社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント
コーポレート・M&A
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.208」の「特集」の内容を元に編集したものです。
経済産業省は、6月30日、社外取締役の質の向上に向けて、「社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント」(以下「本書」)と「社外取締役向けケーススタディ集」(以下「ケーススタディ集」)を公表しました。
昨今、社外取締役の数が増加する中で、社外取締役の質の向上がコーポレートガバナンス改革の実質化の鍵となるとされています。そして、社外取締役やその候補者が受講できる研修やトレーニング(以下「研修等」)の活用の後押しを図ることは、社外取締役がその役割をより一層果たせるようになることを通じて、取締役会の機能発揮や独立性の向上につながるとされています。
本書は、社外取締役向け研修等の活用の後押しを図るために作成され、社外取締役(その候補者を含む)やその研修をサポートする上場企業関係者に活用いただくことが想定されていますが、社内取締役に対する研修等を検討する際にも活用でき、用途は広いといえます。
また、本書とともに公表されたケーススタディ集は、社外取締役が取締役会や各種委員会で直面するであろう場面と課題を提示し、社外取締役として求められる行動等を掲載したものです。紙幅の関係上、本特集ではご紹介できませんが、社外取締役向けの研修コンテンツの充実を図る観点より有益な内容となっておりますので、本書全体と併せてぜひ上記リンクよりご覧ください。
本特集では、以下、本書の概要をご紹介します。
8つのポイントとは
本書で示された「社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント」は、下表のとおりです。本特集では、太枠で囲んだポイント1、3、8について取り上げます。
1 | 社外取締役が、一般的に社外取締役に期待される役割・機能に加え、企業が自身に特に期待する役割・機能を理解すること。 企業が、それぞれの社外取締役に期待する役割・機能、期待しない役割・機能を明確にし、社外取締役にも共有・伝達すること。 |
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2 | 企業や社外取締役が、研修・トレーニングの必要性・有益性を認識し、社外取締役の資質等の習得・向上のための手段のひとつとして、研修・トレーニングを活用すること。 |
3 | 企業が、社外取締役の相互評価や第三者機関の活用等による社外取締役の評価・フィードバックを行い、社外取締役はそれを自身を省みる機会として活用すること。 |
4 | 研修・トレーニングを実施・受講する際は、研修テーマに応じて座学やグループワーク・ケーススタディを使い分ける等、より効果的になるよう実施・受講形態を工夫すること。 |
5 | 全上場企業・全社外取締役に共通するミニマム・スタンダードとして必要な基本的な知識・スキルの習得と、自身に特に期待される役割・機能に応じた知識・スキルの向上のための継続的な自己研鑽の双方を行うこと。 |
6 | 社外取締役の自社に対する理解を深めるため、就任前・就任時だけでなく就任期間中においても、自社に対する理解を促進させる取組を企業が継続的に行うこと。 |
7 | 社外取締役が、実際の取締役会等での経験だけではなく、ケーススタディや他社の社外取締役との意見交換・事例共有等の情報交換を通じて適切な振る舞いを身につけること。 |
8 | 企業が、社外取締役が研修・トレーニングをためらいなく受講できるよう、社外取締役に対して受講の機会の提供や斡旋、費用の負担等の支援策を充実させること。 |
各ポイントの内容〜ポイント1、3、8〜
社外取締役が、一般的に社外取締役に期待される役割・機能に加え、企業が自身に特に期待する役割・機能を理解すること。
企業が、それぞれの社外取締役に期待する役割・機能、期待しない役割・機能を明確にし、社外取締役にも共有・伝達すること。
(解説(第2文について))
- 経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」では、社外取締役の活用のためのステップの1つとして、「社外取締役に期待する役割・機能、あるいは逆に期待しない役割・機能を、選任する前に社内で明確にしておくことを検討すべきである。」としている。
- 企業は社外取締役の就任時に、それぞれの社外取締役と役割認識についてすり合わせを行い、必要なコミットメントを確認することが重要。
- また、就任時だけではなく、定期的に社外取締役に役割認識を伝えることで、企業と社外取締役との間で認識がより共通化され、社外取締役、ひいては取締役会全体の質の向上につながる。
(ご参考)社外取締役に期待する役割の伝達に関する企業の取組例
- 社外取締役を依頼する際に、期待する役割を伝えると共に、モニタリングとマネジメント(意思決定)の比重の考え方や、年間の取締役会アジェンダを伝えている。
- 社外取締役の就任時に期待する役割を伝達すると共に、毎年実施する取締役会実効性評価の中で社外取締役本人に期待する役割を伝えている。期待する専門性に加えて、取締役会で期待する振る舞いについても伝えている(例えば、「女性活躍の観点から助言頂きたい」、「テクノロジーの専門的な観点から助言頂きたい」等)。
(出所)本書8頁。東証プライム市場上場企業17社および東証スタンダード市場上場企業1社の計18社に対して実施したヒアリングの内容を基に作成。
企業が、社外取締役の相互評価や第三者機関の活用等による社外取締役の評価・フィードバックを行い、社外取締役はそれを自身を省みる機会として活用すること。
(解説)
- 社外取締役は独善に陥るリスクがあることを自覚し、謙虚な姿勢で自己評価・自省を行い、自律的にPDCAサイクルを回していくことを心掛ける必要がある。
- これを実践するうえで、客観的な評価のフィードバックは有効な手段と考えられるが、個人としての評価を受けた経験がある社外取締役は約3割にとどまっている。
- 一方で、社外取締役の約9割がフィードバックの必要性を認識している。その主な理由は、「客観的な評価を受ける機会を確保するため」、「課題点を把握し、自己研鑽につなげるため」、「取締役として実効性を向上させるため」。
- 企業は、社外取締役の質の更なる向上のため、社外取締役の相互評価や第三者機関の活用等により社外取締役を評価し、フィードバックする仕組みを構築することが望ましい。
企業が、社外取締役が研修・トレーニングをためらいなく受講できるよう、社外取締役に対して受講の機会の提供や斡旋、費用の負担等の支援策を充実させること。
(解説)
- 社外取締役の90%以上が、企業から研修等の受講を推奨された場合に、「受講したい」もしくは「どちらかといえば受講したい」と考えている。特に社外取締役としての経験年数の少ない社外取締役で受講意向が顕著だが、経験年数が長くても大部分の社外取締役は受講を希望。
- コーポレートガバナンス・コードの【原則4-14. 取締役・監査役のトレーニング】においては、「上場企業は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべき」とされている。
- 社外取締役が期待される役割を果たし、機能を発揮していくうえで、研修等の活用は有効な手段と考えられる。企業は社外取締役に対して研修等の受講の機会の提供や斡旋、費用の負担等の支援策を充実させることが望ましい。
(アンケート結果)研修等の受講を企業から推奨された場合に積極的に受講したいと思うか
- なお、社外取締役の約30%が企業に対して研修等の提供や斡旋を要請することにためらいを感じている。その主な理由は、「企業側に費用負担が生じるから」、「本来であれば就任時に自らが身に付けておくべきスキル・知識等を習得するものだから」。
- 社外取締役が研修等をためらいなく受講できるよう、企業は支援策を充実させるとともに、社外取締役に対して受講の働きかけを積極的に行うことが重要。
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
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