2019年のM&A市場を予測 この8年間で件数、金額ともに最高水準となった2018年を塗り替えるか
コーポレート・M&A
※本記事は、株式会社ストライクが運営しているM&Aオンラインの内容を一部編集し、転載したものです。
平成最後の年となった2019年は、日韓関係の悪化や米中貿易摩擦など、国際的に不安定な状態と共に幕が開けた。世界銀行からは世界景気全体に減速の予測が出される中、国内M&A市場はどのように推移するだろうか。
M&A仲介サービス大手のストライク(M&Aオンライン編集部)が2018年の振り返りと共に、今年の動向を予測した。
2018年のM&A市場は件数、金額ともにこの8年間で最高水準
2018年は戦後最長だった「いざなみ景気」を超える回復期の中、781件のM&Aがあり、金額は13兆7860億円に達した(株式会社ストライク調べ)。同社が適時開示情報をもとに作成しているM&Aデータベースで公開されている2011年以降の8年間の数値と比べ、件数、金額とも最高になった。
年 | M&A件数 | 取引総額 | 1000億円以上のM&A |
---|---|---|---|
2018年 | 781件 | 13兆7860億円 | 20件 |
2017年 | 754件 | 7兆3316億円 | 14件 |
2016年 | 721件 | 12兆4308億円 | 20件 |
2015年 | 653件 | 5兆9090億円 | 11件 |
2014年 | 665件 | 3兆6237億円 | 7件 |
2013年 | 640件 | 3兆954億円 | 6件 |
2012年 | 748件 | 6兆8584億円 | 12件 |
2011年 | 680件 | 4兆8512億円 | 8件 |
(2019年1月18日時点)
武田薬品工業が2018年5月8日に発表したアイルランドの大手製薬会社シャイア―買収の約7兆円をはじめ、ルネサスエレクトロニクスによる米国の半導体メーカーIDT買収の7330億円、日立製作所によるスイスABBの送配電事業買収の7140億円といった具合に、大口のクロスボーダーが活発だったことが記録更新を牽引した。
2018年のM&A取引総額ランキング
取引総額 ランキング |
開示日 | 買い手 | 対象企業・事業 | 売り手 | 取引総額 (百万円)▲ |
---|---|---|---|---|---|
1 | 2018/5/8 | 武田薬品工業(株) | Shire plc | 株主 | 7,000,000 |
2 | 2018/9/11 | ルネサスエレクトロニクス(株) | Integrated Device Technology, Inc | BlackRock Fund Advisorsなど | 733,000 |
3 | 2018/12/17 | (株)日立製作所 | 送配電(パワーグリッド)事業 | ABB Ltd | 714,000 |
4 | 2018/1/31 | 富士フイルムホールディングス(株) | Xerox Corporation | Xerox Corporation | 671,000 |
5 | 2018/7/5 | 大陽日酸(株) | 欧州での産業ガス、炭酸ガス事業、ヘリウム事業 | Praxair, Inc. | 643,000 |
6 | 2018/10/31 | 三菱UFJ信託銀行(株) | Colonial First State Asset Management (Australia) Limitedなど9社 | Colonial First State Group Limited | 328,000 |
7 | 2018/10/23 | ジョンソン・エンド・ジョンソン | (株)シーズ・ホールディングス | 一般株主、創業家 | 230,000 |
8 | 2018/3/16 | 日本たばこ産業(株) | ドンスコイ・タバック | 個人1人 | 190,000 |
9 | 2018/12/19 | 大正製薬ホールディングス(株) | UPSA SAS | Bristol-Myers Squibb Company | 182,000 |
10 | 2018/10/31 | RenaissanceRe Holdings Ltd. | Tokio Millennium Re AGほか1社 | 東京海上ホールディングス(株) | 168,000 |
ちなみに1000億円以上の大型M&Aは20件あり、このうち19件がクロスボーダーであった。クロスボーダーの総件数は188件で、全体の24.1%を占めた。
これまでの最高は、件数では2017年の754件、金額では2016年の12兆4308億万円、1000億円以上の大型M&Aの件数は同じく2016件の20件であった。
件数、金額、1000億円以上の大型M&Aの件数はかつてない高い水準で推移しているが、2019年もこの調子で活況となるのだろうか。
2019年は「高値つかみ」に警戒感
日本に関してはその答えはYESともNOとも言える。日本企業は金余りの中、M&A投資を積極化しており、多くの企業が中期経営計画などで、M&A投資の実施を明記している。また、日本政府が中小企業の事業承継策の一つの方法としてM&Aを推進しており、税制改正をはじめとしたM&Aをしやすい環境整備が一層進む可能性もある。
一方で、市場関係者からはクロスボーダーを中心に「高値つかみ」を警戒する声が少なくない。武田薬品の買収金額約7兆円を筆頭に、買収金額が高騰する傾向をみることができる。
さらに世界のM&A動向をみると、活発なのはアジア地域だけであり、アジアが世界のM&Aをリードしている状況にある。欧米企業の業績の伸び悩みに伴い、企業売却にブレーキがかかれば、日本企業によるクロスボーダーM&Aにも影響がでるのは避けられない。
足元のデューデリジェンス(買収先企業の調査)の件数は増えており、当面は2018年の勢いのまま推移する可能性が高いが、2019年の後半は息切れする可能性は否定できない。日本企業の業績、欧米企業の業績によっては、ここ数年注目を集めてきたクロスボーダーを中心とする大型のM&Aは影を潜めるかもしれない。