コーポレートガバナンス・コードに対応した取締役会運営のポイント

第1回 改めて押さえておきたい取締役会の役割・責務と運営の全体像

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに
  2. CGコード下の取締役会の役割・責務(「守り」から「攻め」のガバナンスへ)
  3. CGコードに対応した取締役会運営
    1. 審議事項の絞り込み
    2. 独立社外取締役の活用
    3. 任意の仕組みの活用
    4. 審議の活性化のための各種方策
    5. 後継者の計画(プランニング)

はじめに

 「コーポレートガバナンス・コード」(以下「CGコード」といいます)の上場会社への適用が2015年6月1日より開始されました。これに伴い、上場会社においてはCGコードに対応した取締役会運営が求められることになり、すでに各社において実践されています。
 そこで、CGコード下での取締役会の役割・責務をおさらいしたうえで、これに対応した取締役会運営のポイントを概括的に確認していきたいと思います。

CGコード下の取締役会の役割・責務(「守り」から「攻め」のガバナンスへ)

 CGコードにおいては、次の3点が取締役会の主要な役割・責務としてあげられています(基本原則4)。

  1. 企業戦略等の大きな方向性を示すこと(原則4-1参照)
  2. 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと(原則4-2参照)
  3. 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと(原則4-3参照)

 これはCGコードが「上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す」ことを目的の1つとして策定されたことをふまえ(基本原則4「考え方」参照)、上記3点が取締役会に求められる基本原則として確認されています。
 従来の取締役会は、ややもすればリスクの回避・抑制や不祥事の防止に重点を置く傾向があったところを、CGコードは、「果断な意思決定を促す」とあるように、そういった縛りから経営陣を解放し、取締役会による適切なリスクテイクを促進しようということを打ち出したものです 1 。これは本格的なグローバル競争時代において、我が国企業のこれまでのローリスク・ローリターンの経営から脱却し「稼ぐ力」の向上のため、中長期的な収益性・生産性を高めることが重要であるとの背景のもと策定されたものです2
 つまり、CGコードは「守りのガバナンス」から「攻めのガバナンス」への転換を図ろうとしているものであり 3 、これからの取締役会は「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上」という、より大きな視点での議論に集中することが求められていると思われます。
 これらの基本的な視点をふまえ、CGコード下では実際にどのような取締役会運営が求められているか、以下、概観していきます。

CGコードに対応した取締役会運営

審議事項の絞り込み

(1)付議基準の見直し

 CGコードに沿って取締役会において上記の企業戦略の方向性や中長期的な視点の議論を行うためには、まずはこれまでの取締役会での審議事項を絞り込むことが考えられます。
 つまり会社にとって比較的規模や戦略性の小さいものは経営会議での意思決定や個々の取締役へ決定権限を委任することで、取締役会は会社の戦略的な方向付けに関わる議論により多くの時間を割くことができます。後述しますが、特に(その会社の事業の詳細を必ずしも十分に把握しているとは限らない)独立社外取締役も参加することが予定されている取締役会において、会社の戦略にあまり関わらない個別仔細な事項について審議を行うことは、独立社外取締役の有効活用という観点からもその効果を減殺するものといえます。
 したがって、取締役会の付議基準を見直し、審議事項の絞り込み・適正化を図ることがポイントとしてあげられます。

(2)機関設計の見直し~監査等委員会設置会社への移行

 もっとも、上場会社の多くが機関設計として採用する監査役会設置会社の場合、取締役会での審議事項の絞り込みを行おうにも、「重要な」業務執行の決定を経営会議や個々の取締役に委任することができません(会社法362条4項)。この「重要な」という言葉が曖昧であり、何が重要か否かの基準についても、会社の規模や業種等によって異なると考えられており4 5 、実際に現場において付議基準の見直しを検討しようにも判断が困難な場合が少なくありません。
 そこでこのような問題を解消する1つの方法として、機関設計として監査等委員会設置会社へ移行することが考えられます。監査等委員会設置会社では、①取締役の過半数が社外取締役である場合または②定款に定めを設けた場合は、一部の事項を除き、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができます(会社法399条の13第5項および第6項。移行企業の多くは定款に定めを設けています)。これにより付議基準の見直しを行う現場としては、会社の規模や業種等に照らして客観的に「重要」か否かという基準で委任の可否を迷う必要がなくなり、会社の自主的な判断基準で取締役への委任が可能となることから、取締役会での審議事項の絞り込みを行うことが実務上容易になります。

出典:「監査役会・監査委員会・監査等委員会とは

 この監査等委員会設置会社という機関設計は2015年5月1日施行の改正会社法において新たに認められたものですが、この2年近くの間に約3500社ある上場会社のうち約700社がこの体制への移行ないし採用を行っています 6 。指名委員会等設置会社のように各委員会の過半数を社外取締役が占めなければならないというまでの要請はなく、その一方で監査役会設置会社よりは(審議事項の絞り込みがしやすく)CGコード対応がしやすい 7 という意味で、今後もこの増加傾向は続くと思われます。

独立社外取締役の活用

 CGコードでは「独立社外取締役の役割・責務」(原則4-7)「独立社外取締役の有効な活用」(原則4-8)を定めるなど、外部人材である独立社外取締役が、その会社の取締役会における戦略的な方向付けの議論の活性化に貢献すると共に、独立・客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことに寄与する(原則4-3)という考えのもと、その積極的な活用を促しています。
 CGコードでは少なくとも2名以上の独立社外取締役の選任を求めており(原則4-8)、取締役会において「率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物」を選定するよう求めています(原則4-9)。また、CGコードでは取締役会の構成を「知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え」るよう求めているため(原則4-11)、独立社外取締役候補者についても、そうした既存の取締役とのバランスを考えて探索することになります。
 具体的な取組みの事例としては、自社が成長分野と位置付けている分野における専門家等の選任(その一方で自社と異なる事業分野における経験・見識を持つ経営経験者等の選任)や国際的な事業展開のためのグローバルな人材の選任などが報告されています8

任意の仕組みの活用

 CGコードでは、会社法が定める機関設計に加え、任意の仕組みを活用することにより、統治機能のさらなる充実を図るべきであるとしています(原則4-10)。
 これは監査役設置会社や監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達しない場合でも、たとえば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することにより、監査の場面だけでなく、取締役の指名・報酬等の場面でも独立社外取締役の関与や助言を得ることで、取締役会の機能の独立性や客観性、説明責任を強化することができるという考えのもと定められています(補充原則4-10①)。
 これらについても導入企業が増えています 9 。また、社外取締役でも社外監査役でもない社外有識者を諮問委員会に加える例もあります。

審議の活性化のための各種方策

 CGコードでは、取締役会での審議の活性化を図るため、次の取扱いの確保を求めています(補充原則4-12①)。

  1. 当日の資料が事前に余裕をもって配布されること
  2. 当日の資料以外にも必要に応じ会社から情報提供がされること(要点が整理・分析された資料の提供を含む)
  3. 年間スケジュールや予想される審議事項につき決定しておくこと
  4. 審議項目数や開催頻度を適切に設定すること
  5. 審議時間を十分に確保すること

 これらの取組みはCGコードの適用以前よりすでに各社にて工夫して行われてきたと思われますが、独立社外取締役の積極登用により一定数の外部人材が会議に参加するようになったこと、また、中長期的な企業戦略の方向性という比較的大きな議論に注力することになったことからすれば、これらの取扱いがより一層重要になっていると言えます。会社としては、取締役に対し適時に適切な情報提供を行えるよう、また取締役が適時に不足なく情報収集を行えるよう、人員面を含む支援体制を構築することが求められています(原則4-13。この実効性を確保するため、内部監査部門との連携確保、会社の費用負担で外部専門家から助言を得ることを許容することなどが要請されています(補充原則4-13③、4-13②))。

後継者の計画(プランニング)

 上記3-13-4のような取締役会の審議をより効果的かつ充実させるための仕組みといった視点とは少し異なりますが、CGコードでは取締役会に対し、最高経営責任者(CEO)等の後継者の計画について監督を求め(補充原則4-1③)、その選解任について、公正かつ透明性の高い手続に従うよう求めています(補充原則4-3①)。
 これは現在の競争環境下ではCEOの能力が会社の命運を左右すると言っても過言でないことから、CEO人材の育成および選任は、中長期的な観点から十分な時間と資源をかけて取り組むべきであり、取締役会はその計画を適切に監督すべきであるとされています。また、社内倫理のみが優先される不透明なプロセスによることなく、客観性・適時性・透明性を確保するような手続が求められています 10
 具体的な取り組みとしては、CEOの後継者候補を取締役会に呼んで議論に加わってもらう、社長指名の諮問委員会が後継者計画について毎年審議して取締役会に答申する、といった例が報告されています 11
 「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上」という目的からは、後継者問題は欠かすことのできない問題であり、この選定プロセスについても取締役会が適切に監督していくことが求められています。


 以上が、CGコード下での取締役会運営のポイントの概観となりますが、次回は、こうしたポイントをもとに行われた取締役会の実効性の分析・評価の方法につき確認したいと思います。


  1. コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議「コーポレートガバナンス・コード原案」(2015年3月5日)・序文。森本滋「取締役会のあり方とコーポレートガバナンス・コード」(旬刊商事法務No.2087・5頁) ↩︎

  2. コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会「コーポレート・ガバナンスの実践」(平成27年7月24日)1頁 ↩︎

  3. 森本滋・前掲(注1)・5頁 ↩︎

  4. 前田庸「会社法入門[第12版]」464頁(有斐閣、2009)。「重要な財産の処分」に関し最高裁平成6年1月20日判決・民集48巻1号1頁。 ↩︎

  5. 「会社の貸借対照表上の総資産額の1%に相当する額程度」を目安とするという見解もあります(東京弁護士会会社法務部編「新・取締役会ガイドライン」143頁(商事法務、2016)) ↩︎

  6. 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス情報サービス」を使って監査等委員会設置会社を採用する上場会社数を検索したところ694社が抽出されました(2017年3月17日現在) ↩︎

  7. 監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行する場合、社外監査役から社外取締役への横滑りが可能なため、少ない社外役員数で、CGコードの要求(2名以上の独立社外取締役の選任(原則4-8))を満たしやすくなるという消極的な理由も中には存在すると思われます。これについては議決権行使助言会社などから選任する社外取締役の人数の増加を求める動きもあります。 ↩︎

  8. 「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』意見書(2)」(平成28年2月18日)・4頁 ↩︎

  9. 注6の「コーポレート・ガバナンス情報サービス」を使って指名委員会または報酬委員会に相当する任意の委員会を設置する上場会社数を検索したところ647社が抽出されました(2017年3月17日現在) ↩︎

  10. 前掲(注8)・2~3頁 ↩︎

  11. 「コーポレート・ガバナンスの潮流と上場企業の課題(下)」(旬刊商事法務No.2101・28頁) ↩︎

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