました。
事案の内容
発行会社の役員から情報を受領した者が重要事実の公表前に当該会社の株式を買い付けた事案
違反行為の概要
BはA社の役員から当該役員がその職務に関し知った、A社の個別当期純利益に直近の予想値に比較してA社が新たに算出した予想値に投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じた旨の重要事実の伝達を受けながら、A社が新たに算出した予想値が公表される前にA社株式を約646万円買付けました。
課徴金納付命令対象者
B(A社の役員から情報を受領した者)
課徴金額
252万円
取引推奨
違反行為の概要
- C社の社員がその職務に関し、E社の業務執行を決定する機関がC社株式の公開買付けを行うことについて決定した旨の公開買付けの実施に関する事実を知りながら、事実公表前に被推奨者に対しC社株式を買付けさせることにより利益を得させる目的をもってC社株式の買付けを勧めました。
- 被推奨者は事実公表前に自己の計算において、C社株式を約743万円買付けました。
課徴金納付命令対象者
C社社員
課徴金額
194万円
事業譲渡を行う決定をした旨等の重要事実を知りながら、当該会社の株式を売り付けた事案
違反行為の概要
- F社の社員らがその職務に関し、F社の業務執行を決定する機関がG社に対し事業譲渡を行うことについての決定をした旨の重要事実を知りながら、事実公表前にF社株式を約16万円から約197万円(社員によって売付価額合計は異なる)で売り付けました。
- また、F社の業務執行を決定する機関が民事再生手続開始の申立てを行うことについての決定をした旨の重要事実を知りながら、F社の社員らが事実公表前にF社株式を約48万円から約162万円(社員によって売付価額合計は異なる)で売り付けました。
課徴金納付命令対象者
F社社員(H、I、J、K、L、M、N、O、P)
課徴金額
15万円〜191万円(社員によって課徴金額は異なる)
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務コンサルティング室
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