物流特殊指定・優越ガイドライン改正と製造委託等代金支払特殊指定の解説 取適法適用対象外の取引も規制対象に
競争法・独占禁止法
目次
2026年3月12日に、公正取引委員会は、「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(告示)や「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(告示)の改正案、優越的地位の濫用に関するガイドラインの改定案等、新たな規制案を公表しました 1。
これらの規制案は、物流委託に関する商慣習の問題に対応するための規制強化、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁の環境整備や支払条件の適正化を目的として、新たな取引上の規制や指針を設けるために作成されました。
2026年6月には、パブリック・コメント手続の結果も踏まえ、これらの成案が公表され、このうち上記2つの告示は2027年春頃に施行となる見込みです 2。実務に大きな影響を与え得る一方で、準備期間は決して十分に長いとはいえないため、専門家の助力も受けつつ、優先順位を付けて対応していく必要があるでしょう。
本記事では、新たな規制案によって企業の取引現場においてどのような影響があるか、今後どのような点に留意すればよいか、概要とポイントを解説します。
取引適正化に向けた新たな規制案の概要
公正取引委員会が公表した規制案は以下のとおりです。今回の規制案は、物流特殊指定と優越ガイドラインを改正・改定し、製造委託等代金支払に係る特殊指定を新設するものです 3。
| 現行の告示等 | 新しい告示等の案 | ||
|---|---|---|---|
| 正式名称 | 本稿での略称 | 正式名称 | 本稿での略称 |
| 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法 | 物流特殊指定 | 「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」改正案 | 物流特殊指定改正案 |
| (新設) | − | 「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」案 | 製造委託等代金支払に係る特殊指定案 |
| (新設) | − | 「『製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法』の運用基準」案 | 製造委託等代金支払に係る特殊指定の運用基準案 |
| 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方 | 優越ガイドライン | 「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」改定案 | 優越ガイドライン改定案 |
これらは、いわゆるサプライチェーンにおける取引適正化の流れの一環であり、2026年1月1日から全面施行となった取適法(正式名称:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)の趣旨と通底するところがあります。
これらの規制案のうち、「物流特殊指定改正案」は物流委託に関する商慣習の問題に対応するための規制強化であり、ほか3つの告示等の案は、サプライチェーン全体での支払条件の適正化・適切な価格転嫁に向けた規制強化です。以下、この2つの規制強化に分けて解説します。
物流委託に関する商慣習の問題に対応するための規制強化
取適法との整合を図り、また、物流委託に関する商慣習上の問題に対応するため、物流特殊指定の改正が行われます。
物流特殊指定改正案の内容
物流特殊指定改正案の主なポイントは次のとおりです。
- 手形払い等の禁止
- 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
- 着荷主による一定の濫用行為の禁止
- 規模要件として従業員基準の追加
このうち、①②④は、下請法から取適法への改正の際に入った規律と同様です。物流特殊指定は、荷主(発荷主)から物流事業者に対する運送委託または保管委託の際に、一定の行為を禁じています。取適法でも、特定運送委託に該当する取引については、荷主(発荷主)から物流事業者に対する濫用行為が禁じられています。今般の①②④の改正点は、趣旨を同じくし、また適用対象が重なり得る物流特殊指定と取適法について、禁止行為および適用要件(事業者規模に係る要件)の内容を整合させたということになります。
これに対し、③は、物流業界の取引の適正化に向けた新たな規制です。
物流業界では、商慣習上の問題として、発荷主・着荷主が、発送地・到達地において、実際に貨物の運送を行う運送事業者(以下「実運送事業者」といいます)に対して、自己の都合による長時間の荷待ちや契約外の荷役等を強要し、実運送事業者がこれに応じた適切な費用を収受できないといった事象のあることが指摘されてきました 4。このうち、発荷主に対しては、物流特殊指定および取適法により規制が強化されましたが、着荷主による濫用的な行為を規制する法的な仕組みがありませんでした。
そこで、物流特殊指定改正案では、着荷主に対する規制として、実運送事業者に対し、契約外の荷待ちや荷役等の作業を要請する行為を、新たに禁止行為と位置付ける案が示されています。具体的には、次の2つの行為を、着荷主の発荷主に対する禁止行為としています。
- 自己のために当該物品の運送の役務以外の役務その他の経済上の利益を提供させること(特定発荷主が運送を受託する事業者に当該提供の行為をさせる場合に限る)
- 運送の内容を変更させ、またはその運送を行った後に運送のやり直しをさせること(特定発荷主が運送を受託する事業者に当該提供の行為をさせる場合に限る)
なお、新たに規制対象となる着荷主は、その契約の相手方である発荷主との関係で、事業者規模の要件(資本金・従業員基準)を満たすものであって、取適法でいう特定運送委託に該当する類型の委託取引の「取引の相手方」に継続的になる者に限られています。
取引実務に与える影響
今回の改正で最も留意すべきは、自社が着荷主となっている取引について、事業者規模の要件等を満たす取引の有無を確認するとともに、事業者規模の要件等を満たす取引がある場合には、その取引に関して実運送事業者に対する契約外の荷待ち、荷役等の要請が行われないように、社内で周知・徹底することです。
契約外の作業を要請しないようにするためには、そもそも発荷主との契約内容を具体的かつ明確にし、その内容を荷物の受取り現場と共有することが肝要です。
サプライチェーン全体での支払条件の適正化・適切な価格転嫁に向けた規制強化
取適法が施行され、交渉力が不均衡となりやすい委託事業者・中小受託事業者間の取引について、支払条件の適正化・適切な価格転嫁に向けた規制強化が図られています。
もっとも、サプライチェーン全体で支払条件の適正化・適切な価格転嫁を実現するためには、当然、取適法の適用対象外の取引にも目を向けなければなりません。実際、取適法の適用対象外の取引においても、「支払サイトを短くするよう求めると、値引きを求められる」、「価格交渉を申し込んでも、取適法の適用対象外の取引であることを理由に一切応じてもらえない」など、支払条件や価格転嫁について様々な課題が明らかになっていました。
(例)製造業におけるサプライチェーン

そこで、製造委託等代金支払に係る特殊指定案と優越ガイドライン改定案により、支払条件の適正化・適切な価格転嫁に向けた規制を、取適法の適用対象外の取引に対しても及ぼすという案が示されました。
製造委託等代金支払に係る特殊指定案の内容(支払条件の適正化)
取引の現場では、発注者が受注者に対して有利な立場で支払条件を決定する傾向があり、支払期日が遅く設定されている傾向があります。特に、複数の取引が連なるサプライチェーンでは、その傾向が強まります 5。
そこで、サプライチェーン全体で支払期日が適正に設定されるようにするため、製造委託等代金支払に係る特殊指定案は、下記(1)および(2)のとおり、「給付を受領した日から起算して60日の期間経過後なお代金を支払わないこと」(支払遅延)を禁止する規制を、取適法の適用対象外の取引にも及ぼすこととしています。
後記3−2のように優越ガイドラインの改定により対応することも考えられますが、優越的地位の濫用規制を適用する場合には個別的な当てはめによる部分が大きいため、迅速な執行には適さない側面もあります。そこで、より形式的な基準を示した特殊指定を設けることにより、迅速かつ簡潔に、「受領日から60日以内の支払」という規制を取適法適用対象外の取引にも及ぼすことが企図されています 6。
以下で説明する製造委託等代金支払に係る特殊指定案の具体的な運用については、製造委託等代金支払に係る特殊指定の運用基準案において規定されています。
(1)適用範囲 7
製造委託等代金支払に係る特殊指定案は、取適法2条6項に規定する製造委託等をした事業者(以下「委託事業者」といいます)と、委託事業者から製造委託等を受けた事業者(以下「受託事業者」といいます)との間の取引で適用されます。
ただし、「その取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる者」は「受託事業者」から除かれます。「取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる」かについては、以下の要素を総合的に考慮して判断するとされています。
- 受託事業者の委託事業者に対する取引依存度
- 委託事業者の市場における地位
- 受託事業者にとっての取引先変更の可能性
- その他委託事業者と取引することの必要性を示す具体的事実 等
この判断基準は、優越的地位の濫用規制における優越的地位の有無を判断する基準と共通しています。
大まかには、「取適法の資本金基準・従業員基準に該当していなくとも、発注者の立場が受注者よりも強いと思われる場合に適用される」と理解しておくとよいでしょう。
(2)禁止行為 8
製造委託等代金支払に係る特殊指定案では、正当な理由がある場合を除き、給付を受領した日から起算して60日の期間経過後なお代金を支払わないこと(支払遅延)が禁止されます。禁止行為の内容は、取適法5条1項2号と同様です。
「正当な理由がある場合」としては、以下のような場合が挙げられています。
- 受託事業者の責めに帰すべき理由がある場合
例)受託事業者が、委託事業者の指示に反して異なるものを納品した。
- 製造委託等をするにあたって受託事業者との合意により支払条件を定め、その条件に従って代金を支払う場合(当該製造委託等の取引における合理的な理由に基づき、支払条件を定める場合に限る)
例)受託事業者が納入する物品の性質上、委託事業者による受入検査に長期間を要するため、両者合意の下、検査に要する期間が経過した時点を支払期日とした。
- あらかじめ受託事業者の同意を得て、かつ、代金の支払の遅延によって当該受託事業者に通常生ずべき損失を委託事業者が負担する場合
例)委託事業者が受託事業者に対して発注する時点で、代金支払の遅延が受領日から60日を超えてしまった場合には、委託事業者が遅延利息を支払うと合意していた。
優越ガイドライン改定案の内容 9(価格転嫁の推進)
取適法の適用対象外の取引においても、実効的な価格協議がなされていないことが一因となって価格転嫁が十分に進んでいない現状や、受注者への価格転嫁の必要性を感じている発注者が少ないことが指摘されていました 10。
そこで、取適法の適用を受けない企業においても価格転嫁の取組みをさらに推進するため、優越ガイドライン改定案では、以下のとおり、十分な協議が行われているか否かというプロセスの問題が、優越的地位の濫用の有無を判断するにあたって考慮要素となっている例が、いくつか追加されています。これにより、取適法が適用されるか否かにかかわらず、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁が進むことが目指されています。
具体的には、優越的地位の濫用となるような行為類型である「取引の対価の一方的決定」の想定例として、以下のような例が追加されています。これらの想定例は、いずれも十分な協議が行われず一方的に対価が定められる場合に当たります。
- 製造費用の上昇等を理由とした単価引上げの申入れを無視しまたは協議を拒否し、一方的に単価を据え置く例
- 取引の減少や打切りを示唆して、協議することなく一方的に、著しく低いまたは著しく高い対価を定める例
- 労務費、原材料費等のコスト上昇に関する資料に基づく単価引上げの申入れに対し、理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、一方的に単価を据え置く例
- 短納期の急な発注により受注者の生産コスト等が大幅に増加したにもかかわらず、一方的に、通常の納期の場合と同一の単価に据え置く例
取引実務に与える影響
取適法については、2026年1月1日の全面施行以降、各社で対応が進められていることと思います。しかし、製造委託等代金支払に係る特殊指定案および優越ガイドライン改定案によれば、支払条件の設定や価格転嫁について、取適法と同じような規制が同法の適用対象外の取引にも拡大されることとなります。
取適法の適用対象か否かで明確に分けて対応していた企業にとっては、対応策の修正を求められることにもなります。
2027年春の施行に向けた取引実務の確認ポイント
物流特殊指定改正案、製造委託等代金支払に係る特殊指定案、製造委託等代金支払に係る特殊指定の運用基準案、優越ガイドライン改定案という4つの案が成案となり、想定どおり2027年春に特殊指定も含めて全面施行される場合、以下3つの観点から取引実務を確認する必要があります。
- 物流取引の適正化
- 支払条件の適正化
- 価格転嫁の円滑化
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公正取引委員会「(令和8年3月12日)「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」改正案等に対する意見募集及び公聴会の開催について」 ↩︎
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企業取引研究会(令和7年度)第4回資料2(事務局提出資料)(令和8年3月10日)16頁 ↩︎
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そもそも「特殊指定」とは、特定の事業分野における特定の行為について、「不公正な取引方法」(独占禁止法2条9項6号)に当たると指定する告示のことをいいます。 ↩︎
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企業取引研究会(令和7年度)第3回資料2(事務局提出資料)(令和7年11月18日)3頁 ↩︎
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企業取引研究会(令和7年度)第4回資料2(事務局提出資料)(令和8年3月10日)7頁 ↩︎
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企業取引研究会(令和7年度)第4回資料2(事務局提出資料)(令和8年3月10日)8頁 ↩︎
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製造委託等代金支払に係る特殊指定の運用基準案2〜3頁 ↩︎
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製造委託等代金支払に係る特殊指定の運用基準案3〜5頁 ↩︎
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本文で挙げた内容のほか、受領拒否に該当する具体例も追加されました。 ↩︎
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企業取引研究会(令和7年度)第4回資料2(事務局提出資料)(令和8年3月10日)2〜3頁 ↩︎
阿部・井窪・片山法律事務所
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