タカタ社の過ちから学ぶべきこととは何か

事業再生・倒産
片桐 さつき 宝印刷グループ 株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所

(写真:360b / Shutterstock.com)


 「タカタは自らの歩んできた道、進んでいく道に、大きな誇りと確信を持っています。これからも、タカタの挑戦に終わりはありません。」これは2017年6月26日に民事再生手続開始の申立てを行い受理されたタカタのwebサイトのトップページに「タカタの挑戦」として掲げられている文言だ。タカタ社は1933年滋賀県彦根市に繊維織物会社として創業、織物の技術を活かした救命索も製造していた。1960年には日本初の2点式シートベルトを開発・製造するなど、「人を守る」技術を根幹に成長を続け、今では自動車安全部品の世界第2位のメーカーまで上り詰めた。そのタカタ社がついに民事再生手続きを取ったのだ。負債総額は2016年度末時点で約3,800億円に上るとされているが、東京商工リサーチによると、自動車メーカーが一時立て替えているリコール分を含むと約1兆7,000億円に上る見込みだという。

 ここまで至った経緯を見ると、タカタ社の米国およびメキシコの工場で問題のあるエアバッグを生産、出荷。2004年ホンダ車に搭載されたエアバッグで初の不具合確認、2008年にホンダが米国で約4,000台をリコールした後、2013年には各自動車メーカーが世界で約400万台をリコールするまでに拡大する。しかしタカタが不具合を認めたのは2015年のことだ。ここまで社会問題化した要因はタカタ社の「消費者軽視とも取れる対応のまずさ」から、全てのステークホルダーの不信感が増大した事だろう。サプライチェーンマネジメントを怠り、徹底的な原因解明もしないまま、さらには社長の会見も後手となり説明責任すら積極的に果たそうとしない。一連の対応を見ていると、どこかタカタ社の「驕り」を感じてしまうのは自分だけであろうか。

 そして世間の注目を集めたまま、昨日27日に株主総会が開かれた。報道陣に非公開で行われた株主総会では、高田重久会長兼社長が株主に陳謝し、経営破綻に至った経緯を説明した、と伝えられている。タカタには3月末時点で25,113名の株主がいるが、「即刻辞任するべき」といった強い声も、約6割もの株式を高田氏ら親族が保有しているため、取締役6名の選任議案は議決に何ら影響を及ぼす事も出来ずに可決された。選任理由を見ると、概ね「豊富な知見、経験が今後の当社に有益であるため引き続き候補者とした」という記載ばかりだ。この期に及んでも総花的な選任理由を記載し、株主総会を対話の場とせず、通過儀礼のごとく済ませる経営陣に再建ができるのか、非常に疑問に感じる。

 ここで思いを馳せるのはタカタ社の従業員達だ。『私たちの胸には創業者の開拓者精神がある。人間の生命の尊さが私たちを駆りたてる。』これがタカタ社の企業理念であるし、新卒採用のサイトには『タカタではすべての仕事が「人の命にかかわる仕事」につながります。』と記載がある。社会にとって非常に有意義な企業である印象を持つ反面、webサイトで開示されているCSR(企業の社会的責任)情報の開示は少ない。ところが、CSRの専門書(東洋経済CSR企業総覧2017)には事細かにCSR情報が開示されている。タカタ社の見えない資産が垣間見えたため、再建を応援したい気持ちにもなる。しかし残念なのは、こうした見えない資産に関する情報開示が限られた人にしか発信されていないことだ。

 経営陣の驕りや鈍さ、短期的思考による取り繕いが、見えない資産の一つである「使命感を持って働く優秀な社員」のマインドを簡単に破壊する。タカタ社の場合は、さらに日本が誇る技術を海外に流出させる結果になった。世界トップクラスの技術に誇りを持ち、使命感を持って業務に勤しんでいた社員の心境を思うと、いたたまれない。

 不祥事が起きた時、いかに長期的視点を持って対応を検討し、且つ迅速に情報開示できるか。これは決してタカタ社の問題だけではない。グローバリゼーションが進む社会において、この問題を全ての企業が自分事として捉えるべき問題であろう。

本記事は、株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所が発行している「研究員コラム」の内容を転載したものです。

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