ルールメイキングの方法論 社会を変えるプロセスを再現可能なものに

ベンチャー

目次

  1. ルールメイキングは業界の外から実現する
  2. 大義を掲げ、様々なプレーヤーを巻き込んで共感を集める
  3. ルールメイキングに関わる人物に求められるマインドセット

産業構造やビジネスのあり方が大きく変化するなか、イノベーションを実現するためには既存の法律を守るだけでは足りない。法律を創造的に解釈し、ときにはルールそのものを変えることまで求められる。

ルールメイキングの必要性が語られる場面も増えてきたが、実行者に求められるものは何か。

その問いに答えるべく、齋藤貴弘弁護士は風営法改正のプロセスの中で実践し、得た知見を2019年5月に上梓した著書『ルールメイキング』に集約した。

本書の出版に至るまでの経緯と、ルールを変えるために必要なことを齋藤弁護士に聞いた。

ルールメイキングは業界の外から実現する

『ルールメイキング』執筆のきっかけについて伺えますか。

既存のルールを変える必要がある、と感じている人たちがこの本のメインターゲットです。風営法改正のプロセスを通じ、業界の未来に向けた変化を求めている人たちが、どうすればルールを変え、業界をアップデートできるのか伝えたくて執筆しました。

着想からどれくらいの期間で執筆されたのでしょう。

書き始めたのは2018年の3月だったと思います。G1サミットという毎年参加している合宿のような場が沖縄であり、このときに書き始めました。その後、夏休みで2週間くらい海外に行って集中的に執筆し、年内には概ね書き終えました。ただ、観光省のナイトタイムエコノミー政策が現在進行形で動いていたので、どこで区切ればよいのか悩ましく、思ったより時間を要してしまいました。

書籍が形になってみていかがですか。

執筆期間中は、ずっと頭の中に本のことがあったので、ようやく解放された気分です。

書籍を執筆される中での気づきや、苦労された点について教えてください。

風営法改正に向かって動いているときは、目の前のことに必死になっていてルールメイキング ・プロセス全体を把握することができていませんでした。このプロセスを俯瞰し、言語化することで、他の人が理解できるものにし、ナレッジにしていきたかったというのが執筆の目的です。

成功しているかどうかはわからないですけど、これからルールメイキングに取り組む人たちにとって再現可能性をもって応用できる形になればと思います。

ルールメイキングに取り組む人たちに応用してもらいたいという気持ちは執筆当初からあったのでしょうか。

出版社の方からは、ナイトタイムエコノミーを中心にした内容でオファーをいただきました。ですが、もう少し広い捉え方をできないかなと考えた結果、ルールメイキングの総論を扱い、あくまで各論の1つとしてナイトタイムエコノミーを取り上げる形に整理していきました。

Twitteなど、インターネット上では反響も多く見られます。

ナイトタイムエコノミーの関係者だけでなく、イノベーションに興味のある若い弁護士や、ベンチャー起業家の方々にも関心を持っていただいています。実際、ベンチャー起業家で法規制の壁に直面している人から長文のメールをいただいたりもしましたし、イノベーション分野の弁護士が開催してくれた出版記念のトークイベントには多くのベンチャー企業の方々、弁護士が来てくれ、問題意識の高さが実感できました。

ニューポート法律事務所 齋藤 貴弘弁護士

ニューポート法律事務所 齋藤 貴弘弁護士

大義を掲げ、様々なプレーヤーを巻き込んで共感を集める

書籍内のエピソードは、風営法改正の経緯が中心になっていますが、これはルールメイキング全般に通じるものでしょうか。

ルールと実態の乖離は、ルールの枠外にいる人、つまり業界の外から発見されることが多いと思います。そのルールを前提に成り立っている業界主導で自分たちのルールを変えていくのは難しい。国レベルでも、歴史的にみて大きな変革は外圧が契機になっていることが多いと思います。

風営法の場合、警察の一斉摘発によるクラブの相次ぐ閉店が問題提起のきっかけだったのですが、業界内部には警察の摘発には黙って耐え忍ぶべきという声もそれなりにありました。しかし、ルールを変えようという動きに発展していったのは、外側にいる様々な人の力が作用したからだと思います。

署名活動や音楽、不動産開発業界、観光業界など、様々な業界外からの視点で未来志向の議論を行い、 そこで見出されたナイトタイムエコノミーの可能性や将来的な活用方法が改正を後押ししたのです。今ある業界を守りたいという視点だけではなく、未来にどのような産業や文化をつくっていくのか、という視座がなければ法改正は実現できなかったでしょう。

ルールメイキングを実践する際のヒントは本書に多く掲載されていますが、特に押さえておくべきことを教えてください。

政策のアジェンダに取り上げてもらうためのロジックやストーリー、コンセプト作りはきわめて重要です。公共政策学で「フレーミング」と呼ばれている手法です。問題をどう定義するのか、どのような問いを立てるのか。フレーミング次第で、ルールメイキングに関わってもらえるステークホルダーも大きく変わってきます。重要なのは幅広いステークホルダーの共感を集めることができるコンセプトメイキングです。

風営法のケースでは、クラブ摘発が発端でしたから、クラブを守れという視点だけではなく、広くダンスカルチャー、さらにはナイトタイムエコノミーを推進すべきだというコンセプトで臨みました。クラブを守れというだけでは、多くの署名を集めることはできなかったと思いますし、署名を集めた後、具体的な法改正や政策立案まで持っていくのは難しかったと思います。クラブという特定業界の論点とせずに、「ダンス文化の推進」や「新しい時間市場の早出」という大義を掲げたからこそ、クラブ業界に止まらず、不動産開発や観光、多様なエンターテインメント業界などから様々なプレーヤーを巻き込んで共感を集めることができ、法改正に成功したのだと思います。

ルールを変える際には業界の自己満足で終わらせず、幅広い層からの共感を集め、政策のアジェンダに取り上げられるところまでつなげることが重要です。LGBTは多様性の中にあなたも含まれていると共感を作りましたし、シェアリングエコノミーも民泊やライドシェアなどの各業界のサービスに留めず、新しいライフスタイルであるという意義を広げることが重要だと思います。

共感を集めるにはどのような素養が必要なのでしょうか。

様々な業界を取りまとめ、政治や行政と強力に交渉するロビイングでは、マッチョなリーダーシップが求められると思うかもしれません。しかし実際は全く逆です。マッチョなリーダーによるトップダウンのロビイングでは幅広い層の共感は得られないでしょう。自分で何でもやろうとするのではなく、多くの人を巻き込んでいく。そこには何とかしてあげなきゃと思わせるある種の弱さみたいなものも必要です。多くの人が関わってくれるようになった際に重要なのは、自分でシュートを決めようとするのではなく、パス回しに徹することです。風営法改正での私の役回りはまさにそのようなものでした。

そして、弁護士のスキルはこのような役回りにぴったりだと思います。弁護士は当事者ではなく代理人です。ゆえに弁護士が当事者の声をそのまま主張することはありません。当事者の言い分をロジカルに整理し組み立て、相手方に理解してもらえるように翻訳する。裁判官や相手方代理人の反応をシミュレーションしながら準備書面を起案したり、交渉戦略を練っている。相手方は裁判所だったり、交渉相手だったりしますが、普段からこのような翻訳作業を法律や論理力を使って行なっているのが弁護士です。ルールメイキングにあたっても、様々な業界の意見を取りまとめて、これらをうまく翻訳して利害を調整し、そして政治家や行政の価値観にも翻訳していく。つまりはきれいにパスを回していく。非常に弁護士的なスキルだと思います。

ニューポート法律事務所 齋藤 貴弘弁護士

ルールメイキングに関わる人物に求められるマインドセット

当サイトの読者には法務部門に所属している方も多いのですが、企業内で法務の仕事を行う際もルールメイキングのマインドは必要だと思いますか。

絶対に必要だと思います。すべての産業に新たな価値創出が求められています。すべての産業が成熟化していくなか、イノベーションを創出するには、今までの枠組みからはみ出た場所でビジネスを行い、ルール形成していかなければなりません。たとえば、少子高齢化に伴う人手不足、ICT技術の高度化に伴い、より一層BtoCからCtoCへの産業シフトが進んでいくでしょう。そうなると宿泊、旅行、飲食等のあらゆるサービス業が前提としている業法規制モデルの前提が成り立たなくなってくる。法務に求められる役割も、既存の法律に照らしてNGかどうかという択一的判断ではなく、これからの新しいサービスにあわせてどのようにルールメイキングしていくべきかということにシフトしていく。

もちろん、いくら古い法律だったとしても違反してはいけないのは当然です。法解釈をいかに創造的、かつ説得的に行うかというのもより一層重要なスキルになってくる。ここでも法務単体で判断していくのではなく、専門性の高い弁護士や官公庁とのコミュニケーションも重要になってくるでしょう。リーガルリレーションやガバメントリレーションが法務の機能として重要になってくると思います。

逆に法解釈の範疇を超えてしまっているというサービスには、適正にブレーキをかけるのも重要になってきます。ニーズがあるからといって適正なルールメイキングのプロセスや、法解釈の範囲を超えてサービスにGOを出さないようにする、そんなブレーキ役もより一層期待されると思います。

「もう一度風営法改正を最初からやることになったら、率直に言って相当悩む」と本書の中で語られています。そのような状況を乗り切れたのは、齋藤先生が元々音楽への造詣が深く、好きな分野だった事も一因かなと思いました。

ルールメイキングに関わる弁護士には、事業者と目線を同じにし、ともに成功させるメンバーとしてのマインドセットを持ってサポートする役割が求められます。事業や起業家への共感や当事者意識が重要な要素になると思います。ルールメイキング は新しい弁護士のビジネス領域として注目され始めていますが、ビジネスライクになりすぎるとうまくいかないかもしれません。

ルールメイキングの活動がビジネスとして認められる動きはありますか。

私の知る限り、既存のルールを変えて、業界をリードする気持ちがある企業や人はまだまだ少ないと感じます。むしろ、外資企業が日本市場を取るために日本のルールを変えようとする動きが先行していきそうです。

外資企業が大きな資本によって優秀な日本のロビイストを雇い、日本のマーケットを席巻したとき、初めてルールメイキングの重要性に日本企業が気づくかもしれませんが、それでは遅すぎます。

ルールメイキングによって業界のルールを変えたいと思う人たちが増えてこないとビジネスとして成立するのは難しいでしょうか。

そうだと思います。私の本に正論が書いてあっても、それが再現できない活動だったり、実践が伴わないものであればまったく意味がありません。マネタイズや組織作りも含めた持続可能な活動としての基盤整備は課題として残っています。

まずはこの本を通じて、ルールを変える前と後で変化が起きることを、色々な人に知ってもらいたいですね。

風営法改正の後、どのような変化が起きていますか。

法改正前には実現が困難だったが8、9万人規模のダンスミュージックフェスティバルが開催されたり、上場企業を含む大きな企業がナイトクラブ事業に参画しています。法改正の大きな成果だと思いますし、いくつか象徴的な成功例ができれば、外国人観光客向けの産業も活性化し、様々な分野に経済効果を及ぼすことができると思います。さらには、これまであまり光が当てられてことなかった夜間の文化的価値も注目されるに至っています。

今後の展望について教えてください。

ナイトタイムエコノミーに関しては、以前から仕込んでいた政策立案が実装ベースに入っていてます。これまでの観光庁の政策を民間実装し、様々な地域に実現していく。そのための受け皿として私が代表になり一般社団法人を作りました。

ルールメイキングは法改正の分野で議論されがちですが、法律執行や政策実施にあたっても重要になってくると思います。法改正をした後、パブリックセクターや民間を結合させ、政策から民間の事業を作り、さらには政策にフィードバックしていく仕組み作りをやっているところですね。

イノベーターと官僚、そして法律家が集まり、ルールメイキングについて議論しているPublic Meets Innovationといった活動も面白くなってきています。

あと、いわゆる弁護士業務をやる時間はなかなかないのですが、事務所の組織づくりを試行錯誤しています。

ルールメイキングへのチャレンジと並行して、法律事務所の組織づくりも一年かけてやってきました。2人のパートナー弁護士が中心になって組織固めを行い、昨年まで3人だった弁護士が12名になり、東京有楽町の他、支店展開もするようになっています。弁護士は国税出向経験のある会計士資格を保有している弁護士、大手法律事務所出身のコーポーレート周りが得意な弁護士、知財が得意な弁護士など多様です。弁護士に加え、司法書士や行政書士もいます。ルールメイキング のような新しい領域はなかなかお金にすることが難しい。ただ、今我々が稼ぐことができている弁護士の仕事も先人たちがマネタイズも含め作ってきてくれたものです。同じように、ルールメイキング のような新しい分野でも持続可能で多くの弁護士が関わることができる仕事として、もう少し広げていくべきだと思います。

(取材・構成・写真撮影:BUSINESS LAWYERS編集部)

ルールメイキング: ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論

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