金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の概要

コーポレート・M&A

目次

  1. 経緯
  2. 本報告の内容

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.154」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、ワーキング・グループといいます)は、平成29年12月より8回にわたり、企業情報の開示・提供のあり方について、検討及び審議を行ってきました。これらの検討及び審議を踏まえ、「ディスクロージャーワーキング・グループ報告ー資本市場における好循環の実現に向けてー」(以下、本報告といいます)が公表されました。本報告の内容を踏まえ、今後有価証券報告書等の開示内容の見直しが検討されるものと考えられます。

経緯

 平成29年6月に公表された「未来投資戦略 2017」において、「金融審議会において、・・・上場企業の経営戦略・ガバナンス情報等を含め、上場企業と投資家との建設的な対話等に資する情報開示の在り方について、幅広い関係者の意見を聞きながら総合的に検討」を行うことが示され、ワーキング・グループにおける議論が開始されました。

本報告の内容

全体像

項目 主な情報開示項目・提言内容
(1)財務情報及び記述情報(非財務情報)
  • 経営戦略、ビジネスモデル
  • リスク情報
  • MD&A(経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析)

(2)建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供

  • 役員報酬に係る情報
  • 政策保有株式
  • その他のガバナンス情報
(3)提供情報の信頼性・適時性の確保
  • 会計監査に関する情報
  • 開示書類の提供の時期
(4)その他
  • ITを活用した情報提供、EDINET等
  • 英文による情報提供

(1)財務情報及び記述情報(非財務情報)

①経営戦略・ビジネスモデル
現在の開示情報
  • 昨年3月末以後に終了する事業年度から、有価証券報告書で経営方針、経営戦略等の開示が求められている
課題
  • 企業の中長期的なビジョンに関する具体的な記載が乏しい
  • MD&Aやリスク情報との関連付けがない
提言内容
  • 企業の目的と経営戦略、ビジネスモデルについて、経営陣等が自らコミットしてその見解を示すことが必要
  • 経営戦略の実施状況や今後の課題も示しながら、MD&AやKPI、リスク情報とも関連付けて、より具体的で充実した説明がなされるべき
②経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
現在の開示情報
  • 本年1月に法令改正を実施。「経営成績等に重要な影響を与えた要因についての経営者視点による認識及び分析」、「経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的目標に照らし経営成績等をどう分析・評価しているか」の記載が必要
課題
  • 計数情報を記述しただけの記載、ボイラープレート(*)化した記載が多いとの指摘
提言内容
  • 資本の財源及びキャッシュ・フローに関する情報はどこからどのように資本やキャッシュを調達しているか、経営戦略の遂行上、資本やキャッシュをどのように設備投資や研究開発に振り分けていくのかといった情報が実効的に開示されるべき
  • 会計上の見積り・仮定は、投資判断・経営判断に直結するもの。経営陣の関与の下、より充実した開示が行われるべき

(*)「決まり文句」、「一様に見られる一般的な記述」等を意味すると考えられます。ワーキング・グループでは「判で押したようなボイラープレート」との発言がありました。

③リスク情報
現在の開示情報
  • リスク情報に関する開示制度は、2003年3月期から導入。事業の状況、経理の状況等の事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に分かりやすく、簡潔に記載することが求められている
課題
  • 一般的なリスクの羅列が多く、数年間記載に変化がない開示例も多い
  • 経営戦略やMD&Aとリスクの関係が明確でなく、投資判断に影響を与えるリスクが読み取りにくいとの指摘
提言内容
  • 経営者視点でのリスクの重要度の順に、発生可能性や時期・事業に与える影響・リスクへの対応策等を含め、企業固有の事情に応じたより実効的なリスク情報の開示を促していく必要がある

(2)建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供

①役員報酬に係る情報
現在の開示情報
  • 役員の区分ごとの報酬総額
  • 報酬種類別の総額
  • 対象役員の員数
  • 報酬等の額又は算定方法の決定に関する方針
  • 報酬総額1億円以上の役員等の報酬総額・報酬の種類別の額
課題
  • 固定報酬と業績連動報酬の構成割合、業績連動報酬の額の決定要因等が分かりづらい
  • 経営戦略の達成度と報酬のつながりが十分に説明されていない
開示を求めるべき事項
  • 固定報酬、短期・中長期の業績連動報酬それぞれの算定方法、支給割合等
  • 報酬の算定方法にKPI等の指標が関連付けられている場合、その指標と選定理由、業績連動報酬への反映方法や報酬総額等を決議した株主総会の年月日等
  • 報酬委員会がある場合にはその位置付け・構成メンバー等の情報、取締役会・報酬委員会の具体的活動内容等
②政策保有株式
現在の開示情報
  • 政策保有株式のうち、資本金の1%超の銘柄(30銘柄未満の場合は、保有額上位30銘柄)の銘柄名、保有株式数、貸借対照表計上額、保有目的
課題
  • 保有目的の説明が定型的かつ抽象的で保有の合理性・効果が検証できない
  • 保有に伴う効果が十分検証されず資本効率が低いとの指摘
開示を求めるべき事項
  • 開示基準に満たない銘柄も含め、売却・買増した政策保有株式について、減少・増加の銘柄数、合計金額、買増の理由等
  • 開示対象の拡大(開示対象となる銘柄数を増やすべきであるとの意見を勘案)
  • 純投資と政策投資の区分の基準や考え方
③その他のガバナンス情報
現在の開示情報
  • 企業統治の体制、政策保有株式の状況、役員の状況等を開示
課題
  • ガバナンス情報の総覧性を高める必要がある
  • 取締役会や委員会等の具体的な活動状況の記載を求めるべきとの指摘
開示を求めるべき事項
  • 取締役会や委員会等の構成(名称、人数、メンバー、社内・社外役員の別、委員長の属性等)、委員会等の設置目的、権限等を記載すべき
  • 議論の内容を含む取締役会や委員会等の活動状況は、具体的な活動状況の記載を求めるべき

(3)提供情報の信頼性・適時性の確保

①会計監査に関する情報
課題
  • 投資判断の基礎となる財務情報等の信頼性確保の観点から重要な情報であり、投資家に十分かつ分かりやすく提供される必要がある
開示されるべき事項
  • 監査役会等による監査人の選任・再任の方針及び理由並びに監査人監査の評価
  • 監査業務と非監査業務に区分したネットワークベースの報酬額・業務内容
  • 監査役会等の活動状況(監査役会等の開催頻度・主な検討事項、個々の監査役等の出席状況、常勤監査役の活動等)
  • 監査人の継続監査期間
②四半期開示
現状
  • 2006年の金融商品取引法制定により四半期報告が法制化(2008年4月施行)
  • 東京証券取引所は、四半期決算短信に係る上場規程等の見直しを実施。四半期決算短信をサマリー情報のみとする企業もみられるようになっている
海外の動向
  • 英、仏では四半期開示義務廃止。米国では四半期開示義務が継続
今後の方向性
  • 四半期開示制度について、見直すべきとする意見と維持すべきとする意見の両方がみられた
  • 現時点において四半期開示制度は見直さず、今後四半期決算短信の開示の自由度を高めるなどの取組みを進める

(4)その他

①ITを活用した情報提供、EDINET等
今後の検討事項
  • EDINETについて、タブレット端末等での閲覧に対応すべき
  • 金融商品取引法上の開示書類の縦覧期間の延長
②英文による情報提供
現状
  • 日経225構成銘柄の約9割の企業が英語版アニュアルレポートを作成する一方、有価証券報告書の英語版はほとんど作成されておらず、例えば政策保有株式に関する情報が海外投資家に十分知られていないという指摘がある
  • 海外投資家は必ずしも各企業のウェブサイトから英語情報を収集するわけではない
  • 海外投資家は情報ベンダー経由で情報収集するケースが多く、英語情報はEDINET等への掲載が情報ベンダーによる情報提供につながり、有効
実施すべき取組み
  • EDINET上の情報について、財務諸表本表や提出書類の見出しの英文化など、システム上で一定程度英訳を進める
  • 金融庁のウェブサイトでの有価証券報告書の英訳実施会社の公表や政策保有株式について自社のウェブサイトで英訳して公表することを促す
  • 企業が任意に有価証券報告書を英訳している場合、英訳された有価証券報告書をEDINETの英語サイトに掲載することを可能とする
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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