金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」について

コーポレート・M&A

目次

  1. 公開買付制度に関する検討課題
    1. 強制公開買付規制の適用対象の見直し
  2. 大量保有報告制度に関する検討課題
    1. 「重要提案行為」の範囲
    2. 「共同保有者」の範囲
    3. 大量保有報告制度の実効性の確保
  3. 実質株主の透明性に関する検討課題

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.209」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 金融庁は、6月5日(第1回)および7月31日(第2回)に、公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方に関する検討のため、金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ(以下「本WG」)を開催しました。

 本WGは、本年3月2日開催の金融審議会総会・金融分科会合同会合での諮問事項(近時の資本市場における環境変化を踏まえ、市場の透明性・公正性の確保や、企業と投資家との間の建設的な対話の促進等の観点から、公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方について検討を行うこと)を受けて設置されたものです。本WGでは、これまでに一定の結論を得ているわけではありませんが、審議される論点を把握することで、将来的に制度改正がなされる場合はその備えとなるため、以下では、本WGにおける主な検討課題についてご紹介します。

公開買付制度に関する検討課題

 公開買付制度は、会社支配権等に影響を及ぼすような証券取引の「透明性・公正性」を確保する観点から、そのような証券取引について公開買付け(TOB)を強制し、①事前の情報開示と②株主の平等取扱いを求めるものです。

強制公開買付規制の適用対象の見直し

 現行制度において、公開買付け(TOB)が強制される取引の範囲は下図のとおりです。本WGでは、以下のとおり多岐に亘る検討課題があげられています。本稿では、強制公開買付規制の適用対象の見直し等を中心にご案内します。

第1回 本WG資料3「事務局説明資料」4頁

(出所)第1回 本WG資料3「事務局説明資料」4頁
検討課題
  • 欧州型の規制(事後的な規制)への転換、公開買付けの強圧性の問題を巡る対応、公開買付規制のオプトイン/アウト制度等のほか、市場内取引や第三者割当(新株発行)により議決権の3分の1超を取得する取引を強制公開買付規制の適用対象とするか、3分の1ルールの閾値を引き下げることおよびその具体的な閾値についてどう考えるか

① 市場内取引(立会内)にかかる現行制度に対する指摘

  • 現行の公開買付制度上、市場内取引(立会内)は、一定の透明性・公正性が担保されていることに鑑み、(いわゆる「急速な買付け等」に該当しない限り)強制公開買付規制の適用対象となっていません。
  • 他方、近時は市場内取引(立会内)を通じて議決権の3分の1超を取得する事例も見受けられ、そのような取引については、投資判断に必要な情報・時間が一般株主に十分に与えられていないといった問題や、強圧性の問題(売却圧力)が指摘されていることから、市場内取引(立会内)を強制公開買付規制の適用対象とすべきではないかとの指摘があります。

② 第三者割当(新株発行)にかかる現行制度に対する指摘

  • 現行の公開買付制度上、第三者割当により新規発行株式を取得する行為は、基本的には会社法上の問題として解決が図られるべき問題であるとして、強制公開買付規制の対象となっていません。
  • 他方、第三者割当により自己株式(既発行株式)を取得する行為が強制公開買付規制の対象となっていることや、欧州諸国においては第三者割当についても強制公開買付規制の適用対象となっていることから、第三者割当により議決権の3分の1超を取得する取引を強制公開買付規制の適用対象とすべきではないかとの指摘があります。

③ 3分の1ルールの閾値にかかる現行制度に対する指摘

  • 現行の公開買付制度は、「3分の1」という数値が、株主総会の特別決議を阻止できる基本的な割合であること等に鑑み、買付け後の株券等所有割合が「3分の1」を超えるような場合には、著しく少数の者からの買付けであっても公開買付けによることが義務付けられています(いわゆる3分の1ルール)。
  • 他方、実際の議決権行使割合を勘案すると「3分の1より低い割合」で株主総会の特別決議について拒否権を取得し得ることから、上記閾値を「3分の1」から引き下げるべきではないかとの指摘があります。

大量保有報告制度に関する検討課題

 大量保有報告制度は、株券等の大量保有に係る情報が「経営に対する影響力」や「市場における需給」の観点から重要な情報であることから、当該情報を投資者に迅速に提供することにより、市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対して一定の開示を求める制度です。現行制度の概要は、以下のとおりです。検討課題としては、以下の2-1から2-3に掲げる事項等があげられています。

一般報告
大量保有者の義務
  1. 株券等の大量保有者(株券等保有割合5%超)となった場合:
    5%超の保有者となった日から、5営業日以内に「大量保有報告書」を提出
  2. その後、株券等保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合:
    変更があった日から、5営業日以内に「変更報告書」を提出
特例報告制度
特例報告制度の概要 日常の営業活動等において反復継続的に株券等の売買を行っている金融商品取引業者等については、取引の都度詳細な情報開示を求めると、事務負担が過大になるため、以下のとおり緩和。
<緩和内容>
事前に届け出た「月2回の基準日」において、「大量保有報告書」・「変更報告書」の提出義務を判断し、当該基準日から5営業日以内に報告書を提出すれば足りる。
共同保有者
共同保有者の取扱い 株券等の保有者は、その株券等保有割合の算出において、以下のいずれかに該当する者(「共同保有者」)がいる場合、当該「共同保有者」の株券等保有割合も合算しなければならない
  1. 保有者との間で、共同して株券等を取得し、又は譲渡することを合意している者
  2. 保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者
  3. 保有者との間で、一定の資本関係、親族関係その他特別の関係がある者

「重要提案行為」の範囲

 「重要提案行為」とは投資先企業の株主総会において、またはその役員に対し、発行者の事業活動に重大な変更を加え、または重大な影響を及ぼす行為として、金融商品取引法施行令14条の8の2に列挙する一定の事項を提案する行為を指します。

検討課題
企業と投資家の実効的な対話促進のため、「重要提案行為」の範囲の限定または明確化
現行制度に対する指摘
  • 大量保有報告制度上、金融商品取引業者等に対しては提出頻度や期限等を緩和する特例報告制度が設けられていますが、その適用を受けるためには、投資先企業に対して「重要提案行為」を行わないことが必要とされています。
  • スチュワードシップ・コード策定時に「重要提案行為」の解釈の明確化が図られたものの、実効的なエンゲージメントの促進のため、重要提案行為の範囲のさらなる明確化等が必要との指摘があります。

「共同保有者」の範囲

 大量保有報告制度においては、保有割合を算出するに際して、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者(「共同保有者」)の保有分を合算する必要があります。

検討課題
協働エンゲージメントを行う際に、「共同保有者」の解釈の不明確さが支障となっているとの指摘を踏まえ、共同保有者の範囲の限定または明確化
現行制度に対する指摘
  • スチュワードシップ・コード策定時に「共同保有者」の解釈の明確化が図られましたが、近時の協働エンゲージメントの増加を踏まえ、「共同保有者」の範囲の更なる明確化等が必要との指摘があります。

大量保有報告制度の実効性の確保

 2008年の金融商品取引法改正により、大量保有報告制度の違反抑止の観点から、大量保有報告書等の不提出および不実記載が課徴金制度の対象とされています。

検討課題
大量保有報告制度の実効性を確保するための方策の要否およびその内容
現行制度に対する指摘
  • 金融商品取引法改正後も大量保有報告書等の提出遅延等は相次いでおり、大量保有報告制度の実効性が確保されていないとの指摘があります。

実質株主の透明性に関する検討課題

検討課題
企業や他の株主が実質株主を効率的に把握するための方策の要否およびその内容
現行制度に対する指摘
  • 現行制度上、名義株主については、会社法上の株主名簿や有価証券報告書等の大株主の状況に関する開示を通じて、企業や他の株主がこれを把握する制度が整備されている一方、当該株式について議決権指図権限や投資権限を有する者(「実質株主」)については、大量保有報告制度の適用対象(5%超)となる場合を除き、企業や他の株主がこれを把握する制度が存在しません。
  • 企業と株主・投資家の対話や相互の信頼関係の醸成を促進する観点から、実質株主とその持株数について、企業や他の株主が効率的に把握できるよう、諸外国の制度も参考に実務的な検討がなされるべきとの指摘があります。
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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