2018年度、日本企業のM&A件数・金額が過去10年で最高を更新
コーポレート・M&A
日本のM&A市場、活況続く見込み
2018年度(2018年4月-2019年3月)の日本企業が関与したM&A(企業の合併・買収)件数は830件、金額(株式取得費用とアドバイザリー費用を合わせた取引総額)が12兆7069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高だった 1。米中貿易摩擦などを背景に世界のM&A市場に減速感が見られるなか、「平成」最後の年度の日本のM&A市場は活況となり、新しい「令和」の時代もこうした傾向が続くとの見方が多い。
2018年度の取引総額上位10社
案件 | 金額 | |
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1 | 武田薬品工業、アイルランドの製薬大手シャイアーを買収 | 67,900 |
2 | ルネサスエレクトロニクス、米半導体メーカーIDTを買収 | 7,330 |
3 | 日立製作所、スイスABBの送配電事業を買収 | 7,140 |
4 | 大陽日酸、米プラクスエアの欧州事業を買収 | 6,438 |
5 | 三菱UFJ信託銀行、豪の資産運用会社CFSGAMを買収 | 3,280 |
6 | 米J&J、シーズ・ホールディングスをTOBで子会社化 | 2,298 |
7 | 大正製薬ホールディングス、一般医薬品会社の仏UPSAを買収 | 1,823 |
8 | 東京海上ホールディングス、欧の再保険子会社2社を売却 | 1,685 |
9 | JT、バングラデシュ2位のたばこ事業を買収 | 1,645 |
10 | 仏フォルシア、日立傘下のクラリオンをTOBで子会社化 | 1,409 |
※金額は株式取得費用とアドバイザリー費用を合わせた取引総額(単位:億円)
ストライクの荒井邦彦社長は「かつての日本では企業の投資は研究開発や設備投資が中心だったが、低成長でこうした投資の効果が思うように高まらないなかで、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきた」と分析する。2019年度のM&A市場の動向については「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、引き続き件数が増えそうだ」と予測している。
武田薬品のシャイアー買収は日本企業最高金額
過去最高金額となった武田薬品によるアイルランドの製薬会社、シャイアーの買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。約7兆円という巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。
武田薬品は製品化に近い新規候補物質の保有数が少ない。これに対しシャイアーは開発の中期や後期段階の新規候補物質を多く持つ。このため巨額を投じるM&Aに踏み切ったわけだが、武田薬品は買収に伴って3兆円を超える借金を抱えることとなった。
武田薬品に次ぐ大型の案件はルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー、インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収で、買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの車載向けに通信用半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す。
金額3位は日立製作所によるスイスABBの送配電事業買収の7140億円だった。 日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式80.1%を取得し子会社化したあと、4年目以降に100%の株式を取得し完全子会社化する。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。
大型M&Aの大半はクロスボーダー
金額が1000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねる。これら18件中17件はクロスボーダーだった。
2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。
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M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報をもとに構築したM&Aデータベース(経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報)で集計した。 ↩︎