日本の法務に足りないものは意思決定をする力 アメリカ企業との比較から見える課題

法務部

目次

  1. 研究会で明らかになった日本企業の問題点
  2. 法務部門は戦う組織になるべき
  3. ジェネラルカウンセル、CLOが果たす役割

2018年4月、経済産業省から『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書』が公表されました。グローバル化、IT化といった経営を取り巻く環境の変化に伴い、日本企業の法務機能強化の必要性を提示した本報告書は、海外との比較を踏まえた多くの課題を示しています。

研究会の座長を勤め、多くの日系企業、外資系企業の法務責任者を歴任した名取 勝也弁護士に日本とアメリカにおける法務の違いと、これからの法務部門に求められることについて伺いました。

研究会で明らかになった日本企業の問題点

研究会での議論の様子はいかがでしたか。

非常に活発な議論がなされ、政府の研究会としては異例の盛り上がりを見せました。日本企業、外資系企業で法務の経験をされてきた方、企業の事情をよく知っている弁護士、アカデミックな研究をされている方もいて、皆さまのご経験があっての事だと思います。

法務機能の課題としてどのような点があげられたのでしょうか。

日本の法務部門は、ビジネスをやるうえで取るべきリスクに対して神経質になりすぎるのに対し、絶対に取ってはいけないリスクに対しては消極的になる傾向にあります。要するに、前に進める部分は慎重すぎて、経営陣に対してはNOと言えない。

これは私自身の経験に基く印象でもあるし、共感される委員の方も多かったです。

報告書では経営層に対して、法務機能を有効活用する発想が必要という指摘もされていました。

経営者が法務へ相談する頻度や、重要な意思決定への関与の度合いが日本とアメリカで全く違うことが調査で明らかになっています。アメリカの経営陣はかなり頻繁に法務部門へ相談をしているのに対して、日本では月に数回、もしくは年に1回程度しか法務部門に相談しないという企業も多く、衝撃を受けました。

経済産業省という経営者に関わりのある官庁が、法務をもっと強化するように働きかけてくれることには意味があります。

アメリカ企業の法務は経営にとって、どういう位置付けなのでしょうか。

プロゴルファーにとってはプロキャディーがいないと勝負に勝つことが難しいように、メインプレイヤーである事業部とプロフェッショナルの法務セクションがいる。そういう関係です。

ゴルフはショットをする前にキャディにどこに打つべきか、どこに打ってはいけないか聞きますよね?経営者も法務に対して事前に聞くべきなのです。

日本とアメリカの経営環境には大きな違いがあると思います。

アメリカの経営者は大胆にレイオフやハイヤリングフリーズをします。無駄なコストを削ぎ落として、よい人材には高い給料を出して引き止めるというメリハリの聞いた人事政策ができる点は大きな違いです。

日本型の経営の方が温かみがあると思いますし、人を切らないというのは立派ですけど、大変ですよね。環境が変化する中で、企業経営も変わらないといけないし、変革を支援するような法的・社会的仕組みも必要です。日本の法務も強くならないといけません。

「バスに乗り遅れるな」という言い方をよくしますけど、むしろ逆だと思います。誰も乗らないバスに1人で乗って遠くへ行くようにしないと日本企業と海外企業との差はどんどん広がってしまいますね。

名取法律事務所 代表弁護士 名取勝也氏

名取法律事務所 代表弁護士 名取勝也氏

法務部門は戦う組織になるべき

日本とアメリカの企業で、法務の位置付けに違いが生じる原因はどこにあるのでしょうか。

アメリカ企業はCEOが法務、財務、人事、戦略などを担うCxOに対してチェックやアドバイスを求めたうえで意思決定をし、各部門はCEOの意思決定を強力に推進していきます。このようなCxOは、スペシャリスト・プロフェッショナルです。

法務部門もCEOの意思決定に沿う形で自分たちが進むべき方向性を明確に示し、外部の弁護士はその方向性に沿ってサポートをする役割を担うのです。

私が勤めていたアップルの法務部では、ready, aim, shoot(構え、ねらいを付けて発射する) という普通の順番がready, shoot, aimの順番となっていて、ねらいを付ける前に発射する、それだけ自分たちはアクションが早いんだ、というジョークをよく言っていました。

日本の法務はready, aim, aim, aim ・・・でなかなか発射しない。戦略的に物事を考え、企業の最善の利益に繋がるような意思決定をし、経営陣に対して短時間で効果的な説明をする姿勢や経験が不足している部分がまだあるような気がします。

日本の法務の方が変わるためには、どういう姿勢が必要なのでしょうか。

必要なのは判断を人任せにしない姿勢です。

意思決定の質を上げるには、まず知識や情報が必要です。この点は外部の専門弁護士を使って得られるだけ得ればいい。

日本の法務部は歴史的に文書管理課、記録係とされていた名残りかもしれないのですが、外部の弁護士に対して、「どうしたらいいでしょうか」「そもそもどっちに進めばいいでしょうか」と意思決定を委ねてしまう側面があります。

国内に限ったビジネスをしているのであれば、その姿勢でよかったかもしれないですが、グローバルマーケットに出るなら頭のスイッチを切り替えないといけません。

日本の法務の方はもっと自ら判断すべきです。野心や戦略を持って動ける人がいないと、勤勉で真面目だね、おとなしい部門だねという扱いで終わってしまいます。

この会社の法務は戦っているな、と感じたことはありますか。

検討会でも議論をしましたが、自分の競争に対して今のルールがそぐわない時に、ロビイングやルール変更、ルール作りを行って社会を変え、リードしていくという点においてアメリカ、特に西海岸の会社は非常に先進的だと思います。

では、判断の経験を積むにはどうすればよいのでしょうか。

知識を身に付けるだけではなく、トライアンドエラーを重ねて判断の感覚を高めることが求められます。グローバルな環境で戦うのであれば、スピードも上げないといけません。

経験上、専門書を読んで判断できるようなことは多くありません。前例にあたることは当然大切なのですが、あくまで参考です。次々と発生する思いもよらない事態に対して、前例がないのでわかりません、できませんなどと言ったら経営者は怒りますよね。

自分が判断する機会がなかったとしても、上司が直面している問題に自分だったらどう判断するか、とか上司の判断理由を考えてみるとよいでしょう。

上司が判断をした背景には社内外のあらゆる利害関係があるはずなので、その理由を考えてみることは大事です。

法務部として変わるために取り組むべき事は何でしょうか。

部門内で判断の傾向を合わせないといけません。あるリスクに対してOKと言う人と、NOと言う人がいるようでは問題があります。どういう性質を持った法務部門か、どこまでリスクテイクをするかという点を統一して明らかにするべきです。

リスクテイクの方針を変える事もあるかもしれませんが、それはジェネラルカウンセルがやる事です。社内に反対意見があったとしても理由を示して納得させないといけません。

名取法律事務所 代表弁護士 名取勝也氏

ジェネラルカウンセル、CLOが果たす役割

ジェネラルカウンセルやCLOは日本企業でも必要なのでしょうか。

アメリカ企業でCLOやジェネラルカウンセルになるのは、弁護士資格を持ったスペシャリストです。これはCFOや他の役員も同様で、スペシャリスト達が束になってCEOチームを作ります。

一方、日本企業は今まで法務経験のない人がいきなり法務部長になったり、システム開発経験のない人がCIOになったりします。ジェネラリストがローテーションの中で部長や役員になることが多いようです。

法務、コンプライアンス、ロビイングをやる専任的な役員は今後増えていくはずですが、絶対にジェネラルカウンセルやCLOを置くべきかというとまだ賛成できません。ふさわしい人材がいないのにポジションだけを置いても機能しないでしょう。人材発掘や育成という点が今後の課題だと認識しています。

今までの経験を通して、法務の責任者にとって最も大切なことを教えてください。

企業の中における自らの役割・機能を定義づける事です。

企業が正しく経営していく際に拠り所となるものは法令、行動指針であり、ビジネスエシックスですよね。そして、企業が間違いなく発展していくために判断をすることが自分の果たすべき役割だと私は定義しました。

外部から会社の内部に入った際は様々な軋轢がありましたし、対立することもありましたが、根底にそういう考えがあったのでぶれることはありませんでした。

報告書では求められる法務の機能について、「ビジネスパートナー」という表現をしていますが、少し違うかもしれません。経営との信頼関係は当然必要だけど、パートナーはともすれば迎合してしまう。軸をぶらさずにビジネスをナビゲートする役割の方が適切ですね。

(取材・構成:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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