株主総会のデジタル化(DX) 2022年度全株懇調査報告書を踏まえて
コーポレート・M&A
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.201」の「特集」の内容を元に編集したものです。
全国株懇連合会は、11月24日に株主総会等に関する実態調査の結果を取りまとめた「2022年度全株懇調査報告書」を公表しました(以下、調査報告書といいます)。
本特集では、調査報告書における電子提供制度に関する調査結果等を踏まえつつ、株主総会のデジタル化(DX)推進の施策についてご案内します。
株主総会プロセスのデジタル化(DX)について |
産業界全体において競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる中、株主総会に関してもプロセス全体においてデジタル化が進んでいます。 インターネットによる議決権行使やバーチャル株主総会の導入に加えて、2023年3月株主総会から電子提供制度が適用され、株主総会資料は原則としてオンラインで提供されることとなり、株主総会資料の提供、議決権行使、株主総会への参加・出席のすべての手続がオンライン上で完結可能となります。オンライン中心の手続への転換は、株主総会プロセスのDXといえ、株主の利便性向上や対話の充実に資するとともに、発行会社の運営面の負担軽減や紙資源の節約といった環境負荷低減にもつながるものです。電子提供制度を契機に株主総会におけるデジタル技術の活用を見直すことが考えられます。 |
電子提供制度の下での招集通知の発送形態
電子提供制度の下での招集通知(アクセス通知)は、電子提供制度適用前に比べ簡素な内容となりますが、任意で資料を追加送付することは制限されておらず、書面交付請求をしていない株主に対して電子提供措置事項の一部(いわゆるサマリー版)や、電子提供措置事項の全て(いわゆるフルセット)を書面で送付することも可能です。調査報告書によると、当該実態調査が行われた2022年7月時点では、招集通知の送付形態として、未定を除きサマリー版を採用予定と回答した会社が最も多く、36.2%を占めました(図表1)。
なお、フルセットを採用する会社も一定割合見込まれますが、電子提供制度の下では原則としてウェブでの提供が想定されている法改正の趣旨や、紙資源の節約も社会的な課題であることを踏まえ、フルセットでの提供は制度導入期における経過的な対応とするのが望ましいと考えられます。
【図表1】電子提供制度創設に伴う招集通知(アクセス通知)への同封予定(注1)
インターネットによる議決権行使
インターネットによる議決権行使(電子投票)制度を採用済の会社は1,594社中1,298社(81.4%、昨年比9.4ポイント増)あり(調査報告書78頁)、年々増加しています。コーポレートガバナンス・コード補充原則1-2④を受け、機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォーム(PF)の採用が進み、個人株主向けにスマートフォン用の議決権行使ウェブサイトを採用する会社が増えています(図表2)。
スマートフォン用議決権行使ウェブサイトを利用した議決権行使比率は「5%以上」、「10%以上」との回答が昨年に比べて増加しており(図表3)、株主においてもスマートフォンを用いた議決権行使が広がっている様子がみられます。
【図表2】電子投票/議決権電子行使PF/スマートフォン用議決権行使ウェブサイトの採用/参加状況
【図表3】スマートフォン用議決権行使ウェブサイトを利用した議決権行使比率
(スマートフォン用議決権行使ウェブサイトによる議決権行使個数/総議決権個数)(注3)
バーチャル株主総会等
インターネット等による株主総会のライブ配信を行った会社は、株主にのみ公開が302社(18.9%、昨年比4.0ポイント増)、一般公開が20社(1.2%、昨年比0.1ポイント減)ありました。株主総会終了後の配信は、株主にのみ公開が52社(3.2%、昨年比0.7ポイント増)、一般公開が311社(19.4%、昨年比2.5ポイント増)となり(図表4)、一部は減少していたものの、総じてインターネット等によるライブ配信または事後配信を実施する会社は増加しています。また、株主がインターネット等を通じて法的に出席する形態であるハイブリッド出席型バーチャル株主総会やバーチャルオンリー株主総会は、昨年比で実施社数は増加しているものの、導入を検討している会社は減少しています(図表5、6)。
バーチャル株主総会の実施状況
【図表4】株主総会の公開の有無及び方法(複数回答)
【図表5】リアル株主総会を開催するハイブリッド出席型バーチャル総会の開催
【図表6】リアル株主総会を開催しないバーチャルオンリー総会の開催
総会ビジュアル化
動画や静止画を用いる総会のビジュアル化を実施した会社は1,403社(87.6%)を占め、そのうち91.2%において「事業の経過及び成果」についてビジュアル化を実施していました(調査報告書18頁)。バーチャル株主総会や事後配信を視聴する株主向けにビジュアル資料を併せて活用するのが有用です。
事前質問の活用
コロナ禍における株主との対話促進策として事前質問の受付の実施が広がっており、自社HPで事前質問を受け付けた会社は179社(昨年比37社増)、自社HP上で事前質問への回答結果を公表した会社は75社(昨年比3社増)ありました(調査報告書109頁)。オンライン上での質問はバーチャル株主総会とも親和性があり、感染症対策の要否にかかわらず対話の手法として活用することが考えられます。
調査報告書を踏まえたデジタル活用の視点 |
電子提供制度下の株主総会では、株主が株主総会資料をパソコンやスマートフォン等の端末を用いてオンライン上で閲覧することを前提に、株主にウェブサイトへのアクセスを促す工夫、ウェブサイトにアクセスした株主が議決権等の権利行使を行いやすくする工夫、ウェブ上での閲覧を意識した情報提供が求められます。以下のような施策が有用と考えられます。 【株主のアクセシビリティを高める施策例】
【情報提供・対話の充実のための施策例】
【その他】
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三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
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