ベトナム進出における法的な留意点 外資規制と進出手続のポイント

国際取引・海外進出

目次

  1. ベトナムの外資規制
    1. ベトナムにおける外資規制の総論
    2. 外資規制が問題となることが多い主な業種の例
  2. 進出手続
    1. 投資登記証(IRC)の申請
    2. 企業登記証(ERC)の申請
  3. (製造業の場合)工業団地への進出とそれ以外の地域への進出の場合の比較
    1. 工業団地のメリット(それ以外の地域のデメリット)
    2. 工業団地のデメリット(それ以外の地域のメリット)
  4. 進出に先立つ実地調査
    1. インフラの調査
    2. 土地の状況
    3. 環境面
  5. 土地リース契約(およびその予備契約)の契約交渉における留意点
    1. 交渉における留意点
    2. 基本契約を締結する前の留意点
    3. デポジットに関する留意点
    4. 賃料増額条項に関する留意点
    5. 土地使用権証に関する留意点

(写真:Anastasia Pelikh / Shutterstock, Inc.)

ベトナムの外資規制

ベトナムにおける外資規制の総論

 ベトナムは2007年1月11日付にてWTOに加盟し、その加盟議定書上の約束スケジュールに従って、証券業、倉庫業、小売・卸売業(ただし後述参照)等の多くの分野について、現在までに外資100%が認められています。ただし、産業分野によっては外資規制が残っています。

 具体的には、投資法の附属文書において、投資優遇分野、条件付投資分野および投資禁止分野に各産業がリスト化されているところ、投資優遇分野は優遇税制等の各種優遇を享受でき、条件付投資分野は外資の参入が制限され、投資禁止分野は外資による投資が禁止されています。

投資優遇分野 優遇税制等の各種優遇を享受できる
条件付投資分野 外資の参入が制限される
投資禁止分野 外資による投資が禁止される

 このうち条件付投資分野には、明確な外資比率の上限が定められているものとそうでないものが含まれています。そうでないものの代表例は不動産事業です。外資比率の上限が定められていない条件付投資分野については、投資審査を行う個々の担当部署および担当官の裁量に従って外資比率が要求される可能性が高いです。一般的には、49%以下であれば確実に問題なく認可が得られ、100%に近くなればなるほど、投資の内容および規模ならびに現地経済への貢献度合等においてハードルが上がってきます。

 したがって、ベトナム進出にあたっては、現地法人を設立して従事させる事業内容が上記の条件付投資分野または投資禁止分野に該当しないか確認することが必要となります。

外資規制が問題となることが多い主な業種の例

広告業

 明確な外資比率規制はないものの、越外合弁企業または事業協力契約(企業を設立せずにベトナム企業との契約に基づいて事業を展開するものであり、日本法上の組合契約に類似する契約です)の形態を採用する必要があり、100%外資の外国投資企業として設立することは認められていません。理論上は99.9%の外資比率の合弁企業も認められてしかるべきですが、実務上は80%~90%を超えてくると認可を得ることが難しいようです。

小売業

 小売事業への外資参入は、すでにWTO加盟議定書上の約束に基づいて現時点において外資100%企業に開放されていますが、二店舗目以降の小売店舗の開設の際に、経済需要テスト(Economic Needs Test ;ENT)という要件が要求されています。ENTは、店舗予定地周辺における人口およびその他の市場要因に基づいて、現地の中小の小売企業に対する悪影響の有無や程度を計算および判断するテストであり、中小の小売店舗の保護を趣旨としています。

 しかしながら、ベトナムにおいてENTの具体的な判断の要素および方法が十分に定められていないので、当局がENTを恣意的に運用し、事実上外資による小売業参入を阻害しているという批判が実務上あります。TPPによってENTは段階的に廃止されることが約束されていますが、TPP自体が暗礁に乗り上げており、今後の状況は不明です。

通信の付加価値サービス

 外資比率の上限が65%となります。また、ポータルサイトの運営等、場合によっては、別途ICP(Internet Contents Provider)ライセンスの申請も必要となります。

不動産業

 上記のとおり、条件付投資分野に分類されつつも、明確な外資比率規制はありません。したがって、何%までの外資比率が認められるのかという点は、当局の裁量によりケースバイケースで判断されます。また、土地法および関連法令上、外資が所有できる土地使用権の種類や外資が従事できる不動産業の具体的中身が別途制限されていますので、その点の留意も必要となります。また、外国人によるマンション等の不動産所有も、段階的に開放されているものの、まだある程度厳しい条件に服する点に留意することも必要です。

進出手続

 ページの関係上細かい手続は省略しますが、日本企業等の外国投資家が現地法人を設立してベトナムに進出する場合には、①投資登記証(Investment Registration Certificate;IRC)の申請、および②企業登記証(Enterprise Registration Certificate;ERC)の申請の二段階の手続が必要となります。

投資登記証(IRC)の申請

 投資登記証(IRC)の申請は、現地の計画投資局に対して、以下の申請書類(地域および担当官ごとに資料に一定の差異があります)を提出して申請します。

a)投資プロジェクト申請書
b)身分証明書または設立証明書(日本法人の場合、商業登記簿謄本)
c)投資プロジェクト提案

 内容は以下のとおりです。

  • プロジェクトを実施する投資家
  • 投資の目的
  • 投資の規模
  • 投資資本および資本調達の方法
  • 投資の地点
  • スケジュール
  • 進度
  • 労働の需要
  • 投資優遇措置享受の主張
  • プロジェクトの経済
  • 社会への影響
  • 効果の評価

d)次のいずれかの資料の写し

  • 投資家の直近 2 年分の財務報告書
  • 親会社の財務支援誓約書
  • 金融機関等の財務支援誓約書
  • 投資家の財務能力に関する保証
  • 投資家の財務能力を説明する資料

e)土地使用の需要の提案
 プロジェクトが国家に土地の交付、土地の賃貸、土地使用目的の転換許可を要請しない場合、投資プロジェクトの実施地点の借用合意書または投資家が同地点の使用権を有することを確認できるその他の資料の写しの提出が必要です。

f)(該当する場合には)、技術の使用に関する説明
 内容は以下のとおりです。

  • 技術名
  • 技術の出処
  • 技術行程の概略(主要な機械、設備および技術的な連鎖の使用状況、主要な技術的パラメーター)

g)事業協力契約の形式による投資プロジェクトについては事業協力契約
 投資法によれば、上記の申請書類の受領後15日以内に投資登記証が発行し、または発行の拒絶もしくは申請修正の要求を文書で申請者に通知されると規定されていますが、実務上はこれよりも長くかかる可能性が高く、申請後1~2か月程度要することが多いです。

企業登記証(ERC)の申請

 企業登記証の申請は、現地の会社登記機関に対して申請します。最も一般的な会社形態である有限責任会社の設立の場合における必要文書(地域および担当官で差異があります)は、以下のとおりです。

a)企業登記申請書
b)定款
c)出資者リスト
d)出資者の身分証明書または登記証明書等
e)外国投資家による投資の場合には、投資登記証

 企業法によれば、経営登記機関は、経営登記申請の受理後3営業日以内に、企業登記証を発行し、または発行の拒絶もしくは申請修正の要求を文書で申請者に通知すると定められていますが、実務上はこれよりも長くかかる可能性が高く、申請後1~2か月程度要することが多いです。

 なお、現地のコンサル等が、申請に必要な期間の見通しについて短い期間を言うことが多いですが、それはかなり楽観的なものであり、信頼性が低い点に留意すべきです。経験上の個人的な感想として、ベトナム人はとても勤勉ですが、期限の順守については甘い感覚を持っている人が多く見られます。

(製造業の場合)工業団地への進出とそれ以外の地域への進出の場合の比較

 製造業の場合には、まず、工業団地へ進出するか、それ以外の地域へ進出するのかという点が問題となります。一般的には、長年ベトナムで現地法人をすでに運営しており現地実務に精通しているような場合を除いて、工業団地に進出する方が無難です。

工業団地のメリット(それ以外の地域のデメリット)

許認可

 工業団地以外の地域では、投資証明書、税務、税関、労務、ならびに土地および環境について、それぞれ異なる政府機関にて手続をしなければならないところ、ベトナムの官庁も日本と同じく縦割り主義であり、申請情報の当局間の共有はなく、相互の主張が矛盾することも多いので、投資証明書の申請手続および会社設立後の手続において苦労することが多いです。

 他方において、工業団地では、工業団地管理委員会が個別の根拠法令により上記の各分野について一元的に権限を授権されており、当該委員会における許認可のワンストップサービスが可能となっています。

言語

 工業団地によっては、英語および日本語での窓口対応もある程度可能です。

インフラ

 工業団地がまとめてインフラ(整地、電気、ガス、水道、通信、排水および周辺道路)をある程度整備するので、インフラに関して事後に問題が発生するリスクがそれ以外の地域と比較して相対的に低いです。

工業団地のデメリット(それ以外の地域のメリット)

 工業団地の土地リース料は、それ以外の地域の土地リース料と比較して一般的に割高です。

進出に先立つ実地調査

インフラの調査

 ベトナムにおいては、日本と異なり、電気、ガス、水道、下水、通信および道路等のインフラが整備されていない地域が多いところ、ベトナム実務においては、政府または工業団地との土地リース契約において、インフラ整備については賃借人である現地法人が各インフラ提供会社と個別に別途契約を締結すると定められ、貸主側がインフラの未整備に責任を負わないと書式上定められていることが多いです。

 これらの条項について契約交渉により修正させることは、場合によっては可能ですが、修正できない場合の方がどちらかといえば多いと思われます。したがって、インフラの整備状況については、よくよく実地調査しておくべきです。このインフラには、電気、ガス、水道、下水および通信の有無および能力等の敷地内のインフラのみならず、周辺の道路や橋の路面状況や積載可能量も含まれます。

土地の状況

 その他、土地の状況に関して、整地の完了の有無および現場における住居または農地の有無についてチェックすることも重要です。特に、ベトナム政府は、日本政府と同様に、住民の反対がある場合において、土地の強制収容を行うことにかなり消極的であり、当該土地について収用に関する協議がまとまっていない場合には、収用が計画よりも何年も遅れる可能性があります。

環境面

 また、環境面でも、地盤の固さおよび土壌汚染の有無(たとえばベトナムでは今でも稀にベトナム戦争時の枯葉剤の影響を受けている土地もあるようです)を確認するために、ボーリング調査等を行なうことも、食品加工等の業種によっては必要になると思われます。

土地リース契約(およびその予備契約)の契約交渉における留意点

 製造業の進出にあたっては、工業団地との土地サブリース契約、工業団地外の場合には政府からの土地リース契約を締結することとなります。具体的には、投資証明書取得前に、外国企業である投資家と工業団地または政府との間において、土地リースに関する基本契約または予約契約(契約の標題は、MOUやLOIであることも多いですが実質的には法的拘束力を完全に有する契約です)を締結し、投資証明書の取得(=現地法人の法人格取得)後に、現地法人と工業団地または政府との間において土地リース契約を締結することになります。この点、実務上の観点から、土地リース契約およびその基本契約(予約契約)について、以下の点に注意すべきです。

交渉における留意点

 工業団地および政府は、基本契約および土地リース契約の双方について、全面的な修正にはまず応じないことが多いです。他方において、交渉上の立場にもよりますが、全く修正の余地が無いわけでもありません。したがって、実質的に重要な論点に絞る形で粘り強く交渉を試みるべきです。

基本契約を締結する前の留意点

 基本契約(予約契約)を締結してしまうと、その後の正式な土地リース契約の段階ではあまり交渉する機会もありませんので、事実上基本契約が最終的なものとなる可能性が高いです。したがって、「空きが少なく急がないと他社に決まってしまう」と急かされる場合でも、なるべく基本契約の交渉段階で重要な点について交渉しておくべきです。

デポジットに関する留意点

 基本契約(予約契約)の締結後において、外国投資家がデポジットを支払うことが通常要求されますが、基本契約(予約契約)の工業団地・政府側のドラフトでは、何があってもデポジットが返還されないと定められていることが多いです。しかしながら、先方や当局側の都合で投資を断念する可能性は十分あるので、先方または当局の責による投資中止の際にはデポジットが全額速やかに返還される旨定めることが重要です。

賃料増額条項に関する留意点

 一括前払いではなく年払いベースの賃料については、可能であれば、賃料増額条項について、上限等の制限を付すことが望ましいです。ただし、上限を付すことにより、逆に上限まで賃料を増額されやすくなるおそれもあります。

土地使用権証に関する留意点

 土地使用権の対抗要件は土地使用権証によって付与されるところ、工業団地からのサブリースに基づく土地使用権についても土地使用権証が発行されます。したがって、土地使用権証の発行の条件および期限について明確に定めておくことが望ましいです。

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