ISS、グラス・ルイスの議決権行使助言方針の改定について
コーポレート・M&A
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.148」の「特集」の内容を元に編集したものです。
ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)およびグラス・ルイス(Glass, Lewis & Co., LLC)が、それぞれ 2018年以後の議決権行使助言方針の改定について公表していますので、以下でご紹介します(本特集の内容は、英語版の議決権行使助言方針を当社が仮訳したものに基づいています)。
※本稿リリース後、以下の日本語版の議決権行使助言方針が公表されていますのでご参考としてご案内いたします。
グラス・ルイス「2018 GUIDELINES 日本語版」
【改定項目と適用開始時期】
改定項目 | 適用開始時期 | |
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ISS |
(1)指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化 |
2019年2月 |
(2)買収防衛策における総継続期間要件の導入 |
2018年2月 |
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グラス・ルイス |
(1)グループ会社内での役員兼務社数のカウント方法 |
2018年2月 |
(2)女性役員の登用 |
2019年2月 |
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(3)買収防衛策導入・更新時の取締役会の独立性 |
2018年2月 |
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(4)剰余金配当等の決定機関に関する定款変更 |
2018年2月 |
ISS
(1)指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社の取締役会構成要件の厳格化
本改定は、監督と経営の分離を志向する指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社にのみ適用されます。企業がこれらの機関設計を採用すること自体、経営者が監督と経営の分離を目指す意思と 解釈できるため、監査役設置会社よりも多くの社外取締役を求めることは合理的であること、コーポレートガバナンス・コードでは全ての企業に最低2名の独立社外取締役を求め、また機関設計を含む個々の企業の置かれた状況を勘案した上て3分の1以上の独立社外取締役の選任についても言及していることを改定の理由としてあげています。
なお、本改定では社外取締役の独立性は問わないこととしています。現在の日本のコーポレートガバナンスの状況で社外取締役の独立性を重視しすぎると、企業が資質ではなく独立性の確保に過度に注力し、弁護士、会計士、学識経験者などマネジメント経験の少ない人物のみに社外取締役への就任を求めることにつながりかねず、取締役会の多様性の観点から、社外取締役全員がそのような人物のみで占められることは望ましくないとしています。
(2)買収防衛策の総継続期間要件の導入
この助言方針の改定による新しい基準を含めた第1段階の形式基準を満たした場合に限り、第2段階の評価を行う。
ISS の助言方針では二段階で防衛策議案が評価されます。第1段階では形式基準に基づいて評価し、第1段階ですべての基準を満たした場合に限り、第2段階の敵対的買収に対する脆弱性など個々の企業 の状況を勘案した個別評価を行います。本改定は、第1段階に総継続期間に関する形式基準を追加する ものであり、第2段階の個別評価のアプローチを変更するものではありません。
ISSとしては、買収防衛策は特別な状況に対応するための、あくまでも一時的な手段であり、長期に わたる買収防衛策は経営者の自己保身と解釈されかねないと考えています。日本で現在導入されている 買収防衛策の 88%は導入からすでに9年以上経過していることもあり、本改定は、企業が買収防衛策 を当然のように更新する状況に対する株主の懸念を表明することが目的としています。
なお、2017年1月から現在までの株主総会で提案された買収防衛策議案のうち、ISSが現行の助 言方針に基づき賛成を推奨したケースは0件であり、本改定により、賛否の推奨が大きく変化することは想定されないとしています。
グラス・ルイス
(1)グループ会社内での役員兼務社数のカウント方法
グラス・ルイスは、上場企業で業務を執行する者(以下、業務執行者)が3社以上、または、業務を 執行しない者(以下、非業務執行者)が6社以上の上場会社にて、取締役または監査役を兼務する場合、 基本的に該当する取締役または監査役の選任議案に反対助言とするという助言方針を有しています。
ただし、兼務基準を超える兼務数を確認したとしても、兼務先がグループ会社内(連結ベース)の場合等は、例外的に、過剰な役員兼務を理由としての反対助言は控えるとしてきました。
本改定は、上場グループ会社での兼務はグループとして1社とカウントすることを明確にするものです。例えば、上場会社 A、B、C、D社で取締役または監査役をされている場合、A、B、C社がグルー プ会社であれば、兼務数は(A、B、C社)とD社の2社と数えることになります。
(2)女性役員の登用
グラス・ルイスは、取締役会は、多様な経歴を有し、その役目に適した経験を持つメンバーによって 構成されるべきであると考えており、構成メンバーを決定する際、取締役会または指名委員会は、当該 会社またはその業界との関連性などを考慮したうえで、候補者の決定をすべきであると考えてきました。ただし、多様性というのは、一般的に考えられる年齢、人種、性別、民族だけでなく、市場に対する知識、在職期間、文化などの様々な要件が含まれるとしています。
本改定は、2019年2月からですので、それまでは、ダイバーシティ自体を役員選任議案の賛否推奨で 直接考慮することはせず、従来どおり、ダイバーシティは考慮すべき要素の1つということになります。
また、グラス・ルイスは、女性役員の登用は、どの企業においても望ましいことですが、2019年は、原則、TOPIX CORE30とTOPIX LARGE70の100社を対象とし、翌年にはさらに対象を拡大するとしています。仮に、女性役員がゼロであっても、現在の状況、今後の方針などを説明・開示しており、 それが評価できる内容であれば賛成するとしていますので、女性役員がゼロの場合は、招集通知等で現 在の状況、今後の方針などを記載することが考えられます。
なお、女性役員には、女性の取締役、監査役または執行役が含まれますが、執行役員は含まれません。
(3)買収防衛策導入・更新時の取締役会の独立性
グラス・ルイスは、買収防衛策について、企業買収の機会を大幅に制限し、経営陣の説明責任を軽減させるものであり、買収防衛策はコーポレートガバナンスの向上にはつながらないものと考えるため、 取締役会への権限集中を避け、かつ株主の意見が尊重されると認められるいくつかの例外的事案を除き、基本的に反対助言とするとしてきました。
そして、具体的に考慮すべき要素の1つに取締役会の独立性を挙げ、これまでは取締役会の独立性が グラス・ルイスの定める基準を満たさない場合には反対助言の対象としてきました。本改定では、取締役会の独立性は過半数とし、この基準を満たさない場合、原則として買収防衛策議案に反対助言とすることとしています。
(4)剰余金配当等の決定機関に関する定款変更
グラス・ルイスは、定款変更議案について原則個別判断することとしていますが、企業の財務状況などを取締役会が把握していることから、取締役会を剰余金の配当等の決定機関とすることは原則として これまで問題視していなかったものと考えられます。
しかしながら、株主提案によって剰余金の配当等の決定を株主総会で決議することまでを明示的に禁止するのは取締役会に過度な裁量を与え、株主の権利に負の影響を及ぼすことになります。したがって、本改定では、剰余金の配当等の決定機関について、株主総会による決議を排除するように定める場合は、原則として反対助言とすることとしています。
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