企業法務のホントのトコロ

第1回 BUSINESS LAWYERS会員に聞いた「どうなる?3年後の法務・知財」 3年後には契約業務が減少の予想、増加業務は企業規模により異なる回答結果に

法務部
橋詰 卓司

目次

  1. プロフェッショナルワークへの期待の高まりに法務・知財部門はどう応えるべきか
  2. 回答者は経営・管理職クラスが過半数
  3. 平均的な法務・知財パーソンが現在担当している業務とその偏り
  4. 3年後には契約業務が激減する?
  5. 3年後増加すると予想する業務は不祥事とグループ会社対応
  6. 既存業務の効率化に確信、しかし付加価値をどこで出すべきかは見出せていない状態

プロフェッショナルワークへの期待の高まりに法務・知財部門はどう応えるべきか

ビジネスのグローバル化、ITを使ったイノベーションの進展、SNSの普及等に伴い高まるレピュテーションリスクの増大等によって、企業が抱えるリスクは複雑化・多様化しています。

そんななか、2004年の法科大学院開校に始まった司法制度改革によりインハウスロイヤー数は増加し、法務・知財部門の人員採用意欲も堅調、企業がビジネス上の法的問題の解決に投入できるリソースは拡大の一途をたどっています。また、2018年には経済産業省が「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」を設置するなど、プロフェッショナルとしての法務・知財部門の役割拡大には、社会から大きな期待も集まっています。

このような状況下、BUSINESS LAWYERSでは会員を対象にアンケートを実施。以下の点を明らかにしながら、法務・知財部門の未来を占ってみようというのが、本企画「どうなる?3年後の法務・知財」の趣旨です。

  • 現在法務・知財業務に関わる方々はどんな業務に取り組んでいるのか?
  • 3年後を見すえたとき、現在よりも増加する業務/減少する業務は何か?

アンケートの分析は、「サインのリ・デザイン」編集長であり、企業の法務部での勤務経験をもつ橋詰 卓司が行いました。

回答者は経営・管理職クラスが過半数

2019年7月下旬にBUSINESS LAWYERS会員へアンケートを配信した結果、有効回答数は169となりました。

回答者属性の分布を示したグラフは以下のとおりです。500人〜4,999人規模の企業に勤める、課長・部長クラスの方々がボリュームゾーンとなりました。

アンケート回答者属性の分布

アンケート回答者属性の分布

平均的な法務・知財パーソンが現在担当している業務とその偏り

アンケートの最初の設問では、回答者の「現在の」業務量をできるだけ正確に把握するため、下記20の業務ごとに、週単位の実労働時間を記入していただきました。

1. 契約 2. 訴訟等管理 3. 債権・担保管理 4. 株式・総会 5. コーポレート
6. M&A・投資・合弁・提携 7. 資金調達 8. 法律相談 9. 知的財産権 10. 内部統制
11. 情報セキュリティ・営業秘密管理 12. コンプライアンス 13. 広報・開示 14. 労働問題 15. 教育研修
16. 渉外・ロビイング 17. 危機対応・リスク管理 18. グループ会社 19. マネジメント 20. その他

アンケート結果から、回答者のみなさまが各業務に費やす時間の平均値・中央値・最頻値を集計したところ、「標準モデル」として以下のような法務像が浮かび上がりました。

  1. 週平均の業務時間 49.3時間
  2. 契約業務にもっとも時間を費やしており、その中央値は30%
  3. 契約業務以外の業務については、回答者ごとに担当領域にバラつきがあるため際立った傾向が見られたわけではないが、おおよそ以下6業務に10%ずつ時間を費やしている
    • 2. 訴訟等管理
    • 5. コーポレート
    • 7. 資金調達
    • 8. 法律相談
    • 10. 内部統制
    • 12. コンプライアンス

2の回答者属性でみたように、アンケート回答者属性としては「課長」以上のマネジメント層が合計57.9%と過半数を超えているにもかかわらず、それでも契約業務にかなりの時間を割いている現状が観察できました。

3年後には契約業務が激減する?

次に、回答者が3年後に減少すると見込んでいる業務は何かを先ほどの20の業務分類から尋ねました。回答者の所属企業が大企業(300人以上)と中小企業(299人以下)では大きく異なる結果となっています。

まず大企業ですが、「契約」業務が減るという意見が2位以下に2倍以上の差を付けて突き放しています。「法律相談」業務の減少を予想する声も多くなっており、それらの理由として、「リーガルテック・AIによる業務の自動化」をあげた回答者が多数を占めました。

リーガルテックやAIの導入に誘導するような質問としていないにもかかわらず、自然発生的にこうした回答傾向が見られたことから、大企業のテクノロジー導入意欲の高さを感じます。

3年後には契約業務が激減するか?のアンケート結果

これに対し、中小企業では「契約」業務の減少予想もさることながら、「教育研修」業務が減少するという回答が2位につけているのが特徴的です。1週間のうち教育研修に要する時間の割合は、本アンケートでは大企業で平均4%、中小企業は平均3%と中小企業のほうが少ない傾向にありますが、ここでの回答結果から、今後その傾向が顕著となることが考えられます。ここから、中小企業の少ない社内リソースを最大効率化するため、法務業務のコアとノンコアを見極めノンコア業務のアウトソースを進めよう、という意識があることが伺えます。

3年後には契約業務が激減する?のアンケート結果

3年後増加すると予想する業務は不祥事とグループ会社対応

既存業務が減った分、その余剰リソースをどこに振り向けるべきか?

3年後に増加すると予想する業務についても伺いました。大企業(300人以上)と中小企業(299人以下)によって、回答の傾向がやや異なっています。

大企業では、「コンプライアンス」業務が増加するであろうと予測する方が目立ちました。これは近年の大企業で目立つようになった不祥事事件の増加を受けてのものと考えられます。
また、海外展開による子会社増加を理由の中心として、「グループ会社支援」業務が増えるという回答が4位に食い込んでいます。これも大企業に顕著な傾向です。

3年後増加すると予想する業務は不祥事とグループ会社対応?

これに対し中小企業では、「契約」業務が増えるとする回答がトップとなりました。減少を見込む層と人数も近く、見解が大きく割れたということになります。大企業と異なり、いわゆる一人法務体制でやりくりする組織が少なくないなかで、企業の成長により増加が見込まれる契約業務を一人で背負い続ける負担増を想定しての回答と見受けられます。

中小企業においてコンプライアンス業務の増加を予想している理由として、上場を見据えた経営からの要請、コーポレートガバナンスコードへの対応、昨今の不祥事を契機とした取引先からの要求などの回答が見られました。コンプライアンス体制の強化が求められていく流れは、中小企業にとっても不可逆と言えそうです。

一方、中小企業であっても「M&A・投資」業務が増加するという予想が4位と少なくなかったのは、意外な結果です。

3年後増加すると予想する業務は不祥事とグループ会社対応?

既存業務の効率化に確信、しかし付加価値をどこで出すべきかは見出せていない状態

以上、BUSINESS LAWYERS会員によるアンケートの回答結果から、3年後の法務・知財部門の姿を占いました。

「現状で全体30%近くを占める契約業務は、リーガルテックにより時間削減・効率化できるはず」。回答者の多くがそんな確信を抱く一方、そうして減少した業務分から創出されるリソースを次のどの領域に振り向けていくべきか。この点、今回のアンケートでは、「グループを含めたコンプライアンス体制の構築にじっくりと取り組んでいく」というストーリーを描いている方が大勢のようにも見えました。しかし、回答にはばらつきもあり、回答者それぞれがまだ明確なビジョンを描けていない様子も見受けられます。

オックスフォード大学のリチャード・サスカインドらがプロフェッショナルの働き方の未来について2017年に著した『プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法』では、司法サービスの未来は以下のように展望されています。

長期的に見ると、司法サービスの未来は、ジョン・グリシャムの小説や、テレビ番組「ベイリーのランポール」のような作品で描かれているのとは違ったものとなるだろう。私たちの研究結果は、伝統的な弁護士の大部分は「先進的なシステムか、テクノロジーや標準化されたプロセスを駆使する安価な作業者、もしくはオンラインの自助ツールで武装した一般人によって置き換えられるだろう」と示唆している。

― リチャード・サスカインド、ダニエル・サスカインド『プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法』(朝日新聞出版、2017)より

3年後という決して遠くない未来。法務・知財部門が企業内外で存在感を発揮するために、どのような業務にそのリソースをシフトさせていくべきか。BUSINESS LAWYERSおよびクラウドサインからも、そうした近未来への提言にチャレンジしていきます。

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