法務のAI活用の現在地
第1回 スマートバンクに学ぶ1人法務のためのClaude Code活用法
法務部
目次
とにかくやることが多い1人法務。契約書審査、法務相談など常にタスクに追われますが、手を動かせるのは自分だけです。
株式会社スマートバンクの池畠氏は、そんな1人法務であるからこそ、Claude Codeを使って業務の自動化に取り組んでいるといいます。
「今はもう、AIがないとこのペースでは仕事をさばけないかもしれない」とも語る池畠氏は、ハルシネーション(もっともらしい嘘)など、AI活用の課題をどのように乗り越え、業務を自動化しているのか。業務の自動化の先に、仕事内容はどう変わったのか。契約書審査や法令検討、当局対応まで、1人法務のAI活用の実情について話を伺いました。
| 会社名 | 株式会社スマートバンク |
| 事業内容 | プリペイドカード・支出管理サービス「ワンバンク」の提供 |
| 設立 | 2019年4月 |
| 従業員数 | 約70名 |
| 法務部門の人数 | 1名 |
| 法務部門の所管業務 | 契約書審査、サービスの法令検討、金融庁対応ほか |
金融規制対応を担う1人法務がClaudeを導入した理由
まず、ご経歴と現在のご担当について教えてください。
スマートバンクに参画したのは2024年7月です。それ以前は関東財務局で、前払式支払手段発行事業者(キャッシュレス決済事業者)の監督業務を担当していました。現職ではその経験を活かし、資金決済法を含む法務コンプライアンス全般を担当しています。
当社は資金移動業と前払式支払手段発行者のライセンスを保有しており、私の業務内容もライセンスの新規取得やサービスの法令検討、マネーロンダリング防止体制の構築などの比重が大きいです。
これらの業務を1人でこなしているので、業務効率化は不可欠であり、AI活用は避けて通れないテーマでした。
その1人体制のなかで、どのような業務にAIを活用されていますか。
主に4つです。契約書審査、法令検討の資料作成、社内外の情報収集、そして当局に提出する報告書の作成です。
いずれも、これまでは1から自分で手を動かしていた業務でした。契約書であれば読み込んで論点を拾うところから、法令検討であれば調べてドキュメントに落とし込むところまで、すべて自分でやっていた。1人ですから、どれかに時間をかけている間は、ほかが止まってしまいます。
使われているAIツールを教えてください。
Claudeです。いま挙げた4つの業務は、すべてClaudeで動かしています。
Claudeにはいくつかの使い方があります。質問して回答をもらうチャットのほかに、依頼した作業をClaudeが手を動かして最後まで進めてくれる、いわば「作業を任せられる」Coworkという機能。そして、ターミナルで動作するClaude Codeです。私が主に使っているのは、このClaude Codeです。
社内でのAI活用の状況から教えてください。
弊社は、業務でのAI活用を積極的に進めている会社で、非エンジニアもAIを使って日々の業務をこなしています。
Claude Codeに関しては、社内のエンジニアが先行して使い始めて、その効果や使い方の知見が社内で共有されていく流れがありました。
そこから法務やバックオフィスにも広がっていった、というのが大まかな流れです。
そのなかで、池畠さんがClaude Codeを使われるようになった経緯を教えてください。
はじめはCoworkを使っていました。ただ、AI活用を進めていくなかで、操作範囲の制約が気になるようになりました。
Claude Codeには、Macのターミナル版(黒い画面に文字の指示を打ち込んで起動するもの)と、デスクトップ版のアプリがあります。
私はターミナルのほうを使っていますが、今回ご紹介する活用方法の多くは、作業の過程や画面の仕様は異なるものの、デスクトップ版でも再現できます。
Claudeは「スキル」という機能も特徴的だと伺いました。
「スキル」は定型的な業務を自動化する機能で、業務の手順をテキストで定義したものです。
一度スキル化してしまえば、毎回同じ品質のアウトプットが再現できます。たとえば「契約書の審査を行ってください」と指示すれば、スキルを読み込んで実行してくれます。
スキルの作成自体も、作業の過程を伝えればClaudeが作ってくれます。直したい部分もその場で伝えれば修正してくれるので、調整しながら完成版に近づけていけます。これから紹介する業務の多くも、スキル化しています。
業務データ等のAIへの入力にあたっては、全社共通のAI活用ガイドラインに留意しています。
具体的には業務情報をレベルで区分けし、ツールごとにどのレベルの情報を読み込ませてよいか定めているため、AI活用ガイドラインのルールの範囲内でAI活用を行っています。
AIによる契約書審査自動化はレビュー要領が肝。参考にした書籍とは?
Claudeを使ってさまざまな業務を効率化されているようですが、まずは契約書審査について教えていただけますでしょうか。
Claude Codeに「契約書審査をお願いします」と伝えると、契約書を読み込み、事前に渡してあるレビュー要領に沿って審査し、審査結果と修正案を出力するようにしています。
契約書の読み込みでは、まず契約書の種類を判定させます。NDAなのか、業務提携契約なのか。そのうえで、複数あるレビュー要領のうちどれを使うかをClaude Codeが判断して取得してきます。
ポイントは、このレビュー要領の作り込みです。契約類型ごとに、あらかじめ審査項目を設定してあります。こうすることで、自社の審査基準に沿ったレビュー案を作成しやすくなります。
実際のアウトプットの様子は、YouTube動画で公開しています。

レビュー要領はどのように作成したのでしょうか。
社内でレビューの基準が文書化されていたわけではないので、書籍を参考に自分で作りました。参考にしたのは2冊です。
1冊目は幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』です。レビューのポイントがわかりやすくまとまっていて、あまり複雑な契約書でなければ、この1冊でかなり対応できます。
2冊目が、阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式』です。契約類型ごとに着眼点が細かく書かれているので、細部はこちらを参考にブラッシュアップしていきました。
自動化を進めるなかで工夫が必要だった点はありますか。
審査結果の出力形式に細かい調整が必要でした。
出力形式を定めない状態だと、アウトプットにばらつきが生じてしまい、私がチェックする際のスピードが落ちてしまいます。
最終的に、審査結果と修正案の2つに分けて書き出されるようにしました。審査結果には、着眼点ごとに根拠条文と、レビュー要領に照らしてどう判断したか、そして、どのように修正を検討すべきかが並びます。

着眼点ごとに根拠条文と判断まで並んで出てくるわけですね。取引先ごとの事情までは織り込めますか。
そこは取引先との関係やサービスの特性を踏まえた検討になるので、私が見ます。AIに任せているのは、契約類型として「ここは絶対に見落としてはいけない」というポイントの審査までです。ここは人間が見ると見落としが出ますが、AIは長い契約書でも拾ってくれます。
ただ、出力結果はあくまで一次審査のドラフトであり、それをもとに最終的な法的判断や修正の決定を行うようにしています。
契約書の内容やボリュームにもよりますが、1件あたりの審査時間は数十分程度は短縮されました。
契約書はフォーマットが多様なので、自力での審査ですと審査項目ごとにどこに記載があるか都度探し出す必要があります。一方、AIはフォーマットに関係なく、審査項目ごとの評価を短時間で出力してくれるので、契約書審査に使う労力や時間はかなり削減されました。
AIの論理構成能力を法令検討の資料作成に活用
他には、法令検討にもClaude Codeを活用しています。
具体的には、新規サービス・機能等について、事業部から法的に実装可能か相談を受け、法的リスク・規制の有無、実現のための条件や論点を調査・分析し、整理した資料を作る業務ですが、これまでは上記の作業をすべて1人で一から実施していました。
調査に時間がかかるのはもちろん、論理構成を組み立てて文章に落とし込む作業まで含めると数日にわたることもあり、非常に負荷の高い業務でした。
この業務の自動化は、あらかじめある程度AIを誘導しながら作らせるところがポイントだと考えています。
ゼロから「このような事案について法令上どう判断するか」と聞くと、ハルシネーションによって間違った結論や存在しない条文を示してしまうことがあるからです。
そこで、先に結論の方向性と根拠条文を渡してしまい、その方向に沿って論理構成を整理させています。
あとは、出力されるドキュメントの構成もあらかじめ指定しておき、根拠条文の全文とe-Govへのリンクが付くように指示することもポイントです。
アウトプットの質はいかがですか。
結論に対する整理は、非常にうまいと感じています。私が書くよりもきれいに書ける部分もあります。
一方で、こちらが指定していない根拠条文まで出してくることもあり、そこはきちんと確認しなければいけないところです。
ただ、AIの精度が向上していることもあり、各ドキュメントの9割くらいはAIが作成したものになっているように思います。私はアウトプットの確認と多少の手直しに時間を使うだけになり、1件あたりのドキュメントの作成時間は数時間程度削減されたと思います。

情報収集や金融庁への報告義務対応にもAIを活用
他にも、情報収集に活用しています。競合他社のリリース情報、当社に関わる官公庁の新着情報、法務関係メディアの発信を、指定した時間に収集して1か所にまとめてくれます。
以前は全部回ると10〜15分かかっていましたが、今は1か所にまとまった情報をスクロールしながら、気になったものにアクセスするだけなので、かなり時間が短縮されました。
また、当局に提出する報告書の作成にも活用しています。我々は資金移動業と前払式支払手段発行者のライセンスを取得しているので、定期的に事業の状況等を当局に報告する義務があります。
毎年決まった時期に、膨大な数の質問項目に回答するのですが、前年の回答を今年の実績値に書き換えていくだけでも大変です。加えて、当局から届く質問事項は、前年とまったく同じとは限りません。
そこで、この作業をスキル化し、当局から届いた質問事項と前年の回答を自動で照らし合わせ、転記可能なものを転記。さらに質問の差分も検出したうえで、過去の報告内容や社内情報をもとに回答案を作成します。
ポイントは、報告書を作成させるだけでなく作成メモも残させることです。転記が何件、新規の質問はどこか、その回答根拠は何か、未入力の項目や数値の更新が必要な箇所はどこか。これによって後の確認作業が楽になります。
1人法務の工夫とAIに任せない領域
契約書審査から法令検討、情報収集、当局への報告まで、かなりの範囲でAIを活用されていらっしゃいますね。これらの作業をAIに任せる上で、1人法務ならではの工夫はありますか。
「マルチタスク思考」と「AIを部下にすること」の2点です。
人間が同時に行える業務は、基本的に1つです。特に私は1つのことをやり始めると、区切りのいいところまで行きたくなって、なかなか切り替えられない。それが業務の進め方にも影響していました。
そこで、自分にAとBのタスクがあるとしたら、Aは私が、BはAIに進めてもらう。2つを同時に走らせることで、どちらも滞らないようにする。これが1人法務ならではのポイントだと思っています。
自分とAIで、2つのタスクを並走させるということですね。逆に、AIに任せない業務については明確に決めていますか。
明確に線を引いています。AIに任せるのは、最初の叩き台を作る一次作業の部分です。一方、最後の法令との突合と、法的判断は自分でするようにしています。
これは当社が2025年に定めた、法務業務における「AI活用の心得」にも表れているところです。

1つ目は、回答はかならず法令で裏付けを取ることです。AIにはハルシネーションが含まれている可能性がありますし、そもそもAIが出力した情報は二次情報でしかない。法務が判断する拠り所は当然ながら法令であるべきだと考えています。
2つ目は、AI時代においても不断の知識・経験の習得に努めることです。専門書に書かれた法令解釈など、AIがアクセスできない情報がかならず存在します。有益な参考書籍はいっぱいあるのですが、そのなかにはAIの手が届かないものや拾ってくれないものがあると思います。私の経験上、そういったものが事業判断の拠り所になることがあります。
3つ目は、事業への理解を怠らないことです。法務担当には、事業戦略や経営の観点を踏まえた判断が求められることも多くあります。AIはそういったバックグラウンドまで理解しながら回答を判断することが難しい場面が出てきますので、法務担当がそこもカバーしつつ業務に取り組んでいく必要があるのかなと思っています。
AIで1人法務の業務はどう変わる?
AIの活用によって、ご自身の業務内容にはどのような変化がありましたか。
定型的なタスクに充てる時間は非常に少なくなりました。その一方で、全体の業務時間自体は減っていない感覚があります。
AIによって空いた時間を、事業部からの法令照会への対応や、マネーロンダリング対策のようなコア業務に充てられるようになったということです。今はもう、AIがないとこのペースではさばけないかもしれない、という実感があります。
事業部門の方々からも、日々の照会に1人で対応していることにお褒めの言葉をいただくことがありますが、業務にAIを積極的に取り入れることで、そのような評価をいただけていると思います。
時間は減らないが、中身が入れ替わっているということですね。そうしたなかで、AI時代の法務の仕事はどのように変化すると思われますか。
よく「法務は要らなくなるのではないか」という類のことを聞きますが、私はそうはならないと思います。
AIのアウトプットであれ何であれ、法務担当が法令と突合して確認するプロセスは、今後もなくならないと思っています。
一方で、法務へのAIの浸透度によっては、組織体制の見直しや採用計画の見直しは起こりうると思います。
法令と突合するプロセスは残る一方で、組織のかたちは変わりうる、ということですね。そのなかで、若手の方はどう振る舞っていくとよいでしょうか。
いろいろな経験を積んで、AIのアウトプットを検証する力を養うことが必要になると思います。具体的には、専門書に書かれた法的解釈、事業部の現場感覚、業界の慣習といった、AIがタッチできない領域が大切になるのではないでしょうか。
たとえば私は、自社のビジネスモデルや過去の検討経緯を踏まえ、「前回はこう検討したから、今回もこうなるはずだ」と、連続性を持って判断できることがあります。これはまさにAIでは代替できない経験だと思っています。
経験に裏打ちされた判断の連続性は、AIには代えにくい部分だということですね。最後に、今後取り組みたいことを教えてください。
2つあります。1つは「さらなるAI活用のための土台構築」です。AIに任せられる範囲を広げようとすると、AI自体の性能に加え、周辺のデータ環境や連携の仕組み、判断基準の整備が重要になってきます。
現在は、「業務手順や判断基準のスキル化」「社内外データの自動収集」「暗黙知の言語化」の3つに取り組んでいます。
もう1つは「AIで自分の分身を作る」ことです。前職・現職を通じて培ってきた自分の経験を言語化して、AIに落とし込み、判断の助けもしてくれるようになれば、業務の質はさらに上がると思います。
本日はありがとうございました。