機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方とは?

コーポレート・M&A

目次

  1. 【特集】機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方
  2. 運用機関による実効的なスチュワードシップ活動
    1. 運用機関のガバナンス・利益相反管理等
    2. 議決権行使結果の公表の充実
    3. パッシブ運用におけるエンゲージメント等
    4. 運用機関の自己評価
  3. アセットオーナーによる実効的なチェック

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.135」の「特集」の内容を転載したものです。

【特集】機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方

 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議は、平成28年11月30日付で、機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方として、意見書(3)を公表しました。

 本意見書は、コーポレートガバナンス改革を「形式」から「実質」へと深化させていく上で、運用機関とアセットオーナーのそれぞれに求められる取組みを提言しています。本号ではその内容をご案内いたします。

ポイント
  • 本意見書では、運用機関に対し、個別の議決権行使結果を一般に公表することや議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じうる局面を特定し、利益相反管理の方針を具体的に策定・公表すべきとすること等が示されました。
  • 本意見書の内容は、スチュワードシップ・コードの見直しの方向性を示すものであり、今後、議決権行使結果を個別企業・議案ごとに公表すべきであるとする改定が行われることが予想されます。
  • 本意見書では、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす局面において、運用機関の利益相反管理の観点から、「外部の第三者機関に自らの議決権ガイドラインを示すなどの工夫を行いながら、その第三者機関の判断を活用」することが例示されており、運用機関が第三者機関として議決権行使助言会社を利用することも考えられます。

運用機関による実効的なスチュワードシップ活動

 機関投資家には、中長期的な視点から、深度ある企業評価に基づいて実効的なスチュワードシップ活動を行うことが求められます。また、その際、形式的な基準や助言会社のサービスを機械的に適用するのではなく、各企業の状況に着目したきめ細かな判断を行っていくことが重要とされています。

運用機関のガバナンス・利益相反管理等

フォローアップ会議において指摘された主な意見

  • 金融グループ系列の運用機関について、親会社等の利益と運用機関の顧客の利益との間に存在する利益相反を回避したり、その影響を排除するための措置が必ずしも十分に機能していないケースが多く、よりきめ細かな対応が必要(同一の機関内において運用以外の業務を行っている場合における、当該業務を行う部門と運用部門との関係も同様)。

提言内容

運用機関のガバナンス強化
  • 運用機関は、最終受益者の利益の確保や利益相反防止のため、ガバナンス体制を整備すべき。
  • 独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などを例示。
利益相反管理
  • 運用機関は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じうる局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避したり、その影響を実効的に排除するなど、最終受益者の利益を確保するための措置について具体的方針を定め、公表すべき。
※海外等において、利益相反が生じる場合に講じている措置として、次のような事例を例示
  • 運用機関内部の独立した機関により審議し、審議の記録を保持
  • 外部の第三者機関に自らの議決権ガイドラインを示すなどの工夫を行いながら、その第三者機関の判断を活用 等
運用機関の経営陣の能力・経験と責務
  • 運用機関の経営陣は、スチュワードシップ責任を実効的に果たすための適切な能力・経験を備えているべきであり、系列の金融グループ内部の論理などに基づいて構成されるべきではない。
  • 運用機関の経営陣は、自らが企業との間の対話の充実や運用機関のガバナンス強化・利益相反管理及びこれらの実行とそのための組織構築・人材育成に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべき。

議決権行使結果の公表の充実

フォローアップ会議において指摘された主な意見

  • 運用機関等が、自らの活動について最終受益者への説明責任を果たし、透明性を向上させていくためには、主な議案ごとの議決権行使結果の集計による公表にとどまらず、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表することが重要。

  • 個別の議決権行使結果については、賛否のみに過度に関心が集まり、円滑な対話が阻害されるとの懸念なども指摘されているが、運用機関が議決権行使に関する考え方を対外的に説明することなどを通じて、解決していくべき。

  • 我が国で多く見られる金融グループ系列の運用機関において、議決権行使をめぐる利益相反への適切な対応がなされていない事例が多いのではないかとの指摘もなされており、こうした懸念を払拭するためにも、個別の議決権行使結果の公表が進められるべき。

提言内容

議決権行使結果の個別開示
  • 最終受益者の利益を確保するとともに、自らの取組みの透明性を高めるために、運用機関等は、少なくとも「コンプライ・オア・エクスプレイン」ベースでの対応としては、アセットオーナーへの開示にとどまらず、個別の議決権行使結果を一般に公表することを原則とすべき。
  • それぞれの運用機関等の置かれた状況により、それが必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべき。

パッシブ運用におけるエンゲージメント等

 近年、パッシブ運用の比重が高まっていることからも、以下のような提言がなされました。

パッシブ運用におけるエンゲージメント等
  • 運用機関等は、より積極的に中長期的視点に立ったエンゲージメント(対話)や議決権行使に取り組むべき。
  • パッシブ運用におけるエンゲージメントの具体的な手法やコスト負担のあり方などについては、関係者において検討が進められるべき。
  • パッシブ運用の有効性を高める観点から、例えば、インデックスから運用対象として明らかに不適当と考えられる銘柄を外して運用対象とするなど、現実の市場の状況を踏まえて、関係者が適切な運用方法を検討していくことが期待される。

運用機関の自己評価

運用機関の自己評価
  • 運用機関は、持続的な自らのガバナンス体制等の改善に向けて、スチュワードシップ・コードの実施状況を定期的に自己評価し、公表すべき。

アセットオーナーによる実効的なチェック

 アセットオーナーは、直接、最終受益者の利益を確保する責務を負っていることも踏まえ、運用機関によるスチュワードシップ活動がより実効的なものとなるよう十分留意し、以下のような取組みを進めていく必要があるとされています。

アセットオーナーによる実効的なスチュワードシップ活動の確保
  • 最終受益者の利益確保のため、自らスチュワードシップ活動に取り組むべき。
  • 自ら直接的に議決権行使を含むスチュワードシップ活動を行わない場合には、運用機関に、実効的なスチュワードシップ活動を行うよう求めるべき。
  • 企業の経営戦略を含む諸課題について、深度ある「建設的な対話」に取り組むことが必要。
  • アセットオーナーは、運用機関が他の顧客・最終受益者に対してもスチュワードシップ責任を負っていることを認識し、運用機関の適切な活動を妨げることのないよう、留意すべき。
アセットオーナーが運用機関に求める事項の明示
  • 実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定や運用委託契約の締結に際して、議決権行使を含め、スチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を明示すべき。
運用機関に対する実効的なモニタリング
  • 運用機関のスチュワードシップ活動が自らの方針と整合的なものとなっているかについて、運用機関の自己評価なども活用しながら、実効的に運用機関に対するモニタリングを行うべき。
  • モニタリングに際しては、運用機関と企業との間の対話の「質」に重点を置くべきであり、運用機関と企業との面談回数、面談時間等の形式的な確認に終始すべきではない。
問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-6250-4354

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