東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について

コーポレート・M&A

目次

  1. 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の取組み
    1. 開示企業一覧表の公表について
    2. 開示企業の一覧表に関する留意事項
  2. 一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」について

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.212」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 東京証券取引所(以下「東証」)は、本年10月26日、「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する開示企業一覧表の公表等について」を公表しました。


 本年3月、東証はプライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。以降、各社において当該要請に基づく開示が行われるなど取組みが進められていますが、対応を進めている上場会社の状況を投資者に周知し、取組みを後押ししていく観点から、要請に基づき開示している上場会社の一覧表の公表を開始することとし、今般の要請の趣旨や留意事項について改めて周知がなされました。

 また、当該要請に関し、一般社団法人機関投資家協働対話フォーラムより「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」が公表され、投資家が企業に求める情報開示の内容が示されています。

 開示内容の検討に当たり参考になると思われますので併せてご案内いたします。

「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の取組み

 東証は、上場会社における資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組みの検討・開示をさらに促進していく観点から、以下の取組みを進めるとしています。

項 目 内 容 時 期
開示企業一覧表の公表、趣旨・留意点の再周知

① 対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押しする観点から、要請に基づき開示している企業の一覧表を公表

2024年1月15日に公表開始、毎月更新予定

② 公表開始前に、要請の趣旨・留意点について上場会社に改めて周知

2023年10月26日、上場会社に通知
対応のポイント・取組み事例の公表
  • 投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の高い支持が得られた取組みの事例について、企業の規模や状況に応じていくつかのパターンを取りまとめ、公表
2024年1月を目途
対応状況の集計・周知
  • 企業の開示状況や投資家等からのフィードバック等を概ね半年に1回程度集計
次回は2024年1月を目途

開示企業一覧表の公表について

  開示企業の一覧表の掲載項目や公表方法等は以下のとおりです。

掲載項目 証券コード、企業名、市場区分、業種、要請に基づく開示状況(開示済/検討中の別)、英文開示
開示状況の集計方法 直近に提出されたCG報告書の「コードの各原則に基づく開示」欄、もしくは、「コードの各原則を実施しない理由」欄において、次のキーワードに基づき集計
  • 「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードを記載している場合には「開示済」
  • 「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードを記載している場合には「検討中」

※ いずれのキーワードも記載されていない場合、一覧表には掲載されません

※ 要請に基づく開示内容について、英文でも開示を行っている場合には、上記のキーワードに続けて「【英文開示有り】」と記載(その場合、一覧表の「英文開示」欄を「有」として集計される)

公表方法 以下、日本取引所グループウェブサイトに、Excelファイル(日・英)を掲載
【日本語】
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/follow-up/02.html
【英語】
https://www.jpx.co.jp/english/equities/improvements/follow-up/02.html
公表開始時期・更新頻度
  • 初回は、2023年12月末時点のCG報告書の状況に基づき集計し、2024年1月15日(月)を目途に公表予定
  • その後は、各月末時点の状況に基づき、翌月15日を目途に一覧表を更新(毎月更新)

開示企業の一覧表に関する留意事項

(1)開示要請の対象

 PBR水準に係わらず、全てのプライム市場、スタンダード市場上場会社に対応が要請されています。

  • 既にPBR1倍を超えている場合であっても、株主・投資者の期待、国内外の同業他社との比較、PBR以外の資本収益性や市場評価に関する指標の状況などを勘案しつつ、更なる向上に向けた取組みについて、積極的な検討・対応が求められています。

(2)コーポレート・ガバナンス(CG)報告書への記載

 開示の形式・書類は一律に定められておらず、いずれの形式でも開示した場合には、CG報告書において「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードとともに、開示している旨や閲覧方法について記載することが要請されています。

(3)「検討中」という開示を行う場合の留意事項

 「検討中」という開示を行う場合には、検討状況や開示の見込み時期について、可能な限り具体的な説明が求められています。また、CG報告書において「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードの記載も求められています

(4)英文開示

 今般の要請に基づく開示内容について、英文開示を行っている場合、CG報告書において「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」もしくは「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードに続けて、「【英文開示有り】」と記載することが求められています。


【ご参考】既開示企業の状況

 弊社にて「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」をキーワードにCG報告書を調査したところ、開示を行っている会社は491社(15.0% 1)ありました。その内「検討中」と明記している会社は18社、「検討中」との明記はないものの今後対応していく旨の開示となっている会社も82社ありました(2023年11月13日現在)。市場別の状況等は次のとおりです。

  • 市場別の状況 プライム市場:393社(23.7% 1)、スタンダード市場:98社(6.1% 1
  • PBRの状況 2 1倍未満:345社、1倍以上:143社
  • 目標とする指標 3 ROE:80社、ROIC:28社、ROA:6社(重複集計)

一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」について

 本年10月3日、一般社団法人機関投資家協働対話フォーラムは「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」を公表しました。公表文では、東証の要請を「企業価値向上の実現に向けて、(中略)開示をベースとした投資者との積極的な対話を求めるもの」と位置付けたうえで、投資家との対話において説明すべき項目を以下のとおり整理しています。
 なお、すべての項目が整うまで説明を控えるのではなく、整理できた項目から投資家に説明することをお勧めする、とされています。

【適切な企業価値評価のための説明項目(ストーリーの中に組み込むべき項目)】

企業価値向上に向けたストーリー 主な説明項目 投資家の評価項目

1)実現したい中長期的な経営ビジョンや使命、パーパス

経営ビジョン、企業使命、パーパス
  • 企業風土と企業文化への認識
  • 企業風土・文化

2)現在のビジネスモデル、価値創造の源泉・競争力の源泉、収益構造、市場環境

ビジネスモデル
  • 商品・サービスの内容・特徴、事業ごとの寄与度
収益構造
  • 収益・費用構造、キャッシュフロー獲得の流れ、収益構造に重要な影響を与える条件が定められている契約内容
市場環境
  • 具体的な市場(顧客の種別、地域等)の内容及び規模
  • 競合の内容、ポジショニング、シェア等
競争力の源泉、競争優位性
  • 成長ドライバーとなる技術・知的財産、ビジネスモデル、ノウハウ、ブランド、人材等
  • 収益力はあるか
  • 成長性に確信が持てるか

3)リスクと成長機会となる重要なサステナビリティ課題(マテリアリティ、特に財務的マテリアリティ)

認識するリスク及び対応策
  • 成長の実現や事業計画の遂行に重要な影響を与えうる主要なリスク及び対応策
  • リスクマネジメントは適切か

4)ビジョンや使命、パーパスの実現に向け、マテリアリティ、特に財務的マテリアリティを踏まえた、企業価値を向上させる中長期戦略

成長戦略
  • 経営方針・中長期的な成長戦略
  • それを実現するための具体的な施策と経営資本(研究開発、設備投資、マーケティング、人員、知財、投資等)
  • 目指すゴール(ビジョンやパーパス等)達成までの期間
  • 成長性に確信が持てるか

5)中長期戦略の遂行のために必要な経営資源、特に人的資本・知的財産など無形資産

6)財務的マテリアリティによる将来財務への影響、取組み目標とKPI

経営指標
  • 経営上重視する指標(指標として採用する理由、実績値、具体的な目標値など)
利益計画及び前提条件、進捗状況

7)これらを適切なリスクテイクのもと積極果敢に推進するガバナンス、特に、サステナビリティに関わるガバナンス(サステナビリティ・ガバナンス)

投資家との対話、情報開示の方針、資本政策
  • 株主資本コストやWACCの把握と資本政策
  • 資本市場からの自社の評価に対する認識
ガバナンスの方針、体制、取組み
  • 適切なリスクテイクと積極果敢な意思決定、その規律を保つ仕組み、体制
経営トップのコミットメント
  • 資本市場に対する姿勢、資本政策、ガバナンス、経営トップの熱意
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

  1. プライム市場上場会社1,658社、スタンダード市場上場会社1,619社を母数として算出 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. 2023年9月末現在。不明3社を除く ↩︎

  3. 開示文中に当該指標名の記載がみられる社数を集計したもの ↩︎

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