金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告を公表

コーポレート・M&A

目次

  1. 本報告公表に至る経緯
  2. 本報告の概要
    1. 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
    2. サステナビリティに関する企業の取組みの開示

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.202」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 12月27日、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(以下「本ワーキング・グループ」という)は、報告(以下「本報告」という)を公表しました。今後、本報告の内容を踏まえ、金融商品取引法(以下「金商法」という)上の四半期開示義務(第1・第3四半期)の廃止に向けた金商法の改正案の検討などが予定されています。本稿では、本報告公表に至る経緯と本報告の概要をご紹介します。

本報告公表に至る経緯

 本ワーキング・グループは、2022年6月に公表した「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向け、サステナビリティ情報等の非財務情報の開示充実の施策や四半期開示の見直しに係る施策を取りまとめました。
 同報告では、四半期開示について、金商法上の四半期報告書(第1・第3四半期)を廃止して取引所の四半期決算短信に「一本化」する方向性が示されました。また、この具体化に向けた課題や、併せて、サステナビリティ開示に関し、我が国におけるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割の明確化やロードマップについて、引き続き検討することとされました。
 本報告は、その検討結果をとりまとめたものです。

本報告の概要

四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング

 以下の方向性が示されました。

(1)企業が都度発信する情報の重要性の高まりを踏まえ、取引所の適時開示の充実を図りながら、将来的に、期中において、情報の信頼性を確保しつつ、適時の情報開示に重点を置いた枠組みに見直すことも議論すること


(2)四半期開示 (第1・第3四半期) について、金商法上の開示義務を廃止し、取引所の規則に基づく四半期決算短信へ「一本化」するべく、具体化を進めること



現行の開示と「一本化」後の開示の比較イメージ図

現行の開示と「一本化」後の開示の比較イメージ図

(出所)金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告概要


 「一本化」に関する各論点について下表のとおり整理されました。

論点 示された方向性 左記の方向性とされた理由
「一本化」後の四半期決算短信について 開示義務
  • 当面は開示を一律義務付ける
  • 今後、適時開示の充実の状況等を見ながら、任意化について継続的に検討する
  • 開示の後退と受け取られれば、日本市場全体の評価が低下するおそれがある
開示内容
  • 現在の四半期決算短信の開示事項をベースに、投資家からの要望が特に強い情報(セグメント情報等)を追加する
  • これまで四半期決算短信は、その後に四半期報告書が開示されることを前提に、開示内容が簡素化されてきた
  • そのため、「一本化」後の四半期決算短信について、現行の開示内容のままでは、投資判断に必要な情報が十分に提供されなくなるおそれがある
監査人によるレビュー
  • 任意とする
  • ただし、会計不正等が起こった場合には一定期間義務付ける
  • 第1・第3四半期報告書廃止後に上場会社が提出することとなる半期報告書と年度の有価証券報告書に対して監査人によるレビューや監査を行うことで、財務情報の信頼性を確保していくことができる
  • レビューを一律に義務付けると、速報性が損なわれる
虚偽記載
  • 取引所のエンフォースメントをより適切に実施する
  • ただし、意図的で悪質な虚偽記載については金商法上の罰則の対象になりうる
  • 四半期決算短信は取引所における開示書類である
  • ただし、四半期決算短信を含む取引所の適時開示について、意図的で悪質な虚偽記載が行われた場合には、現行でも金商法上の罰則の対象となり、これは今後も変わりない
「一本化」後の半期報告書等について 半期報告書のレビュー、提出期限
  • 上場企業は、現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求めることとし、提出期限は決算後45日以内とする
  • 非上場企業も上場企業と同 じ枠組みを選択可能とする
  • 上場企業と投資家のこれまでの実務への配慮や、半期の財務諸表に対する保証に関する国際的な整合性の観点を考慮した
半期報告書・臨時報告書の公衆縦覧期間
  • 金商法上の公衆縦覧期間を5年間へ延長する
  • 期中の法定開示として残る半期報告書・臨時報告書については、現行、金商法が求める公衆縦覧期間(各報告書提出後からそれぞれ3年間・1年間)がこれらの報告書の虚偽記載に対する課徴金の除斥期間(各報告書提出後から5年間)より短い
  • そのため、これらの報告書に対して、課徴金納付命令が行われる際に、公衆縦覧期間が終了している事態が生じかねない

サステナビリティに関する企業の取組みの開示

 以下の方向性が示されました。

(1)我が国のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)や今後策定される開示基準を、法令上の枠組みの中で位置づけること


(2)今後の検討課題(サステナビリティ開示基準、開示内容に対する第三者による保証 (※) 等)、ロードマップについて議論すること

※保証とは、独立した第三者が、情報の信頼性を高めるために、その情報が正しいかどうかについて結論を表明すること


 国内で検討されるサステナビリティ開示基準に関しては、企業によって社会全体へのインパクトが異なることや様々な業態があること、企業負担の観点、欧米では企業規模に応じた段階的な適用が示されていることを踏まえると、我が国では、最終的に全ての有価証券報告書提出企業が必要なサステナビリティ情報を開示することを目標としつつ、今後、円滑な導入の方策を検討していくことが考えられる、としています。
 なお、サステナビリティ開示については、企業や投資家における予見可能性を高め、実務的な準備を確実に進める観点から、我が国におけるロードマップを示していくことが考えられるとして、以下のロードマップ案が示されました。

我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ

(出所)金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告概要

(出所)金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告概要

 本ロードマップに沿って、我が国のサステナビリティ開示基準の開発やその法定開示への取込み、サステナビリティ情報に対する保証のあり方の議論を進めるほか、サステナビリティに係る人材育成に取り組むことで、我が国におけるサステナビリティ開示の充実を着実に進めていくことが期待される、としています。
 一方で、本ロードマップについて、本ワーキング・グループの委員からは、サステナビリティ開示を早期かつ円滑に進めていくための当面の課題も明確化すべきであるとの意見のほか、我が国における開示基準を2024年3月期から適用することは現実的ではないとの意見や、保証については、国際的な基準作りの議論が始まったばかりであることを踏まえると、2024年や2025年は適用時期ではなく我が国での議論の期間とすべきとの意見も出ており、今後の動向が注目されます。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)

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