法務におけるテクノロジー活用の実態に迫る 「Legal Innovation Conference 法務DXのいま」講演レポートPR

法務部

目次

  1. 急成長企業を支える法務の現状と目指す姿
  2. あらゆる形式の株主総会をトータルでサポートする「バーチャル株主総会サービス」
  3. カルチュア・エンタテインメントが取り組んだ契約DXの過程
  4. NDAでの紛争事例からみる「LeCHECK」活用法
  5. 契約書作成にまつわる3つの課題をAIによるサポートで解決
  6. 「攻めの法務」でイノベーションを起こすために必要なこと
  7. テクノロジー活用の前にやるべきは、業務プロセスのトランスフォーメーション
  8. 人に依存しないリスクマネジメント体制を構築するには

企業の法務部門では今、リーガルテックの普及が進んでいます。実際の現場ではどのようなシステムが利用されているのでしょうか。また、テクノロジー活用によって、業務やビジネスはどのように変化したのでしょうか。11月18日に開催されたオンラインカンファレンス「Legal Innovation Conference 〜法務DXのいま〜」では、ユーザー企業や各リーガルテックベンダーが法務DXのリアルな実態を紐解きました。

急成長企業を支える法務の現状と目指す姿

株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長 岡本杏莉氏は、弁護士ドットコム BUSINESS LAWYERS編集長 松本慎一郎との対談で、同社の法務組織の現状を明かし、これから目指す姿について語りました。

アンドパッドは、クラウド型建築プロジェクト管理サービスなどを提供する急成長中のベンチャー企業であり、従業員数は現在600名を超えています。法務は岡本氏と他2名のメンバーによる3名体制で、契約審査や法律相談、知財、総会対応まで広範囲に及ぶ業務をカバーしています。

建築業界という特殊な法規制がある環境でビジネスを進めるにあたり、経営陣からは、コンプライアンス、ガバナンス、ガバメントリレーションシップまで対応してほしいという期待があるようです。実際に2021年4月には、新プロダクト「ANDPAD受発注」のローンチにあたってグレーゾーン解消制度により建設業における適法性を確認。2022年9月に実施した約122億円のシリーズD資金調達にも法務が深く関わったといいます。

限られたリソースのなか、幅広い業務へ対応するには法務DXが不可欠です。岡本氏はDXの現状について「道半ばで試行錯誤を続けている最中」としたうえで、Slackを利用した法務レビュー依頼のワークフロー構築、GoogleスプレッドシートやTrelloを用いたタスク管理を紹介。さらに、今後進めていきたい取り組みとして社内Wikiによるナレッジ共有など、各種ツールを活用した契約業務効率化の展望についても明かしました。

法務DX推進のポイントについて、「ベンチャーのスピード感に合わせた対応とリサーチや回答内容などの向上という『量と質の両立』を目指すこと」と語る岡本氏。そのうえで、事業への貢献や組織の法務リテラシー底上げにつなげていくことが重要であるとしました。

左から、弁護士ドットコム BUSINESS LAWYERS編集長 松本慎一郎、株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長 岡本杏莉氏

左から、弁護士ドットコム BUSINESS LAWYERS編集長 松本慎一郎、株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長 岡本杏莉氏

あらゆる形式の株主総会をトータルでサポートする「バーチャル株主総会サービス」

株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー 斉藤航氏は、「バーチャル株主総会サービス」について紹介しました。同サービスでは、年間約7,800回のイベント配信をサポートするブイキューブのノウハウを活かし、年間200社以上のバーチャル株主総会を実施しています。斉藤氏によると、同サービスの特長は3つ。まずは、参加型/出席型/オンリー型まであらゆる形に対応できる点。2つめは、招集通知サポートから当日の配信、事後フォロー、信託銀行との連携までトータルでサポートできる点。3つめは、自社開発のシステムを用いて冗長構成を構築し、大規模でも安定した配信が可能である点としました。

バーチャル空間で講演する株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー 斉藤航氏

バーチャル空間で講演する株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー 斉藤航氏

カルチュア・エンタテインメントが取り組んだ契約DXの過程

カルチュア・エンタテインメント株式会社 リスクマネジメント部 副部長 兼 法務ユニットリーダー 古澤嘉昭氏(所属・役職名2022年11月時点)と、株式会社Hubble 取締役CLO /弁護士 酒井智也氏は、カルチュア・エンタテインメントが取り組んだ契約DXの進め方について対談しました。

同社が契約DXに着手したのは、古澤氏が入社した2年前。当時は20社にものぼるグループ会社の法務部門が散在していたため、部門統合とシステムの一本化、さらにリモートワークへの対応を図ろうとしたことがきっかけでした。

同社では、法務相談、契約書作成・チェック、捺印申請、捺印、契約書保管という5つの契約業務を効率化するため、「ジョブカンワークフロー」「Hubble」「クラウドサイン」を導入しています。古澤氏は、これらのシステムを選定したポイントとして、コスト面と業務フローをシームレスに繋ぐことができる点をあげました。また、導入したシステムはいずれも直感的な操作・使用感といった点でユーザビリティが高く、現場への浸透がスムーズだったとも振り返りました。

(※対談内容は2022年11月時点の情報です。)

左から、株式会社Hubble 取締役CLO /弁護士 酒井智也氏、カルチュア・エンタテインメント株式会社 リスクマネジメント部 副部長 兼 法務ユニットリーダー 古澤嘉昭氏

左から、株式会社Hubble 取締役CLO /弁護士 酒井智也氏、カルチュア・エンタテインメント株式会社 リスクマネジメント部 副部長 兼 法務ユニットリーダー 古澤嘉昭氏

NDAでの紛争事例からみる「LeCHECK」活用法

株式会社リセ 代表取締役社長/弁護士 藤田美樹氏は、契約書AIレビュー支援ツール「LeCHECK」の活用方法について、特にNDAでの紛争事例をもとに紹介しました。

契約類型ごとに争いが起きやすいポイントはある程度決まっています。藤田氏は「NDAはそれほど揉めやすい類型ではないが、数が多いため万が一に備えてきちんと見ておくことが大事」と指摘します。たとえば、取引先A社が資金繰りに苦慮しているという情報をB社が漏らしてしまい噂になり、A社が取引をキャンセルされたため損害賠償請求を行ったというケース。これを防ぐには、B社側の場合、契約段階で秘密情報の範囲を限定する、損害賠償条項を制限的にすることが有効となります。

こうした契約チェックをLeCHECKで行うには、契約書レビュー機能が役立ちます。上記のケースの場合、契約書をアップロードすると「秘密情報の範囲を『秘匿である旨が明示された情報』に限定するよう修正する必要はありませんか?」「損害賠償の範囲を限定する必要はありませんか?」などといった形で立場に基づいた要注意点や欠落箇所が表示されます。

株式会社リセ 代表取締役社長/弁護士 藤田美樹氏

株式会社リセ 代表取締役社長/弁護士 藤田美樹氏

契約書作成にまつわる3つの課題をAIによるサポートで解決

FRAIM株式会社 マーケティング・インサイドセールス責任者 青木誠氏は、契約書作成におけるAIサポートのあり方について説明しました。

契約書作成においては、膨大なリサーチ時間、体裁の補正など文書編集の非効率性、ナレッジの属人化や散逸という3点に大きな課題があるという青木氏。同社の「LAWGUE」は、これらの課題を解消するものだといいます。同ツールでは、AIが自動的に過去の類似文書や条項などをサジェストし、クラウド上で編集を行う際には自動的に体裁が補正されます。さらに、文書・条項単位でコメントの保存と確認が可能なため、自社のノウハウやナレッジを活用しやすい形で蓄積していくこともできます。

FRAIM株式会社 マーケティング・インサイドセールス責任者 青木誠氏

FRAIM株式会社 マーケティング・インサイドセールス責任者 青木誠氏

「攻めの法務」でイノベーションを起こすために必要なこと

株式会社LegalOn Technologies 1 代表取締役/弁護士 角田望氏は、「攻めの法務」が巻き起こすイノベーションについて解説しました。

予防法務や臨床法務といった「守りの法務」に対し、「攻めの法務」とは、新規事業へのアドバイスや伴走、M&A、事業承継、ルールメイキングといった戦略法務を指します。戦略法務によって、新しい事業が生み出され、その過程でつまずくこともなくなれば、イノベーションは促進されます。そこで重要となるのが、法務DXです。角田氏は「デジタルツールを駆使することによって、守りの法務の品質向上・効率化を進め、地盤を固めることで、攻めの法務のためのキャパシティを生む。これによってイノベーションが創出され、企業価値向上に貢献していける」と語ります。

AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」は、契約審査をスピーディーに行い、守りの法務の地盤固めに役立つツールです。現在約2500社が利用しており、アンケートによると導入組織の7割が、3割程度の時間削減に成功したと回答しているといいます。また、同社は契約管理システム「LegalForce キャビネ」も提供しており、契約業務の効率化をトータルでサポートしています。

株式会社LegalOn Technologies 代表取締役/弁護士 角田望氏

株式会社LegalOn Technologies 代表取締役/弁護士 角田望氏

テクノロジー活用の前にやるべきは、業務プロセスのトランスフォーメーション

アクセンチュア株式会社 法務本部 営業法務部 シニア・マネジャー 吉本泰俊氏は、同社法務部門でのテクノロジー活用の取り組みについて紹介しました。

アクセンチュアの法務は、グローバルで現在3000名を超え、年間11万件の契約案件に対応しています。支援している法人の数は700社以上で、日本法人には80名超の法務メンバーが在籍しています。しかしながら、同社の法務はビジネス環境の変化によって役割が拡大し、法務業務の量と求められるレベルが高まる一方で、リソースが不足しているという課題を抱えていました。

こうした状況に同社は、「業務プロセスのトランスフォーメーション」「テクノロジーを活用したトランスフォーメーション」という2つの視点からアプローチすることにしました。吉本氏によると、法務DXはテクノロジー導入ではなく、まず業務プロセスのトランスフォーメーションから始めることが重要だといいます。プロセスが非効率的だとテクノロジー導入の効果が出ないどころか、最適なプロセスを追求するうえでの足かせになってしまうためです。

同社では、まず業務を可視化し定型業務/非定型業務に分け、海外メンバーへ移管できるよう標準化したうえで、グローバルのシェアードサービスセンターに集約。効率化によって余力が生まれたことで、より付加価値の高い業務へ集中できるようになりました。また、サービス・コスト構造を変えたことで投資に理解が得られやすい環境も整い、現在はテクノロジー活用によるトランスフォーメーションを進めているところだといいます。

テクノロジー活用は、大きく3つのアプローチで進めています。まずは、契約、契約管理、コンプライアンスといった大きな効果が見込める「コア領域への集中投資」。法務内の業務改善のみだとインパクトが小さくなりがちなため、ビジネス部門や他の間接部門にも波及する領域を選ぶことが重要です。2つめは「最新テクノロジーの実験」。日進月歩で進化するテクノロジーについて最新の情報を把握する。実験的にでもテクノロジーを継続活用することで経験値を積み、テクノロジーに何ができて何ができないか、感覚として持っておくことがその目的です。3つめは、「イノベーションを生み出すための草の根活動」。担当者は、デザイン思考やイノベーションの基礎を学び、実務での実践につなげているといいます。

吉本氏は、最後にアクセンチュア法務がこれまで経験してきたことを踏まえたLegal Tech導入を進めるうえでのTIPSを紹介し、特にチェンジマネジメントにしっかりと投資することが重要であることを明かしました。

アクセンチュア株式会社 法務本部 営業法務部 シニア・マネジャー 吉本泰俊氏

アクセンチュア株式会社 法務本部 営業法務部 シニア・マネジャー 吉本泰俊氏

人に依存しないリスクマネジメント体制を構築するには

Sansan株式会社 Sansan Unit Product Marketing Manager 西村仁氏は、人に依存しない形でのリスクマネジメントのあり方について提案しました。

新しいマーケットや仕入先の開拓、サプライチェーンの再編成に向き合うなかでは、適切なリスクマネジメントが重要となります。特に、ハイブリッドワークが普及し、地政学的リスクが高まる昨今、反社会的勢力との関わり、マネーロンダリング、テロ資金の供与など、ビジネスリスクも多様化しています。一方、リスクチェックにおいては、判断基準が不明瞭、膨大な工数がかかるといった課題があり、結果として事業のスピードダウンを招いてしまうこともあります。西村氏は「リスクチェックを人に依存した形で行っていることが要因の1つ」と指摘し、「Sansan」を用いた解決法を紹介しました。

同サービスでは、名刺やメールをはじめとする顧客情報を取り込むだけで、その法人番号がRefinitivおよびKYCCの保有するリスクデータベースと突合され、取引リスクが自動でスクリーニングされるといった活用方法も可能です。企業を1件ずつ手作業でチェックする必要がなくなるため、大幅な工数削減が期待できます。また、顧客とリスクの情報はSansan上で一元管理できるので、部門間での情報共有に人を介さなくてよくなることも大きなメリットです。

Sansan株式会社 Sansan Unit Product Marketing Manager 西村仁氏

Sansan株式会社 Sansan Unit Product Marketing Manager 西村仁氏

様々なリーガルテックが普及し、法務DXを実現する企業もあるなか、変革に向けて一歩踏み出すためのヒントは世の中に多くでてきています。まずは自社の現状を整理したうえで、本カンファレンスなどの事例を参考にしたり、実際にテクノロジーを体験してみたりすることで、DXのビジョンや方向性を探ってみてはいかがでしょうか。


  1. 社名は変更後の名称としております。 ↩︎

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