金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告(案)」の公表

コーポレート・M&A

目次

  1. 公開買付制度のあり方について
  2. 大量保有報告制度のあり方について
  3. 実質株主の透明性について

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代⾏ニュースNo.213」の「特集」の内容を元に編集したもので、記事の内容は発行時点の情報によるものです。


 金融庁は、12月19日、金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ(以下「WG」)(第6回)を開催し、審議資料として「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告(案)」(以下「報告案」)を公表しました。報告案の内容は、審議を踏まえて今後変更される可能性がありますが、株式実務に関わる内容であるため、速報としてその概要につきご説明します。

公開買付制度のあり方について

現行制度 現行制度では、主に、多数の者(60日間で10名超)からの市場外取引による買付け等の後の株券等所有割合が5%超となる場合(いわゆる「5%ルール」)、市場外取引又は市場内取引(立会外)による買付け等の後の株券等所有割合が3分の1超となる場合(いわゆる「3分の1ルール」)に公開買付けの実施を義務付けている。
1.欧州型の規制への移行について
論点等
(欧州型の規制の概要)
欧州諸国は、公開買付制度を、支配権異動の場面において少数株主が公平な価格で売却する機会を確保するための制度と位置付け、以下の制度が適用されている。
  • 取引の類型によって公開買付けの要否を区分するのではなく、一定の閾値を超えた場合には原則として事後的に公開買付けの実施を義務付ける規制
  • 部分買付けの原則禁止
  • 最低価格規制
見直しの方向性
  • WGでは、直ちに欧州型の規制に移行すべきとの結論には至らなかったが、将来的な欧州型の規制への移行の可能性も念頭に置きつつ、公開買付制度の適用範囲や部分買付けの許否など、各検討課題について個別に検討することとした。
  • 欧州型の規制への移行については、当局における実質的判断機能を担う体制の整備状況(下記6. 参照)を踏まえつつ、引き続き検討を重ねていくべきである。
2.市場内取引の取扱い
(1)3分の1ルールにおける取扱い
現行制度 市場内取引(立会内)は、一定の透明性・公正性が担保されているとの考え方に基づき、原則として5%ルールおよび3分の1ルールの適用対象となっていない。
見直しの方向性 会社支配権に重大な影響を及ぼすような証券取引の透明性・公正性を担保する観点から、市場内取引(立会内)についても3分の1ルールの適用対象とすべきである。
(2)閾値間の取引の取扱い
現行制度 すでに株券等所有割合が50%超である者が、3分の2に至らない範囲で市場外取引を通じて買付け等を行う場合、多数の者(60日間で10名超)からの買付け等でない限り、3分の1ルールの適用対象外である。一方、すでに株券等所有割合が3分の1超である者が、50%超に至らない範囲で市場外取引を通じて買付け等を行う場合、3分の1ルールの適用対象外ではない。
見直しの方向性 上記(1)によると、買付け後の株券等所有割合が3分の1超となるあらゆる買付けは、原則として公開買付けの実施が義務づけられるが、上記のような閾値間の取引は、会社支配権への影響も考慮しつつ、制度の目的に照らして過剰な規制とならないようにすべきである。
(3)「急速な買付け等」の規制
現行制度
(急速な買付け等の規制)
①3か月以内に、株券等の総数の10%超の株券等の取得を行い、②①の取得のうち、株券等の総数の5%超の株券等の取得が、市場外取引又は立会外取引(公開買付け及び適用除外買付け等を除く。)によるものである場合であって、③取得の後における株券等所有割合が3分の1超となるときは、その中に含まれる株券等の買付け等は公開買付けによらなければならない。
見直しの方向性
  • 市場内取引(立会内)を3分の1ルールの適用対象とする場合には、「急速な買付け等」の規制を廃止すべきではないかとの点について検討したが、WGにおいて、「急速な買付け等」の規制を廃止すべきとの結論には至らなかった。
  • 公開買付けによって3分の1の閾値を超える場合には、「急速な買付け等」の規制に抵触しないよう整理すべきではないかとの点について検討したが、WGにおいて、そのように整理すべきとの結論には至らなかった。
3.強圧性の問題を巡る対応
現行制度(問題の所在) 買付け等の後の株券等所有割合が3分の2以上となる場面を除き、部分買付け(上限を付した公開買付け)の実施が許容されているが、支配権取得後に対象会社の企業価値の減少が予測される場合に、一般株主において不利益を回避するため、公開買付価格等に不満があっても公開買付けに応募するインセンティブが生じるという「強圧性」の問題が指摘されている。
見直しの方向性
  • 部分買付けを禁止すべきか否かについては、望ましいM&Aを阻害する効果の検証等を含め、引き続き検討されるべきである。
  • 部分買付けを実施する際は公開買付者(及び賛同する対象会社)が一般株主の理解を得るように努めることが望ましく、そのような取組みを促すための方策を検討すべきである。
4.3分の1ルールの閾値
現行制度 「3分の1」という数値が、株主総会の特別決議を阻止できる基本的な割合であること等に鑑み、「3分の1ルール」が採用されている。
見直しの方向性 諸外国の水準や議決権行使割合に鑑み、3分の1ルールの閾値を30%に引き下げることが適当と考えられる。
5.金融商品取引業者等による顧客からの買付け等
現行制度 5%ルールは、反復継続的に株券等の売買を行う金融商品取引業者等の売買取引を過度に制約している面があり、適用対象とならない取引の範囲を明確化すべきとの指摘がある。
見直しの方向性 勧誘を受ける株主の利益を害するおそれを生じさせるものではない①単元未満株の買付け等、②機関投資家等の顧客からの買付け等であって、その後直ちに売却することを予定しているものといった取引が5%ルールの適用対象とならないことを明確化すべきである。
6.公開買付制度の柔軟化・運用体制
現行制度 現行の公開買付制度は、公開買付けの条件等に関する各種規制について、実質的な観点から個別事案ごとに例外的な取扱いを許容するような制度は設けられていない。
見直しの方向性 当局において引き続き体制の強化に努めていくことを前提に、まずは以下の各規制について、個別事案ごとに当局の承認を得ること等によって規制が免除される制度を設けるべきである。
  • 別途買付けの禁止、形式的特別関係者、公開買付期間、買付条件の変更、公開買付けの撤回、全部買付義務・全部勧誘義務に関する規制
7.公開買付けの予告
現行制度 実務上、公開買付けを行う旨が公表される場合、当該公表に際して具体的な開始日(通常は翌営業日)が明示されることが一般的だが、公開買付者が公開買付けを行う予定である(又はその可能性がある)旨のみが公表され、具体的な開始日が明示されないケースも存在する。
見直しの方向性 公開買付けを実際に行う合理的な根拠がある場合であっても、長期間にわたって公開買付けが開始されないような場合には、市場を不安定にするおそれがあるため、まずは当局のガイドライン等をもって公開買付けの予告を行う際の開示のあり方を整備すべきである。

大量保有報告制度のあり方について

1.重要提案行為の範囲
現行制度 金融商品取引業者等が特例報告制度を利用するためには、重要提案を行うことを目的としないことが要件であるが、重要提案行為の範囲の更なる明確化又は限定が必要との指摘がある。
見直しの方向性 企業支配権等に直接関係する行為(役員の指名等)を目的とする場合は、広く重要提案行為に該当する規律としつつ、企業支配権等に直接関係しない提案行為(配当方針・資本政策に関する変更等)を目的とする場合は、その採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様による提案行為を行うことを目的とする場合に限り、重要提案行為に該当する規律とすることが適当。
2.共同保有者の範囲
現行制度 保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者について、例外なく共同保有者に該当することとされている。
見直しの方向性 各保有者が有する経営に対する影響力を増幅させないような協働エンゲージメントに関する合意をしている者については、共同保有者概念から除外することが適当である。
3.デリバティブの取扱い
現行制度 現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引のロングポジションを保有するのみでは、基本的に大量保有報告制度の適用対象にならないと考えられている。
見直しの方向性 現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引であっても、現物決済型のエクイティ・デリバティブ取引に変更することを前提としていたり、そのようなポジションを有することをもって発行会社にエンゲージメントを行うような場合は、大量保有報告制度の適用対象とすることが適当である。
4.大量保有報告制度の実効性の確保
現状 大量保有報告書等の提出遅延等が相次ぎ、制度の実効性が確保されていない等の指摘がある。
見直しの方向性
  • 共同保有者の認定に係る立証の困難性の問題を解決すべく、一定の外形的事実が存在する場合には共同保有者とみなす旨の規定を拡充すべきである。
  • 大量保有報告制度を遵守しないまま公開買付けを開始しようとする事例に対しては、公開買付届出書の事前相談の際に大量保有報告書の提出や訂正を求めるなど、適切な対応を講じていくべきである。
  • 訂正命令等の是正措置を行うことができるような枠組みを整備すべきである。

実質株主の透明性について

現行制度 名義株主については会社法上の株主名簿や有価証券報告書等の大株主の状況の開示を通じて発行会社や他の株主が把握するが、実質株主(株式の議決権指図権限や投資権限を有する者)については大量保有報告制度の適用対象(5%超)の場合を除き把握する制度が存在しない。
論点等 実質株主とその持株数につき、発行会社や他の株主が効率的に把握できるよう、諸外国の制度も参考に実務的な検討がされるべきとの指摘がされている。

 米国:一定の運用資産を有する機関投資家に対して、定期的にその保有明細の公衆開示を求める制度

 欧州諸国:発行会社が実質株主や名義株主に対してその保有状況や実質株主に関する情報について質問した場合に、その質問に対する回答を義務付ける制度

見直しの方向性
  • 今後、関係者においては、欧州諸国の制度を参考に適切な制度整備等に向けた取組みを進めるべきである。
  • まずは早急に、機関投資家の行動原則として、その保有状況を発行会社から質問された場合には回答すべきであることを明示することを、またその後、そのような回答を法制度上義務付けることを検討すべきである。その際、企業が得た実質株主に係る情報の有価証券報告書等を通じた開示のあり方についても、検討することが考えられる。
  • 併せて、実質株主の把握プロセスを効率的にするための制度・運用のあり方についても検討されることが期待される。
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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