タカタ倒産 - 今だから知りたい、民事再生と私的整理、会社更生の違いとは
事業再生・倒産
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6月26日、タカタは東京地方裁判所に民事再生手続の申立てを行なった。相次ぐエアバッグのリコール問題で経営が悪化し、私的整理により再建を図る方針を掲げていたが、ステークホルダー、スポンサー候補からの合意を得られなかったようで、民事再生による事業再建の道を選んだ。負債総額は約1兆7000億円、製造業として戦後最大となる倒産は大きく報じられ、今後の動向にも注目が集まっている。
では、今回タカタが選択した民事再生とはどのような手続きで、私的整理、会社更生とはどのように違うのだろうか。事業再生・倒産の実務に詳しい弁護士法人大江橋法律事務所の大江 祥雅弁護士に聞いた。
どのような状態を倒産というか
タカタの負債総額は1兆円を超えると報じられていますが、一般的に、どのような場合に倒産状態に陥ったと言うのでしょうか。
企業は多種多様な債務を負っており、債務ごとに約定されている支払期限等がありますが、約定を守って弁済を継続できるのであれば、たとえ1兆円の負債があったとしても倒産するわけではありません。
倒産状態という用語は慣用的な表現であり、明確な定義はありませんが、一般的には、破産や民事再生等の申立原因がある状態に陥ったり、手形の不渡りがあった場合など、経済的に破たんした状態を呼ぶことが多いと思われます。
タカタは民事再生を申し立てています。民事再生法においては、「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」または「事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」に民事再生を申し立てることができるとしています。「破産手続開始の原因となる事実」とは、支払不能または債務超過を言いますが、支払不能とは弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない状態を指し、債務超過とは債務合計が資産合計を超えている状態を指します。
タカタについても、このような民事再生の申立原因がある状態に陥ったことをもって、倒産状態に陥ったといってよいでしょう。
取引先が民事再生を申し立てた、取りうる対応は
取引先が民事再生を申し立てた際に取りうる対応について教えてください。
取引先が民事再生を申し立てると、取引先からは再生計画に従った弁済を受けることができるだけとなり、当面債権回収ができなくなります。
ただ、抵当権や質権などの担保権を有しており、かつ登記等の対抗要件を備えていれば、原則として担保権は民事再生による制限を受けませんので、競売などの手段を講じて債権回収を図ることができます。なお、再生会社は、通常、担保権者と協議をする必要性を理解しており、担保目的物の重要性、評価額などを考慮したうえで、和解的な解決が図られることが多いでしょう。
取引先に対して動産を納品している場合、特段の担保権を設定していなくても、売主は、動産売買先取特権という担保権を有していますので、この権利を行使して債権回収を図ることができます。ただし、取引先がすでに目的物を転売している、転売先から売買代金を回収しているなどの事情により、この権利を行使できない場合もあります。
取引先が民事再生などを申し立てた場合には、担保権の存否、その内容などを検討・確認する必要がありますので、速やかに倒産手続に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
私的整理、民事再生、会社更生の違いは
タカタの創業家は私的整理を求めていましたが、最終的には民事再生を申し立てました。経営者にとって、私的整理と、民事再生、会社更生でどのような違いがあるのでしょうか。
それぞれの相違の概略は、次のとおりです。民事再生や会社更生を申し立てたからといって当然に経営権を失うものではなく、また私的整理だから経営者が一切の責任を負わなくて済むというものでもありません。なお、後述のとおり民事再生は取引先に迷惑をかけますし、風評被害のおそれもありますので、通常、まずは私的整理ができないかを検討します。
私的整理 | 民事再生 | 会社更生 | |
---|---|---|---|
裁判所の関与 | なし | あり | あり |
対象となる債権者 | 通常は金融機関のみ。 | 金融機関に限らず、取引先なども対象となる。 | 民事再生と同じ。 |
経営権 | 継続して経営できる。 ただし、金融機関には長期分割弁済や一部債権カットを求めることになるので、経営責任を問われ、役員からの退任などを求められることがある。 |
原則:裁判所の選任した監督委員による監督などを受ける必要があるものの、継続して経営することが可能。 例外:粉飾決算があるなど自主的な経営が不相当であると認められる場合、裁判所の命令により管財人に経営権が移されることがある。 |
原則:裁判所の選任した管財人に経営権が移る。 例外:メイン銀行等が反対していない、粉飾決算等不正を行っていないなどの場合には、従前の経営者が管財人に選任され、継続して経営できる場合がある。 |
連帯保証責任 | 金融債務の連帯保証責任は、金融債務の一部カットが必要なときに顕在化し、私財の開示・提供などを求められることがある。 | 顕在化する。 特に取引先への連帯保証責任も顕在化するので、連帯保証人において破産などの必要性が高まる。 |
民事再生と同じ。 |
では、取引先にとっては、私的整理と、民事再生、会社更生でどのような違いがあるのでしょうか。
それぞれの主な相違は次のとおりで、取引先にとっては民事再生、会社更生と比べて私的整理の方が好ましいと言えます。なお、比較的少額な債権については、民事再生・会社更生においても全額返済を受けられる場合があり、債権額が高額であることが多い金融機関に比べて、取引先が保護されるケースがあり、タカタにおいても一部の取引先に全額弁済が提案されているという報道がなされています。
私的整理 | 民事再生 | 会社更生 | |
---|---|---|---|
債権回収 | 取引債務について、約定どおりの支払いがなされる。 | 申し立てた時点において存在する取引債務全部について、一旦弁済を受けることができなくなり、再生計画の中で平等に一部債権カット等がなされる。 | 民事再生と同じ。 |
担保権 | 約定どおりに取引債務が支払われるので、そもそも顕在化しない。 | 前記2のとおり、原則として担保権は民事再生による制限を受けない。 | 会社更生による制限を受け、原則として更生計画の中で担保評価がなされる。 |
信用不安 | 債務者は、原則、私的整理を行っていることを公表しない。 | 官報に掲載されますし、新聞などにも掲載されることがあり、一定程度の信用不安は不可避で、再生会社の事業価値毀損・規模の縮小による悪影響も考えられる。 | 民事再生と同じ。 |
民事再生を選択すべき場合と手続きの流れ
民事再生を選択した方が適しているのはどのような場合でしょうか。
前述したとおり、民事再生は取引先に迷惑をかけますし、風評被害のおそれもありますので、通常、まずは私的整理ができないかを検討します。
しかし、私的整理では取引債務について約定どおり支払うことが前提ですので、それができるだけの資金繰り・体力が必要になります。
また、私的整理は任意の交渉を行うもので、金融機関全員の了解が必要ですので、金融機関の一部が強く反対している場合においては、債権者数の過半数および債権総額の50%以上の賛成で再生計画が認可される民事再生を検討することになります。
スポンサーが支援を申し出ているケースでは、スポンサーから民事再生を求められることもあります。これは、法的手続の中で簿外債務のリスクを無くしたい、法的な裏付けのある形で事業承継を受けたいなどのスポンサーの動機によります。タカタの場合、巨額のリコール費用が発生したり、訴訟を起こされるなどしていたようで、簿外債務の総額が予測できず、私的整理ではスポンサーが支援をしにくいという側面があった可能性があります。
民事再生の選択は常に難しく、弁護士は十分に経営者などと協議して決断します。
タカタが民事再生法の申請をしましたが、どのようなプロセスで手続きは進むのでしょうか。リコール費用の肩代わりをしている自動車メーカーに対してどのような対応が取られるかという点についても教えてください。
民事再生の骨格は、債務総額を確定することと(債権調査と言います)、1兆円を超えるとも言われる膨大な債務について、どの程度の金額を、どのように返済するのかについて事業計画および弁済計画を策定し、それについて多数債権者の了解を得ることにあります。
タカタの場合、自動車メーカーとの関係でリコール費用の総額を確定する必要がありますが、そもそも該当車種全車両についてリコールがなされるとは限らず、将来分のリコール費用の確定は容易ではないようにも思われ、場合によっては訴訟等を経て確定しなければならないかもしれません。
タカタの再生計画の可決を得るうえにおいて、金融機関およびリコール費用を肩代わりしているという自動車メーカーは重要な債権者になると思われます。タカタは、1750億円でスポンサーに主要事業を譲渡する方向で調整しているようですが、主要債権者の理解を得られるよう、スポンサー選定過程、今後の事業計画などを説明していくことになると思われます。債権調査において自動車メーカーとの関係が悪化すると、再生計画の可決にも悪影響が出るおそれがあるので、タカタには一層慎重な対応が求められるものと思われます。

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