さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会とりまとめ(案) ハイブリッド型バーチャル株主総会に関する論点整理

コーポレート・M&A

目次

  1. 近年における株主総会
    1. これまでの取組み
    2. 問題意識
    3. 現代における株主総会への見解
  2. バーチャル株主総会とは
    1. バーチャル総会の種類
    2. ハイブリッド型バーチャル株主総会のメリット・留意事項
  3. ハイブリッド出席型バーチャル株主総会における法的・実務的論点
    1. 株主の本人確認
    2. 株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係
    3. 株主からの質問・動議の取扱い
    4. 議決権行使の在り方
    5. その他(残された検討事項)
  4. 今後の課題

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.163」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 経済産業省は、本年5月22日に「ハイブリッド型バーチャル株主総会」に係る論点整理にも言及した「さらなる対話型株主総会プロセスに向けた中長期課題に関する勉強会とりまとめ(案)」を公表しています。本記事ではこのとりまとめ(案)の概要をご紹介します。

近年における株主総会

これまでの取組み

 企業と投資家・株主との企業価値向上に向けた建設的な対話を促すための各種の環境づくりを実施。

    (例)
  • 株主総会の基準日変更に関する実務対応の整理の公表
  • 基準日を変更した場合の対応として税制改正による法人税の申告期限の見直し
  • 株主総会資料の原則電子提供制度の創設に向けた検討・取りまとめ
  • 議決権電子行使プラットフォームの参加・利用拡大

問題意識

 1-1に記載の通り、建設的な対話のための環境づくりを推進してきた一方、株主総会当日の開催前までに議案の賛否についての結論が事実上判明しているという会社が多い中で、会議体としての株主総会当日の意義をどう考えるかについての議論がされてこなかった

現代における株主総会への見解

     当日の会議体としての株主総会の実態を評価する見解はおおよそ3つに分類される。
  1. 決議と一体として行われる、株主総会での討議を重視する見解
  2. 株主総会当日だけでなく、そこに至るまでの年間プロセス(以下、株主総会プロセス)における対話が十分行われていることこそ重要とする見解
  3. 事前の議決権行使により決議の趨勢が決することが多い現状を前提として、株主総会当日を決議に向けた討議の場としてではなく、より一般的な会社と株主等との関係構築の場として捉え直す見解
本勉強会の方向性・基本的スタンス
株主総会制度の現状に対する多様な見解(上記1-3)を踏まえつつ、より一層対話型の株主総会プロセスを志向していく上での中長期的な課題や株主総会当日のあるべき姿を見直し、多面的で柔軟な検討を行う。
    →上記の検討の題材としてバーチャル株主総会を取り上げた趣旨
  • ITの活用により、株主総会当日の会議体としての側面に光を当てるものと評価できる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」について論点整理を行い、更なる情報提供や対話に向けての追加的な選択肢を提供することを目指す。
  • 加えて、上記の検討を通じて株主総会当日の会議体としての側面に関する実務上の問題点等を明らかにする。

バーチャル株主総会とは

バーチャル総会の種類

リアル株主総会 ハイブリッド型バーチャル株主総会 バーチャルオンリー型
株主総会
参加型 出席型
取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会 リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会
リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会 リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会

ハイブリッド型バーチャル株主総会のメリット・留意事項

ハイブリッド参加型 ハイブリッド出席型
質問・動議 ×(※) ○(※)
(ただし、バーチャル出席株主の質問や動議の取扱いについては、リアル株主総会での取扱いと差異を設けることはやむを得ないと考えられるとの考え方が示されている)
当日の議決権行使 ×(※)
(議決権行使の意思がある株主は、基本的には、事前の議決権行使を行うことが必要)
○(※)
(インターネット等を用いて議決権の行使を行うことが想定される。ただし、電磁的方法による議決権行使(会社法312条1項)ではなく、招集通知に記載された場所で開催されている株主総会の場で議決権を行使されたものと解される)
メリット
  • 情報開示の充実
  • 株主総会運営に係る透明性の向上
  • 遠方株主の株主総会参加・傍聴機会の拡大
  • 複数の株主総会を傍聴することが容易になる
  • 参加方法の多様化による株主重視の姿勢をアピール
  • 遠方株主の株主総会出席機会の拡大
  • 複数の株主総会に出席することが容易になる
  • 出席方法の多様化による株主重視の姿勢をアピール
  • 質問の形態が広がることにより、株主総会における議論(対話)が深まる
  • 個人株主の議決権行使の活性化につながる可能性
  • 定足数の確保
留意事項
  • 株主がインターネット等を活用可能であることが前提
  • 円滑なインターネット等の手段による参加に向けた環境整備
  • 肖像権等への配慮
    (ただし、株主に限定して配信した場合には、肖像権等の問題が生じにくく、より臨場感の増した配信が可能)
  • 円滑なバーチャル出席に向けた環境整備
  • 質問の選別による議事の恣意的な運用につながる可能性
  • どのような場合に決議取消事由にあたるかについての経験則の不足
  • 濫用的な質問が増加する可能性
  • 事前の議決権行使に係る株主のインセンティブが低下し当日の議決権行使もなされない可能性

(※)インターネット等の手段による参加・出席株主に関するもの

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会における法的・実務的論点

株主の本人確認

  • なりすましの危険性
    →議決権行使書面に記載のID・パスワードを用いたログインだけでなく、2段階認証等の厳格な本人確認の検討も考えられる

株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係

  • バーチャル出席株主の途中退席の可能性を踏まえ、バーチャル出席株主が事前の議決権行使を行っていた場合、ログインをもって出席とカウントし、それと同時に事前の議決権行使の効力が失われたものと扱うという、リアル株主総会とパラレルな取扱いは、無効票を増やすこととなり、株主意思を正確に反映しない可能性があるため、リアル株主総会の実務とは異なる取扱いも許容されるべきと考えられる。
    →例えば、バーチャル出席株主が事前に議決権を行使していた場合にその効力が失われるのは、株主総会での決議における賛否の意思表明のタイミングと解する(決議時に議決権行使による意思表明がされない場合、事前の議決権行使の効力は維持)。また、招集通知等に予めこのような取扱いを明示しておくことが必要と考えられる。

株主からの質問・動議の取扱い

  • リアル出席株主と比べて質問や動議の提出に対する心理的ハードルの低下
  • 質問権の行使や動議の提出が濫用的に行われる可能性(複数社の株主総会に同時出席し、会社による違いを踏まえずに同じ質問や動議を送信する等)
    →リアル株主総会での取扱いと差異を設けるのはやむを得ないと考えられる(質問に文字数制限を課す等)
    →あらかじめ取扱いの差を明確にしているのであれば、バーチャル出席株主の質問や動議の提出を制限することは決議方法の法令違反や著しく不公正な決議方法には当たらないとの考えもあるが、現行法下においては株主の権利制限については慎重であるべきとの見解もあるため引き続き検討要。

議決権行使の在り方

  • バーチャル出席株主の賛否が把握できるシステムの構築
  • 出席により事前の議決権行使の効力が失効するタイミングについて、法律関係を前提とした各種の事務処理を行うことが出来る体制の整備

その他(残された検討事項)

  • 元々、会社法は同一株主が同時に複数の株主総会に出席する事態は想定していないとの指摘もあるところ、同一株主が同時に複数の株主総会にバーチャル出席するという状態をどう評価するか

今後の課題

  • これまで積み重ねられてきた判例等を参考にした法的に安定的な「あるべき実務」に沿った慎重な対応が、バーチャル出席を含む新しい会議体にはそのまま当てはまらない点も存在
    そのため諸外国の法制度と実務の状況も踏まえたグローバルスタンダードを意識しながら、以下につき引き続き検討が必要。
    • これまでの裁判例等を踏まえた、決議取消の訴えに関する解釈の具体化
    • バーチャル出席を含めた会議体の一般原則はどのようなものか
  • 近年機関投資家の議決権行使判断が硬直化している傾向が見られるため、議決権行使判断に関する、より本質的・実質的な議論を効率的に行う環境の整備
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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