2017年株主総会の留意点

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに
  2. 2014年改正会社法およびコーポレートガバナンス・コード
    1. 社外取締役の設置
    2. 監査等委員会設置会社への移行
    3. WEB開示
    4. 招集通知の早期発送・発送前開示
  3. 会社法制(企業統治等関係)の見直し
  4. 機関投資家の動向
  5. 想定問答のアップデート等
    1. 想定問答
    2. 不規則発言・動議対応等

はじめに

 2014年改正会社法への対応は、遅くとも2016年7月の定時株主総会までに対処する必要がありましたので、2017年に開催される株主総会について、2014年改正会社法を踏まえて初めて対応すべき事項はありません。
 また、証券取引所の上場規則に基づくコーポレートガバナンス・コードは、2015年6月1日の適用開始後、2016年の株主総会から本格的に適用が開始されましたので、2017年総会は、本格適用から2年目となります。
 したがって、2017年株主総会への対応は、基本的には、2014年改正会社法およびコーポレートガバナンス・コードの対応の見直しのほかは、近時の株主総会を巡る動向を踏まえた一般的な対応になると思います。
 そこで、以下においては、紙幅の関係もあり網羅的な指摘にはなっていませんが、①昨年の株主総会の動向を踏まえつつ2014年改正会社法およびコーポレートガバナンス・コードの対応の見直しのポイントについて触れたうえで、②株主総会に関する会社法改正の動向や③機関投資家の動向を紹介し、最後に④想定問答等についても若干言及したうえで、本年の株主総会の留意点としたいと思います。なお、本稿は上場会社を前提としています。

2014年改正会社法およびコーポレートガバナンス・コード

社外取締役の設置

 2014年改正会社法においては、上場会社に社外取締役の設置を義務づけることにはなりませんでしたが、事業年度の末日において社外取締役を設置していない会社は、当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明し(会社法327条の2)、かつ株主総会参考書類・事業報告にも同様の記載をすることが必要になりました(会社法施行規則74条の2、124条2項・3項)。
 この改正を踏まえて、すでにほとんどの上場会社においては社外取締役を設置済みですが、未設置の会社や、昨年度の株主総会は対応できたものの本年の株主総会では適切な社外取締役の候補者の確保が難しそうな会社においては、本年の対応方針を検討する必要があります。
 また、会社法上の「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務と直接に関連するものではありませんが、コーポレートガバナンス・コードにおいては、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきとされています(原則4-8第1文)。

 また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場企業は、その取り組み方針を開示するよう求められています(原則4-8第2文)。あくまで、各社が自主的な判断で3分の1以上の独立社外取締役が必要と考える場合にのみ取り組み方針の開示が求められており、必要と考えない場合にその旨や理由の開示を求められているわけではありませんが、社外取締役の複数化や多様性の確保は、引き続き多くの会社にとって検討課題だと思われます。

監査等委員会設置会社への移行

 上場会社へのアンケート結果を集計した「株主総会白書 2016年版」(商事法務2118号)(以下「株主総会白書2016」といいます)によれば、2017年以降の株主総会において監査等委員会設置会社への移行を検討していると回答した会社は1755社中20社(1.1%)にとどまっており、移行を検討した会社の多くはすでに移行済みであるように思われます。しかし、未定と回答している会社も324社(18.5%)あり、本年の株主総会で監査等委員会設置会社へ移行する会社は、ピークは越えたにせよ、引き続き存在するものと思われます。
 なお、機関投資家からは、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行することにより本当に監督機能の強化が図られているのかについて懸念の声も上がっており、議決権行使助言会社の一部においては監査等委員会設置会社に対するポリシーを厳格化することも検討された状況ですので(結果的には現在のところポリシーを厳格化する改正はされていません)、具体的な制度設計や社外役員の構成には注意が必要です。

WEB開示

 2014年改正会社法により、WEB開示が許容される対象が、計算書類の個別注記表に加えて、株主総会参考書類・事業報告書の一部株主資本等変動計算書にも拡大されました(会社法施行規則94条、133条3項、会社計算規則133条4項、134条4項)。「株主総会白書2016」によれば、2016年株主総会においては988社中960社(97.2%)が個別注記表について、同じく988社中936社(94.7%)が連結注記表についてWEB開示を利用しています。
 また、2014年改正会社法によって認められた株主資本等変動計算書および連結株主資本等変動計算書についても、988社中それぞれ283社(28.6%)および279社(28.2%)と多くの会社でWEB開示が利用されています。株主数の多い会社やWEB開示により削減できる情報量の多い会社ほどメリットが大きいので、特に大規模な会社においては、WEB開示の実施や利用範囲の拡大は検討に値するでしょう。

招集通知の早期発送・発送前開示

 コーポレートガバナンス・コードにおいては、株主が議案の検討時間を十分に確保することができるように、招集通知の早期発送や、招集通知の発送前のTDnetや自社ウェブサイトにおける公表が推奨されています(補充原則1-2②)。
 招集通知の物理的な発送には印刷や事務作業も必要ですが、ウェブサイトへの掲載であれば、原稿の校了段階から掲載が可能です。特に、株主総会シーズンに大量の会社の議案を集中して検討する必要がある機関投資家から招集通知の早期開示の要請が強く、これに応える手段として、招集通知発送前のウェブサイトにおける開示を実施する会社が増加しています。「株主総会白書2016」によれば、1755社中1472社(83.9%)が発送前開示を実施している状況です。発送前開示のタイミングは、発送日前日に開示している会社から1週間以上前に開示している会社まで様々ですが、今後も発送前開示の実施および、より早期の開示を検討・実施する会社は増加するものと思われます。

会社法制(企業統治等関係)の見直し

 2017年2月9日、法務大臣より法制審議会に対して会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する諮問が発せられたことを受けて、今後法制審議会において、株主総会に関する手続の合理化や、役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備、社債の管理の在り方の見直し、社外取締役を置くことの義務付けなど、企業統治等に関する規律の見直しの要否が検討されることになりました。
 これらの点については、公益社団法人商事法務研究会内に設置された「会社法研究会」においてすでになされている議論をベースに、今後、法制審議会において議論がなされるものと思われます。これらの議論が具体的に立法化される段階に至るには、まだ相当の期間を要しますが、本年の定時株主総会の対策を検討するうえでも、現行法における株主総会を巡る制度の問題点を把握するという意味では、一定の参考になると思われます。

機関投資家の動向

 主要な議決権行使助言会社であるISS(Institutional Shareholder Services)は、2017年の議決権行使助言基準について基本的には前年と同様の基準を踏襲していますが、唯一の変更点として、相談役制度に関するポリシーを改正しました。具体的には、「相談役」(「顧問」、「名誉会長」等、活動の実態がみえにくい名誉職的なポストを対象とします)ポストを定める旨の定款変更議案については、反対を推奨することになります。なお、ここで問題とされているのは、取締役の地位を有する相談役ではなく、取締役としての権利義務を一切有しない単なる相談役です。
 取締役の地位を有しない相談役はそもそも法律上の根拠のある役職ではありませんので、本来は定款において相談役の地位を定めることは不要です。昨今では相談役制度が不透明な役員人事や会計不祥事の一因なのではないかとの批判が高まっている中、すでに相談役制度について定款に定めのある会社はともかく、そのような定款の定めを有しない会社が相談役制度を導入するためにあえて定款変更をする実益はあまりありませんので、実際にはこのような定款変更を検討している会社は少ないと思います。したがって、このポリシーの改正が具体的に本年の株主総会に及ぼす影響は小さいと思いますが、主要な議決権行使助言会社がこのようなポリシー改定を打ち出したことは、改めて日本企業における相談役制度に対する機関投資家の厳しい視線を印象づけるシンボリックなものとして留意しておくべきでしょう。

 別の主要な議決権行使助言会社であるグラス・ルイスは、①監査役会設置会社の独立性基準についても「取締役会と監査役会の独立役員の合計人数の割合が、取締役と監査役の総人数の三分の一を占めるものとする」と改定し、監査役会設置会社・指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の別にかかわらず三分の一以上の独立役員を求めることになりました。
 また、②指名委員会等設置会社における指名委員会と報酬委員会の委員長社外取締役が務めるべきである旨改定し、③取締役・監査役の兼任数について、上場企業において業務執行をしている役員の場合には合計で3社以上、業務執行をしない役員が合計6社以上の上場企業で役員を兼務する場合には反対を推奨し(つまり上場企業の業務執行をしている役員であれば、1社までしか兼任を認めない)、④株式型報酬制度についても基準を厳格化する改定をしています。

 さらに、これらの本年からの改正に限らず、議決権行使助言会社の定める基準は、法令や上場規則に基づき開示が求められている事項や上場規則による独立役員の基準よりも厳格な場合がありますので、自社の議案や役員候補者の経歴やその開示内容が、これらの機関投資家の定める基準に適合していることが明確な記載になっているかについて、留意する必要があります。

想定問答のアップデート等

想定問答

 前述の通り、株主総会を巡る法制度については、2017年株主総会から初めて適用になるものはありません。しかし、株主からの質問に対する想定問答については、近時の社会情勢を踏まえてアップデートが必要かと思います。

 特に今年は、米国のトランプ大統領からSNSで一方的に批判を受けた企業が対応に追われるなど、米国の政治の動きに伴う海外事業への影響に、多くの株主は関心を持っているのではないかと思われます。
 また、今年の3月には、オランダで総選挙がありました。4月から5月にかけては、フランスで大統領選があります。これらの海外の政治情勢の動きを踏まえた質問に対して円滑に回答できるよう準備しておくことが望ましいと思われます。

 国内の情勢としては、現在「働き方改革」として議論されている従業員の残業時間制限の行方を踏まえた各社における取り組みや業績への影響、過労死・メンタルヘルス問題への取り組みについても、株主から質問がなされる可能性があります。女性の活用が叫ばれているにもかかわらず、保育園不足より子供を預けられないこと(いわゆる待機児童問題)から職場に復帰できなかったり十分な活躍ができなかったりすることも社会問題として注目されましたので、このような問題に対する企業としての取り組み姿勢についても、質問が予想されます。

 また、活動の実態が見えにくい「相談役」「顧問」「名誉会長」等の制度をすでに有している会社については、上述の通り厳しい視線が向けられており、これらのポストの意義について株主から質問が出る可能性がありますので、事前に対策をしておくべきであろうと思われます。

不規則発言・動議対応等

 昨年は、6月の株主総会シーズンの直前に、株主総会の会場において不規則発言を繰り返すことで有名な個人投資家が逮捕されたことから、上場会社における退場命令の発令件数が大きく減少しました。いわゆる「総会屋」自体は減少しているとはいえ、一部の特殊株主の動向については、当日の総会運営に影響がありますので、直前まで情報収集に努めるべきと思います。
 また、問題行動をする株主は、必ずしも総会屋や特殊株主に限られるわけではありません。個人投資家の質問には多少不明確な点があっても丁寧に応対すべきですが、一方で状況によっては毅然とした対応をとらないことがかえって出席している他の一般株主にとって迷惑な場合もあります。万が一不規則発言やマイクを手放さない等の問題行動があった場合における退廷命令やマイクのスイッチを切る等の対応については、改めてリハーサルや想定シナリオにおける確認をするべきでしょう。

 さらに、株主総会当日に手続的動議や議案の修正動議がなされた場合の対応についても、本年の株主総会に特有の準備事項ではありませんが、再度確認しておくべきでしょう。必ず議場に諮るべき手続的動議についての詳細は、「株主総会議事録の記載例(動議が提出された場合)」をご覧ください。

 修正動議については、株主提案の形で事前に役員の選任・解任提案がなされた場合(「株主総会白書2016」によれば、役員の選任・解任を内容とする株主提案は増加傾向にあるとのことです)以外にも、会社提案による役員選任議案に対する修正動議の形で、総会当日に株主の議案提案権が行使される場合があります。取締役選任議案に対する修正動議への対応は、提案の内容によってかなり複雑ですので(詳細は「取締役選任議案に関する修正動議への対応方法」をご覧ください)、総会当日に議長が適切に対応できるように、対応方法を確認しておくことが望ましいと思います。

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