被災地の今と、企業の力に寄せる期待

コーポレート・M&A
片桐 さつき 宝印刷グループ 株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所

 初めて福島県南相馬市に訪れたのは2013年だった。崩れ落ちた家屋がそのまま放置され、 街中に整理整頓された黒い除染袋が連なる風景は、東北の震災から奮い立とうとする風景とは異なり、再生しようとする人の手が届かぬ異様なものだった。そのあまりの違いに、福島は 「人災」でもあることを痛感し、何とも言えない憤りを感じていた。

 あれから4年経過し、先月再び南相馬市を訪れた。前回は寸断されていた国道6号線が開通している事を聞き、復興の光を期待して車で6号線を南下した。浪江町、双葉町、大熊町、富岡町まで進んだが、分かったことは 「ただ道が開通した」という事だ。道端には 「ここは帰還困難区域(高線量区域を含む)」 や「この先帰還困難区域につき通行止」の派手な看板が鎮座し、住まう人が一人もいない、時が止まったままの街並みがひっそりとあった。 ショッピングセンターの中に陳列されたままの古ぼけた衣類や、中古車センターの車にはびこった蔦が、ただ静かに時の経過を訴えていた。

 約12万7千人。これは、2017年1月16日現在の全国の避難者数である。発足から2月10日で丸5年たった復興庁が発表した数字だ。地域別に見ると福島県が最も多く、全国の4分の1を占めている。東日本大震災から6年目を迎えようとしているが、災害公営住宅の供給状況は未だ計画値に達しておらず、原発避難者向けの公営住宅の供給率が最も低い61.2%(2016年12月末現在)となっている。住まいのインフラ整備は峠を越えたと言っても地域格差が生じているのが現状だろう。

 一方、予算はというと、昨年7月に2015年度に復興予算として計上した総額のうち、 34.1%に当たる1兆9,229億円が年度内に使われなかった旨が公表されている。復興庁はこの理由を「住宅再建の用地取得などの調整に時間がかかった」と説明しているが、納税者の一人としてはやや釈然としないものが残る。今村復興相が「復興五輪の実現」を課題としているが、 福島の現実を目の当たりにした自分にとっては 「復興五輪」という言葉そのものが虚構のように感じてしまう。

 一方、事業を通して福島の支援を続ける企業も存在する。例えばカゴメは、契約栽培農家の協力を得ながら、福島のおいしさを安心・安全とともに届けようと2013年から「ふくしま産トマトジュース」を販売している。畑の土壌づくりから携わり、安心・安全を何よりも重視し担保できるカゴメだからこそ実現できた取り組みだ。
 こうした事業を通した社会貢献の中で、企業間では「SDGs」が話題に上ることが増えてきた。SDGsとは国連で採択された「持続可能な開発目標」であり17の目標と169のターゲットからなる世界の解決すべき課題のことである。日本政府も安倍総理を本部長として「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置し、「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」をビジョンとして掲げ、昨年12月には8つの優先課題を掲げている。しかしこの中で復興について触れているのは「⑦ 平和と安全・安心社会の実現」の「平和構築・復興支援」だけだ。カゴメのような民間企業の前向きな取り組みに期待を寄せてしまうのは、必然の流れなのかもしれない。

 4月、桜が咲くころに再び南相馬市を訪れる予定だ。仮設住宅に住まう、故郷の父と母のような存在の人たちの人懐っこい笑顔が恋しくてたまらない。長期的に、そして国民全員で取り組むべき課題が日本にはある事を、私達は忘れてはならないのではないだろうか

本記事は、株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所が発行している「研究員コラム」の内容を転載したものです。

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