記述情報の開示に関する原則(案)の公表

コーポレート・M&A

目次

  1. 開示原則の作成経緯
  2. 記述情報等の開示を取り巻く環境
    1. 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    2. WG報告、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議
  3. 開示原則の内容
    1. 位置付け
    2. 構成
    3. 総論の内容
    4. 各論の主な内容

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.159」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 金融庁は、2018年12月21日に「記述情報の開示に関する原則(案)」(以下、開示原則といいます)を公表し、2019年2月1日を期日としてパブリックコメントを開始しました。

開示原則の作成経緯

 開示原則は、財務情報及び記述情報の充実等を提言した金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(2018年6月28日公表。以下WG報告といいます。)を受け(参照:「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の概要」)、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実を図るため、企業が経営目線で経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報等を開示していく上でのガイダンスとしてとりまとめられました。
 開示原則の冒頭において、記述情報について財務情報以外の開示情報である旨の定義がなされています。

記述情報等の開示を取り巻く環境

企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

 「財務情報及び記述情報の充実」等に向けて、適切な制度整備を行うべきと提言した上記のWG報告を受け、有価証券報告書等の記載事項について見直しを行うべく、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が予定されており(参照:「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案の概要」)、記述情報の充実については2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用(※1)される見通しです。

(※1)2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等からの早期適用可

開示府令の全体像 記載が求められる主な事項
経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明を含めた記載を求める。
  • 経営方針、経営戦略等の内容の記載に際して、経営環境(※2)についての経営者の認識の説明を事業の内容と関連付けて記載
事業等のリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明を求める。
  • 経営者が財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載
会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載を求める。
  • 会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、特に重要なものについて当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載

(※2)企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等を例示

WG報告、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議

 WG報告は、「開示内容の充実を図る上でも、・・・・プリンシプルベースのガイダンスの整備・・・・が求められる。」としています。また、2018年11月に開催されたスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の配布資料でもプリンシプルベースのガイダンスの策定に言及されています(※3)。
 開示原則は、上記で言及されているプリンシプルベースのガイダンスに当たるものと思われます。

(※3)資料には「企業が経営目線で経営戦略・MD&A・リスクを把握・開示していく上でのプリンシプルを企業や投資家を交えて議論し、ガイダンスを策定」との記載がある

開示原則の内容

位置付け

  • 記述情報について、望ましい開示の考え方、開示の内容、開示に対する取り組み方をまとめたもの
  • 記述情報の項目は様々だが、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度ある建設的な対話につながる項目(※4)を中心に有価証券報告書における開示の考え方等を整理することが目的
(※4)経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報が例示されている

構成

 総論と各論から構成されており、総論は記述情報の役割及び記述情報の開示に共通する事項として求められる4つの考え方が示されています。また、各論では記述情報の各項目について法令上記載が求められている事項、考え方、望ましい開示に向けた取組みが示されています。

総論の内容

記述情報の役割 開示に際して求められる考え方
  • 財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能にする
  • 投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高める
  • 記述情報の開示は、企業が持続的に企業価値を向上させる観点から重要
  1. 取締役会や経営会議における議論を反映する
  2. 重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つ
  3. 適切な区分で開示する(セグメントごとの情報の開示)
  4. 分かりやすく記載する

各論の主な内容

(1)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

経営方針・経営戦略等
法令上記載が求められている事項 考え方 望ましい開示に向けた取組み
経営環境(※5)についての経営者の認識の説明を含め、事業の内容と関連付けて記載
  • 企業が事業目的をどう実現していくか、どう中長期的に企業価値を向上するかを説明するもの
  • 企業活動の中長期的な方向性、その遂行のために行う具体的な方策を説明することが求められる
  • 背景となる経営者の認識が説明されることが必要
  • 経営者が作成の早期の段階から適切に関与
  • 取締役会や経営会議における議論を適切に反映
  • 事業全体に加え、各セグメントの経営方針・経営戦略等の開示を期待
  • 各セグメントに固有の経営環境に関する経営者の認識も説明されることが望ましい

(※5)企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等を例示

優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
法令上記載が求められている事項 考え方 望ましい開示に向けた取組み
内容、対処方針等を経営戦略・経営方針等と関連付けて記載
  • 経営成績等に重要な影響を与える可能性があると認識している事柄を説明
  • 投資家は課題認識の適切性、経営方針・経営戦略等の実現可能性の評価が可能に
  • 経営方針・経営戦略等との関連性や取締役会等での重要性の判断を踏まえて記載
  • 課題決定の背景となる経営環境についての経営者の認識を説明することも考えられる
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
法令上記載が求められている事項 考え方 望ましい開示に向けた取組み
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(いわゆるKPI)がある場合、その内容を開示
  • ROE、ROIC等の財務上の指標のほか、契約率等の非財務指標も含まれる
  • KPIの開示により、経営方針・経営戦略等の進捗状況、遂行の困難度の評価が可能に
  • 目標の達成度合を測定する指標、算出方法、指標の利用理由を説明
  • 経営計画等の具体的な目標数値を記載することも考えられる

(2)事業等のリスク

法令上記載が求められている事項 考え方 望ましい開示に向けた取組み
経営者が財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクへの対応策を具体的に記載
  • 翌期以降の事業運営に影響を及ぼし得るリスクのうち、経営者の視点から重要と考えるものを重要度に応じて説明するもの
  • 投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載
  • リスクの記載の順序は、取締役会等における重要度を反映するのが望ましい

(3)経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(経営成績等)の状況の分析(いわゆるMD&A)

MD&Aに共通する事項
法令上記載が求められている事項 考え方 望ましい開示に向けた取組み
  • 経営者の視点による分析・検討内容を具体的かつ分かりやすく記載
  • 事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに経営者の視点による認識を記載
  • 経営者の視点による振返りが行われ、経営成績等の増減要因分析等を説明するもの
  • 投資家は経営方針・経営戦略等の適切性確認や将来の経営成績の予想確度向上が可能になる
  • 当期の主な取組み・当期実績についての評価等への経営者の評価を提供
  • 上記情報の提供に際し、KPIと関連付けた開示が望ましい
  • KPIに関連して目標数値が設定されている場合、達成状況の記載も考えられる
キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資本の流動性に係る情報
法令上記載が求められている事項 考え方 望ましい開示に向けた取組み
  • 資金調達の方法及び状況並びに資金需要の動向に対する経営者の認識を含めて記載
  • 経営方針・経営戦略等の遂行に際して必要な資金需要、資金調達方法、株主還元に対する経営者の認識を適切に説明することが重要
  • 投資家は経営戦略等遂行に当たっての財源の十分性等が判断可能になる
  • 投資家は成長投資、手許資金、株主還元のバランスや資本コストに関する経営者の考え方が理解可能になる
  • 資金をどの程度成長投資、手許資金、株主還元とするか、経営者の考え方を記載することが有用
  • 成長投資への支出は経営方針・経営戦略等と関連付けて説明するのが望ましい
  • 資本コストに関する企業の定義や考え方を説明することも有用
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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