法務部に必要な税務に関する基礎知識
第1回 法務部の役割と税務の基礎
税務
シリーズ一覧全5件
目次
コンプライアンス問題としての税務
近年、上場会社を中心に、税務に関して経営陣の積極的関与や不正防止のための社内体制の整備を進めるなど、税務コンプライアンスの向上に努める企業が増えています。大企業では、数年に一度、多い場合には連年で税務調査が行われますが、税務調査を契機として所得隠しや申告漏れの事実が報道されることが少なくありません。
仮に追徴課税がなされれば、重加算税などの追加的な税負担の発生に留まらず、コンプライアンス体制に不備があるのではないかとのレピュテーションの低下を招きかねません。企業の税務コンプライアンスを強化する動きには、このようなリスク回避の目的による側面があると考えられます。
一般に税務は経理部などが所管しますが、税務調査の結果、所得隠しによる追徴課税がなされた場合、関与者の処分や再発防止策の策定など、顕在化したコンプライアンス問題への対処として、法務部が関与することを求められる事後的な対応もあります。もっとも、税務において法務部の関与が望まれる場面はこれらにかぎりません。法務部は、その法律業務の専門性を活かして所得隠しや申告漏れの発生を防止するとともに、税務調査においてもその初期段階から経理部などと連携して対応していくことなどが期待されています。
税務コンプライアンス向上にむけた法務部の関与
契約書作成時の税務の視点からの検討
法務部の業務範囲は多岐にわたるところ、その重要な一部が契約書の作成・審査です。その主たる目的は、権利義務関係を明確化し、相手方当事者との将来の紛争を予防することにありますが、契約実務に長けた法務担当者が税務の観点を意識して経理部などと認識を共有することにより、税務上のリスクの洗い出しに繋がります。認識されたリスクについては、その手当てとして、契約条項を修正することや、取引の内容自体を変更することなどの有効な対策を講じることで、適正な納税の実現に資することになるといえます。
内部統制システムの構築支援
所得隠しや申告漏れの原因となる事実は、決算業務などとは無関係な現場の第一線で、税務上の影響を意識せずになされた不適切な行為に起因することが少なくありません。この問題意識は、国税庁も同様であり、税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組みのなかで、税務コンプライアンスの維持・向上のためにはトップマネジメントが積極的に関与・指導することや事業部門と経理担当部署との連絡体制を強化することなどの重要性が指摘されてるように、税務に関する内部統制システムの整備・運用を経理部、財務部だけに任せることなく、企業全体の課題として部門横断的に取り組むことが必要です。
企業のコンプライアンス、リスクマネジメントを担う法務部においては、経理部などの他部門と適切に連携して、会社法や金商法上の内部統制システムと税務コンプライアンスの関係を整理し、税務の観点から内部統制システムの整備・運用が必要かつ十分なものとなっているか検証することが期待されます。
税務調査・税務争訟への関与
税務調査の対応は経理部などが中心となって行うことが一般的ですが、近時の傾向として、国税当局と主張の食い違いがあり、更正処分に発展しかねない場合には、法務部が税務調査の初期段階から携わり、争点整理や証拠収集などを支援することで国税当局との交渉に関与することが増えてきています。
また、国税当局による更正処分後の原処分庁に対する再調査請求、国税不服審判所に対する審査請求および取消訴訟の提起といった税務争訟の場面では、いかに主張を構成して立証するか検討を要することから、訴訟手続などの紛争解決業務のノウハウを豊富に有する法務部が経理部などと連携して対応する必要があります。
企業活動を取り巻く主要な税目
企業はその事業を遂行するなかでさまざまな税を課されることになります。その主な税目として法人税、所得税、消費税、印紙税について、簡単ではありますが、法務部が税務を取り扱う際に知っておくべき基礎的な事項を解説します。
法人税
法人税の課税標準は各事業年度の「所得の金額」であり、当該事業年度の「益金の額」から「損金の額」を控除した金額として算定されます(法人税法21条・22条1項)。
「益金の額」は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)(同法22条4項)に従って計算される売上高などの収益の額を基礎とし、これに法人税法の別段の定め(調整項目)を加算・減算した額となります(同条2項)。「損金の額」もこれと同様に、公正処理基準に従った売上原価、販売費および一般管理費等の費用および損失の額を基礎に、法人税法が定める調整項目を加算・減算して求められます(同条3項)。
- 所得の金額 = 益金の額 − 損金の額
- 益金の額 = 収益の額 ± 法人税法の別段の定め
- 損金の額 = 原価/費用/損失の額 ± 法人税法の別段の定め
法人税法やその特例である租税特別措置法は、一定の政策的な目的の実現などのために別段の定めを設けています。たとえば費用に計上される寄附金や交際費等の損金不算入の定め(法人税法37条、租税特別措置法61の4条)などがこれにあたります。
契約業務では、独立当事者間の契約よりも、利害対立が事実上生じにくく、一方当事者に有利な内容になりがちな関係会社との契約の方が、法人税法上、その対価の妥当性が問題となりやすいことに留意が必要です。
所得税
所得税は、原則として個人に課税されるものですが、徴収確保の見地から法人に支払われる利子、配当などについては、源泉所得税の納税義務があります(所得税法174条)。
源泉所得税の課税は、源泉徴収義務者の源泉徴収によって納税義務の履行が完了し、当該源泉所得税は法人税額から控除されることによって二重課税とはならないように調整されます(所得税法223条、法人税法68条1項)。
また、これとは反対に、企業が源泉徴収の対象となる支払いを行う場合には、源泉徴収義務者として差し引いた所得税を納税することになります(所得税法6条、181条)。
源泉徴収義務の内容は、支払先(居住者、非居住者、内国法人、外国法人)ごとに、源泉徴収の対象となる所得の種類やその税率が定められており、特に外国法人に対する支払いは所得税法に優先する租税条約の取扱いを確認する必要があります。
消費税
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消費税の課税対象は、
- 国内において事業者が行った「資産の譲渡等」
- 保税地域から引き取られる外国貨物(輸入取引) に大別できます(消費税法4条1項・2項)。
ここで上記①の「資産の譲渡等」については、事業者が、事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供について消費税の納税義務を負います(消費税法2条1項8号・4条)。このため、無償による資産の譲渡でも益金を計上する法人税法の取扱い(法人税法22条2項)と異なり、原則として、無償取引については課税対象となりません。
そして、上記①に関する消費税額の計算は、課税対象となる売上(課税売上げ)に税率を乗じた額から、課税対象となる仕入(課税仕入れ)に税率を乗じた額(仕入控除税額)を控除して計算されます。
なお、消費税の課税対象となる取引でも土地の譲渡・貸付け、有価証券の譲渡等は非課税取引として消費税が課されず、また、国内からの輸出取引となる資産の譲渡または貸付けなどは免税取引とされて消費税が免除されます。前者はその取引に要する課税仕入れに係る消費税額を控除できませんが、後者はその課税仕入れに係る消費税額を控除することができます。

印紙税
印紙税は、一定の文書が各種の経済取引を表現しており、間接的に担税力を見いだせることを根拠として、印紙税法の別表第1に限定列挙された20種類の課税文書を対象に課税されます。課税文書に該当するか否かの判定は、文書に記載されている個々の事項のすべてについて検討し、その中に課税事項が一つでも含まれていれば、当該文書は課税文書となります。
また、印紙税は、一定の文書の作成またはその存在自体を課税対象とするものですから、契約が締結されても文書として契約書が作成されなければ課税対象とならない一方で、契約書の原本が複数ある場合はもとより、写し、副本または謄本等であっても、契約の成立を証するものであれば、その通数に応じて課税されます。
なお、印紙税法の別表第1記載の契約書であっても、契約当事者の最終の署名、押印が国外でなされた場合、当該契約書は国外で作成されたものとなり、その保管場所のいかんにかかわらず印紙税の課税対象とはなりません。
今回は初回ということで、税務において法務部に期待される役割と主要な税法の基礎について概要を説明しました。次回は、契約書作成時における税務上の検討ポイントの説明を行う予定です。
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