平成30年4月施行 フェア・ディスクロージャー・ルールの内容と実務上の留意点~ガイドラインを踏まえて~

コーポレート・M&A

目次

  1. フェア・ディスクロージャー・ルール導入の経緯と過程
    1. フェア・ディスクロージャー・ルール導入の経緯
    2. フェア・ディスクロージャー・ルール導入の過程
  2. フェア・ディスクロージャー・ルールの具体的内容
    1. 情報提供者(上場会社等またはその役員等)
    2. 業務関連性(業務に関して)
    3. 情報受領者たる「取引関係者」
    4. 公表の対象となる「重要情報」
    5. 公表の方法
    6. エンフォースメント(公表義務に違反した場合)
  3. 実務上の留意点と若干の論点
    1. 平時の情報管理体制の再構築
    2. 府令7条4号の「会合」と株主総会
    3. 守秘義務および売買等禁止義務の成否
  4. おわりに

フェア・ディスクロージャー・ルール導入の経緯と過程

フェア・ディスクロージャー・ルール導入の経緯

 我が国では、株式等の発行者(上場会社等)による適時の情報開示を求めるルールとして、金融商品取引法(以下「金商法」)による臨時報告書制度や、証券取引所規則による適時開示制度が整備されており、このほか、インサイダー取引規制や法人関係情報に関する規制など、情報管理にまつわる規制が存在しています。その一方で、発行者が、公表前における内部の重要情報を第三者に提供する場合に、他の投資家への公平な情報提供を確保するルールフェア・ディスクロージャー・ルール。以下「FDルール」)は、定められていませんでした。

 こうした中で、発行者の提供した未公表の業績に関する情報を証券会社が顧客に提供して勧誘を行ったとされる行政処分事案が複数発生したことや、欧米やアジアの主要国ではすでにFDルールが整備されていること等を踏まえ、我が国においてもFDルールが導入されることとなりました(導入の意義・目的等に関しては、金融審議会 市場ワーキング・グループ フェアディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告(平成28年12月7日)(以下「TF報告」)参照)。

 このように、FDルールは、我が国にこれまでなかったまったく新しい規制です。

フェア・ディスクロージャー・ルール導入の過程

 FDルールを定めた改正金商法、改正金商法施行令(以下「施行令」)および金融商品取引法第2章の6の規定による重要情報の公表に関する内閣府令(以下「府令」)は、以下の過程を経て、平成30年4月1日より施行される予定です。

 かかるFDルール導入の過程とは別途、一般社団法人日本IR協議会から、平成29年11月20日に「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)」(以下「行動指針」)が公表されています。この行動指針については、「日本IR協議会の「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針(案)」について」などで詳解されています。

フェア・ディスクロージャー・ルールの具体的内容

 今回導入されるFDルールは、上場会社等またはその役員等が、その業務に関して取引関係者に、未公表の重要情報を伝達した場合には、意図的な伝達の場合には同時に、意図的な伝達でない場合は速やかに、当該情報を公表しなければならない、というルールです(改正金商法27条の36)。

 以下、下線を付した要件ごとに、具体的な内容につき若干の解説を加えたいと思います。なお、特に断りのない限り、上場会社を念頭に解説します。

情報提供者(上場会社等またはその役員等)

 FDルールにおける重要情報の伝達主体である情報提供者は、以下のとおりとされています(改正金商法27条の36第1項)。

  1. 上場有価証券(株券等)の発行者
  2. 当該発行者が投資法人である場合の資産運用会社(当該発行者と合わせて「上場会社等」)
  3. 上場会社等の役員、取引関係者に情報を伝達する職務を行うこととされている代理人、使用人その他の従業者

 役員(取締役、会計参与、監査役、執行役員またはこれらに準ずる者。金商法21条1号1号)であれば、その担当業務のいかんを問わず、また社外役員であっても情報提供者となる点に注意が必要です。他方、従業者に関しては、取引関係者に情報を伝達する職務を行う者、たとえばIR部門や広報部門の担当者等のみが情報提供者となります。

業務関連性(業務に関して)

 FDルールが適用される伝達行為は、業務に関してなされる必要があります。業務そのものとはいえないものの、これと関連する行為(たとえば会食の席など)の中で取引関係者に向けた伝達行為が行われた場合に業務関連性が肯定されるか否かに関しては、GL等に明記はありませんが、インサイダー取引規制(金商法207条1項柱書)における業務関連性の議論(吉野弦太著「インサイダー情報の伝達等による法人処罰のリスクとその対応」旬刊商事法務2111号28頁等)なども念頭に、業務関連性があると扱うべきといえるでしょう。

情報受領者たる「取引関係者」

 FDルールにおける情報の受領者たる「取引関係者」には、情報受領者側の一般的な業務に着目した第1類型(改正金商法27条の36第1項1号、府令4条。証券会社、投資運用会社、登録金融機関、独立系のアナリスト等)と、当該上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受ける者の中で一定の立場にある者(改正金商法27条の36第1項2号、府令7条。当該上場会社の株主や機関投資家等)を対象とする第2類型とがあります(発行者の親会社や関連会社は、発行者の株主であっても、広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受ける者ではないと考えられています)(GL問6)。

 ただし、第1類型に関する例外として、重要情報の適切な管理のために必要な措置(府令5条)を講じている者において、金融商品取引業に係る業務に従事していない者(府令6条)は、「取引関係者」に該当しないとされています(改正金商法27条の36第1項1号)。たとえば、登録金融機関である銀行に、融資の申込みや、M&Aのアドバイザリー業務を依頼するにあたり未公表の決算情報を提供しても、当該銀行が上記「必要な措置」を講じている限りにおいて、当該決算情報の公表義務は課されないことになります。

 なお、取引関係者に伝達を行った場合でも、当該取引関係者が、法令または契約により、重要情報につき守秘義務を負い、かつ、当該上場会社等の株式等を売買等してはならない義務(以下「売買等禁止義務」)を負う場合には、公表義務は課されないこととされています(改正金商法27条の36第1項ただし書)。

公表の対象となる「重要情報」

 FDルールで公表の対象となる「重要情報」は、当該上場会社等の運営、業務または財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすものとされています。インサイダー取引規制における「重要事実」と、法人関係情報の管理等の規制における「法人関係情報」との関係は以下のとおりです。

情報名 内容 法令
インサイダー取引規制 重要事実 上場会社等の運営、業務または財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの 金商法166条2項
FDルール 重要情報 上場会社等の運営、業務または財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの 改正金商法27条の36第1項
法人関係情報の管理等の規制 法人関係情報 上場会社等の運営、業務または財産に関する公表されていない重要な情報であって、顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められるもの 金融商品取引業等に関する内閣府令1条4項14号

 このように、「重要情報」は、「重要事実」よりは広く、「法人関係情報」より狭い概念であることが分かります。したがって、インサイダー取引規制の対象となる「重要事実」は「重要情報」に該当しますが、GL等において、「重要事実」に該当しない以下のような情報について、「重要情報」への該当性が整理されています。

  1. 未公表の決算情報(年度または四半期の決算に係る確定的な財務情報)で、軽微基準(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令51条)に該当するもの
  2. →有価証券の価額に重要な影響を与える情報であれば、機関決定前であっても、また四半期の決算に関するものであっても、定量的なもののみならず定性的な情報であっても、重要情報に該当する。


  3. 中長期的な企業戦略・計画等に関する経営者との議論の中で交わされる情報(仮説や選択肢を含む)
  4. →原則:重要情報に該当しない。

    例外:公表を予定している営業利益・純利益に関する具体的な計画内容などが、それ自体として投資判断に活用できるものであれば、重要情報に該当する可能性あり。


  5. すでに公表した情報の詳細な内訳や補足説明、公表済みの業績予想の前提となった経済の動向の見込み、為替や市況関連のヘッジの有無や比率、外貨取引における調達通貨
  6. →原則:重要情報に該当しない。

    例外:たとえば契約済みの為替予約レートの関係に関する情報のような、その後の為替レートの数値と比較することで容易に今後の企業の業績変化が予測できるような、それ自体として公表されれば有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のある情報が含まれる場合は、重要情報に該当する可能性あり。


  7. 他の情報と組み合わさることによって投資判断に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、ただちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報(工場見学や事業別説明会での情報。いわゆるモザイク情報)
  8. →それ自体では重要情報に該当しないが、過去に提供された情報を一体として見た場合には重要情報に該当する可能性あり。

 もっとも、このような例示によってもなお、内部情報のうち何が「重要情報」に該当するのか判断に迷う場面も多いと思われます。この点に関しては、行動指針で一定の整理案が示されていますので、参考にされてください。

公表の方法

 重要情報を取引関係者に開示した場合には、原則的にはそれと同時に、以下いずれかの方法により、重要情報を公表しなければなりません(府令10条)。

  1. EDINETを利用して公表する方法
  2. 2つ以上の一定の報道機関に対して公表する方法
  3. TDnetを利用して公表する方法
  4. 自社のウェブサイトを利用して公表する方法

 ①~③は、インサイダー取引規制に関して用いられる公表方法と同一ですが、④自社のウェブサイトを利用できる点が相違点です。

 自社のウェブサイトを用いる場合には、たとえば「IR情報」というカテゴリーの中に重要情報を集約するなどしたうえで、無償かつ容易(会員登録が必要とされないなど)に、1年以上閲覧できるようにする必要があります。一定の条件の下、ウェブキャストを用いて公表する方法でも差し支えありません。なお、SNSでの公表は、ウェブサイトを用いる方法とはいえないと考えられています。

エンフォースメント(公表義務に違反した場合)

 上場会社等が公表義務に違反した場合には、行政から報告や資料の徴求、検査、公表の指示および命令を受ける可能性があり、虚偽報告、検査拒絶や命令違反等に対しては罰則(6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはその併科)もあります(改正金商法205条5号、6号、6号の5)。課徴金の対象ではありません。

実務上の留意点と若干の論点

平時の情報管理体制の再構築

 GLにおいては、どのような情報をFDルールの対象として管理するかに関して、以下のような整理がなされています(GL問2)。

  1. 独自の基準を設けてIR実務を行っているグローバル企業
  2. →その基準を用いて管理する。

  3. 日本のインサイダー取引規制に沿ってIR実務を行っている企業
  4. →当面は、重要事実に加え、決算情報であって、有価証券の価額に重要な影響を与える情報をFDルールの対象として管理する。

  5. 上記②の企業で、何が有価証券の価額に重要な影響を与える決算情報か判断が難しい企業
  6. →重要事実に加え、公表前の確定的な決算情報をFDルールの対象として管理する。

 なお、上記2-4②および③の例外部分に記載した情報に関しても、広く決算情報として管理が必要と考えられます(GLに対するパブリックコメント回答 No.1、2参照)。

 上記②および③の企業においては、平成30年4月1日の施行に合わせ、情報管理体制を見直す必要があります。IR実務を行っているセクションとは別に、経理財務を行っているセクションが社外への情報発信を担当している企業などは、特に留意が必要といえるでしょう。

府令7条4号の「会合」と株主総会

 株主総会は、府令7条4号所定の「上場会社等の」「情報を特定の投資者等に提供することを目的とした会合」に該当し得ると考えられており(GLに対するパブリックコメントの回答 No.26参照)、株主総会の場において、たとえば契約済みの為替予約レートなどの重要情報を出席株主に伝達した場合には、その情報を同時に公表する義務が生じることとなります。これまで、インサイダー取引規制の対象となる重要事実については、株主総会の場で安易に説明しないよう注意されていたと思われますが、FDルールの施行に合わせて、想定問答や総会後の対応(重要情報を伝達した場合の公表の体制等)を見直し、適切にシミュレーションしておく必要も出てきますので、ご留意ください。

 なお、株主からの質問に対する回答に、重要事実は含まれないものの、重要情報が含まれる場合に、そのことが取締役等の説明義務の例外を構成する事由(会社法314条ただし書、会社法施行規則71条各号。以下「拒絶事由」)に該当するか否かも問題となります。この点は今後の議論がまたれるところですが、インサイダー取引規制における重要事実と異なり、重要情報を知っても株式の売買制限などの権利侵害を伴うわけではありません。そのため、重要情報であるということだけでは、ただちに拒絶事由に該当するとはいえないと考えられます。他方で、当該重要情報が府令9条各号に該当する場合などは拒絶事由があると思われ、個別の情報ごとに、拒絶事由の有無を適切に判断する必要があるといえます。

守秘義務および売買等禁止義務の成否

 守秘義務と売買等禁止義務は、その双方が取引関係者に課されている場合に限り、上場会社等に公表義務が課されないこととなります。守秘義務等の発生根拠たる契約の方法は口頭でもよく、明文化されない黙示の合意や、商慣習上確立されている場合には、契約が成立し得ます(GLに対するパブリックコメントの回答 No.28参照)。

 情報の目的外使用を禁じる契約条項が売買等禁止義務の根拠となるか否かに関しては、一部議論があるところですが(池田賢生著「フェア・ディスクロージャー・ルール導入に伴うM&Aにおける実務上の留意点」マールオンライン277号参照)、必ずしも当該契約条項から売買等禁止義務が導かれるとはいえませんので、根拠とならないことを前提に、契約条項の作成や、既存の契約の巻き直し等を検討すべきといえるでしょう。

おわりに

 以上みてきたように、今回のFDルールの導入は、平時の情報管理・IRの実務のほか、株主総会や資本政策、M&Aの実務などにも一定の影響を及ぼすことになります。

 本稿が、上場企業等におけるルールの適切な把握と、施行日に向けた準備の一助になれば幸いです。

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