「シンガポール・コンベンション・ウィーク 2022」が開催 – 専門家や有識者が集まり既存の法的枠組みに関する見識を共有PR
国際取引・海外進出
シンガポール・コンベンション・ウィークが今年も開催され、シンガポールと日本代表を含む100カ国以上から4,000人以上の専門家や有識者が集まり、商業的な国際紛争の解決に関するさまざまな側面について見識を共有しました。
今年のシンガポール・コンベンション・ウィークはシンガポール法務省が21のパートナー組織と協力して開催し、2022年8月29日から9月2日まで、シンガポールにおいてオンライン・オフライン両方を組み合わせたハイブリッド形式で行われました。
この年次会議のメインイベントはシンガポール法務省と国連国際法委員会(UNCITRAL)が共同で主催したUNCITRAL Academyというもので、今年は「Embracing Global Change, Navigating New Possibilities(グローバルな変化を受け入れ、新たな可能性を切り拓く)」というテーマのもと、様々な議論が交わされました。
調停条約は「多国間主義を支持する強力な声明」
8月30日のUNCITRAL Academyの開会宣言では、シンガポールのK・シャンムガム内務兼法務大臣が、まず「2022年7月のIMF(国際通貨基金)の発表によれば、世界経済の成長率は昨年の6.1%に対し、今年は3.2%と半分程度にとどまるだろう」と強調し、COVID-19の大流行とヨーロッパでの戦争が世界経済に与え続けている影響を指摘。今後発生する課題に対処する新しいツールが必要であることを訴えるとともに、実際、パンデミックによって、ガスや燃料など商業のサプライチェーンが寸断され、各国政府は他国への依存を見直す必要に迫られていると説明しました。
「グローバリゼーションは明らかに後退しています。このような環境下では、各国はより一層努力し、協力可能な部分は助け合い、世界の貿易環境をできる限り健全に保つよう努力しなければなりません。国際協力の枠組みを提供し、各国の行動を調和させるために、国連のような信頼できる国際機関が今後も必要です。そして、可能であれば、同じような考えを持つ国がグローバルな取引と労働環境をサポートし、より国際的な構造を作るよう努力すべきです」(K・シャンムガム内務兼法務大臣)
K・シャンムガム大臣はまた、シンガポール調停条約が多国間主義を支持する強力な声明であることを指摘しました。同条約は、「調停に起因する国際和解協定に関する国連条約」とも呼ばれ、2018年12月に国連で採択され2019年8月7日の署名受付開始初日に46カ国が署名し、2020年9月12日に発効されています。
この条約は、国際調停和解契約の強制執行や行使の手続きを簡素化、合理化する手段を提供します。また、国際貿易の円滑化や、国境を越えた紛争を解決する際に、訴訟や仲裁に代わる追加的かつ効果的な紛争解決手段として調停を促進するうえで不可欠な手段となっています。現在、シンガポール調停条約の締約国はシンガポール、フィジー、カタール、サウジアラビア、ベラルーシ、エクアドル、ホンジュラス、トルコ、ジョージア、カザフスタンの10カ国で、署名国は55カ国に及びます。
調和のとれた紛争解決枠組みの確立のためには、各国の団結が必要に
アンナ・ジュバン・ブレットUNCITRAL事務局長の講演では「『ニューノーマル』とは、新たに出現した技術的ソリューションを含む世界的に変化する環境のことで、国際協力に新たな機会を提供する」ことが指摘され、「新たな可能性を探る中で、各国は調和のとれた紛争解決枠組みの確立に向け、真の意味で団結する必要がある」と提言されました。
また、「UNCITRAL Academyの目的は、参加者が積極的に知識の移転に取り組み、新しい動向を把握し、調停についてさらに学ぶことであり、そしてもっとも重要なことは、政府関係者がシンガポール調停条約に署名し、批准していくことにあります」と述べられました。
日本とシンガポール間で締結された初めての共同オンライン調停プロトコルについて
同会議では、専門家であるパネリストやゲストも、アジア太平洋地域の視点を通じた投資家対国家の紛争解決における改革や、デジタル経済における紛争解決など、現在のグローバルな問題や新たな問題について議論を行いました。
UNCITRALアカデミー会議中の座談会で、シンガポールのエドウィン・トン文化・地域・青年大臣兼第二法曹大臣は、特にアジアにおける紛争解決分野のトレンドと今後の発展について触れ。同氏は、アジアは現在、世界の海外直接投資の半分を占めており、これらの投資が成熟するにつれ、国境を越えた紛争が増加することが予想されると指摘しました。また、この地域の実務家、特に若い実務家にとって、新たな分野の産業や成長機会が生まれることで、チャンスが広がっていくことに前向きな見解を示しました。
国際仲裁人・調停人であり霞が関国際法律事務所の高取芳宏弁護士は、「専門分野における調停・裁定・仲裁」のパネルディスカッションに登壇し、その中でハイテク紛争を専門とする高取弁護士は、コモンローとシビルローの専門知識を用いるだけでなく、それらを組み合わせて紛争を解決することが、技術の価値の喪失が早く、スピードが求められる場合に非常に有効であると述べました。
UNCITRAL Academyでは、産業界の実務家や政府関係者を対象とした能力開発のためのワークショップも開催されました。産業界向けのワークショップでは、調停にかかる時間や潜在的なコスト、機密保持、和解契約作成時の原則など、利用者に共通する懸念について意見を聞く機会があり、政府ワークショップでは、調停に関するシンガポール条約への署名と批准についてパネリストが見解を述べました。一方、投資家対国家の紛争解決に関するワークショップでは、投資家対国家の調停における最近の動向を探り、マルチステークホルダーの視点から、調停をめぐる実務上の留意点を深く掘り下げています。
公益社団法人日本仲裁人協会の理事長および京都国際調停センターのセンター長を務める岡田春夫氏は、2022年8月31日に開催された産業界向けの能力開発のためのワークショップの講師として登壇しました。同氏は、調停が迅速かつ低コストの紛争解決手段として世界的に注目されており、紛争当事者が解決結果をコントロールできるという利点もあることを紹介しました。また、2020年9月にJIMCとシンガポール国際調停センターの間で締結された「COVID-19共同プロトコル」の主要な特徴についても紹介されました。
京都国際調停センターとシンガポール国際調停センターは、コロナ禍において国境を越えたビジネスに安価で効果的な商取引の紛争解決ルートを提供する共同プロトコルのもとで協力することに合意しています。この共同プロトコルは、パンデミック時に迅速な調停を提供することを約束した2つの国際的な紛争解決センター間における世界初の共同調停プロトコルであると考えられています。また、シンガポール国際調停センターにとって、海外の調停機関との初の協働となりました。
シンガポール・コンベンション・ウィーク2022は盛況のうちに閉幕しました。特に変化の激しい事業環境の中で、紛争解決分野のオピニオンリーダーを集め、インサイトとベストプラクティスを共有するうえで極めて重要な役割を担っているといえます。