東京証券取引所「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」第12回を開催
コーポレート・M&A
目次
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.211」の「特集」の内容を元に編集したものです。
東京証券取引所(以下「東証」)は、10月11日、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」)の第12回(以下「第12回会議」)を開催しました。
フォローアップ会議は、東証の市場区分見直しの実効性向上のため、上場会社の企業価値向上に向けた取組み等に関する追加的対応について議論を行うために設置されています。第12回会議では以下の事項について議論されました。
① | 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」および「株主との対話の推進と開示」に関する今後の取組み |
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② | プライム市場上場会社のスタンダード市場再選択結果 |
③ | プライム市場における英文開示の拡充 |
④ | プライム市場における女性役員の選任に係る制度改正 |
本特集では、①および③に焦点を当て、議論に用いられた資料からその概要をご紹介するとともに、当日の議事録から会議メンバーの発言の一部をご紹介します。なお、本稿は、議論のポイントおよび経過をご紹介するものであり、今後の東証の取組み等について本稿記載の内容から変更が生じ得る点はご了承ください 1。
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」および「株主との対話の推進と開示」に関する今後の取組み
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
東証は、プライムおよびスタンダード市場の全上場会社に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」として、自社の資本コストや資本収益性等に係る「現状分析」、「計画策定・開示」、「取組みの実行」と、分析・開示の継続を要請しています。
本要請では、開示を行う書類の定めはないものの、開示を行っている旨などについてコーポレートガバナンス報告書へ記載することを求めています。そして、東証は8月29日に開催されたフォローアップ会議の第11回(以下「第11回会議」)において、コーポレートガバナンス報告書における記載を分析のうえ開示状況を報告しています(下図)。第11回会議では、短い期間で一定数の企業が開示をしていることを評価しつつも、特にPBRが1倍を超えている企業で開示率が低く、PBRが1倍を超えていれば今般の要請は関係ないという誤解が生じているとの指摘もなされています。
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を踏まえた開示状況
以上を踏まえ、第12回会議では、今後の東証の対応方針(案)が示され、議論が行われました。プライムおよびスタンダード市場上場の各社においては、要請事項への対応を進めていくことが期待されます。
東証の対応方針(案) | ||
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項 目 | 内 容 | 時 期 |
開示企業一覧表の公表、趣旨・留意点の再周知 | ① 対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押しする観点から、要請に基づき開示している企業の一覧表を公表 |
年明けを目途に開始。毎月1回更新予定 |
② 公表開始前に、要請の趣旨・留意点について上場会社に改めて周知 【周知のポイント】
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10月中予定 | |
対応のポイント・取組事例の公表 | 投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の高い支持が得られた取組みの事例について、企業の規模や状況に応じていくつかのパターンを取りまとめ、公表 | 年明けを目途 |
対応状況の集計・周知 | 企業の開示状況や投資家等からのフィードバック等を概ね半年に1回程度集計 | 次回は年明けを目途 |
東証の対応方針(案)に対する会議メンバーの発言(一部抜粋)
「株主との対話の推進と開示」
東証は、プライム市場の全上場会社に対して、経営陣等と株主との対話の実施状況(対話の対応者、対話のテーマ、経営陣や取締役会へのフィードバックの実施状況など)についての開示を要請しています。東証では、その開示状況(下図)を踏まえつつ、対話の実効性向上の観点から、上場会社へのサポートとなる追加的対応を検討しており、第12回会議では、経営者が率先して対話にコミットしている企業等について、その取組みを紹介する案などが示されています。
また、東証の要請の趣旨などについて上場会社に対して再周知を図る予定であり、その際のポイントは以下の事項となる見込みであることが示されました。
- 「今回の要請は、投資家からの対話の申し込みがあった場合に真摯な対応を求めるものであること」
- 「株主との対話の実績がない場合は、対話の申し込みがあった場合に真摯に対応するための体制整備や情報開示・IR活動の拡充を通じた投資家へのアピール等の取組みを開示することが考えられること」
プライム市場上場の各社においては、要請事項への対応を進めていくことが期待されます。
対話の実施状況等の開示状況(プライム市場)
プライム市場における英文開示の拡充
プライム市場がグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場であることなどを踏まえ、東証は、プライム市場の全上場会社を対象に、上場維持基準に関する経過措置の終了にあわせて、特定の開示書類の英文開示を義務化する方針を公表しています。
また、特定の書類の英文開示を義務化するのみならず、英文開示のタイミング、すなわち日本語での開示から英文開示までのタイムラグがないまたは短いことも重要であるとされています。
第12回会議では、日本語との情報量の差、開示のタイムラグ、中小型株における英文開示の不足などを理由に、日本の上場企業の現状の英文開示に対して海外投資家の72%が不満と回答していることや、実務上の負担への配慮を求める企業側の意見などが示されました。そのうえで、段階的に英文開示を進めていくこと、その場合に優先的に義務化すべき書類、義務化の時期などについて議論がなされました。義務化の対象書類およびその時期について議論の集約が待たれますが、プライム市場上場の各社においては、議論の動向を踏まえて必要な検討を進めていくことが期待されます。
東証が提示した論点 |
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◼段階的な英文開示の拡充
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東証が提示した論点に対する会議メンバーの発言(一部抜粋)
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)
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「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」については、10月26日付で、第12回会議の議論を踏まえた通知が東証より発出されております(「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について」)。併せてご覧ください。 ↩︎