アクティビストや敵対的買収への対応実務〜大量保有報告制度の改正を踏まえて〜
コーポレート・M&A
目次
公開買付規制・大量保有報告制度の改正に係る「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」による金商法の一部改正、それに付随する金商法施行令、株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令等の一部改正(総称して以下「令和6年金商法改正」といいます)は、2026年5月1日から施行される予定です。
本記事では、令和6年金商法改正における大量保有報告制度の改正の概要を説明した上で、アクティビズム・同意なき買収(敵対的買収)の兆候検知と初動対応、日本版ウルフ・パックへの対応、アクティビストとの和解契約の開示といった各実務場面において改正がどのような影響を与えるかを、上場会社の視点から解説します。
本記事で用いる資料等の略称は次のとおりです。
また、令和6年金商法改正後の金商法、金商法施行令、大量保有府令をそれぞれ「改正金商法」「改正金商法施行令」「改正大量保有府令」といいます。
| 本記事における略称 | 正式名称・参照情報 |
|---|---|
| 金商法 | 金融商品取引法(昭和23年法律第25号) |
| 金商法施行令 | 金融商品取引法施行令 |
| 大量保有府令 | 株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令 |
| 大量保有Q&A | 金融庁企画市場局「株券等の大量保有報告に関するQ&A」(令和8年5月1日最終改訂) |
令和6年金商法改正における大量保有報告制度の主な改正点
大量保有報告制度の改正がアクティビスト対応および同意なき買収(敵対的買収)への対応に与える影響を解説する前提として、令和6年金商法改正における大量保有報告制度の主な改正点を簡単にまとめます。
| 項目 | 令和6年金商法改正前の規定 | 改正された主要な事項 |
|---|---|---|
| 共同保有者の規律に関する協働エンゲージメントの特例 | 保有者と他の保有者が共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意(黙示の合意を含む)している場合、例外なく共同保有者に該当 | 次の要件を満たす場合には共同保有者に非該当
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| みなし共同保有者の範囲の再整理 | みなし共同保有者となる「特別の関係」とは、①夫婦の関係、②「支配株主等」(議決権50%超保有)と「被支配会社」の関係、③被支配会社とその支配株主等の他の被支配会社の関係、および④組合とその親会社の関係をいう |
|
| 現金決済型エクイティ・デリバティブに係る権利者の取扱い | 現金決済型エクイティ・デリバティブ取引は原則として大量保有報告制度の適用対象外 ただし、株券等を保有する場合と同様の経済的利益および損失を帰属させるものであって、現物の株券等の取得および処分にデリバティブ取引のロングポジションの保有者の支配が及んでいる場合には適用あり |
デリバティブ取引に係る権利を有する者であって、次に掲げる目的を有する者は「保有者」に該当
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| 重要提案行為等の範囲の明確化 | 重要提案行為等とは、発行者またはその子会社に係る所定の事項を株主総会または役員に対して提案する行為とした上で、政令・内閣府令において提案事項を限定列挙 重要提案行為等に該当するためには、次の3つの要件を満たすことが必要との解釈 (ⅰ)提案の客観的内容が列挙事項のいずれかに該当 (ⅱ)発行者の事業活動に重大な変更を加える、または重大な影響を及ぼすことが目的 (ⅲ)「提案」に該当 |
政令・内閣府令における列挙事項を一部変更 大量保有Q&Aにおいて以下の解釈を提示
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| 大量保有報告書の記載事項の明確化 | 「保有目的」欄 「純投資」、「政策投資」、「重要提案行為等を行うこと」等の目的およびその内容について、できる限り具体的に記載 「担保権等重要な契約」欄 保有株券等に関する貸借契約、担保契約、売戻し契約、売り予約その他の重要な契約または取決めがある場合には、①その契約の種類、②契約の相手方、③契約の対象となっている株券等の数量等当該契約または取決めの内容を記載 |
「保有目的」欄
「担保権等重要な契約」欄
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共同保有者の範囲の明確化
(1)共同保有者の規律に関する協働エンゲージメントの特例
改正金商法では、保有者と他の保有者が共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合であっても、次に掲げる要件のすべてに該当する場合には、実質的共同保有者には該当しないこととする旨の例外規定が追加されました(改正金商法27条の23第5項1号〜3号。以下「協働エンゲージメントの特例」といいます)。
- 当該保有者と他の保有者がいずれも金融商品取引業者(第一種金融取引業を行う者または投資運用業を行う者に限る)、銀行その他の内閣府令 1 で定める者であること
- 共同して重要提案行為等を行うことを合意の目的としないこと
- 共同して株主としての議決権その他の権利を行使することの合意のうち、個別の権利行使毎の合意として政令で定めるものであること
令和6年金商法改正前においては、株主が株主総会での議決権行使について話し合い、共同して議決権を行使することを合意した場合、その時点で実質的共同保有者に該当すると解されていました。改正後は、そのような合意を行った場合でも、協働エンゲージメントの特例が適用される場合には、実質的共同保有者に該当しないことになります(大量保有Q&A 問23参照)。
(2)みなし共同保有者の範囲の見直し
改正金商法では、大量保有報告制度におけるみなし共同保有者の基礎となる関係性から「夫婦の関係」を削除するとともに、大要、次に掲げる外形的事実がある場合に「共同保有者」とみなす規定が追加されました(改正金商法施行令14条の7第1項、改正大量保有府令5条の3)。
- 会社と当該会社の代表者等との関係
- 会社の代表者等が他の会社の代表者等である場合における当該会社と当該他の会社との関係
- 株券等を取得するための資金を供与した者と当該資金の供与を受けた者との関係(当該資金を供与した者が、当該資金の供与を受けた者に対し、当該資金を充ててその保有する株券等の発行者が発行する株券等を取得することの要請をした場合に限る)
- 株券等を取得することの要請をした者と当該者に当該株券等を譲渡する目的をもって当該要請に基づいて当該株券等を取得した者との関係
- 重要提案行為等を行うことの要請をした者と当該要請に基づいて当該重要提案行為等を行った者との関係
現金決済型エクイティ・デリバティブ取引に係る権利者の取扱い等
改正金商法は、株券等に係るデリバティブ取引に係る権利を有する者であって、次に掲げる目的を有する者について当該株券等の「保有者」に該当することとしています(改正金商法27条の23第3項3号、改正金商法施行令14条の6第2項)。
- 株券等に係るデリバティブ取引の相手方から当該株券等の発行者が発行する株券等を取得する目的
- 株券等の発行者に対して当該発行者が発行する株券等に係るデリバティブ取引に係る権利を有することを示して重要提案行為等を行う目的
- 株券等に係るデリバティブ取引の相手方が保有する議決権の行使に影響を及ぼす目的
重要提案行為等の範囲の明確化
重要提案行為等は、改正金商法施行令14条の8の2第1項各号に掲げる事項(以下「各号列挙事項」といいます)を提案する行為とされているところ、各号列挙事項が一部変更されるとともに(改正金商法施行令14条の8の2第1項、改正大量保有府令16条)、大量保有Q&A 問36において、重要提案行為等に該当するためには、以下の(ⅰ)~(ⅲ)の各要件をすべて満たす必要があることが明示されました。
(ⅱ)提案内容が各号列挙事項に該当すること
(ⅲ)提案行為が発行者の事業活動に重大な変更を加え、または重大な影響を及ぼすことを目的とすること
併せて、各要件の解釈が示されました。
特に要件(ⅲ)に関して、各号列挙事項を①相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が高い事項と②相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が低い事項に区別した上で、①の事項に関する提案については、発行者との対話の場で行うものであっても要件(ⅱ)を満たす可能性が高いとしつつ、②の事項については、発行者との対話の場で提案したとしても要件(ⅱ)を満たす可能性は低くなるが、当該提案の採否を発行者の経営陣の自律的な決定に委ねない方法・態様により提案を行う場合には、要件(ⅱ)を満たす可能性が高いと解されている点が注目されます。
大量保有報告書の記載事項の明確化
(1)「保有目的」欄の記載事項の明確化
改正大量保有府令第一号様式の記載上の注意(10)においては、記載内容・記載方法に関して下記の事項が追加されています。
- 重要提案行為等を現に行い、または行うことを予定している場合には、具体的な内容・時期・条件・目的について、できる限り具体的に記載
- 株券等保有割合を5%超増加させる行為 2 を行うことについての決定をしている場合や提出義務発生日から3か月以内に5%超増加させる行為を行うことを予定している場合には、その内容(たとえば、取得を行う株券等の種類、取得の時期、取得価格、取得を行う株券等の数量、取得の目的、取得の方法、取得の相手方)をできる限り具体的に記載
(2)「担保契約等重要な契約」欄の記載事項の明確化
改正大量保有府令第一号様式の記載上の注意(14)においては、「担保契約等重要な契約」欄に記載すべき事項に関して、以下の点について拡充・明確化が行われています。
- オプションに係る契約、買戻し契約、買い予約、譲渡制限、持株比率制限、優先引受権、契約終了により行使可能となるコールオプション・プットオプションその他の将来の株券等の移動に関する重要な契約または取決めを開示対象として明記
- 株券等の保有者となるものとみなされるデリバティブ取引についてデリバティブ取引の内容を記載
- 他の保有者と共同して当該株券等を取得し、もしくは譲渡し、または当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合には、当該合意の内容を記載
- 提出者と発行者との間で役員指名権、議決権制限、拒否権を含む重要な契約を締結している場合には、①当該契約の概要および②当該合意の目的を具体的に記載
- 株券等を組合もしくは社団等の業務執行組合員等として保有している場合または共有している場合等には、その旨記載
アクティビズムおよび同意なき買収の検知と初動対応
大量保有報告書等による兆候の検知の実務ポイント
アクティビズムや同意なき買収の兆候を検知するために最も直接的な方法は、株主名簿を確認し、アクティビスト名義や潜在的に買収者となり得る者の保有状況を確認することです。
もっとも、株式等振替制度の下で上場会社が最新の株主の保有状況が反映された株主名簿を取得するのは、定時株主総会や剰余金の配当(期末配当・中間配当)のような定期的に発生する基準日のほか、会社が株式併合・株式分割や組織再編行為を行う際に臨時に設定される基準日に限られます。また、アクティビストや買収者がカストディアン名義等の他者の名義で株式を保有している場合には、株主名簿によってこれらの者による株式の実質的な保有状況を直接確認することはできません。
他方で、前記1−4(1)のとおり、大量保有報告制度は、自己名義だけではなく他人名義による所有分も含めて株券等保有割合が5%を超えて上場会社株式を保有するに至った者に対して5営業日以内に大量保有報告書を提出する義務を課しています。また、大量保有報告書においては、「純投資」「政策投資」「重要提案行為等を行うこと」等の区分に応じ、その内容をできる限り具体的に記載しなければならないものとされています。
そのため、アクティビストや潜在的な買収者が提出する大量保有報告書を確認することは、アクティビズムや同意なき買収の兆候を検知する重要な端緒となります。
この点に関して、令和6年金商法改正により大量保有報告制度に次のような影響が生じます。
(1)重要提案行為等の予定の開示
大量保有報告書の「保有目的」欄については、令和6年金商法改正前においては、実務上、単に「純投資」や「(状況に応じて)重要提案行為等を行うこと」等と簡素かつ抽象的な記載を行う例が相当数見られるという状況にあります。
令和6年金商法改正後の大量保有報告書においては、重要提案行為等を現に行い、または行うことを予定している場合には、その内容について、できる限り具体的に記載することが求められています。記載すべき内容としては、当該重要提案行為等の具体的な内容、行う時期・条件、目的が例示されています(改正大量保有府令第一号様式 記載上の注意(10)b)。
したがって、「保有目的」欄の具体的記載の程度については、今後の実務動向を注視する必要があるものの、上場会社は、アクティビストや潜在的な買収者が提出する大量保有報告書を確認することによって、将来自社に対して行われる可能性があるアクションを令和6年金商法改正前よりも予測しやすくなると思われます。
(2)5%超の取得予定の開示
令和6年金商法改正後の大量保有報告書においては、株券等保有割合を5%超増加させる行為を行うことについて決定をしている場合や提出義務発生日から3か月以内に5%超増加させる行為を行うことを予定している場合には、「保有目的」欄にその内容をできる限り具体的に記載することとされています(改正大量保有府令第一号様式 記載上の注意(10)c)。
そのため、改正後にアクティビスト等が大量保有報告書を提出した場合、発行者は当該報告書の「保有目的」欄を確認することで、提出者の今後の5%超の買い増しに係る予定の有無、時期、取得株数、取得方法についてあらかじめ一定程度把握することが可能になると考えられます。
また、(同意なき)買収者が事前取得(Toehold)によって小規模な資本関係を持った後にTOBを実施する場合があります。わが国では近時、買収者が20~30%程度の株式を市場内で取得した上で(同意なき)TOBを試みる「踏み上げ型」TOBを用いる例も散見されます。
この点、令和6年金商法改正後は、事前取得の段階でTOBの実施が予定されている場合に当該予定を開示することなく事前取得できるのは、大量保有報告書の提出義務を負わない5%以下の取得までに限られます。つまり、市場内買い上がりの時点で当該TOBの実施可能性およびその内容に関する情報が開示されることになるため、アクティビスト等が支配権プレミアムが反映されていない安価で市場内の事前取得を行うことは困難になると考えられます。
(3)現金決済型エクイティ・デリバティブ取引の潜脱的利用の抑止
前記1−2のとおり、令和6年金商法改正により、現金決済型エクイティ・デリバティブ取引であっても、潜在的に「経営に対する影響力」を有していると評価することができ、実質的に制度を潜脱する効果を有すると評価することができるものについて、大量保有報告制度の適用対象となることが明確になりました。
したがって、令和6年金商法改正後は、アクティビスト等が潜脱的なエクイティ・デリバティブ取引を利用することにより大量保有報告制度の適用を回避して秘密裏に大量のポジションを形成する事例や、大量保有報告書に基づく情報開示がなされていない現金決済型エクイティ・デリバティブのロングポジションを保有することをもってエンゲージメント活動が行われる可能性は相当程度低下すると見込まれます。
もっとも、現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引に係る権利を有する者が保有者に該当するための要件は一定の「目的」を有することという主観的要件であるため、その認定は必ずしも容易ではない場合もあると思われます。そのため、大量保有報告書提出前の時点でかかる「目的」を有していたことが事後的に疑われる場合に、デリバティブ取引に係る権利について大量保有報告書による開示を行っていないことに対して当局によるエンフォースメントがどこまで執行されるか等の実務動向について、今後注視していく必要があります。
兆候を検知した場合の初動対応
(1)社内外の関係者への迅速な情報共有
アクティビストや同意なき買収者は、自らにとって最も有利なタイミングで買収や提案等をしかけるため、これに対峙する会社としてはいかに時間を確保するかが重要になります。
したがって、アクティビズムや同意なき買収の兆候を検知した場合、まずは、社内関係者および外部アドバイザー(ファイナンシャル・アドバイザー、IR・SRアドバイザー、弁護士等)に対して直ちに情報を共有することが望ましいと考えられます。そのためには、平時からアドバイザーの助言も得つつ、社内体制の構築(関連する部署・担当者の特定を含みます)と各外部アドバイザーへのコンタクトリストを作成しておくことが有益となります。
(2)アクティビスト等に関する情報収集、今後の対応策の検討
次に、アクティビズムや同意なき買収の兆候を検知した上場会社は、外部アドバイザーの協力も得つつ、アクティビストに関する情報(属性、他社での活動履歴等)を収集しつつ、今後の展開や対応方針について予測・検討しておくことになります。
また、具体的なアクティビストや同意なき買収者が特定された場合には、一定の基準日における株主名簿の確定を待つことなく、その株式保有状況を確認することが重要です。
具体的なアクションとしては、株主名簿管理人を通じて、株式会社証券保管振替機構(ほふり)への情報提供請求を行うことや、IR・SRアドバイザー等に実質株主判明調査の実施を依頼し、アクティビスト等によるカストディアン名義での保有状況を把握することが考えられます。
実際の対応については、個別事情に応じてケースバイケースで判断する必要があります。そのため、弁護士を含む外部アドバイザーとは可能な限り初期段階からアクティビズムや同意なき買収への対応について相談することが望ましいと考えられます。
重要提案行為等の範囲の明確化への対応
大量保有報告制度における重要提案行為等の意義
大量保有報告制度における重要提案行為等は、経営に対する影響力を及ぼすことを目的とする場合には迅速かつ透明性のある情報開示が求められるという観点から、以下のとおり、開示義務の範囲を画する重要な概念として位置づけられています。
- 金融商品取引業者等が事前に届け出た月2回の基準日において大量保有報告書・変更報告書の提出義務を判断し、当該基準日から5営業日以内に大量保有報告書・変更報告書を提出すれば足りる旨の緩和措置(いわゆる「特例報告制度」)を利用するための要件の1つとして、重要提案行為等を行うことを保有目的としないことが必要とされている
- 共同保有者の規律に関する協働エンゲージメントの特例の要件の1つとして、共同して重要提案行為等を行うことを合意の目的としないことが規定されている(前記1−1(1)参照)。また、現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引に係る権利を有する者が大量保有報告制度上の保有者に該当する場合の1つとして、発行者に対して当該デリバティブ取引に係る権利を有することを示して重要提案行為等を行う目的を有する場合が挙げられている(前記1−2参照)
- 重要提案行為等を現に行いまたは行うことを予定している場合には、大量保有報告書の「保有目的」欄において、その内容をできる限り具体的に記載することが明示的に求められている(前記2−1(1)参照)
このように、アクティビストや同意なき買収者が重要提案行為等を行う目的を有していると認められる場合には、より厳格な情報開示が求められることから、重要提案行為等の範囲はアクティビズムや同意なき買収に対応する上場会社にとっても重要な意義を有することになります。
アクティビスト提案が事業活動に及ぼす影響等の判断ポイント
この点、大量保有Q&A 問36において重要提案行為等の範囲の明確化が図られています。
特に、「発行者の事業活動に重大な変更を加える、または重大な影響を及ぼすことが目的」(以下「目的要件」といいます)との解釈上の要件に関する考え方が示されたことが注目されます。すなわち、重要提案行為等として、各号列挙事項のうち、①相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が高いと考えられる事項と、②相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が低いと考えられる事項との区分を示した上で、①と②の区分ごとに「発行者の事業活動に重大な変更を加える、または重大な影響を及ぼすことが目的」との目的要件への該当性について、下表記載の整理が示されています。
| 相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度 | 各号列挙事項 ※1 の大まかな区分 | 目的要件 ※2 の該当性 |
|---|---|---|
| ① 高い |
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発行者との対話の場で行うものであっても目的要件に該当する可能性が高い |
| ② 低い |
|
発行者との対話の場で提案したとしても目的要件に該当する可能性は低い 一方で、当該提案の採否を発行者の経営陣の自律的な決定に委ねない方法・態様により提案を行う場合 ※3 には目的要件に該当する可能性が高い |
※1 改正金商法施行令14条の8の2第1項各号に掲げる事項
※2 大量保有Q&A 問36の「(ⅲ)提案行為が発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼすことを目的とすること」
※3 たとえば、①株主提案権の行使による場合、②発行者の同意を得ることなく提案内容を公表する場合(いわゆるキャンペーン)、③提案内容を実行しない場合には株主提案権の行使、キャンペーンや委任状勧誘を行うことを示唆して提案を行う場合には、通常、当該提案の採否を経営陣の自律的な決定に委ねない方法・態様による提案に該当すると考えられる
そのため、アクティビストが提案することの多い事項のうち、令和6年金商法改正前から各号列挙事項に該当していた代表取締役の選解任、主要事業の譲渡を伴う事業譲渡等だけではなく、令和6年金商法改正により新たに各号列挙事項に含まれることとなった取締役候補者の推薦や第三者への身売り・MBOの実施等の事項についても、①相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が高い事項であるため、これらに係る提案を行うことは通常、目的要件を満たすことになります。
また、配当方針の変更、重要な財産の処分、主要ではない事業の譲渡のような②相対的に発行者の事業活動に及ぼす影響の程度が低い事項に関する提案を行う場合についても、アクティビストによるエンゲージメント活動は、通常、投資先に対する書簡の送付や面談を通じた提案から始まり、投資先が満足のいく形で対応しない場合には、委任状勧誘、キャンペーンや株主提案へとエスカレーションしていくことが一般的であることに鑑みると、少なくともエンゲージメントの途中の段階では目的要件を満たすことになる可能性が高いと考えられます。
令和6年金商法改正前から、アクティビストは、通常、重要提案行為等を行うことを保有目的として大量保有報告書を提出している場合が多いと思われますが、重要提案行為等の範囲が明確化されたことに伴って、上場会社の経営に関するどのような事項に関してどのような態様での働きかけが行われるかについてさらに具体的な開示が行われる場合も増えると予想されます。そのため、令和6年金商法改正後はアクティビストが提出した大量保有報告書を確認することの重要性がよりいっそう高まると考えられます。
日本版ウルフ・パックへの対応
日本版ウルフ・パックとは
近時、複数の投資家が、株式時価総額がそれほど大きくない中小規模の上場会社の株式を、主として市場内で(信用買いなども駆使しながら)短期間に大量に買い上がり、対象会社の経営陣をその影響下に置いたり、場合によっては、臨時株主総会の招集請求や株主提案と委任状勧誘とを組み合わせて、対象会社の経営陣の入れ替えを図ったりする事例が散見されるようになっています。
しかも、多くの場合には、それら複数の投資家の中心となっている者(主導的投資家)は、大量保有報告書やその変更報告書の提出を遅延したり、その保有目的や重要提案行為等について不正確(ないし虚偽)の記載を行ったり、合理的にみて共同保有者と考えられる株主を共同保有者として記載しなかったりしているとの問題がありました。
このような行為ないし事象は、「日本版ウルフ・パック」と呼称されることがあります。
令和6年金商法改正による日本版ウルフ・パックへの対応とその限界
この日本版ウルフ・パックの背景には、大量保有報告制度における実質的共同保有者の範囲が金商法27条の23第5項に定める共同取得、譲渡または議決権行使等行使を合意している者に限られており、かつ、「合意」について、協働エンゲージメントに配慮して「単なる意見交換とは異なり、相互又は一方の行動を約する」ものである必要があるとの解釈が示されているため 3、共同保有者の範囲が共同協調行動を外延とする欧米の大量保有報告規制と比較して相当に限定的であり、かつ、認定に係る立証が困難であることが一因として存在すると考えられます。
この点、令和6年金商法改正においては、共同保有者の規律に関する協働エンゲージメントの特例(前記1−1(1)参照)が設けられた一方で、一定の外形的事実がある場合に共同保有者とみなす旨の規定が追加されました(前記1−1(2))。
かかる改正により、必ずしも「合意」が認定できない場合でも、当該外形的事実に基づいて共同保有者と見なされることとなります。
もっとも、改正大量保有府令5条の3第4号〜6号に掲げる関係については、それぞれ所定の「要請」とそれに基づく一定の行為があることが前提とされていることや、一般的に共同協調関係の基礎となり得ると考えられている外形的事実全般をみなし共同保有者の規定に取り込まれていないことから、令和6年金商法改正後も大量保有報告制度のみでは日本版ウルフ・パックに対して十分な対応ができない点に留意する必要があります。
買収防衛策による日本版ウルフ・パックへの対応の必要性
実務上は、買収への対応方針(買収防衛策)において、日本版ウルフ・パックによる大規模な株式の買い上がりによって一般株主に生じ得る不利益に対処すること等を目的として、共同協調関係を広く捕捉する仕組みを採用している事例が見られます。
買収への対応方針においては、特定の株主が一定のトリガー割合(20%とする例が多い)を超える株式の買付行為(大規模買付行為等)を行おうとする場合に、大規模買付行為等が行われることを受け入れるか否かを判断するために必要または有益な情報を事前に開示させ、取締役会や株主が大規模買付行為等に対して対抗措置(新株予約権無償割当て)を発動するか否かを判断するという手続が規定されることが一般的です。
かかるトリガー割合の算定にあたっては、当該特定の株主と「共同ないし協調して行動」する者の持株割合が合算される仕組みが採用されることが多く見られます。ここでいう「共同ないし協調して行動する」(共同協調行為)とは、たとえば、以下のような点を考慮した上で判断することで、金商法上の共同保有者の範囲よりも広く定義することが通常です。
これによって、大量保有報告制度では捕捉できないウルフ・パック株主が秘密裏に共同ないし協調して経営支配権に影響を及ぼすような株式取得に対処することが可能となります。
- 出資関係
- 業務提携関係
- 取引ないし契約関係
- 役員兼任関係
- 資金提供関係
- 信用供与関係
- 株式の買い上がり状況
- 議決権行使の状況
- デリバティブや貸株等を通じた株式に関する実質的な利害関係等の形成 ほか
令和6年金商法改正によりみなし共同保有者の基礎となる「特別な関係」に追加された外形的事実に抵触しないような形で行われる日本版ウルフ・パックに対応するためには、令和6年金商法改正後も買収への対応方針において共同協調関係を広く捕捉する仕組みを用意しておくことが引き続き有効であると思われます。
アクティビストとの「和解契約」の開示
発行者とアクティビストとの間で双方の妥協点を見出し、安定的な企業運営を確保するために一定の合意(和解契約)が行われることがあります。
この和解契約の中に以下のような条項が含まれている場合、令和6年金商法改正によって「担保契約等重要な契約」欄の記載事項の拡充・明確化が行われた結果(前記1−4(2)参照)、アクティビストが提出する大量保有報告書にこれらの条項の具体的な内容が記載されることになります。
- アクティビストが推薦する取締役を受け入れることの合意
- アクティビストが会社提案議案に賛成の議決権を行使する旨の合意
- アクティビストによる一定割合以上の買い増しの禁止(いわゆる「スタンドスティル条項」) ほか
この点、大量保有報告制度上の開示の要請は当事者間で合意された契約上の秘密保持義務に優先するため、契約上、秘密保持義務の定めがある場合でも、開示が必要な合意については省略または要約することなく開示する必要があると解されています(令和7年7月パブコメ結果(大量保有)4 No.197、198)。
そのため、令和6年金商法改正後は、法令に基づく開示が秘密保持義務の違反とならないことを明示的に定めておく等、和解契約の内容が大量保有報告書に開示される可能性がある点に留意しつつ和解契約の条項を検討することが望ましいと考えられます。
他方で、発行者とアクティビストとの間の和解契約については、令和6年金商法改正前から発行者が提出する有価証券報告書や臨時報告書等において「重要な契約」として開示が必要になる場合があるところです。
したがって、アクティビストと和解契約を締結しようとする上場会社においては、令和6年金商法改正に基づきアクティビスト側が提出する大量保有報告書における開示を避けたいとの理由のみをもって、議決権拘束条項やスタンドスティル条項を規定することを躊躇する必要はないと思われます。むしろ、上場会社としては、令和6年金商法改正後に提出される大量保有報告書の「担保権等重要な契約」欄を確認することで、各アクティビストがどのような状況で上場会社との間でどのような内容の和解契約を締結したかを把握・分析し、将来の対応の参考とすることが有益であると考えられます。
-
改正大量保有府令5条の2の2 ↩︎
-
保有株券等の総数を増加させない行為及び第一種金融商品取引業を行う者又は外国の法令に準拠して外国において第一種金融商品取引業と同種類の業務を行う者が株券等の流通の円滑を図るために顧客から行う株券等の取得であって、当該株券等の取得により取得した株券等を当該株券等の取得の後直ちに譲渡することとするものを除きます。 ↩︎
-
金融庁「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」(平成26年2月26日)11頁 ↩︎
-
金融庁「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等について」記載の「(別紙2)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(大量保有報告制度等関連)」 ↩︎
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業