消費者裁判手続特例法の支配性要件に関する初の最高裁判決 情報商材販売をめぐる令和6年3月12日最判のポイント

訴訟・争訟
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 大多和 樹弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

目次

  1. 消費者裁判手続特例法における支配性の要件とは
    1. 2段階の訴訟制度
    2. 支配性の要件とは何か
  2. 支配性の要件をめぐるこれまでの流れ
    1. 裁判例
    2. 消費者裁判手続特例法等に関する検討会での検討
  3. 最高裁(三小)令和6年3月12日判決の概要
    1. 事案の概要
    2. 支配性要件の解釈
    3. 本件事案についての判断
    4. 林道晴裁判官の補足意見
  4. 最高裁(三小)令和6年3月12日判決のポイント

 消費者裁判手続特例法における重要な要件の1つである支配性の要件(同法3条4項)について、2024年(令和6年)3月12日、最高裁判所として初めての判断がなされました(最高裁(三小)令和6年3月12日判決)。本件は、特定適格消費者団体が原告となり、株式会社ONE MESSAGEが、ウェブサイト等を通じて消費者に対し、仮想通貨等に関するいわゆる情報商材等を販売する際に、虚偽または実際と著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をしたことが不法行為に該当すると主張して、同社等に対して提起した共通義務訴訟です。


 最高裁判所は、支配性の要件に関し、「法3条4項にいう『簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき』に該当するとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある」として、原審である東京高等裁判所の判断を覆しました。

 支配性の要件については従来から、厳格に捉えすぎると、集団的な消費者被害の回復を図るという消費者裁判手続特例法の趣旨にそぐわない結果が導き出されかねないとの懸念が指摘されていました。この最高裁判決は、支配性要件の過度に厳格な運用に警鐘を鳴らしたものと位置付けられます。

 本稿では、支配性の要件の概要とこれまでの流れを振り返ったうえで、本判決について解説します。

消費者裁判手続特例法における支配性の要件とは

2段階の訴訟制度

 消費者裁判手続特例法 1 は、消費者契約に関する共通の原因により相当多数の消費者に生じた財産的被害の集団的な回復を図るために、民事裁判の特例として、「共通義務確認の訴え」と「簡易確定手続」という2段階の訴訟制度を定めています

 共通義務確認の訴えにおいては、固有の訴訟要件として、多数性、共通性、支配性という要件があります。これらの1つでも欠ければ訴えは却下され、2段階目の簡易確定手続へ進むことはできません。これらの訴訟要件は、消費者裁判手続特例法により創設された特殊な訴訟制度の対象となる事件を選別するという重要な機能を果たしています


「共通義務確認の訴え」と「簡易確定手続」からなる2段階の裁判手続の流れ

二段階の裁判手続の流れのイメージ

支配性の要件とは何か

 消費者裁判手続特例法3条4項では、共通義務確認の訴えにおいて、裁判所は「事案の性質、当該判決を前提とする簡易確定手続において予想される主張及び立証の内容その他の事情を考慮して、当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難である」と認めるときは、共通義務確認の訴えの全部または一部を却下することができると定められています。

 つまり、「当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難である」の要件に該当する場合には、支配性の要件を欠くものとして、共通義務確認の訴えの対象から外れます。要件構造としては、例外的な除外事由として構成されている点に1つの特徴があります。詳細については、「徹底解説、「共通義務確認の訴え」とは」の1-5「(3)支配性とは」をご参照ください。

支配性の要件をめぐるこれまでの流れ

裁判例

 支配性の要件については、これを厳格に捉えすぎると、集団的な消費者被害の回復を図るという消費者裁判手続特例法の趣旨にそぐわない結果が導き出されかねないとの懸念が従来から指摘されていました。
 そうしたところ、大学受験における得点調整が問題となった東京医科大学事件判決(東京地裁令和2年3月6日判決(判時2520号39頁)(平成30(ワ)38776号))および順天堂大学事件判決(東京地裁令和3年9月17日判決(令和元年(ワ)28088号))においては、損害の1つとして主張されていた旅費宿泊費は支配性の要件を欠くとの判断が下されていました。

消費者裁判手続特例法等に関する検討会での検討

 消費者庁は、消費者裁判手続特例法の運用が一定程度積み重ねられてきたことを踏まえ、2021年(令和3年)3月から「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」を開催し、同年10月には同検討会の報告書(以下「検討会報告書」といいます)を取りまとめました。

 検討会報告書では、支配性要件について、共通義務確認訴訟において支配性要件が果たすべき役割を検討したうえで、以下のような意見が取りまとめられています。

「当該要件について過度に厳格に運用することがあるとすればそれは相当ではなく、簡易確定手続における対象債権の存否及び内容についての審理が個別事情に係っている場合であっても、そのことのみによって除外すべきではなく、簡易確定手続における審理の工夫等によっても、なお適切かつ迅速に判断することが困難であると認められる場合に限って支配性の要件に基づき制度の対象外とされるべきと考えられる」
(検討会報告書17頁)

最高裁(三小)令和6年3月12日判決の概要

事案の概要

 本件は、特定適格消費者団体が原告となり、株式会社ONE MESSAGEが、ウェブサイト等を通じて消費者に対し仮想通貨等に関するいわゆる情報商材等を販売する際に、虚偽または実際と著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をしたことが不法行為に該当すると主張して、同社等に対して提起した共通義務訴訟です(ONE MESSAGE事件)。

 第1審および控訴審の認定によれば、問題とされた3つの商品の購入者は、それぞれ約4,000人、約1,500人、約1,200人でしたが、第1審および控訴審はいずれも支配性要件を欠くと判断していました 2
 これに対し、最高裁判所は、原審の判断は支配性要件の解釈適用を誤った違法があるとして、第1審判決を取り消し、本件を第1審に差し戻す判断をしました(以下、本件の最高裁判決を「令和6年最判」といいます)。

支配性要件の解釈

 令和6年最判は、支配性要件の解釈について下記のような判断を示しました(なお、令和6年最判では、「支配性」の文言は用いられず、「当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難である」の要件に該当するか否かが判断されています)。

 「法は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するため、共通義務確認訴訟において、事業者がこれらの消費者に対して共通の原因に基づき金銭の支払義務を負うべきことが確認された場合に、当該訴訟の結果を前提として、簡易確定手続において、対象債権の存否及び内容に関し、個々の消費者の個別の事情について審理判断をすることを予定している(2条4号、7号参照)。そうすると、法3条4項により簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であるとして共通義務確認の訴えを却下することができるのは、個々の消費者の対象債権の存否及び内容に関して審理判断をすることが予想される争点の多寡及び内容、当該争点に関する個々の消費者の個別の事情の共通性及び重要性、想定される審理内容等に照らして、消費者ごとに相当程度の審理を要する場合であると解される」
(下線筆者)

 「消費者ごとに相当程度の審理を要する」か否かという判断基準自体は、第1審判決およびこれを是認した控訴審判決でも用いられており、この点では有意な差はありません。
 第1審判決および控訴審判決と対比した場合の令和6年最判の判断の特徴は、共通義務確認訴訟の後の2段階目の手続である簡易確定手続における審理判断の在り方を示し、これとの関係で共通義務確認訴訟における支配性要件を解釈している点にあるといえるでしょう。

本件事案についての判断

 令和6年最判は、過失相殺と因果関係に分けて論じ、結論として、いずれも「対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない」、したがって「簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難である」との要件に該当しない(支配性要件を満たす)と判断しました。

  • 過失相殺について
    • 「上告人が主張する被上告人らの不法行為の内容は、被上告人らが本件対象消費者に対して仮想通貨に関し誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法があるなどとして、本件各商品につき虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をしてこれらを販売するなどしたというものであるところ、前記事実関係によれば、被上告人らの説明は本件ウェブサイトに掲載された文言や本件動画によって行われたものであるから、本件対象消費者が上記説明を受けて本件各商品を購入したという主要な経緯は共通しているということができる上、その説明から生じ得る誤信の内容も共通している」
    • 「本件各商品は、投資対象である仮想通貨の内容等を解説し、又は取引のためのシステム等を提供するものにすぎず、仮想通貨への投資そのものではないことからすれば、過失相殺の審理において、本件対象消費者ごとに仮想通貨への投資を含む投資の知識や経験の有無及び程度を考慮する必要性が高いとはいえない
    • 「本件対象消費者につき、過失相殺をするかどうか及び仮に過失相殺をするとした場合のその過失の割合が争われたときには、簡易確定手続を行うこととなる裁判所において、適切な審理運営上の工夫を講ずることも考えられる
    (下線筆者)
  • 因果関係について
    • 「本件対象消費者が上記説明を受けて本件各商品を購入したという主要な経緯は共通しているところ、上記説明から生じた誤信に基づき本件対象消費者が本件各商品を購入したと考えることには合理性があることに鑑みれば、本件対象消費者ごとに因果関係の存否に関する事情が様々であるとはいえない
    (下線筆者)

林道晴裁判官の補足意見

 林道晴裁判官は、結論として法廷意見に賛同しつつ、「本要件に該当するか否かを判断するに当たっては、簡易確定手続の審理を担当する裁判所が講じ得る審理運営上の工夫を十分考慮に入れる必要がある」として、以下のように例示したうえで、「民事裁判の実務において培われてきたこのような種々の審理運営上の工夫を考慮し、相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するという法の立法趣旨をも踏まえて、本要件の該当性を判断することが相当であろう」と意見しています。この意見には、宇賀克也裁判官も同調しています。

  • 「通常、共通義務確認訴訟の段階では、個々の消費者の個別の事情についてはいまだ明らかでないことが少なくないと思われるものの、本件のように、消費者契約に至る主要な経緯等が客観的な状況等からみて共通しているということができるような場合には、上記経緯等についての個々の消費者の個別の事情に係る争点に関しては、陳述書等の記載内容を工夫することなどにより、簡易確定手続の審理を合理的に行うことができるのではないかと思われる」

  • 「また、当事者多数の訴訟において、仮に過失相殺をするとした場合には、当事者(被害者)ごとに存する事情を分析、整理し、一定の範囲で類型化した上で、これに応じて過失の割合を定めるなどの工夫が行われているところであり、同様の工夫は、簡易確定手続においてもなし得るものと考えられる」

    (下線筆者)

最高裁(三小)令和6年3月12日判決のポイント

 原審判決と令和6年最判の判断を対比すると、両者の判断が分かれたポイントは、①本件で問題とされた不法行為の本質をどのように理解するか、②簡易確定手続において行われる審理の在り方をどのように考えるか、といった点にあるように思われます。①の点は、実体法的な事案の評価による面が強いため、本稿では詳しく取り上げません 3

 ②の簡易確定手続において行われる審理の在り方をどのように考えるかという点について、原審判決は、過失相殺および因果関係の審理判断に関し、簡易確定手続において陳述書等により類型的に判断することは困難である旨を指摘していました。これに対し、最高裁判所は、簡易確定手続における審理判断の在り方をより柔軟に捉え、過失相殺について「簡易確定手続を行うこととなる裁判所において、適切な審理運営上の工夫を講ずることも考えられる」との判断を示しました。そして、林道晴裁判官の補足意見は、簡易確定手続における審理判断の在り方の多様性をより踏み込んで示したものといえます。

 令和6年最判は、共通義務確認訴訟および簡易確定手続が「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差により消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることに鑑み、その財産的被害等を集団的に回復するため」という制度趣旨(消費者裁判手続特例法1条)に従って運営されるよう、支配性要件が過度に厳格に運用されることに警鐘を鳴らしたものと位置付けられると考えられます。


  1. 正式名称は「消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(令和4年法律第59号による改正前は「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」。 ↩︎

  2. 東京地裁令和3年5月14日判決(平成31年(ワ)11049号)、東京高裁令和3年12月22日判決(判時2526号14頁)(令和3年(ネ)2677号) ↩︎

  3. 最高裁判所が整理した原判決の要旨によれば、原審判決は「本件各商品の購入の勧誘等が不法行為となり、これによって、本件対象消費者が誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法があると誤信したとしても、そもそも投資等においてそのような方法があるとは容易に想定し難く、本件対象消費者につき、仮想通貨への投資を含む投資の知識や経験の有無及び程度、本件各商品の購入に至る経緯等の事情は様々であることからすれば、過失相殺について、本件対象消費者ごとにその過失の有無及び割合を異にする」と判断していました。これは、対象消費者の側の過失がそれなりに大きいことが相応にあり得るという評価を内包していると読みとれます。 ↩︎

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