新型コロナによる資金繰りの悪化 対応のポイントは? - 事業再生手続も見据えて

事業再生・倒産

目次

  1. はじめに
  2. 新型コロナの事業環境への影響
  3. 新型コロナを踏まえた事業計画策定に伴う論点
  4. もう一歩踏み込んだ再生手法としての私的整理と法的整理
  5. さいごに

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」といいます)の流行、それを受けた緊急事態宣言下における自粛の長期化により、資金繰りの悪化や事業の再構築に直面する企業も多いかと思います。
 本稿では、そのような企業の視点に立ち、新型コロナを踏まえた事業計画策定に伴う論点について述べるとともに、より抜本的な再構築策として私的整理および法的整理(民事再生・会社更生)の概要について説明します。
 新型コロナという未曽有の事態を乗り越える一助となれば幸いです。

新型コロナの事業環境への影響

 今般の緊急事態宣言により、小売業・飲食業・ホテル旅館・ゴルフ場等の多くの事業では、売上が激減したにもかかわらず、賃料・人件費等の固定費支出が重く、資金繰りが悪化する事態が生じており、各種支出削減や経済産業省・金融庁による各種施策(融資・資金繰り支援策)活用等の資金繰り対策が不可避となっています。

 また、喫緊の資金繰り対策と並行して、「withコロナ」時代における事業方針・事業計画策定の必要性も高まっています。緊急事態宣言直後には、店舗を閉鎖し支出をできる限り抑える例も見られましたが、EC等の例外を除き収入のない「巣籠り」状態を長期間継続することは困難です。Withコロナ時代に向けた事業計画は、3密の回避策や非店舗事業の拡充など多岐に及びますが、いずれにおいても、人員・店舗体制等に関する権利義務関係の再構築が不可欠となります。

 そして、もう一歩踏み込み、新型コロナにより悪化した財務状況(BS上の資本負債のバランス)を抜本的に改善するための方法として、私的整理(基本的には金融機関が対象)、さらには民事再生・会社更生といった法的整理(買掛債務等の一般債権も対象)の検討が必要となる場面の増加も想定されます。

新型コロナを踏まえた事業計画策定に伴う論点

(1)賃貸借契約について

 賃貸借契約の内容は、賃貸人・賃借人双方の合意がない限り変更できないのが原則ですが、借地借家法(同法32条参照)において賃借人の賃料減額請求権が認められています。

 実際に賃料減額請求がなされた場合、判決により合理的な適正賃料が決定されます。ただし、賃料減額請求権は「形成権」であり、賃料減額を認める判決までの間、賃借人は現行賃料の支払義務を負います。そのため、仮に判決(または賃料減額合意)前に賃借人が一方的に現行賃料の支払いを拒んだ場合、賃貸人から賃料不払いによる債務不履行責任を追及される可能性がある点には留意が必要です。また、賃貸借契約によっては、賃借人の賃料減額請求権の放棄条項が規定されている場合もあるため、これにも留意が必要です。

 さらに、賃料については、緊急事態宣言を受け、取り急ぎ「緊急事態宣言後●か月間の賃料免除」の合意がなされた場合も多くあると思われますが、当該期間経過後は現行賃料に戻るのが前提となっており、新型コロナの長期化を踏まえた再度の条件協議が必要となりえます。

 なお、仮に賃借人が法的整理手続(後記4(2)で詳述)に至った場合、賃貸借契約は、概要、以下の通り、取り扱われます。

  • 管財人または再生債務者、更生会社が、契約解除または履行請求の選択権を有します。
  • 履行選択された場合、賃貸人の請求権は共益債権となります。申立した後の賃料も共益債権として随時優先弁済を受けることができます。
  • 解除された場合、解除による賃貸人の損害賠償請求権は一般債権(再生・更生債権)となり、法的整理におけるカット対象となります。また、法的整理手続申立前に発生済の未払賃料債権も一般債権となります。

(2)取引先・顧客との関係

 仕入先との関係については、営業縮小を踏まえ仕入量・条件の変更が行われている場合も多いかと思いますが、取引先によっては、新型コロナによる資金繰り懸念を背景に、保証金の積み増しを要求してくる場合も想定されます。資金繰りとの関係で、すべての取引先に対する保証金預託が困難な場合には、取引先の必要性に応じ、保証金を預託する取引先を限定するための交渉が必要となります。

 他方、顧客との関係においては、販売方法変更(EC拡大等)や新型コロナに配慮した営業体制(オンライン営業ツールの活用等)の構築が求められますが、3密を徹底的に回避した体制を確立することができれば、withコロナ時代における大きな集客力となり得るかと思います。

(3)金融機関との関係

 借入元本の負担が重い場合、金融機関に対し借入元本の返済猶予(リスケジュール)を申し入れることが考えられます。なお、リスケジュールの協議にあたっては、利息支払は通常通り継続するのが一般的です。
 緊急事態宣言下での緊急の弁済猶予については、後記の事業再生ADRや中小企業再生支援協議会といった公の枠組みを用いないケースも多いかと思いますが、その際にも金融機関の公平を確保するよう留意が必要です。
 他方、withコロナ時代における長期的な事業計画・返済計画の策定を図るためには、公の私的整理の枠組みを活用し、すべての金融機関の同意を得ていく手続が適切といえます。
 なお、資金繰りに悩む中小企業向けに、中小企業庁より新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール概要も公表されています。

(4)労働者との関係

 労働者との関係については、休業手当、人員削減、給与条件見直し、リモートワークを含めた労働環境改善等の様々な論点があり、資金繰り・業務状況・営業体制の変更に応じた検討が必要となります。
 なお、仮に法的整理手続(後記4(2)で詳述)に至った場合、従業員の給与債権については、以下の通り優先性が認められています。

  • 民事再生においては、従業員の給与債権について、再生手続開始後の労働債権は共益債権、それ以外は一般優先債権(民事再生法122条1項)となり、カット対象とはならず、再生手続外にて随時優先弁済を受けることができます。
  • 会社更生においては、開始決定前6か月間に生じた給与部分は共益債権(会社更生法130条1項)となり、当該共益債権部分を除く給与についても優先的更生債権として取り扱われます。なお、優先的更生債権については、更生債権者の2分の1以上の同意を得れば(実務上ハードルは高いものの)理論上はカット対象となりえます。

(5)その他

 世界規模での新型コロナの流行により、海外事業・海外子会社にも影響が及ぶケースが増えており、むしろ(相対的に感染者数等が少ない)日本よりも海外事業への影響が長期化する可能性も否定できません。

 日本企業が海外に完全子会社を有している場合、グループ間貸付や親会社への買掛債務(海外子会社が日本法人から商品仕入を行い、当該商品の買掛金を未払いのままにすることにより、実質的に日本法人が海外子会社の資金繰りを支援する場合)が存在する場合が多く想定され、海外子会社の再構築(米国Chapter15等の法的手続・裁判外での債務整理等)にあたっては、当該債権債務の取り扱いに留意する必要があります(たとえば、海外での再生手続申立直前に親会社の買掛金のみ優先回収することにより、いわゆる「否認権」に該当しうるリスクなど)。

 また、近年のスタートアップ企業のように、金融機関からの借入よりも、主に投資家からの出資により資金調達してきた企業については、資本政策の再構築や既存出資契約に関する株主との協議が必要となる場面も想定されます。たとえば、新型コロナの影響によりコベナンツにヒットする場合や(日本のベンチャー投資実務ではまだまだ所与の前提とされることの多い)創業者に対する株式買戻請求権が問題となる場面も想定されるため、ダウンラウンドの資金調達も含めた検討が必要となりえます。

 なお、融資や資金繰り支援等については、経済産業省や金融庁が主体となり各種施策を講じ、信用保証制度の強化、融資条件の緩和等の特例措置や設備投資等に関する補助、雇用調整助成金の特例措置等の各種支援策が続々と発表されておりますので、これらの活用も有効となります。(ご参考:経済産業省「経済産業省の支援策」、金融庁「新型コロナウイルス感染症関連情報」)

もう一歩踏み込んだ再生手法としての私的整理と法的整理

 上記のような各種施策により資金繰りや収益を改善してもなお、過大な債務を抱え経営難に陥っている企業については、一歩踏み込んだ抜本的再建策として、私的整理さらには法的整理(ここでは再建型の民事再生・会社更生について述べます)の検討が考えられます。

(1)私的整理

 私的整理とは、対象となる債権者(主に金融機関)と債務者の合意の下で行われる債務整理の手続をいいます。私的整理に関する公の枠組みとしては、中小企業再生支援協議会が関与する「協議会スキーム」や「事業再生ADR手続」があげられます。

 私的整理のメリットとしては、原則非公開の手続であり事業価値や信用力の毀損を最小化できる点、債務整理の対象債権者の選択が可能である点、商取引債権者が対象外である点等があげられます。そのため、現在の企業再生の実務では私的整理がスタンダートとなっており、下記のような事由が存在し私的整理による再生が困難な場合に法的整理が選択されているといえます(私的整理→法的整理の検討順序)。

 他方、私的整理は当事者間の合意に基づく手続であるため、すべての対象債権者(主に金融機関)の同意が必要です。そのため、法的整理を選択するケースの大部分は、資金ショート前にすべての対象債権者から同意を取得することが困難なケースといえます。その他、金融機関に対する元本返済をストップしてもなお商取引債権の弁済が困難な場合、経営者の粉飾等が発覚したことにより金融支援が困難である場合、多額の訴訟リスク等の偶発・簿外債務が存在する場合などには、一般債権を含めたリストラクチャリングが可能となる法的整理を視野に入れる必要があります。

(2)法的整理

 法的整理手続は、全会一致の私的整理とは異なり、法律で定められた一定数の債権者の同意が得られれば、再生計画・更生計画に基づく債権放棄等の効力を反対した債権者にも及ぼすことが可能となります(民事再生法172条の3第1項、会社更生法196条5項)。

 他方、私的整理とは異なり申立の事実が公になってしまいますし、たとえば小売業では、法的整理手続により取引債務等の支払を棚上げにしたことにより仕入が滞るリスクや、報道等により消費者の信頼が失われてしまう可能性があるため、法的整理手続申立には著しい事業価値毀損のリスクが伴う点には常に留意が必要です。

 法的整理手続のうち民事再生手続は、経営陣が続投できるDIP型を原則とするため、経営の連続性を維持しつつ迅速な再生を図りやすく、原則的な手続といえます。

 これに対し、会社更生手続は担保権者および優先債権者を手続に取り込むことができるメリットがあるものの、再生手続と比して手続が重厚であり時間を要します。一般的には、事業継続に不可欠な担保権者が強硬な場合、債権者申立である場合等には更生手続が相対的に適しているといえます。なお、近年ではDIP型更生手続の活用が広がったこと、管理型の民事再生手続の存在等により手続的には両者は接近してきているといえます。

さいごに

 以上の通り、本稿では、急激な業績悪化に直面した企業の視点に立ち、各論点について説明してきました。新型コロナの影響は、各種自粛の影響を真っ先に受けた小売・観光業等に留まらず、今後、サプライチェーン等への影響が懸念される製造業をはじめより幅広い業態に及んでいく可能性も否定できません。事業・財務構造は千差万別であり、各企業のPL・BS、担保権者・非担保権者の別、取引先の構成、さらには資金繰りの見通し(どこまで資金繰りが確保できるのかがタイムスケジュールを検討するうえできわめて重要となります)に応じ、どの選択肢をどの順序で実行していくべきかを検討していくことが肝要です。

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