議決権行使助言会社の議決権行使助言方針および主な機関投資家の議決権行使基準の改定動向
コーポレート・M&A
目次
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.226」の「特集」の内容を元に編集したものです。
機関投資家の議決権行使基準は年々厳格化し、その対象範囲は広がっているため、機関投資家の議決権行使基準の改定動向を注視する必要があります。本稿では議決権行使助言会社のISSとグラス・ルイスの議決権行使助言方針の改定内容と、主要な機関投資家の議決権行使基準の主な改定についてまとめました。
議決権行使助言会社の議決権行使助言方針の改定動向
ISS
ISSは2025年2月から施行するアジア・太平洋諸国向けの議決権行使助言方針(以下「ポリシー」)を公表しました。
改定の内容 | 適用開始時期 |
独立性基準に在任期間を導入
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2026年2月1日 |
【提案理由(「2025年版ISS議決権行使助言方針(ポリシー)改定に関するコメント募集」を加工して一部を抜粋)】
社外取締役の増加により在任期間が長期にわたる取締役の独立性の欠如に対する懸念が高まっており、選任時点で独立性があると判断されても、意思決定プロセスに関与するにつれ、その独立性は年月とともに徐々に低下するという懸念に対処することを目的とする。
また、日本では有能な独立社外取締役の層が薄いことが、企業からしばしば指摘されているが、在任期間が長期の取締役が、他の企業の潜在的な社外取締役の人材プールに加われば、企業は有能な人材を確保しやすくなる効果が期待できる。
グラス・ルイス
グラス・ルイスが公表した2025年版のポリシーにおける主な改定事項は以下の通りですが、昨年公表された改定内容が中心となっています。
改定の内容 | 適用開始時期 |
【ジェンダー基準】
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①2025年以降 ②③2026年以降 |
政策保有株式に関して、例外的に反対推奨を控える場合の基準を変更
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2025年以降 |
社外取締役全員または社外監査役全員の在任期間が連続12年以上の場合、取締役会議長等に反対を推奨 | 2025年以降 |
AI技術の監督や管理が不十分であった結果、株主に重大な損害を与えたということが明白である場合、AI関連リスクの監督を担当している取締役または取締役会レベルの委員会を特定する。また、当該AI関連問題に関する取締役会の監督、対応または開示が不十分であると判断した場合には、ベンチマークポリシーに基づき、しかるべき取締役に対して、反対助言を行うことがある | 2025年以降 |
主な機関投資家の議決権行使基準の改定動向
2024年11月以降に公表された主要な機関投資家の議決権行使基準の改定動向は以下の通りです。
三井住友トラスト・アセットマネジメント
改定の内容 | 適用開始時期 |
取締役会の構成・取締役の選任 ⇒3期連続で業績(ROE)基準を充足しない場合の取扱いについて、ROEの判定値をTOPIX構成企業の上位75%タイルから上位2/3タイルに引き上げるとともに、新たにPBRを導入し、2つの指標により評価する基準に変更 ⇒不祥事など有事の際において重大なガバナンス不全が認められる場合、エンゲージメントの内容次第では、適切な対応が認められない社外取締役や指名委員である取締役に反対する可能性があることを明記 ⇒政策保有株式を過大に保有されている企業に対して、エンゲージメントを実施したにもかかわらず状況に改善がみられない場合、取締役選任議案に反対する可能性があることを明記 ⇒取締役選任議案における反対対象者を変更 |
2025年1月以降 |
株主提案 ⇒主な提案内容に対する行使判断基準を追加 ⇒役員報酬の個別開示を求める議案に対する考え方を、原則賛成に変更 |
(出所)https://www.smtam.jp/news/pdf/release/PR2024_033.pdf
りそなアセットマネジメント
改定の内容 | 適用開始時期 |
プライム市場上場企業について、取締役会全体に占める女性取締役の比率が10%に達していない場合、代表取締役の選任に反対 | 2025年1月以降 |
資本効率、政策保有株式に関する基準の厳格化 ⇒効率的な企業経営が行われていない企業(3年連続でROEが8%未満)の中で、ネットキャッシュが過大(3年連続で総資産の25%以上)または業種別でROEが3年連続下位25%以下である企業の取締役選任にあたっては、合理的かつ納得性ある説明がなければ、在任3年以上の代表取締役に反対 ⇒効率的な企業経営が行われていない企業(3年連続でROEが8%未満)の中で、政策保有株式の保有額が連結純資産の20%以上ある場合、政策保有株式の縮減に関する方針について合理的かつ納得性ある説明と縮減実績がなければ、代表取締役に反対 ⇒資本効率が低く(ROE8%未満)、かつ、ネットキャッシュが過大(総資産の25%以上)にもかかわらず、更なる内部留保の蓄積を図る場合、合理的かつ納得性ある説明がなければ取締役の再任に反対。但し、自己株式取得を含む総還元性向が50%を上回る場合は、この限りではない |
(出所)https://www.resona-am.co.jp/sustainability/pdf/kijun_hoshin_202501.pdf
三井住友DSアセットマネジメント
改定の内容 | 適用開始時期 |
サステナビリティに関する基準として、以下の点を強化
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2025年1月以降 |
政策保有株式基準につき、資本効率性に重大な課題を抱える企業において、実質的な政策保有株式の縮減とはいえない場合は、純投資に振り替えられた株式を政策保有株式とみなして判断する |
大和アセットマネジメント
改定の内容 | 適用開始時期 |
PBR要件の廃止(経営の成果はROEのみで判断する) | 2025年2月以降 |
決算説明会を実施していない企業の代表の再任に反対 | |
ジェンダーの多様性を求める範囲を「取締役会の出席者(監査役も含む)」から「取締役のみ」に限定 | |
社外役員の取締役会または監査役会等への出席率について「75%未満」から「85%未満」に引き上げ | |
直近決算期末のPBRが1倍未満で、資本コストや株価を意識した経営を行っていないと判断する企業(=東証の開示要請未対応)の代表の再任に反対 | 2025年6月以降 |
(出所)https://www.daiwa-am.co.jp/company/stewardship/files/revguideline_202411.pdf
野村アセットマネジメント
改定の内容 | 適用開始時期 |
モニタリング・ボードの要件の一つである「社外取締役が過半数」について、独立性の要件(在任期間12年未満、独立役員として届け出、大株主出身者でない)を追加 | 2024年11月以降 |
ロールモデル基準について、取組みが明らかに不十分と判断した場合に取締役選任議案への賛否に反映するとしていたESG課題(①ESG課題を統合した情報開示、②気候変動、③実効的なスキルを有する社外取締役)に、「ジェンダーの多様性」を追加(対象はTOPIX100構成企業) | |
業績基準において、キャッシュリッチ企業に対するROEの閾値を「直近3期連続してROEが8%未満かつ業界の50%ile未満」に引き上げ | |
社外取締役の人数の最低水準を「過半数」に引き上げ。但し、支配株主がいない会社において指名に関するガバナンスを整備している場合(※)は1/3とする。 (※)法定又は任意の指名委員会を設置し、その委員に2名以上の社外取締役を含み、かつ委員のうち社内取締役の人数が社外取締役の人数より少ない場合 |
2024年11月以降(2023年11月に公表済み) |
女性取締役の人数の最低基準を1名から10%に引き上げとし、抵触する場合は、会長・社長等の取締役再任に原則反対 | 2025年11月以降 |
(出所)https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/pdf/vote_policy20241101.pdf
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)