商事仮処分を中心とした「仮地位仮処分」の概要と不服申立ての流れ
訴訟・争訟
目次
商事仮処分は、仮の地位を定める仮処分(民事保全手続)のうち会社法関係の事件をいいます。会社の支配権や株主総会決議の効力等をめぐって争われる事案において、スピーディーな判断を得るための手続です。にもかかわらず、商事仮処分の不服申立手続についての詳しい解説書は乏しく、また、過去の商事仮処分事例の不服申立てが具体的にどのような流れ・スケジュール感で進んでいるかについても十分に整理されていません。
そこで本稿では、仮の地位を定める仮処分の概要と不服申立ての流れを概説したうえで、商事仮処分等に対する不服申立てが行われた近時の事例を紹介します。
なお、仮地位仮処分に対する不服申立ての流れは、近時増加しているインターネット上の投稿に関する仮処分をはじめとして、その他の仮地位仮処分全般においても参考になるものと考えられます。
※ 本稿では、会社法関係の仮地位仮処分を指して「商事仮処分」と表記します。しかし、この用語法は法律に定めのあるものではありません。もっとも、古くは①判例タイムズ197号(1966年)における「各種保全処分(商事仮処分)」の特集や、②ジュリスト550号(1973年)における松浦馨・太田勇「仮差押・仮処分の実態」の記事内に同様の分類が見られます。このように、平成元年に民事保全法が成立する前から伝統的に、会社法関係の仮地位仮処分を指して「商事仮処分」と呼称され整理されてきたものと推測されます。
仮の地位を定める仮処分とは何か
仮の地位を定める仮処分(仮地位仮処分)の概要
「裁判」と聞くと、まずは民事訴訟をイメージする方が多いかと思います。しかし、民事訴訟は(事案によりますが)第一審判決まで1年以上かかることがよくあります。そこで、(誤解を恐れずに平たくいうと)争いのある権利関係について暫定的にすぐに判断が欲しい場合には、民事保全法23条2項にある「仮の地位を定める仮処分」を申し立てることがあります。
「仮の地位を定める仮処分」とは、争いがある権利関係について、債権者(民事保全を申し立てた側)に生じる著しい損害または急迫な危険を避けるための暫定的な措置をいい、民事保全の一種です。なお、単に「仮地位仮処分」と表記されることもあり、以下、本稿でもこれにならいます。
2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
仮地位仮処分のメリット
仮地位仮処分は、非常にスピーディな手続である点がメリットです。
たとえば、3-2で後述する関西スーパーマーケット事件では、令和3年10月29日開催の臨時株主総会で決議された株式交換の決議(効力発生日:同年12月1日。その後、同月15日に延期)の有効性に疑義があるとして、同年11月9日に株式交換差止等仮処分命令の申立てが行われ、同年12月14日に最高裁の決定が出るというスピード終結に至りました。通常の民事訴訟では、このような短期間で終結することは考えがたいでしょう(もちろん、すべての仮地位仮処分がこのように迅速に審理されるとは限りません)。
仮地位仮処分が認められるための要件
以下の要件をすべて満たした場合、仮処分命令が発せられます(民事保全法13条1項、23条2項)。
要件① 被保全権利の存在
要件② 保全の必要性(仮地位仮処分では、争いがある権利関係について、申立人に生ずる著しい損害、または急迫の危険を避けるために、仮処分命令が必要であること)
仮地位仮処分の具体例
(1)会社法関係以外
仮地位仮処分のうち会社法関係以外では、次のような類型があります。特に、近時では、発信者情報開示等のインターネット上の書き込みに関連する仮地位仮処分の利用が顕著に増加しています。
- 金員仮払いの仮処分
例:労働者が不当解雇されたとして雇用主に対して賃金の仮払いを求める場合 - インターネット上の投稿記事削除の仮処分
- 発信者情報開示の仮処分
- 発信者情報消去禁止の仮処分
- 建築禁止・建築妨害禁止の仮処分
- 抵当権実行禁止の仮処分
- 出版禁止の仮処分
- 街宣活動禁止の仮処分
- 原発運転差止めの仮処分 など
(2)会社法関係(商事仮処分)
次に、仮地位仮処分のうち会社法関係における代表的なものとしては、次のような類型があります(下記①〜⑧は、概ね統計上の利用件数順に並べています)。
近時の東京地方裁判所の統計では、①役員の地位を仮に定める仮処分(過去5年で合計201件)と②職務執行停止・代行者選任の仮処分(同115件)が多く、次いで③会計帳簿等の閲覧謄写の仮処分(同40件)や株主名簿の閲覧謄写の仮処分(同25件)、④取締役等の違法行為差止め(同25件)が多いようです(統計値については、内林尚久「東京地裁における商事事件等の概況」旬刊商事法務2334号(2023年)31頁参照)。
仮処分の例 | 参考になる近時の裁判例 |
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① 役員の地位を仮に定める仮処分 | 同族企業や中小企業で内紛が生じ、解任登記を勝手に申請されそうな場合や完了した解任登記を変更する場合に、利用されることが多い |
② 役員の職務執行停止の仮処分と職務代行者選任の仮処分 |
大分地裁令和2年1月27日決定・金判1599号46頁(現取締役を選任した株主総会の手続的瑕疵が著しく、また現取締役の経営能力や意欲が不足していること等から保全の必要性もあるとして、現取締役の職務執行の停止と職務代行者選任を認めた事例) |
③ 会計帳簿等閲覧謄写の仮処分 | 東京高裁平成19年6月27日決定・金判1270号52頁(楽天対TBS事件) |
④ 取締役等の違法行為差止めの仮処分 | 東京地裁令和3年2月17日決定・金判1616号16頁(クレアホールディングス臨時株主総会に係る違法行為差止仮処分命令申立事件) |
⑤ 株主総会開催禁止の仮処分 | 大阪地裁令和2年4月22日・資料版商事法務435号143頁(積水ハウス定時株主総会開催禁止の仮処分命令申立事件) |
⑥ 議決権行使禁止の仮処分 | 東京地裁平成24年1月17日決定・金判1389号60頁 (新株発行に無効事由がある場合において当該新株発行に基づく議決権行使を禁止する仮処分を認めた事例) |
⑦ 新株予約権無償割当差止めの仮処分 | 最高裁(三小)令和3年11月18日決定・資料版商事法務453号94頁(東京機械製作所事件) 最高裁(二小)令和4年7月28日決定・資料版商事法務461号143頁(三ツ星事件) |
⑧ 株主総会出席禁止の仮処分 | 岡山地裁平成20年6月10日決定・金判1296号60頁 (「債務者(※特定の株主)は、平成20年6月25日午前10時に開催される債権者(※会社)の第n期定時株主総会に出席を要求するときは、債権者(※会社)による所持品検査を受け、債権者(※会社)に対し、武器、または人に危害を加えるおそれのある物を所持しないことを証明しなければならない」と命じた事例) |
不服申立手続の概要
仮地位仮処分の申立てについて裁判所がした決定に対しては、民事保全法上、不服を申し立てることができます。しかし、この不服申立手続はとても複雑です。
以下では、この不服申立ての流れを概説します。
不服申立ての流れ
※ 厳密には、基本事件が簡易裁判所であれば、本文図中の「地方裁判所」は「簡易裁判所」に、「高等裁判所」は「地方裁判所」にそれぞれ置き換わります(民事保全法19条、26条等)。ただし、商事仮処分において基本事件が簡易裁判所管轄となる事件は、あまり想定できないと考えられます。
※ 本稿では、商事仮処分を申し立てた側を「債権者(X)」、申し立てられた側を「債務者(Y)」と表記します。
なお、保全異議(民事保全法26条)のほかにも、重要な制度として保全取消し(同法37条〜39条)があります。保全取消しとは、保全命令の当否自体は争わず、本案不提訴、事情変更、特別事情を理由に取消しを求めるものです。保全取消しも重要ですが、商事仮処分での利用は多くはないと思われること、解説が長大になることから、本稿では言及せず、保全異議についてのみ検討します。
保全異議(申立て認容の場合)
(1)保全異議の概要(図の①・⑤)
債権者による申立てが認容された場合(保全命令が発令された場合)には、債務者は「その命令を発した裁判所」に対して保全異議を申し立てることができます(民事保全法26条)。
たとえば、地方裁判所で申立てが認容されれば同地方裁判所に(図の①)、高等裁判所で申立てが認容されれば同高等裁判所に(図の⑤)、それぞれ申し立てることになります(なお、保全異議審の審級が異なることについての審級の利益等の立法時の議論については、江原健志・品川英基(編著)『民事保全の実務〔第4版〕(下)』(金融財政事情研究会、2021)80頁と同頁に引用の文献をご参照ください)。
保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる。
(2)期間制限
保全異議には期間制限がなく、申立ての利益がある限り、いつでも可能です。ただし、商事仮処分では、事実上、効力発生日が終了期限となる類型が多いと考えられます(たとえば、株主総会開催禁止の仮処分の場合には、当該株主総会開催日までです)。
(3)保全異議審の裁判体の構成
後述3-2の関西スーパーマーケット事件および3-3の三ツ星事件は、基本事件と保全異議審の裁判体(裁判官3名)の構成が同じです。これは、民事保全法および同規則上、裁判体の構成の規定がないことが理由です(同法36条も参照)。より実務的な理由としては、小規模な裁判所であれば、異なる裁判体を構成することが事実上困難であることもあるのかもしれません。
たとえば、大津地方裁判所で審理された高浜原発運転差止めの仮処分では、①差止めを認めた基本事件(大津地裁平成28年3月9日決定・判時2290号75頁)と、②基本事件を認可した保全異議審(大津地裁平成28年7月12日決定・判時2334号113頁)の裁判長は同じです(他2名の裁判官は異なります)。なお、大津地方裁判所には、民事部が1つしかありません。
他方で、著名な住友信託銀行対UFJホールディングス事件(最高裁(三小)平成16年8月30日決定・民集58巻6号1763頁)においては、基本事件(東京地裁平成16年7月27日決定)と保全異議審(東京地裁平成16年8月4日決定)は、異なる裁判官3名で各判断をしています。これは、①東京地方裁判所には多数の裁判官が属することや、②メガバンクの統合交渉に関する極めて特殊な事件であったことが背景にあるのかもしれません。
即時抗告(申立て却下の場合)
(1)即時抗告の概要(図の②)
保全命令の申立てが却下された場合には、債権者は、即時抗告をすることができます(民事保全法19条1項)。
即時抗告を却下された場合には「更に抗告をすることはできない」とされています(同条2項)。ただし、民事保全法7条が準用する民事訴訟法336条、337条により、特別抗告・許可抗告はすることができます(図の⑥。詳細は後述2-4を参照)。
1 保全命令の申立てを却下する裁判に対しては、債権者は、告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
2 前項の即時抗告を却下する裁判に対しては、更に抗告をすることができない。
3 (略)
なお、上記のとおり、民事保全法19条2項では「即時抗告を却下」との表現が用いられていますが、同項の文言にかかわらず、「実務上は、他の抗告の場合と同様、即時抗告が不適法である場合には却下、理由がない場合には棄却との判断が示されている」との指摘があります(須藤典明・深見敏正・金子直史『リーガル・プログレッシブ民事保全〔4訂版〕』(青林書院、2019)237頁)。事実、3-1の東京機械製作所事件の即時抗告審の主文では、「抗告を棄却する」と表現されています。
(2)期間制限
即時抗告の期間制限は、原決定の告知日から2週間です(不変期間。民事保全法19条1項)。なお、民事保全法に規定があるのは、民事訴訟法上の即時抗告と異なる点があるためです(民事訴訟法上の即時抗告の不服申立期間が1週間とされている点等。民事訴訟法332条)。
保全抗告(保全異議に対する不服申立て)
(1)保全抗告の概要(図の③・④)
保全異議の申立てについての裁判に対しては、保全抗告をすることができます(民事保全法41条1項)。
民事保全法に規定があるのは、民事訴訟法上の抗告(民事訴訟法328条)とは異なる点があるためです(不服申立期間が1週間ではなく2週間である点、民事保全法41条2項によって再度の考案がない点、同3項によって再抗告ができない点等)。
1 保全異議又は保全取消しの申立てについての裁判(第三十三条(前条第一項において準用する場合を含む。)の規定による裁判を含む。)に対しては、その送達を受けた日から二週間の不変期間内に、保全抗告をすることができる。ただし、抗告裁判所が発した保全命令に対する保全異議の申立てについての裁判に対しては、この限りでない。
2 原裁判所は、保全抗告を受けた場合には、保全抗告の理由の有無につき判断しないで、事件を抗告裁判所に送付しなければならない。
3 保全抗告についての裁判に対しては、更に抗告をすることができない。
4 (略)
5 (略)
なお、高等裁判所が行った保全異議の申立てについての裁判に対しては、そもそも裁判所の権限分配上、保全抗告ができません(裁判所法7条2号)。すなわち、同条は最高裁判所の審理対象を「訴訟法において特に定める抗告」としており、本稿との関係では民事訴訟法が定める特別抗告・許可抗告に限定されているため、保全抗告はできないのです。
このことから、図の②→⑤のルートを通ったときの保全異議審の裁判に対しては、特別抗告・許可抗告で争うことになります(図の⑨・⑩。後述2-4を参照)。なお、このことと均衡を保つために、基本事件が簡易裁判所の場合にも同様の制約が課されています(民事保全法41条1項ただし書)。
(2)期間制限
保全抗告の期間制限は、送達を受けた日から2週間です(不変期間。民事保全法41条1項)。
特別抗告・許可抗告
(1)特別抗告・許可抗告の概要(図の⑥〜⑩)
高等裁判所の決定に対しては、特別抗告および許可抗告をすることができます(民事保全法7条、民事訴訟法336条(特別抗告)、337条(許可抗告))。
1 地方裁判所及び簡易裁判所の決定及び命令で不服を申し立てることができないもの並びに高等裁判所の決定及び命令に対しては、その裁判に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
1 高等裁判所の決定及び命令(第330条の抗告及び次項の申立てについての決定及び命令を除く。)に対しては、前条第1項の規定による場合のほか、その高等裁判所が次項の規定により許可したときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。ただし、その裁判が地方裁判所の裁判であるとした場合に抗告をすることができるものであるときに限る。
特別抗告とは、原裁判に①憲法の解釈に誤りがある場合、②憲法違反がある場合に限り、特別に最高裁による審理を求めることができる制度です。一方、許可抗告は、特別抗告よりは利用できる場面は広く、①最高裁判所の判例と相反する場合や②法令の解釈に関する重要な事項を含む場合などに、高等裁判所が許可を与え、この高等裁判所の許可があった場合には、最高裁への抗告があったとみなされるというものです(民事訴訟法337条4項)。
このように、特別抗告は、許可抗告に比して要件が厳しく、憲法論にひきつけて議論する必要があるところ、商事仮処分で憲法論が問題となることは稀だと考えられます。
後述3-2の関西スーパーマーケット事件および3-3の三ツ星事件では、いずれも許可抗告のみが申し立てられた可能性が高いと考えられます。これは、上記が理由と推測できます。
(2)期間制限
特別抗告・許可抗告の期間制限は、いずれも原決定の告知日から5日です(不変期間。民事訴訟法336条、337条)。民事訴訟における上告や上告受理申立ての期間制限が2週間であることと比して、特別抗告・許可抗告の期間制限は非常に短い点に留意が必要です。
(3)関連する問題(図の⑦・⑧の許可抗告について)
民事訴訟法337条1項ただし書を形式的に読めば、許可抗告は、地方裁判所がした決定に対してしか認められないように読めます。そのため、高等裁判所のした決定について、図の⑦・⑧のような「許可抗告」ができるのかが問題となります(特に山本克己「判批」私法判例リマークス20号140頁以下参照)。
この問題点について、最高裁(一小)平成11年3月12日・民集53巻3号505頁は、法令解釈の統一を図る必要性が高いことから、図の⑦・⑧の許可抗告を認めました(ただし、同事件では「特別抗告」自体は棄却されている点に留意が必要です)。
また、瀬木比呂志『民事保全法〔新訂第2版〕』(日本評論社、2020)132頁は、図の⑦・⑧のみならず、図⑥・⑨・⑩も許可抗告の対象になると指摘しており、後述3-1の東京機械製作所事件の経緯でも明らかなように、実際上も少なくとも図の⑥は認められています。
不服申立ての近時の事例
仮地位仮処分に対する不服申立ての手続は、上述のように不服申立ての種類が多くあり、決して分かりやすいものではありません。しかし、特に商事仮処分においては、どのような不服申立ての方法があるのかに加え、過去の事例において、どの程度のスピード感で最終決着に至ったのかを知っておくことは、担当弁護士や法務担当者がスケジュールを組むうえで重要な関心事項かと思います。
そこで、以下では、いくつかの近時の事例をもとに不服申立ての流れを整理します(3-1〜3-3は最高裁の決定日順)。
なお、審理期間は、仮地位仮処分の類型によって大きく左右されます。後述3-4の伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の審理は長期に及びました。
東京機械製作所事件(新株予約権無償割当差止仮処分命令申立事件)
東京機械製作所事件は、有事導入型買収防衛策に基づく対抗措置としての新株予約権無償割当ての適法性が争われた事案(特にMoM要件付き株主意思確認総会での承認が特徴的)であり、図の②→⑥のルートを通った商事仮処分手続です。
東京機械製作所事件の不服申立ての流れ(②→⑥)
判断:X(株主)の申立てを却下
対応:Xは即時抗告(図の②)
■ 即時抗告審:東京高裁令和3年11月9日決定・資料版商事法務453号98頁
判断:Xの抗告を棄却
対応:Xは特別抗告・許可抗告を申立て(図の⑥)
■ 特別抗告審・許可抗告審:最高裁(三小)令和3年11月18日決定・資料版商事法務453号94頁
判断:Xの抗告を棄却
※ 最高裁の事件番号が令和3年(ク)第1046号と令和3年(許)第15号であることからも明らかなように、特別抗告と許可抗告をいずれも申し立てた事例です。
関西スーパーマーケット事件(株式交換差止等仮処分命令申立事件)
関西スーパーマーケット事件は、債務者Yの株主総会において株式交換(組織再編に関する手続)の議題が極めて僅差で可決されたところ、同株主総会決議の投票の集計に疑義があるとして争われた事案であり、図の①→③→⑧のルートを通った商事仮処分手続です。
関西スーパーマーケット事件の不服申立ての流れ(①→③→⑧)
判断:X(株主)の申立て認容
対応:Y(会社)は保全異議の申立て(図の①)
■ 異議審:神戸地裁令和3年11月26日決定・資料版商事法務454号124頁
判断:Yの保全異議を認めず、基本事件どおり認可
対応:Yは保全抗告の申立て(図の③)
■ 保全抗告審:大阪高裁令和3年12月7日決定・資料版商事法務454号115頁
判断:原決定(異議審)と仮処分決定(基本事件)を取り消して、Xの仮処分命令申立てを却下
対応:Xは許可抗告を申立て(図の⑧)
■ 許可抗告審:最高裁(二小)令和3年12月14日決定・資料版商事法務454号101頁
判断:本件抗告を棄却
※ 基本事件と保全異議審の裁判官(3名)は同じです。
三ツ星事件(新株予約権無償割当差止仮処分命令申立事件)
三ツ星事件は、有事導入型買収防衛策に基づく対抗措置としての新株予約権無償割当ての適法性が争われた事案(特に共同協調行為が問題となった点が特徴的)であり、図の①→③→⑦のルートを通った商事仮処分手続です。
三ツ星事件の不服申立ての流れ(①→③→⑦)
判断:X(株主)の申立て認容
対応:Y(会社)は保全異議の申立て(図の①)
■ 異議審:大阪地裁令和4年7月11日決定・資料版商事法務461号158頁
判断:Yの保全異議を認めず、基本事件どおり認可
対応:Yは保全抗告(図の③)
■ 保全抗告審:大阪高裁令和4年7月21日決定・資料版商事法務461号153頁
判断:Yの保全抗告を棄却
対応:Yは許可抗告を申立て(図の⑦)
■ 許可抗告審:最高裁(二小)令和4年7月28日決定・資料版商事法務461号143頁
判断:Yの許可抗告を棄却
※ 基本事件と保全異議審の裁判官(3名)は同じ構成です。また、最高裁の事件番号が最高裁令和4年(許)第12号のみであるため、特別抗告はせず許可抗告のみを申し立てた事例であると考えられます。
伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件
商事仮処分ではありませんが、図の②→⑤のルートを通った希有な事例として、伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件があります。
伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の不服申立ての流れ(②→⑤)
判断:X(近隣住民)の申立て却下
対応:Xは即時抗告(図の②)
■ 即時抗告審:広島高裁令和2年1月17日決定
判断:Xの申立てを認める(逆転して原発運転差止め)
対応:Y(電力会社)は保全異議(図の⑤)
■ 異議審:広島高裁令和3年3月18日決定・判時2523号9頁
判断:仮処分決定を取消し、Xの抗告を棄却(再逆転して原発運転差止めを認めず)
対応:Xは特別抗告・許可抗告(図の⑩)をせず。なお、弁護団の声明によると、本案審理(民事訴訟)での解決を求めるという方針をとったため、と説明されています。
※ 即時抗告審と保全異議審との裁判体を比較すると、裁判長裁判官のみが異なり、他2名は同じ裁判官です。
おわりに
本稿では、①商事仮処分についてどのような不服申立てがあるのか(保全異議・即時抗告・保全抗告・特別抗告・許可抗告)、②商事仮処分における著名事件における審理期間がどの程度のスケジュールで組まれていたのかを検討しました。法務担当者や弁護士にとって、これら実際の事例や審理期間を知っておくことは有意義であると考えられます。

STORIA 法律事務所